第43話「その女、返してもらうぜ」
パチパチパチ、と格納庫に乾いた拍手が鳴る。
「ンン~、素晴らしい!」
蛇座のサーペント卿だ。
短い金髪をオールバックにして、相手を蔑むように冷たい目をした男は、この時ばかりは興奮を隠せないでいる。その背後には、力なく項垂れているモブ子の姿もあった。
目の前で、プロの傭兵である黒服たちを。
まったく歯牙にもかけずに、圧倒的なパワーでねじ伏せた少女は。
間違いなく。
自分たちと同じ『異質』の存在であると。
「ン~、はてさて。いったいどのような能力なのでしょうか?」
我々のように魔術で身体強化をしているのか。
それとも自身を媒介に、悪魔との契約でもしているのか。
ンン~、興味が尽きません。
是非とも。
貴女の体を観察して、じっくりと愛したいものです。
……美しき死骸となってから。
死体愛好者であるサーペント卿は、その蛇のような厭らしい目で彼女のことを見ていく。居酒屋の制服を着たギャル風の少女は、それを一蹴して鼻で笑う。
「はは、何言っているんだが、全然わかんないんだけどぉ。勝手にあたしを変人みたいにいわないでくれる? あたしはフツーの女子高生だっての」
「普通? 貴女が?」
「当たり前でしょ。陣凱町はね、そういう街なのよ」
「ン~、まぁいいでしょう。その変な能力も、首から切り落とせば、流石に絶命するでしょうから」
「はんっ、やってみたら? こっちだって、まだモンスターエナジーが、あと3本も残っているんだから。あんたに、あたしの残機を削りきれる?」
唯は不敵に笑って、制服のポケットから、黒と緑色のロング缶を覗かせる
それを見て、サーペント卿は狡猾な笑みを浮かべる。ぱち、ぱち、と神父服のボタンを外すと。その内側に収納してあった大振りのナイフを引き抜いた。
そして、構える。
人を殺すための、暗殺の構えを。
唯も、拳を鳴らして肩を回す。
肉食獣のような笑みが、暴君の姫を思わせる。
人の領域から外れた存在。
まさに化物の二人が、殺気を漂わせて向かいあう。どちらかが先に動けば、すぐさま殺し合いになる。サーペント卿の背後で蹲っているモブ子が、不安そうな目で見ていた。
……だが。
……それも、ここまでだった。
「あら、残念。ここまでかー」
突然、唯が緊張感のない声をあげる。
戦闘の意思がないというように、両手を頭の後ろで組んで、大きく伸びをする。
サーペント卿は訝しむ。
だが、その理由がすぐにわかった。
コツ、コツ、と誰か近づいてくる。
その男は、滑走路の明かりを背後から浴びて。さっきまで闇夜に隠れていたのが嘘のように。威風堂々と格納庫の入り口から入ってきた。彼の姿を見て、囚われの聖女は静かに息を飲んだ。
その手には、愛用の『有坂式狙撃銃』が握られている。
「てめーの相手は、俺だ。どんな理由があるのか知ったこっちゃないが、その女を勝手に連れていくんじゃねーよ」
そいつは、な。
ただ普通になりたいだけの女の子なんだよ。
「その女を返してもらうぜ。このクソ蛇野郎が」
有坂式次郎が。
不機嫌そうな顔をして。
夏休みの最後の戦いに赴いていた―




