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第40話「ちゃんと『半殺し』にしてあげるからさっ!!」

――◇――◇――◇――◇――◇――◇――◇――


【8月31日 23時30分】


 ありえない。

 ありえない、ありえない、ありえない!


 男の目の前で、黒服の仲間が宙に浮く。

 フランスの外国人部隊にいた軍隊格闘術のプロフェッショナル。身長207cm、体重96㎏。まさに超ヘビー級。一般人では、彼を動かすことさえできないだろう。


 それなのに。

 なぜだ。


 なぜ、あの少女は。

 あの男と殴り合って、一方的に叩きのめしているいるのだ!?


「ん~、いまいち。楽しめたのは最初の五秒くらいかなぁ」


 まだ十代と思われる彼女から放たれたのは、腹部に突き刺さるヘビーブロウ。鋭い。まるでミサイルだ。あの華奢な体から、いったいどこからこんなパワーが生まれるのか。まともにガードすることができず、仲間の体がわずかに浮き上がる。


 ぐおぉ、と仲間が嗚咽を漏らす。

 そのまま次の拳で、顔面を殴りとばされてしまう。仲間の体は人形のように、コンクリートの地面を力なく転がっていく。


 まさに暴風。

 激しく吹き荒れている暴風雨の中心にいるのが、その金髪の少女ギャルだった。


 拳を振るうたびに、空気が唸りをあげて。

 蹴りを放つたびに、激しい風が生まれる。


 暴風雨の女王。

 金色に染められた彼女の髪が美しく踊る。彼女を中心に、絶えず風が唸りをあげている。


「おらぁ! 死ねぇ!」


 黒服の一人が伸縮式の特殊警棒を振り上げて襲い掛かる。


 だが、彼女は。

 拳を構えて、腰を落とし。完璧なカウンターで、これを返り討ちにする。放った拳の後に、空気が引き裂かれたような風切音が響く。


 風が唸り。

 男が吹き飛ぶ。


 ……綺麗すぎる。


 人間が、あんな綺麗な放物線を描いて殴り飛ばされるなんて、どこの紛争地帯でも見たことがない。


 この国は。

 もしかしたら、世界のどんな戦場よりも危険な場所なのか。先ほどの、50口径の狙撃銃による襲撃。外と連絡の取れない電波障害。そして、この目を疑いたくなる暴風雨のような少女。


 常識を、踏み外している。

 自分たちが相手にしている連中は。

 こいつらは。

 頭のネジが、完全にブッ飛んでやがる。


「ほらほらぁ、どんどん行くよ!」


 少女は凶悪な笑みを浮かべながら。

 その場で軽く跳躍した。高さにして、軽く2メートルは超えている。そのまま格納庫の天井に着くんじゃないかというような彼女は、その場で身を翻すと。


「きゃはは! 死にたくない奴だけがかかってきなさい! ちゃぁんと《《半殺し》》にしてあげるからさっ!!」


 豪脚といわんばかりの踵落としを地面に叩きつける。

 ぐらりっ、と地面が揺れた。

 舗装されていたはずのコンクリートの地面が、歪な歪みを残している。その光景に息をのんでいた黒服が、次の瞬間には―


「はい、おやすみ」


 瞬時に距離を詰められて。

 顔面をつかまれたまま地面に叩きつけられていた。何かが砕けた音とともに、床にヒビが走っていく。


 男は動かなくなった。

 黒服たちに動揺が走る。

 間違いなく自分たちは、生死の狭間に立っているのだと、静かに悟る。


「さてさて、可愛い後輩君の頼みだしね。きっちりバイト代は稼がせてもらうよ」


 そして、彼女は。

 にやりと舌なめずりをするのだ。


 凶悪にして凶暴な。

 肉食獣のような笑みを―

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圧倒的な暴力。
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