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第六話 手引き

ショウたちとの合流“二分”前、リョウゴの頭にアメリの声が響く。

『接敵。至急、応援願う。』

内容はそれだけだった。だが、それで十分だった。脳内で“メッセージ”が何度も繰り返される。おそらく交戦中。あの相手だ。非常にまずい。

「きたぞ。アキ、ガイ。説明はあとだ。」

リョウゴがそれだけ告げて動き出す。それを見て、2人はすぐに後を追う。

「それだけのことが?隊長?」

「ああアキ、“死人が出る”」

「ハッ…笑えねえ冗談だな。」

少し笑ってガイが言う。言い返そうとしたその時、ことは動く。

「……“メッセージ”が切れた。」

走る三人の顔が一気に強張る。

「くそっ……ガイ、アイデア使え。アキはガイに。俺は走る。」

「はいよ……いくぜぇ!」

ガイは四輪駆動のバギーバイクへと姿を変えた。オレンジ色に塗装された車体には、ところどころに傷跡がついていた。無骨なその機体に、アキが飛び乗る。ガイのエンジンは雄叫びを上げていた。

「世話になるぞ」

「おうよ!」

横を狼となったリョウゴが並走する。 

「お前ら先に行け。ショウは多分まだ動いてる。“回収”だ。」

「了解。」

アキが頷く。ガイもそれに続く。

「了解!隊長!アキ!楽しく行こうぜ!」


先程まで死にかけていたと言うのに、ショウの頭はひどく冷静だった。

「まだ動けるな?」

「ええ、隊長。」

それを聞いてアキが笑う。

「丈夫で結構!男はこうでなきゃな!」

少し話しているうちに敵が動きを見せた。裂けた腹が再生し始めている。ショウが紙にした膝も、もう紙化が解け始めていた。コアを破壊しなければ。

「ガァアアアァ…ギィ…」

叫びが響く。黒板を爪で引っ掻くようなひどい音。ひどく耳障りだ。

「ひとまずガイはアメリ回収して戻れ。」

「はいよ隊長。」

ガイがアメリに駆け寄っていく。隊長からの伝令は続く。

「ショウ、状況は?」

「相手のアイデアは“日用金属雑貨の生成”。メジャー、包丁ハサミです。膝は俺がやりました。」

「あとどれくらい持つ?」

「二分ってとこですかね。」

「よし、アキ!“リーパー”あとどんくらい出せる?」

「あの相手じゃ7分待たせんのがギリだな。」

「万全だな。俺が正面で抑える。お前らは隙見て詰めろ。」

2人が頷く。あたりにしばしの沈黙が訪れる。汗が滲み、風が流れる。公園の枯れた草の匂いが鼻をくすぐる。

「ググガァ…!ギリィイイイ!」

敵がこちらを向き、叫ぶ。ゴングがなる。

「いくぞ!お前ら!」

三人が駆け出す。最終ラウンドだ。


「死んじゃいないな。」

出血は多い。だがまだそこまで経っていない。これなら大丈夫。ガイは安堵した。もう仲間を失うなどこりごりだから。

「ガイ…さん?」

「喋んなよ。傷口開くぞ。」

アメリを背負って紐で体にくくりつけた。そしてアイデアを発動する。アメリは気づけばバギーバイクのシートの上だった。

「奴は……任務は……?」

「喋んなって。……大丈夫だ。俺たちの仲間はな…」


「結構、優秀だぜ?」


「ガギィ…ギギ…」

右手からメジャーが射出される。早い。風を切る音がする。明らかに戦闘を駆けるリョウゴ狙い。

「…掠るか。」

頬に掠った。毛が切れる。それだけだ。

「“リーパー”!」

アキに呼応して空中に何かが出現した。見えにくい。よくみると、それは死神の風貌をしていた。襲ってくるメジャーの刃。それをリーパーの大鎌は切り伏せた。ショウは目を疑った。これならいける。

「ショウくん!私のアイデア!死神(リーパー)!範囲は見れるとこ!」

「わかりました!」

言いながら再び敵に目をやる。そこでは二足歩行の狼とアイデアゾンビが攻防を繰り広げていた。

「そのでかいハサミ、邪魔だろ!」

リョウゴの牙が、押さえ込んだ左腕に噛み付く。だが、金属音。リョウゴの牙に衝撃が走る。

「こいつ…!」

リョウゴが噛み付いたのはメジャーだった。

「ちっ…!」

(戻して、巻いたのか……!応用が効くな)

そう思い、リョウゴは舌打ちする。

「ギギギィ…」

「隊長!後ろ!」

ショウの叫びで振り向く。包丁。ガタガタと震えている。六本。もう発射される。

(一本は覚悟だな)

「リーパー!払え!」

大鎌が三本薙ぎ払った。再び狼となることで、残りを避け切る。包丁はすべて敵に刺さる。

「……」

今度は苦しむ様子もない。包丁は体内に飲まれて消えてしまった。何かある。リョウゴは少し距離を取る。

「リーパー、払い続けろ。」

アキの指示でリーパーが動く。絶え間なく飛んでくる包丁。射出されるメジャー。降りかかるそのほとんどを払い落としていた。

「すまん。油断した。」

「はぁ…ほんと困ります。」

アキが気だるげに呟く。先程より活気がない。

「1人が近づくのもまずいです。三人で一気に叩きましょう。」

敵の膝に目をやる。もう紙はほぼ残っていない。

「ああショウ、それがいい」

「はあ……」

(またため息…疲れか?)

そうショウが勘繰るうちに、ぱしんとアキが両頬を叩く。

「気合い入れます!いきましょう!」

「いいですね。俺もう一度動き封じてきます。」

宣言と共に体を紙に変える。地面を滑るように動く。敵の注意を隊長たちと分散させる。包丁が数えきれないほど飛んでくる。だが、いくら飛ばそうと、ショウには当たるはずない。このまま動きを封じる。

「ギギガァ!」

敵がショウ目掛けてハサミを振り下ろす。大振り。当たるわけもない。

「お返しだ」

するりと避けて膝に触れる。立ち始めていたその脚は再び地に落ちた。ドスン、という音が響く。少し土煙を巻き上げた。これで動けまい。役割は終わった。体を翻し、叫ぶ。

「2人とも!今!」

そういった時には、すでに2人は距離を詰めていた。いける。思わず笑みが溢れる。

「“リーパー”!やれ!」

鎌がコアを目掛けて振り下ろされる。人狼、リョウゴの鋭い爪もそれを砕かんと突き出される。ショウも銃を構える。

瞬間、違和感が走る。

 

(−−−ずらされた…?)

 

ほんの少し。だが重大な距離。少しだけ奴は身を動かし、リョウゴとアキの攻撃はコアの少し横をえぐるにとどまる。

そして、忌々しい音が聞こえた。


『シュルルルル……』


独特の金属音。メジャー。全員の顔が強張る。

 

(来る…!)

 

だが、誰にも当たることはなかった。メジャーの向かう先に人などいなかった。それが狙ったのは、ビルの屋上の柵。

「こいつ…!」

それを追ってショウが銃を撃つも、当たらない。メジャーは敵の体を引き上げる。ミシミシと音を立てる柵。それを飛び越えて屋上へと登った。

「リーパー、構えろ」

全員が構える。時間が凍る。三人がそれぞれ思考を巡らせていた。

 

(上を取られた……)

 

ショウが生唾を飲み込む。全身の筋肉が少し強張る。ショウは撃とうとしアキはリーパーをけしかけようとした。リョウゴはビルの二階の窓の位置を確認した。このままではまずい。その判断が一致した瞬間、全員が目を疑った。

「「「逃げた……?!!」」」

アイデアゾンビが、逃走した。動かない脚の代わりにメジャーを巧みに活用して。ターザンのように、街の建物を渡って飛んでいく。気がついた時には敵影は見えなくなった。

「隊長…?」

ショウが問う。その声は少し震えている。

「ああ、これは…“発議”だな」

これまでにないほどリョウゴの声が重く、低い。それだけのことが、今、起きた。




その日の夜更け。別の地区の廃ビルに、例のアイデアゾンビはいた。その前には、うら若き小柄な少年が座っていた。月明かりに照らされているその姿は、女性と見紛うほどだ。

「それで?だいぶやられちゃったんだ。かわいそうに。」

あどけなさの残る声で話しかける。腕に抱え込むぬいぐるみ。よく手入れされた艶やかな髪の毛と可愛らしい洋服。その全てが、この廃ビルと目の前の化け物とは真逆だった。

静かにアイデアゾンビが頷く。そして何かいいたげに顔をあげる。

「ああ、わかってるよ。ちゃんと任務はこなしてきたんだよね?」

ぶんぶんと首を振ってその化け物が頷く。

「アハハ!やめなよ首おれちゃうよ?ちゃんと“あれ”置いてきたんだね?」

そう言って本棚を指さす。指した先にあるのは、『太陽のいらないまち』というタイトルの少し古びた本。他にも、古びた本が何冊も並んでいた。その中には、『今宵の月』と題された本もあった。

「…うん!ちゃんと邪魔も消したようだね!」

また、ゾンビは大きく頷いた。少年が立ち上がり、ゾンビの頭を撫でる。

「お話いっぱい聞かせてね?」

そしてそのまま本棚に寄り、本の背表紙を指の腹で撫でた。

 

「新しいお人形さんかな…面白くなりそう!アハハ!」

 

甲高い声。心から楽しむ声。それは夜闇の街に溶け込んでいった。

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