第37話「ほらほら。ちゃんと隠れないと、ご機嫌な50口径の餌食だぜ」
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【8月31日 22時55分】
陣凱高校は、特殊な生徒たちが通っている。
そう言ってしまえば聞こえはいいが。
要は、一般的な学校や地方自治体では手に負えない少年・少女たちを集めて、いっぺんに管理するための方便である。彼らの境遇は様々で、もはや陣凱高校の教師陣ですら、その全てを把握しきれないほどだ。
いわく。宇宙人に誘拐されて、逆にUFOを撃墜した男。異世界から帰ってきて、現実世界に馴染めない男女二人組。
その他にも。情報操作に異常な才能を持つ灰色の髪の少女。どんな傷を負っても、特定の条件下ですぐに再生する存在不明なギャル。
その経歴も、様々だ。
そして。幼少から狙撃手として育てられて、裏社会の裏切り者を処分する役割を課せられてきた男も。
この街では、……普通の男子高校生だった。
「おいおい、なんで今の銃弾を撃ち落とせるんだよ。人間の反応速度じゃねーだろ」
引き金から指を離して。
大きく息をはく。
まだ、熱を持った銃口からは。
わずかに陽炎が立ち込めて、夏の生ぬるい風を受けて揺らぐ。
次郎がいるのは、羽田空港のプライべートジェット機の乗り場。そこから直線距離で800メートルは離れた茂みの中だ。時刻も深夜ということもあって、その姿は完全に闇夜に溶け込んでいる。
「まぁいい。これも想定通りだ。魔法なんてチンケなものを使う集団だ。これくらいの不意打ちは許されて当然だ」
どうせ奴らは、常識から外れた存在だ。
次郎は軽く息を吐いて、再び狙撃スコープ越しの視界に集中する。
次郎が輻射態勢で構えているのは『バレットM82』。米国のバレット社の対物狙撃ライフルだ。全長1.5メートル、重さ13キログラム。使用銃弾は12.7×99㎜NATO弾。
過去には対戦車ライフルと呼ばれていただけあって、その破壊目標は戦場のジープや戦車などを想定している。頑強な装甲を貫くことを目的に作られた銃弾は、通常のライフル弾の数倍の威力を持つ。その高すぎる威力から、米国ですら使用には法的な問題が起きているほどだ。もちろん、人に向けていい代物ではない。
もし頭に当たったら?
潰れたトマトになるだけだ。
「ほらほら。ちゃんと隠れないと、ご機嫌な50口径の餌食だぜ」
最初の狙撃。
完全な不意打ちという形で、神父服の男を狙ったが。なぜか、その銃弾はナイフによって弾き落されてしまった。人の反応速度で50口径を弾くなど、常識では考えられないが。
だが、次郎の機転も早かった。
最初の狙撃を失敗した。
その瞬間から、次の目標を護衛の排除に変えていた。深夜でも明るすぎる滑走路で、聖女の乗っている車の前後にいる黒塗りのセダン。一見しただけでも、防弾車両であることに予想がつく。通常の狙撃銃であればラチが開かないところだが。この対物狙撃ライフルならば。
「ッ!」
息をはいて。
引き金を絞る。
凄まじい衝撃と共に。
『バレットM82』が吠えた。
獣の咆哮のような銃声と共に、50口径の銃弾が放たれる。音速の三倍以上の速度をもって、その悪魔の弾丸は飛翔する。
やがて、数瞬の刹那を挟んで。寸分の狂いもなく、護衛車両のタイヤを破裂させた。遠くから、慌てふためく声が聞こえてきた―




