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第41話「唯は、普通の女子高生であった」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――


 天上天下もなかゆいは、普通の女子高生である。


 イマドキの少女らしく、おしゃれや可愛いものが大好きで、ギャル風の見た目も彼女の性格を表している。


 いつも楽しそうで。

 いつも嬉しそうに笑っている。


 ただ、あえて唯の異常性をあげるなら。

 彼女は、……人間の形をした、人ではない《《ナニカ》》であった。


「ほらほらぁ~、次はだぁれ?」


 屈強な男を殴り飛ばして、彼女は溌剌と笑う。

 殴られた黒人の大男は、そのまま格納庫の壁に激突して、そのまま力なく地面に倒れた。彼女の周囲には、そんな男たちが幾人も横たわっている。


 死屍累々。

 実戦経験のある外国人特殊部隊。その部隊の出身である猛者たちが、細身の少女に素手で叶わないのだ。純粋な腕力でも、近接戦闘の技術でも、その体に似合わぬ圧倒的なパワーで薙ぎ払われてしまう。


 拳を放てば、黒服が宙を舞い。

 蹴りを放てば、男たちが枯葉のように踊る。


 タチの悪い冗談みたいに。

 その暴君のように暴れる少女を前にして、黒服の男たちは生物としての恐怖に震える。つまり、直面している死の予感だ。


 荒唐無稽。

 傍若無人。


 つまるところ、彼女は天上天下唯我独尊。

 頭のネジが外れた奇人・変人が通っている陣凱高校。その高校三年生であり、校内でも手をつけられない七人の生徒バカ、陣凱高校七人衆に数えられる。


 この街であって。

 唯は、普通の女子高生であった。


「な、なぜだ! あんな細身の体なのに、なぜ力負けをする!?」


 意味がわからない、というように黒服の男が叫んだ。そして、倉庫内に転がっていた鉄パイプを手に取ると、半狂乱のまま彼女に襲い掛かる。


「死ねぇ! この化け物が!」


 振り下ろされる鉄パイプ。

 それと同時に、ガツンッと鈍い音がした。


 男の目が、狂気から恐怖に変わっていく。

 暗闇でもわかるくらいに顔が青ざめて、噴き出した冷や汗が額を伝う。


「な、ななな」


 鉄パイプは彼女の目の前で止まっていた。

 彼女の放った拳の形に、鉄パイプが無残にも曲がっていた。


「あ、ありえな―」


 彼女が近寄り、男の襟首をつかむ。

 そして、そのまま地面に向けて投げつけた。重たい衝撃が響いて、黒服の男はコンクリートの床に跳ね上がる。嗚咽が漏れる。それっきり動かなくなった。


「あのさー、キミたち酷くない? あたりのことを化け物とか、死ねとか言って。そんなことを言われたら、……《《半殺し》》じゃあ済まなくなっちゃうじゃんか?」


 え、と黒服たちが戸惑う。

 半殺しじゃあ済まなくなる。

 それって、もしかして。

 あの少女は、これでも手加減でもしているというのか!?


「く、くそ! こんな国で死んでたまるか!」


 残された最後の黒服が、震えながら懐に手を入れる。そこに隠してる銃、『グロック19』を取り出すと、その銃口を彼女に向ける。ガタガタと、銃を持つ手が震えている。


「くたばれ! 化け物が!」


 その黒服は手が震えていることも承知で、少女に向けて引き金を引く。


 ダン、ダン、ダン!

 セミオート式で給弾される自動小銃は、その持ち主の命じるままに弾丸を吐き出していく。手が震えて、狙いも定まらない。少女がいるところとは、まったく見当違いな場所に銃弾は着地して、コンクリートの地面や壁を削っていく。


 それでも、不運なことに。

 外国人部隊に所属していた経験からか。無茶苦茶に撃っていたはずの銃弾のうち、何発かは彼女に向かって飛んでいく。


 音の壁を越えて。

 螺旋状に回転しながら進む、9×19㎜のパラベラム弾。この国を含む世界で最も使用されている銃弾は、まっすぐ彼女に向かって。


 その細身の体を、貫いた。


「……あれ」


 肩と腹。

 それから耳の肉を抉られた。

 ぽたぽた、と真っ赤な血が垂れて。


 唯のバイト先である、居酒屋の制服が深紅ワインレッドに染まっていった―


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