第四話 作戦開始
「集まってもらって感謝する。休日だった面々には申し訳ない。」
重い空気の滞留する装甲車の中、隊長が口火を切った。今回集まったのは10人、うち三人は別分隊の救護班だ。
「…まあ、今回ばかりは仕方ないです。」
「え?!あのショウくんが?!めずらしい…」
「マコさん、俺もちょっとは真面目に仕事するんですよ。」
ほんとのことを言っただけなのに、なぜ驚かれなければならないのか。ショウの疑問とは裏腹に、聞き耳を立てていたガイが笑いを漏らす。
「フッ…真面目ねえ…フフッ」
「笑うなガイ」
「ああ?お前今…」
「うるさい!ガイ!運転に集中しろ!」
遮るように隊長の怒号が響く。こう言うとき、隊長は何故かガイに厳しい。
「…なんで俺だけ」
車窓から見える景色が変わってくる。基地の外壁から住宅地、雑居ビルの密林へと移っていく。当然のように未舗装の車道。そんな道に無数に広がる石ころや小さな段差のたびに、装甲車はその巨体を上下左右に大きく揺らした。太陽が街を真上から照らすほどの時間に、車はその豪快な動きをようやく止めた。
「はいよ、地獄への直送デリバリー完了だぜ。リョウゴ隊長。」
リョウゴは何か言いたげに口を動かしたが、諦めがその発言を喉に押し留めた。
「それでは、今回の状況、作戦を説明する。マコ、頼む」
「は〜い。第九小隊のマコでぇす。今回はみんな知っての通り“一つ持ち”事案だよ。」
「あ〜やっぱ嘘じゃないかぁ!」
小麦色の肌をした大柄な女性がその体躯通りの大きな声を漏らす。
「ホント、嘘であってほしかったっス」
そう答えたのは少し小柄な色白の男性。そう応酬する2人にショウは見覚えがなかった。
「ガイ、あの人たち誰だっけ?」
「ああ、アキさんとミツルさんだよ。お前、前の氷ゾンビの時一緒に車乗ってたろ。」
「そうだっけ…?」
人の顔を覚えるのは、アイデアゾンビを倒すより難しい。
「ショウくんだな?よろしく。」
「よろしくっス。」
「あっえっと、よろしくお願いします…。」
思わず声がうわずってしまった。
「ちょっと〜そこ聞いてる?」
「あっマコさんすいません」
「はあ…で、相手の能力はまだ不明だけど、多分刃物は使ってくるよ。警察の報告だと、発見と同時に同僚さん刺殺されちゃったんだって。」
「実は二つ持ちって可能性は?」
隊長が食い気味に口を開く。
「極めて低いな。アイデアゾンビは欲の塊、二つ目があるならとうに見せびらかしている。」
「…そうですか。厳しいですね。」
「ああ、俺の前の同僚は一つ持ちに殺されてる。一撃だったさ。気をつけてくれ。」
そう話す隊長の目には光がない。深夜の水辺のように真っ暗で静かだ。握りしめられた拳には汗が滲んでいる。
「気をつけろったって…。これ給料上がります?」
「さあな。少なくとも“退職金”は雀の涙だぞ。」
「はぁ…こんな職場で働くとか相当の物好きですね。」
少し間を置いた後に、隊長が息を吸い直し皆の方へ向き直る。
「ともかく、作戦を伝達していく。皆よく聞くように。今回の作戦、一番の目標は“死者なし”だ。次点で“アイデアゾンビの討伐”。よく覚えておくように。」
隊長から作戦が伝えられていく。
「ミツルは索敵、ショウは偵察、アメリが伝達の後、俺とアキとガイで一気に叩く。」
うちのいつもの勝ちパターンだ。
「以上。マコと救護班は車内待機。意見質問があるものは?」
ガイが静かに手を挙げた。
「なんだ?」
「もしも負傷者が出た場合、優先は“回収”か?それとも“続行”か?それだけ聞きたいね。」
「ふむ、“隊長”としては“続行”、“リョウゴ”としては“回収”だな。」
「…へえ、優しいんだな“リョウゴ”さんは。」
少し皮肉めいてそう呟いた。
「まあ、少なくともこの車を霊柩車にはしたくない。判断は各々に委ねる。」
「はいよ。」
「他にあるものは?」
水を打ったように静まりかえる車内。その空気には少しの諦めと覚悟が充満していた。
「よし、それでは、」
リョウゴの目配せでマコがドアを開ける。
「作戦開始。」
開かれたドアから流れ込む、乾いた砂混じりの陽光。風吹き荒ぶ寂れた街に、戦士たちの足が一足、また一足と増えていった。




