第23話「異世界帰りの岸野優斗」
「だ、黙れ! この店を襲えば、10万円をくれるって言われたんだよ!? てめぇみたいなガキ、ぶっ殺してやる!」
浮浪者の男が大きな声で叫ぶ。
酒臭い息がした。男は威嚇するように、レンチでレジカウンターを叩くと。そのまま乗り越えて、岸野本人へと襲い掛かろうとする、が―
「おっと。これ以上、店で暴れるのはやめてくれ。店長に怒られるのは、あいつの件だけで十分だ」
岸野優斗は身軽にカウンターを乗り越えると、そこに立ててある商品のビニール傘を手に取る。
余計な肩の力を抜き。
ビニール傘を腰に差して。
右手を傘の柄に添える。
……まるで、剣術の居合切りの構えだ。
死んだ魚のような目で。
浮浪者の男が、次にどう動くのかを見定める。
「よそ者のあんたに教えてやろうか。この街にはルールがあってな。それは―」
「うるせぇ! 死ねよ、このガキが!」
浮浪者の男は巨大なレンチを振り上げると、岸野優斗に目掛けて襲い掛かる。
狂気が混じった感情にまかせて、その頭部へと振り下ろす。殺してやる、と本気で思っている目だった。
しかし、その狂気は。
神速の一閃にて、無に帰す。
「……『普通の高校生には手を出すな』。それが、この街のルールだよ」
何かが砕ける音がした。
肉が破断して、骨が折れる。
関節はぐちゃぐちゃに曲がり、嗚咽を吐きながら男が宙を舞う。
「う、うぼあっ!?」
レンチを持っていた腕が逆に曲がっていた。
まるで自動車に跳ねられたかのように、首と、腰が、おかしな角度になったまま、浮浪者の男は空中で一回転をする。
そして、そのまま床に落ちた。
カランカラン、と男が持っていたレンチが乾いた音を立てる。
「……悪いけど。俺は、次郎や野良猫のように優しくはない。この店を襲ってきた奴には、弁償金を返済するまで強制労働をさせてやる。よかったな、新鮮なアラスカ料理がお前を待っているぜ」
岸野優斗が死んだ魚のような目で、手にしていたコンビニ傘を下す。
いったい、どれほどの衝撃があったのか。
彼が手にしていたビニール傘は、原形を保てないほどボロボロになっていた。軸の中棒は二度ほど曲がっていて、傘の骨組みも中身が飛び出している。
浮浪者の男が襲い掛かった。
その瞬間。
岸野優斗は目にも止まらない速度で、その男の返り討ちにしていたのだ。まずは初激の抜刀で男の腕を折り、同時に顔面に一撃を入れて歯を砕く。そのまま返りの太刀で首と腰に斬撃を入れて、態勢が崩れたところにトドメの一撃。まさに目にも止まらない抜刀術。
さすがは、陣凱高校七人衆のひとり。
『異世界帰り』の異名はダテではない―




