第11話「タラバカニ双剣vs大根ブレード。八百屋と魚屋の仁義なき戦い」
「おいおい、BoB。突然、空から降ってくるなよ。危ないだろうが」
「unm...。ジロー。ヒサシブリ、デスネ」
ダイコン、クウカ?
そんな片言の日本語に次郎は肩をすくめる。
片手に大根を持っている黒人。その彼の腰には、八百屋の前掛けがつけられていた。
男の名前は、BoB。
八百屋のBoBだ。数年前にこの街に流れ着いて、それから商店街にある八百屋でバイトをしている。
そんな黒人の大男は大袈裟に肩を落とすと、その立派な大根を両手に持つ。まるで、大剣を構える剣闘士だ。
そして、不意に振り返ると。
上空からの《《攻撃》》を、……受け止めた。
「До свидания! 腐レ八百屋ガ! コノSaMYガ、魚介類ノ錆ニシテクレルワッ!」
痩せこけた白人が、黒人のBoBを襲撃していた。
上空からの攻撃。
異常なまでの身軽さ。
左右の手に持っているのは鋭い刃物、……ではなくタラバガニの足。魚屋の前掛けをかけた男は、魚屋のSaMY 。ロシアからの亡命者で、今は商店街の魚屋でバイトをしている。SaMY は、タラバガニの足をナイフのように器用に振り回すと、次郎へ狂気に満ちた笑みを向ける。
「эй...。ジロー。カニ、クウカ? ヤスクシトクゼ?」
「お前もか、SaMY 。だから要らねぇよ」
ソウカ。ソレハ、ザンネン、ネー
八百屋の黒人と同じように、SaMYは肩を落とす。と、次の瞬間。
再び、痩せこけた白人が大柄の黒人へと襲い掛かっていた。「Урааааа!!、死ニサラセ!」とか「八百屋ノクセニ生意気ダ!」とか叫んでいる。
タラバガニの双剣と大根のブレードが交差する。
魚屋と八百屋の仁義なき戦い。
大根の身が削れて、カニの汁が飛ぶ。
まさにルール無用のストリートファイト!
その戦いを見て、駅前にいた人たちが集まってくる。
……おいっ! BoBとSaMYが喧嘩しているぞ!
……やったぜ、これで賭けができる!
……だれか賭けの胴元をやってくれ! 俺はBoBに3万円を賭けるぞ。これで今月の生活費とガチャ代を稼ぐんだ!
あっという間に駅前は、賭場へと様変わりした。
駅前の人間が一斉に集まり、そこは即席のファイトリングとなる。その場に立ち尽くしていた次郎とモブ子は、邪魔だというわんばかりに、ポンッと集団から弾き出された。
二人して仲良く尻もちをつく。
彼らの背後では、大柄な八百屋と痩せこけた魚屋が喧嘩を続けていた。彼らからは、本気で相手をブチのめす、という気迫が放たれていた。
「……大根とカニか。鍋には少し季節が早いな」
「……え、そこですか」
信じられない、というようにモブ子が呆れている。
目の前で起きていることを、口をパクパクさせながら説明を求めるが。次郎は涼しい顔でその場から離れていく。歩きながら、次郎が自嘲するように説明する。
……別に、これくらいは日常だよ。
あんなことで、いちいち驚いていたらここで住めない。家出してきた中学生とかいるけど、まぁ一週間ももたず親元に帰っていく。ここではホームレスすら武闘派だ。まず、勝てない。
そんな次郎の説明に。
モブ子は次第に興味が引かれたのか、その目を輝かせていった。彼女の反応に、次郎もいつもより少しだけ饒舌となる。
「……とりあえず、散歩しながら街を案内してやるよ。こっちだ」
「あ、ちょっと、待ってください~」
次郎はモブ子を促して、彼女が追いついたのを確認してから、今度は同じ歩幅で歩く。二人の姿は街の喧騒へと飲み込まれていく……




