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第24話「あの異世界帰りのコンビニのバイトが、死体の山を築くことになるよ」

「……あー、店長っすか? 新しい労働力が手に入ったんで、アラスカ行きの便に追加してください」


 ……え? 

 本人の了承? 

 そんなの必要ないでしょ。自分のやったことの弁償くらい、自分で何とかさせましょう。大人なんだから。


 岸野優斗はスマホの通話を切ると、折れたビニール傘をゴミ箱に捨てようとして、やっぱり辞めた。

 気絶して倒れている浮浪者に近寄ると、その手にビニール傘を持たせて、ちゃんと指紋が付くように何度も手に握らせる。こいつ、ビニール傘の弁償も擦り付けようとしてやがる。


「おい、岸野。ビニール傘くらい自分で弁償しろよ」


「やだね。今月で5本目なんだよ」


「乱暴に扱うからだ」


「まだ力加減が上手くできないんだ。お前も異世界に行ってみればわかる。命がけの毎日に、脳のリミッターが良い感じに外れるぞ」


 岸野優斗が死んだ魚のような目をして、次郎へと返す。

 噂だが。あくまで噂なのだが。

 この岸野優斗は一年ほど異世界にいたらしい。かなり過酷な環境だったと聞く。それこそ、一瞬の油断が死を招くような。そのせいなのか、この岸野優斗は命の危機が迫った時に、脳や感覚のリミッターが外れて、人間離れした動きを可能としていた。彼の高速の抜刀術も、その時に身に着けたものだった。


「あむあむ。優斗ゆーと、おつかれ」


 この男だけじゃない。

 隣で肉まんを食っている岸野まほも、優斗と一緒に別の世界を生きていた。それまで友人ですらなかった二人が、今ではいつも一緒にいることが当然となっている。


 異世界の存在証明、と呼ばれた事案。

 日本中で騒がれた、その一件こそ。岸野優斗と岸野まほが、我らが陣凱高校へ転校してきた理由であった。


 こんな連中が平然と学校に通っているのだ。

 普通の高校生には手を出すな。

 そんなルールができあがることは、ごく自然なことなのだろう。


「あちゃー、遅かったか」


 遠くから声がして、次郎がそちらを振り返る。

 そこには、申し訳なさそうな様子で、トイレから顔を出している野良猫のらねノラの姿があった。


「おい、ノラ。どこに行っていたんだよ」


「トイレだよ。ちゃんと声をかけたじゃないか」


「聞こえてねーよ。ちゃんと、便所にいってくる、って大声でいえ」


「……ボクにそんなことを言うのは、変人ばかりの陣凱町もキミくらいだよ」


 呆れた口調だった。

 どうやら、このノラは。トイレに籠っている間に、このコンビニが襲撃される情報を掴んだらしい。闇バイトの掲示板には、報酬10万円と掲載されていたとか。


「誰が、そんなことを」


「闇バイトの掲示板だよ。匿名に決まっているじゃないか」


 でも、と野良猫ノラが思案するような顔になる。


「……ボクたちの行動を察知されているのかも。こんなピンポイントで襲撃してくるなんて」


「おいおい、まさか」


 次郎は首だけ振り返って、そこでアイスクリームをカウンターに乗せて、子犬のようにじっと待っている少女を見る。


 野良猫も、黙って頷く。


「すぐに、ここを離れよう。なんだか嫌な予感がする。これ以上、ここにいたら―」


「ここにいたら?」


「あの異世界帰りのコンビニのバイトが、死体の山を築くことになるよ」


 ……あぁ、それは。

 ……勘弁だな。

 次郎とノラは呆れと畏怖を込めて。

 死んだ魚の目をした、コンビニの制服を着た男子高校生のことを見ていた。


 うん?


 岸野優斗は意味が分からず首を傾げる、その足元には、今も意識を取り戻さない浮浪者が倒れている。


「……よし、ここはボクも人肌脱ごう。気になることもあるしね。ボクが先にコンビニを出て、奴らの興味を引くから。じろーはお姫様を美容室にでも連れてってあげて」


 ローマの休日といえば。

 美容室のシーンは欠かせないからね。

 そういって、野良猫のらねノラはウインクをする。


 その瞳は、いつものように灰色で。どこまでも空虚であった―

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ノラさん、これ以上犠牲が出ないようにするため人肌脱ぐ。
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