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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第一章
7/26

第七話 すれ違い


 渚が来てから3回目の月曜日を迎えていた。

 もう慣れてしまえば時間の流れは早い物で、この生活を当たり前と感じ違和感を感じる事は殆どなくなっていた。


「今日はバイト無いから早いと思う」

「言わなくても分かってますよ~」


 洗濯物を畳みながら俺の言葉を流す渚。あいつもあいつで馴染んでいるようだけど、時々俺の知らない所で何かやっているのは確か。でも問いただしても答えたくなさそうだから放置しているのだけど大丈夫だろうか。


 そんな一抹の不安を抱きつつもスニーカーを履き扉を開ける。


「じゃあ行ってきます」

「行ってらっしゃい~」


 振り返った渚が小さく手を振ってきていた。微笑みと共に朝日に照らされ艶やかに輝く黒髪を揺らしている。ここだけ切り取れば人でしかないと言うか人の中でも上澄みの美人ではあるんだが実際はアンドロイド。

 でもそういう事実を分かっていても、こうやって送ってもらえるとどこか渚を好意的に捉えてしまう。

 そんな風に思ってしまう自分にチョロいなと自嘲しつつも、これから更に寒くなるのを予感させる12月の朝空へと足を踏み出した。

 

 そうして眠い目を擦りながら講義室へと入ると、いつも通り隣の席に浜中さんが据わっているのを確認する。


「・・・おはよ」


 まだ暖房が効き始めたぐらいなのだろう。ダウンを脱ぐのが少し躊躇われる中俺は、少し気まずさを覚えつつペアの浜中さんへと挨拶をする。


「・・・・はよ」


 うつぶせたまま声だけの返事が俺に返ってきた。

 だが機嫌は・・・・・分からないな。前電話した時は微妙な感じだったから、少し気構えたけどまだ怒っているだろうか。


「発表さっさと終わるといいね」

「・・・・・だな」


 浜中さんが顔を上げ頬杖を突くと、正面のホワイトボードへ眠いのか細く厳しくなった眼を向けている。話しかけるなって事なのだろうか、そう俺は受け取り黙ってとりあえず筆箱を取り出す。


(ん、渚からか)


 どうやっているのか知らないが、俺のスマホに渚からのメッセージが表示されている。


 柔軟剤お願いします


 まぁ今日もシフト入れてなかったしついでに買ってくか。勝手に単独行動するなと言っている手前、こう要求されたら断れないし。

 

 そうなんとなくスマホの画面を眺めていると、ふとフワッと柑橘系の香りがした。


「母親か?」

「え、あーまぁそんなとこかな」


 心拍が跳ね上がるのをバレないように少しだけ体を逸らし距離を取る。咄嗟に嘘をついてしまったが、アンドロイドと同棲と言っても仕方ないしな。


「そういやあたしも買い出しいかないと。今日も帰ったら一人だし」

「へぇ~大変だね」


 自分から母親の話題を出すとは思わなかった。前はあぁ言っていたけどわざわざ他人に触れて欲しくない部分の話だろうに。


「でさ。今日じ━━」


 そう浜中さんが言いかけた時タイミング悪く予鈴が鳴り先生が入ってきた。それで浜中さんも言うのをやめてしまったが、また終わってから聞き直せば良いか。

 そう納得しつつ自分の発表内容を頭の中で軽く確認していると、先生が早速俺達を見て言った。


「じゃあいつもの発表からいきましょうか」


 この先生が毎年講義でやっているらしいこの発表。大体一組10分ほどで毎回最初に2組の発表が行われる。と言っても教科書の訳を発表するだけだから、余程面倒な事にはならないしこれのお陰で単位が貰いやすいしありがたい。


「じゃあ浜中君と堤君のペア」


 そうして俺達は教壇へと上がって発表を始めたが、事前準備はしっかりしていただけあって、俺が担当した部分は特にどもる事なく発表を終え、残りを浜中さんに託すことが出来た。


「じゃあここの訳ですが━━」


 脇に逸れ浜中さんの発表を静かに聞く。少し専門的な内容で単語解説が多めだが、浜中さんの資料作りが丁寧だから上手い事進めているようだった。


 そうしてハキハキと進める浜中さんの横顔を見つつ、あともう少しで終わりに近づいて来たであろう時。ふとスラスラと続いていた言葉が止まったかと思うと、頻繁に浜中さんが発表資料と手元の紙を交互に見始めた。


「そして、えー、えーっと、ちょっと待ってください・・・・」


 そんな浜中さんに他生徒が異変に気付き、少しだけ講義室内にざわつきが広がる。

 先生は皺を深くして黙っているだけだし、眠そうに船を漕いでいた生徒も頭を上げ浜中さんへとどうしたのか視線を送る。


「・・・・っと、スライドに乗せ忘れたんですけど・・・えーー」


 ホワイトボードに映し出された発表資料へと視線をやると、確かに英文から一文丸々抜けてしまっていて意味が分からなくなっていた。だがこの焦りようからして、そもそも訳を忘れていたらしいか。


(確か変に専門的な単語が多くて訳めんどい所か)


 ここでかっこよく代わりに訳と解説を言えたらいいんだけど、生憎俺も今原文を見て正確に訳せるほど英語力がある訳じゃない。


「ちょっと時間を・・・・」

「準備してないんですか?」


 ずっと黙っていた先生が低い声で明らか焦る浜中さんへと問いかける。


「え、い、いや確か・・・」


 浜中さんは髪を耳に掛け教卓に置かれたパソコンを弄るが、ホワイトボートに映し出される映像は変わる事が無く時間だけが流れていた。


 その内にも講義室内のざわめきが続き先生もわざとらしくため息をしている。それで更に浜中さんも明らか焦ってパニックになってしまっているようで放置できないか。


「あ、ごめんなさい。もしかしたら自分がスライド入れ忘れてたかもなので少し待ってもらっても良いです?」


 俺は手を上げ先生へとお伺いを立てる。


「・・・・すぐ終わりますか?」

「もしかしたら上書きして無いかもしれないんですけど、ファイルがどこかにあるかもしれないので」


 すると先生は渋い顔をしながらも静かに頷いてくれた。これは評定下がりそうだけどとりあえず首の皮一枚繋がったか。

 

「じゃあちょっとごめんね」


 そう言って教壇へと上がり教卓のパソコンを弄るふりをしつつスマホを開く。そして英文をコピペしてそのまま翻訳アプリへと入れその訳文を隣の浜中さんに見せる。


「いけます?」


 チラッと顔を上げ小さい声で浜中さんに確認をする。近くで見ると余程焦っていたのか汗を随分書いてしまっているようだった。


「・・・・・え、あ・・・あっ」


 どうやら気付いたらしく俺のスマホを見つつ小さくコクコクと頷いた。咄嗟にした訳文だけだから苦戦はするかもだけど、それでも思い付きだったけど案外上手く行ったらしい。

 そんな浜中さんを確認しつつ俺はスマホを教卓に置き、パソコンの画面から視線を離し先生へと向き直る。


「あーすいません。やっぱ自分が資料上書きしちゃっててスライド無いので口頭でも大丈夫ですか?」


 だが結局はマイナスを緩和しただけの行為なので、先生は少し呆れたようにため息をつきつつペンをコンと机の上に叩き言った。


「・・・そうですか。では続けてください」


 その言葉にハッとしたように浜中さんが背筋を伸ばし声を張る。


「あ、は、はいっ。分かりました」


 どうやら今の俺の寸劇で落ち着いてもらえたらしく、先ほどまであった焦りの色は薄くなっていた。

 そうして俺はまた離れ経過を見ていたが、教卓の訳文の表示された俺のスマホへと視線が泳ぎつつも、なんとか浜中さんは残りの発表を上手くやりきって終わる事ができていた。


「事前準備はしっかりするように。じゃあ来週の組は━━」


 そう言って俺らの発表が終わりを告げ、席へ戻ろうと浜中さんへと声を掛ける。


「お疲れ様」

「・・・助かった」


 余程ストレスがかかっていたのか、浜中さんは冷や汗を浮かべ心無しか肩を落としているように見えた。まぁ単位を落とされるような事は無いと思うから気にしすぎだとは思うんだけど、ミスをしたその直後だとそう簡単に立ち直れないよな。


 そんな同情をしつつもスマホを受け取った俺はその後の講義を受けきり、終了のチャイムと共に背筋を伸ばした。


「・・・・・っ」


 するとふと隣と視線が行くと、丁度あちらも俺を見たのか視線が合い固まってしまった。だが浜中さんはすぐに俺から顔を逸らすと言った。


「礼したいから4限終わったら時間貰えるか」


 そんなわざわざ礼儀正しい人だな。


「別に礼とか良いよ」

「させてくれ」


 まぁあまり拒絶するのは失礼か。でも今日買い物行かないといけないとか言ってたし、時間あんまり取らす訳に行かないか。


「じゃあ今から昼飯奢るとかじゃだめ?」

 

 だが俺のこの提案に対しても浜中さんはやけに歯切れ悪く、せわしなく前髪を触っていた。


「いや・・・今はちょっと・・・・汗が━━」


「?・・・・・なるほど?」


 あぁまぁ化粧直しとかあるんだろう、知らないけど。それに別に礼って言っても大したものじゃないだろうし、浜中さんの都合に合わせれば良いか。


「じゃあまた4限終わったら連絡するわ。またね」

「・・・・おう、また」


 そうして俺は講義室を後にして一人昼飯をしに食堂へと向かった。


(あ、てかなんのお礼するつもりなんだ?)


 やけに律儀な物だがわざわざ礼をすると言われるとどこか恥ずかしさを覚える。そんな事を思いながらも先週の渚の完成度の高いレジュメ片手に午後の講義を受けたのだった。


ーーーーー


 4限が終わり西日がオレンジ色になり始めた頃。俺は少し息を乱しながらキャンパス内を走っていた。


「お待たせしましたー・・・・・」


 集合場所に指定されたのは、大学敷地でも端っこの方の自販機とベンチだけがある所だった。どうやら俺よりも早く浜中さんは到着していたらしく壁にもたれ掛かりスマホを弄っていた。


「・・・・ん、じゃあいくか」

「え、行くってどこに?」


 俺に気付いたらしくどこか不機嫌そうにスマホから顔を上げた浜中さんは、雑にスマホをポケットにしまい歩き出してしまった。俺は縋るようにそれについて行くが、浜中さんは振り返ると口調を荒げた。


「飲みだよ飲み。今日母親が男連れてくるらしいから帰りたくねェんだ」

「え、あ、はぁ・・・」


 不機嫌なのはそれが原因か。だが俺はそれ以上は藪蛇だと感じ深く振れる事が出来ず、隣を歩き話を逸らす事にした。


「ちなみに元々なんのお礼をしてくれるつもりだったので?」

「・・・・まぁ飲み物ぐらい奢るつもりだったよ」

「じゃあ語学終わりでも良かったくない?」


 そう俺が言うと分かりやすくため息をつき、これぐらいも分からないのかと俺を呆れた目で見てきた。


「自販機たっけぇだろ。スーパーの2倍はするあれ買うのバカだろ」

「いやまぁそうだけどさ・・・」


 なら飲みに行くのは更なる無駄では無いのかと思ったが、今それを言ったらそれ以上に彼女を不機嫌にさせるのは火を見るよりも明らかだった。だから俺は時間も無くは無いからと黙ってその背を追いかけた。


 そうして少し歩くとこの辺の大学生なら良く行く格安の飲み放題屋の前で足が止まった。俺も何度か使った所がある店だ。


「ここにするか」

「案外浜中さんってこういう所来るんだね」

「お前一言多い」


 右足に浜中さんの足裏がぶつけられる。小突くと言うより蹴るに近い力で少しよろめいてしまった。正直浜中さんならおしゃれなバーとか行ってそうなイメージがあって、俺が意外に感じたのは事実だったのだが。


 そうして右足を抑えつつ、店に入るとまだ18時前な事もあってかすんなりと入れ、俺らはテーブル席へと腰を下ろした。


「半分は出してやるから。それで今日の貸しは無しな」


「・・・・いやいいよ。流石にそういう訳にはいかないから」


 普通にそれは格好が付かない。女の子に奢られるのは俺のちっぽけな男としてのプライドが許さない。

 でも浜中さんの感じなら意地でも奢ってきそうだなとか思っていたのだけど、テーブルのQRコードを読み込みながら言った。


「そか。じゃあ割り勘な」

「え、あ、はい」


 なんか・・・・こう・・・・・・まぁいいや。何を思ってもダサくなりそうだしここは黙ってアルコールを摂取しよう。


「何飲む?」

「あーじゃあレモンサワーで。浜中さんは?」

「んじゃ私も同じで良いや」


 ずっと浜中さんが色々つまみとかを注文してくれているけど、やっぱり不機嫌なままらしく間があればため息が漏れるし、心無しかカツカツとスマホのタップも力強い気がした。


(なんだっけか。女としての母親は嫌いだっけ)


 以前電話した時にそう言っていたのが印象に残っている。

 さっき男を連れ込んだって話だったし、余程不愉快な事なんだろう。そのついでに俺へのお礼を兼ねて飲みに誘ったって感じだろうか。


「あ、はや」


 まだ客入りが浅いだけあってか品が来るのが早い。お酒と一緒に数品きて俺はコップを持って固まっていたのだが、浜中さんはイメージ通り乾杯とかするタイプでは無いらしくすぐに喉を鳴らした。


「・・・・いただきまーす」


 空ぶったような感覚を覚えつつ俺もコップに口を付ける。が、俺はそこまで酒が好きではない。なんかこう裏にアルコール消毒の風味を感じてどうも楽しめない。だから付き合い程度にいつも飲むのだが・・・。


「まっじでな。いつまで女やってんだよあいつは。私の事考えろっての」


 俺が1杯飲む間に2杯3杯飲む浜中さんは、20分も経てば段々と饒舌になり流れるように愚痴を零していた。


「そりゃ奨学金とはいえ大学に行かせてくれたのは感謝してるんだけどさ。親の性の部分なんて気持ち悪りぃんだよ」

「あーね・・・・うん、確かに」


 正直重い。そこまで関係性の無い相手の家庭事情の愚痴は流石に反応しずらい。まぁそれでも浜中さんは話を聞いてくれれば良いっぽいから、俺の反応でも良いんだろうけど。


「んで早く彼氏作りなよーってさ。2年付き合った彼氏が友達に取られて1週間後にそれ言うってさ。頭どうかしてんじゃねェかよ」


「それは・・・・ちょっと、うん。デリカシー無いね」


 なんか似た話どっかで聞いた気がするけど誰の話だっけか。

 そう俺が思い出す前に浜中さんが、いつの間にか頼んでいたビールを飲み干し食い気味に俺に言った。


「そうなんだよ!デリカシーがないんだよ!!ほんっとにいつも適当だし、そんで私が家計も管理しなきゃだし・・・・・」


 浜中さんの止まらない愚痴と段々回り出したアルコールで、頭にモヤがかかり思い出す事を諦め、うんうんと頷きながら冷トマトを口に運ぶ。


「まぁそれでも嫌いじゃないんでしょ?」

「・・・・ん、まぁ・・・・そうだけどさ」


 歯切れが悪い。まぁ嫌いな所もあれば好きな所があるのなんて当たり前だしそりゃそうか。

 そんな事を思いつつも俺は酒のせいか口が動き出した。


「一回話してみたら?俺がとやかく言うのもあれかもしれないけど」


 なんで自分から人様の家庭に首を突っ込んでいるのだろうか。


「・・言った所でだろ」


 少しだけ寂しそうにそう呟き浜中さんは目を細め頬杖を突いた。そんな彼女に俺の口は動き続ける。


「・・・・・まぁそうかもしれないけどね」


 でも親がいつまでもいるとは思っちゃいけない。言い出せなかった言葉が行き先を失って、ずっと喉の奥に引っ掛かる事だってあるんだから。


「でも一度話すべきだとは思うよ。それで聞いてくれなかったら一発殴るぐらいしたらスッキリするんじゃない?」


 昔の自分に言ってやりたい、そう少し心がチクりと痛む。

 だがもう今更思い出してもどうしようも出来ないのだから、その思い出ごとアルコールで流しこむ。


「それに家は帰りたい場所であるべきだから」


「・・・・・・」


 浜中さんはただ黙ってコップに口を付ける。リップの色が少しだけ移って、その先に浜中さんの何か考えるような顔がコップ越しに見える。


「・・・・・なんか実感のある言い方だな」

「そうかな?」


 ここで身の上話をしても仕方ない。それに今悩んでいるのは浜中さんなのだから、もう終わった俺の事はどうでも良い。


「そんなに話聞いてくれない人なの?お母さんって」

「・・・・知らね」


 そう浜中さんは少し機嫌が悪そうに零し舌打ちをすると、コップを空にしスマホから更に追加で注文をしていた。


「んでこんなまずいんだよ・・・」


 カツカツといら立ちを示すように浜中さんはスマホを強く押す。

 これ以上はただ不愉快なだけだろうか。過去の罪悪感から逃れるために、俺が余計な事を言ってしまったせいか。


「・・・っぱダメだな」

「あ?何?」

「ん?あっいや俺もなんか頼んで良い?」


 すると顎で早く選べと催促されたので適当にメニュー表を指差し注文する。

 まぁせっかく飲んでいるんだし暗い話とか説教ばかりじゃダメか。それに俺からのアドバイスなんて求めていないんだろうしと、俺は考えを改め別の話題に切り替えようと思案する。


「あっそういやいつもスーパーってどこ使ってんの?俺の地域ちょい高めのスーパーばっかで格安スーパー遠いんだよね」


 まぁそのお陰かバイト先のスーパーは時給も高いから一長一短なのだが。

 そんな俺の話題に対して浜中さんは、スマホを机に置き少し迷うように考えた後言った。


「あー・・・・・私も似たようなモンだな。土日とかは格安スーパー行くけど平日はな」

「ってことは割と近場に住んでるのかもね~」


 店員さんから注文した酒と品を受け取りつつそう返事する。だがこの話題はあまりしたくないのか、浜中さんは少し気まずそうに。


「━━ッ・・・まぁ、そだな」


 私はそう零しつつ内心「やっぱりか」そう気分を落とす。

 フードを被っていたとはいえそんなに分からない物なのかよ。まぁ確かにあの時は見えずらかったかもしれないが、声とかで普通気付くものだろうに。


「ん?どした?」

「なんでもない」


 まぁあの時はこいつが自分で他人同士でこれきりって言ってたんだし、もしかしたら私の事を想って忘れようとしてくれてるのかもしれないな。


「じゃあとりあえず日本酒頼むからお前吞めよ」


 でもだからって不快な物は不快だ。そう私はスマホをタップし注文を追加する。


「え?あ?は?いや今から!?もう割と吞んでるんですけど・・・・」

「知らねぇ~よ。男だろ」

「んな昭和な・・・・」


 思い出さないお前が悪いんだ。あの時は顔まともに合わせて無いとは言え、これだけヒント出して気付かないならお前が悪い。


「・・・・じゃあ浜中さんも呑んでよ」

「私にゃ罰ゲームにならないけど?」

「顔赤いのにその自信はどこから来るんですかね・・・・」

「うっせ」

 

 だけどまぁ今は少しだけ酒が旨い。やっぱ親の話なんてするものじゃないな。

 そうして私達は時間いっぱいまで飲み続けたのだった。


ーーーーー


「二件目行くぞぉぉーー・・・・・」

「もう飲めないでしょ。帰りますよ」


 飲み屋で呑んで大体20時になった頃。酒を飲んで火照ったとは言え肌寒い。それにあれだけ飛ばして呑んでいただけあってか浜中さんの足取りはまさに千鳥足と言った感じで、俺の肩にほとんどの体重をかけていた。


「まだあいついるだろっての・・・」

「でもそれじゃ潰れますって」

「んじゃお前ん家で飲めばいいだろ。一人暮らしなんだろ?」

「いやぁ・・・それは」


 この状態の子を連れ込む訳にいかないし、そもそも渚がいる時点でややこしくなるのは目に見えてる。

 でもこの状態の浜中さん帰すにも家知らないし、タクシーとなると俺の財布が心もとなさすぎる。


「どーせ家近いんだろ?別にいいだろうがよ」

「・・・・・え?なんで?」


 なんで俺の家知ってんだ。いやまぁ特定した言い方じゃないから大方の地域を知っているだけって感じでもあるが、それにしてもなんでそれを知ってるんだ。


 そう少し酔いが覚めるというか肝の冷える事もあったが、とりあえず駅の方へと歩いていると俺の家の近くの公園へと差し掛かった。


「一回ここで休みましょう。流石にこの状態で帰せませんから」

「んあ?だから言ってんだろ・・・・」


 酒に酔った人って思った以上に扱いずらいし、失礼だが全体重がかかってくるせいか重い。そんな事を思いながら公園の木製ベンチに浜中さんを座らせる。


(割とこの人酒に吞まれるタイプだな)


 そして体が冷えるとあれかと思い自分のダウンを浜中さんの肩に掛ける。


「水買ってくるんで大人しくしててください」

「うるせェなぁ・・・・酔ってねぇっての」

「はいはい」


 この状態で一人にするのは怖いがまぁ人気も無いし、そこまで自販機からも距離は無いし大丈夫だろう。


「流石に寒いな」


 そうして俺が背を向けた5分程の間。こういう時に限ってタイミングの悪い事が起こるのが常らしい、そう俺は感じる事になったのだった。



 



 

 

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