第20話「この街のコンビニにいこう!」
「さて、到着! 陣凱町だけに存在するコンビニ。陣凱マートだ!」
この街にはセブンもファミマも出店してないからね。毎日のようにガラスが割れて、喧嘩騒ぎになるような場所に、まともな大手企業は出店しない。
野良猫ノラは上機嫌に説明しながら、モブ子を店内へと案内している。
その後ろを、次郎が面倒そうについてくる。冷たいクーラーの風が、夏の汗ばんだ体に気持ちいい。
「で、何を買うんだ?」
「アイスクリーム! 小さい頃からの夢だったんです!」
そう言って、とてとてと小走りで店内へと進んでいく。
コンビニの内装など、どこも大して変わりはない。雑誌や生活雑貨。レンジで温めれば食べられる清潔な食べ物に、少し食べ飽きた惣菜パンが並び。奥のショーケースには冷やされた飲み物が所狭しと並んでいる。
そんなごく普通のコンビニを、モブ子が物珍しそうに目を輝かせている。
まるで小型犬だな。
尻尾が生えていたら、ぶんぶんと左右に振っていることだろう。犬など飼ったことはないが、飼うならば大型犬がいいよな。番犬にもなるし、訓練すれば戦闘犬になるとも聞く。小型犬など、やかましいだけで―
「わぁ、わぁ! 次郎さん、見てください! アイスがいっぱい並んでます!」
聖女のモブ子が嬉しそうに飛び跳ねながら、こちらを見上げてくる。
蜂蜜色の髪が跳ねる。
わずかな曇りもない、満面の笑みだった。
……うん、小型犬も悪くないな。
などと考えながら、コンビニの店内を見渡す。さすがに店の中まで、お呼びでない客人はいないようだ。
「ん? 次郎じゃないか。なんだ、昼飯でも買いに来たのか?」
ふと、声をかけられて。
次郎がそちらのほうを見る。
コンビニの制服を着た男が、カウンター越しに手を上げていた。特徴のない顔立ちに、現実を斜に構えたような脱力感。
そして、死んだ魚のような目。
隣のクラスの男子生徒、岸野優斗だ。
「あー、岸野か。そうか、ここのコンビニでバイトしているんだったな」
「まぁな。《《俺だけ》》なら、どこでも働けるんだけどな」
いろいろあってな。ここで働いている、と隣のクラスの友人が肩をすくめる。
この男。
それほど長い付き合いはないが、なんとなく一緒にいて楽なタイプの人間だった。ほどよく脱力していて、何を考えているのかわからない。かと思えば、やるときはやる。そんな男だ。次郎の学校には珍しいタイプだった。
「コロッケ、揚げてやろうか? 夏は揚げ物の売れ行きが悪くてな」
「すまん。財布が薄っぺらで余裕がねぇんだ」
「気にするな。俺が揚げたいだけだよ」
そういって、岸野はレジの奥に引っ込むと、揚げ物用のフライヤーの電源を入れる。無駄な力を肩から抜いて、調理前のコロッケを袋から取り出していく。
「次郎さん、次郎さん! 見てください! アイスクリームがたくさんありました!」
「そうかそうか。で、その腕に抱えているのを全部、食う気なのか?」
「え? そ、そそそんなこと、ないですよ!?」
「だよな。ちゃんと、ひとつに決めなさい」
「うーん。ふたつ!」
「……ハーゲンダッツはダメだぞ」
次郎の言葉が届いたかも怪しかったが、モブ子は悩みに悩んでパピコとチョコモナカジャンボを手に、こちらへ歩いてくる。
「次郎さん? あの店員さんは、何をしているんですか?」
「コロッケを揚げてくれるんだと。タダだぞ、ラッキーだな」
「わー、良いですね! でも、ちゃんとお金は払わないとだめですよ?」
にこり、と無垢な笑みでこちらを見上げてくる。
……え、払わないとダメ?
……ダメです。
……でも、お前のアイスクリーム代も俺が払うんだぞ?
……それとこれは、話が別です。
次郎とモブ子が無言のやり取りを繰り広げていると、奥からコロッケの揚がる美味しそうな匂いがしてきた。
「おいおい。いつの間にか人数が増えているじゃないか」
まったく、しょうがないな。
そうボヤキながらも、コンビニの制服を着た友人は嬉しそうにコロッケをふたつ、揚げ物用の包装紙に包んでいく。
タダより美味しいものはない。
だが、このままモブ子にチクチク言われるもの面倒だ。次郎は仕方なく、財布を取り出してコロッケの料金を払おうとする。
が、その時だった。
ひょい、とコンビニのレジカウンターの裏から。子供のような小さな手が出てきた。
そして、あっという間に。
次郎とモブ子のコロッケを、そこから奪っていったのだ。
「あっ」




