第15話「そんなの俺たちの責任じゃねぇ。殴られた程度で死んじまう奴が悪いんだよ。……『灰色のフリーター』たちは不気味に笑う」
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【8月31日 11時30分】
陣凱町駅前の広場にて―
……おい、本当かよ。そのバイト?
雑多な駅前を、三人組の集団が歩いていく。
見るからに、怪しい連中だった。
地下鉄の西武池袋線に乗って、池袋から来た彼らは、高収入の闇バイトを生業にしている者たち。世間では『灰色のフリーター』と呼ばれる連中だった。
スマートフォンで高収入の闇バイトを探して、犯罪行為でも平気な顔でする。匿名性が高いバイト掲示板が出来てからは、この国は彼らのような人種がどんどん増えてきていた。
「あぁ、間違いねぇ。闇バイトの掲示板に書かれた聖女の誘拐。この小娘は陣凱町にいるはずだ。俺のダチから連絡があった」
「ダチって。やっさん、そいつと会ったこともないんでしょ?」
「うるせぇ。今時、ネット越しでカノジョを作る時代だ。顔なんか知らなくても、情報が正しけりゃいいんだよ」
路上に唾を吐いて。
ガラの悪い三人が陣凱町の駅前を歩いていく。
時折、スマホで位置を確認しながら、駅前から少し離れた商店街を目指していく。
昭和臭い商店街にある古着屋。
目的の少女が、その店にいるという情報を掴んでいた。男たちは不用意に近寄らず、遠くからその店を見た。古臭い店構えに、薄暗い店内。他に客がいるのかはわからないが、頻繁に人が出入りしている様子はない。
好都合だった。
男たちは、仕事がしやすい状況であることを確認すると、その場を離れた。商店街を回り込み、裏路地へと入っていく。段ボールと空き瓶が転がっていた。人目を避けるように路地に入って、古着屋の裏手に着くと、彼らは持っていたスポーツバックを開く。
そこから取り出したのは。
釘抜きバールとスタンガンだ。バックの中には、ロープやガムテープ、大きな麻袋も入っている。とても平時に持ち歩くものには見えない。
「回収班は大丈夫なんだろうな」
「問題ないっす。ヒビキのやつがミニバンで待機してるそうっす」
「よし。裏口から入って、目的の女を捕まえろ。他の人間は殺さない程度にバールで殴っとけ」
「けけっ。ババァだったら死んじまうぜ」
「そんなの俺たちの責任じゃねぇ。殴られた程度で死んじまう奴が悪いんだよ」
やっさん、と呼ばれたリーダー格の男が不気味に笑う。それにつられて、他の仲間たちも不穏に笑う。
塀は古い木造だった。
彼らの中で、小柄なメンバーが少しだけ後ろに下がると。助走をつけて一気に塀の壁の上りきる。そして、後から仲間たちが来れるようにロープを下ろした。慣れた手つきだった。
「よし。行くぞ」
彼らは素性がバレないように帽子をかぶると、マスクとサングラスをつける。
先に塀を上った小柄な男も、バンダナで顔を隠そうとしている。後は塀の向こう側におりて、ロープを結び付ければ準備完了だ。
これが1000万円の仕事だと思うと、楽すぎて笑いが止まらない。
真面目に働くのが馬鹿らしく思えてくる。
闇バイトに掲載されていた誘拐依頼。一人の少女を連れてくるだけで、1000万円という多額な報酬だ。ちょっと怪しい内容だったが、こんなことで尻込みをしていたら、他の奴に先を越される。
子供の誘拐は。
だいたい相場が50~100万円。
つい、先月も。裕福な子供を塾帰りに誘拐して、依頼主に引き渡してきたところだ。その時は、報酬を渋られたものだが。今回は相手が大物であることを考えると、さぞ羽振りも良いに違いない。塀の上にいる男がほくそ笑む。
彼らに、倫理や道徳はなかった。
そんなものに価値はないと、社会人になった時に大人たちが教えてくれた。自分たちの常識を押し付けて、こちらの言うことを理解しようとしない。理不尽なパワハラ。責任の擦り合い。そして給料は安い。社会が腐っているなら、そこでマジメに生きるのは馬鹿のやることだ。それが彼らの理屈だった。
「よし、ケンタ。引っ張ってくれ」
「ひひひっ、OK! 一人ずつだぞ」
先に塀を上った小柄な男が、歪んだ笑みを浮かべる。
仲間たちを引き上げれば、あとは店の中にいる女を捕まえればいい。他の人間は死なない程度にバールで殴る。死んだところで自分には関係ない。小柄な男が、さらに陰湿な顔に歪める。……が、その時だった。
「ん? なにか光って―」
小柄な男が、視界の端に何かが光るのを見た。
少し離れた建物の屋上。
ちょうどクリーニング屋の看板に隠れるように、何かが光ったのだ。
しかし。
それを認識した瞬間。
「……がっ!?」
突然、何の前触れもなく。
塀の上にいた男が崩れ落ちた。
タンッ、という乾いた音が後から聞こえてきた―




