第41話「唯は、普通の女子高生であった」
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天上天下唯は、普通の女子高生である。
イマドキの少女らしく、おしゃれや可愛いものが大好きで、ギャル風の見た目も彼女の性格を表している。
いつも楽しそうで。
いつも嬉しそうに笑っている。
ただ、あえて唯の異常性をあげるなら。
彼女は、……人間の形をした、人ではない《《ナニカ》》であった。
「ほらほらぁ~、次はだぁれ?」
屈強な男を殴り飛ばして、彼女は溌剌と笑う。
殴られた黒人の大男は、そのまま格納庫の壁に激突して、そのまま力なく地面に倒れた。彼女の周囲には、そんな男たちが幾人も横たわっている。
死屍累々。
実戦経験のある外国人特殊部隊。その部隊の出身である猛者たちが、細身の少女に素手で叶わないのだ。純粋な腕力でも、近接戦闘の技術でも、その体に似合わぬ圧倒的なパワーで薙ぎ払われてしまう。
拳を放てば、黒服が宙を舞い。
蹴りを放てば、男たちが枯葉のように踊る。
タチの悪い冗談みたいに。
その暴君のように暴れる少女を前にして、黒服の男たちは生物としての恐怖に震える。つまり、直面している死の予感だ。
荒唐無稽。
傍若無人。
つまるところ、彼女は天上天下唯我独尊。
頭のネジが外れた奇人・変人が通っている陣凱高校。その高校三年生であり、校内でも手をつけられない七人の生徒、陣凱高校七人衆に数えられる。
この街であって。
唯は、普通の女子高生であった。
「な、なぜだ! あんな細身の体なのに、なぜ力負けをする!?」
意味がわからない、というように黒服の男が叫んだ。そして、倉庫内に転がっていた鉄パイプを手に取ると、半狂乱のまま彼女に襲い掛かる。
「死ねぇ! この化け物が!」
振り下ろされる鉄パイプ。
それと同時に、ガツンッと鈍い音がした。
男の目が、狂気から恐怖に変わっていく。
暗闇でもわかるくらいに顔が青ざめて、噴き出した冷や汗が額を伝う。
「な、ななな」
鉄パイプは彼女の目の前で止まっていた。
彼女の放った拳の形に、鉄パイプが無残にも曲がっていた。
「あ、ありえな―」
彼女が近寄り、男の襟首をつかむ。
そして、そのまま地面に向けて投げつけた。重たい衝撃が響いて、黒服の男はコンクリートの床に跳ね上がる。嗚咽が漏れる。それっきり動かなくなった。
「あのさー、キミたち酷くない? あたりのことを化け物とか、死ねとか言って。そんなことを言われたら、……《《半殺し》》じゃあ済まなくなっちゃうじゃんか?」
え、と黒服たちが戸惑う。
半殺しじゃあ済まなくなる。
それって、もしかして。
あの少女は、これでも手加減でもしているというのか!?
「く、くそ! こんな国で死んでたまるか!」
残された最後の黒服が、震えながら懐に手を入れる。そこに隠してる銃、『グロック19』を取り出すと、その銃口を彼女に向ける。ガタガタと、銃を持つ手が震えている。
「くたばれ! 化け物が!」
その黒服は手が震えていることも承知で、少女に向けて引き金を引く。
ダン、ダン、ダン!
セミオート式で給弾される自動小銃は、その持ち主の命じるままに弾丸を吐き出していく。手が震えて、狙いも定まらない。少女がいるところとは、まったく見当違いな場所に銃弾は着地して、コンクリートの地面や壁を削っていく。
それでも、不運なことに。
外国人部隊に所属していた経験からか。無茶苦茶に撃っていたはずの銃弾のうち、何発かは彼女に向かって飛んでいく。
音の壁を越えて。
螺旋状に回転しながら進む、9×19㎜のパラベラム弾。この国を含む世界で最も使用されている銃弾は、まっすぐ彼女に向かって。
その細身の体を、貫いた。
「……あれ」
肩と腹。
それから耳の肉を抉られた。
ぽたぽた、と真っ赤な血が垂れて。
唯のバイト先である、居酒屋の制服が深紅に染まっていった―




