間男?
館長が、また心労を抱えたような声でアリア達は呼ばれたのだが。
そこで剣の妖精のミルがさっと姿を消す。
その理由は分らなかったが消えたのは正解のように思える。
彼女は、綺麗で可愛い女の子がとても大好きだからだ。
そして現れた人影に、アリアもその場から逃げようとした。けれど、
「それじゃあ、アリア君、よろしく」
「館長! 私があの人苦手だって知っているじゃないですか!」
「まぁ、うん。上の人には逆らえないものなんだ、人間は」
「嫌です、あまり関わりたくないです!」
「なるほど、少しはいいという事かな? というわけで君に任せた」
館長は逃げだした。
それをアリアが絶望的な表情で見送ると、ふわりとルフツの花の香りがして、アリアは総毛立つ。
赤い髪に金色の瞳をした、アリアよりも年上の女性である。
振りまく色気が、彼らの横を歩く度に男を振り返らせる妖しい魅力のある美女だった。
加えて、頭脳明晰、戦闘能力も高いという、完璧な美女だった。
ただ、一つ欠点があったのだが。
そんなアリアに後ろから抱きつくようにして、
「お久しぶりね、アリアちゃん? 私がいない間も元気にしていたかしら?」
「い、いない間って……そもそもセリカさんは魔道図書館スティアの女性司書じゃないですか」
「あら、愛に時間と距離は関係ないわよ?」
「え、遠距離恋愛が破綻しがちなのは、会えない時間が愛を薄めていくのではないかと」
「夢がないわね、アリアちゃん。もっと夢を描かないと。だったら今度私と一緒にデートしましょう?」
「い、嫌です。絶対に嫌。私は男の人が好きなんです!」
「大丈夫、男なんて目じゃないくらい私が気持ちよくしてあげるから」
「ひぃいいいいいい」
アリアにしては珍しく悲鳴を上げる。
そんなアリアに、そこでカイがセリカに話しかける。
「アリアが嫌がっていますので、止めて頂けませんか?」
「出たわね、間男」
「間男……でも、アリアは今は貴方のものではありませんよね?」
「でも、ダブルイクス家の坊やのものでもないでしょう?」
「……俺は大人です」
「あら、子供が背伸びして可愛いわね?」
くすくすと笑うセリカに、笑顔で応戦するカイ。
温厚なタイプのカイには珍しいがそれには理由がある。
それは、セリカが本気でアリアを狙っているからだ。
人間流されやすいものでもあるし、人が良く少し押しの弱い所もあるアリアが流されてセリカとくっつくなんてされても困る。
そもそも昔からカイはアリアが好きであり、ずっと想って来たのだ。
なのにこんな所で横恋慕された挙句掻っ攫われて堪るか、というかお前の方が“間女”だろうとカイは思っていた。
そんな間に更にセリカはアリアに、
「相変わらず、アリアちゃんは可愛いわね。それでそろそろ私のものになってくれる話、考えてくれたかしら」
「ないです、それだけは絶対にないです! だから放して……」
「ふふ、そんな弱々しい声も、もっと啼かせたくなるわね」
「ひぃいいいい、た、助け、だれかぁああ」
「いい加減、アリアから離れて下さい!」
「あら、いいじゃない。こんなにアリアも喜んでいるしね、カイ」
「むーむーむー」
「手で口を塞いでいるあたりで、アリアの意思を無視しているじゃないですか!」
「あのね、そもそもアリアちゃんは貴方にとってどんな存在なの?」
「それは……」
けれどそれ以上カイは言えなくなってしまう。
先ほどの遺跡のような、機会を逸してしまったというのもある。
けれどそれでもまだカイは怖いのだ。
もしもそれを言って今の関係が壊れてしまったならどうしようとカイは思う。
だったら、進みもしないし後退もしない、今の状況が一番良いのではないだろうか。
そんなカイの様子にアリアは不満そうに見ていたが、それにカイは自分の悩みで精一杯で気づきもしない。
なのでそういった状況は、第三者の人間の方が良く見えるもので、セリカは深々と溜息をついて、
「……貴方がそんなだから、こうやって私が手を出すのをやめられないのよ」
「え?」
「それよりもミト、貴方にも関係がある話があるから、そこで女の子と遊ぶのはやめなさい? ……でないとシオリに手を出すわよ?」
「その冗談は面白くないなセリカ」
「相変わらず地獄耳ね、ミト。それよりもこっちに来て頂戴、ちょっと面倒な事が起こっているから」
そう、セリカがミトを呼んだのだった。
彼女がミトを読んだ理由。
つまり、ミトは遺跡の管理の偉い人だというわけである。
「というわけで、最近異界との接触が多くて、大量に本もどきが手に入っているんだけれど、それが、先ほど予想以上に活発化したようなのよね」
「……ああ、うん、そうなんだ」
そう言いながら、ちらちらカイの剣の方を見るミト。
それに気づいたセリカが、
「その剣が、その件と関係があるの?」
「どうだろう、ただいカイの門が現れるとか何とか言っていたが」
「……それの影響じゃない! 完全に! 緊急事態という事で召集があったのにあんたとは連絡が取れなかったから、わざわざ私がここまで来たのよ! たく……面倒ごとが増えたわ」
「しかもその剣、カイから放すと爆発するんだ。半径100mの穴ができるらしい」
「……うわぁ。カイごと封印て手もあるけれど……その剣でしか対抗できないとか?」
「いや、そういうわけではないと思うよ? ただの強い剣らしいし」
「ただの強い剣て、何よその中途半端に呪われていそうな剣は」
「まあ、強い剣ではあるけれどこちらでどうにかできそうだし、持っているのがあのカイだから、下手な手は打たないだろう」
「そうね……ただそういうわけで、ある一定以上の戦闘能力がある人間は、遺跡へ無料かつ、優先的に入れる事にしよう、ってなったの。もちろん魔物退治が必須だけれどね」
「……確かに遺跡から大量に魔物が出てこられても困るから、けれど軍も動いているんだろう?」
「ええ、影響の強そうな場所や、人の追い場所を重点的に」
「随分と大事だな。ところで、これも全部、君達の世界の人が考えたシナリオかな?」
そこでミトが剣の妖精に向けて言葉を発すると、そこでミルが現れる。
「……違いますよ。大体に異界の門は、剣の能力者のレベルアップ用ですもん。そんなに沢山異界との接点が起るはずがありません。ただ……」
「ただ?」
「その過程を利用した別の誰かか、何かが、この世界で異変を起しているのかもしれません」
「理由はどんなだと思う?」
「さあ、まだ何とも。この世界に悪影響があって“得”と考えられる事象がある存在は、現時点では分りません」
「もしくは、その人達が得だと思っているだけで、そうではない可能性もあるか」
「もし気になるようでしたら、今存在しているはずの異界の門がある遺跡に行って見ますか?」
「それは明日かな。もう日が暮れる。夜行性の魔物もいることだし」
「確かにまだ事態はそこまで緊迫していないようですから、大丈夫かもしれませんね」
そうミルが呟くも、全員が奇妙な予感を覚えていたのだった。




