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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第四章
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第五十七話 心願成就


 港湾付近の倉庫群。真新しく綺麗なそれもあれば、潮風に晒されかなり年季の入った赤茶に錆びたものもある。

 

 そして未だ使われているがかなりガタの来ている倉庫の中、私はその時間を待っていた。


「……堤君は」


「返事もありませんし、ここに来ているのかも」


 ここには私の持つアンドロイドすべてが揃っている。中央に私と太郎、そして入り口を囲むように他4体を資材の裏に構えさせている。


「あと5分」


 昼過ぎ。海から吹く風が倉庫を揺らし、磯の香りが強くなる。

 正直今回の作戦だって殆ど賭けに近い。これ以上時間をかければかける程、警察があちらにいる以上不利になるから動かざる負えなかった。


 だがそもそもこっちの方がアンドロイドの戦闘力は高いし、地の利もこちらにある。賭けの要素が強いこの作戦も戦闘で負けた時の保険でしかないし、最初の戦闘で結果が出ればそれでいい。


「来ました」


 太郎がそう呟くと、閉じられていた大型扉が擦れる音をさせながら外の光を差し込ませる。


「時間ぴったりなんだな。流石アンドロイド」


 久々に見たその顔。私がアンドロイドを破壊すべきだとそう決意させた存在。そして今も堤君を苦しませる諸悪の根源。


 それが人の力ではありえない事を、1体の力で戸は開かれ6つの影が倉庫に入ってくる。


「殺人鬼にしては律儀なんだな。これまでみたいに下水道でコソコソしてれば良い物を」


 やはり仲間に堤君の所にいたアンドロイドが2体いる。所有者の人間はいないようだが、流石に足手まといだと判断したのだろう。


 するとその渚は辺りを見渡しながら言う。互いにジャミングをしあってるから、こちらのアンドロイドの位置を把握しきれないのだろう。


「で、岳人さんは」


 距離は20m弱だろうか。それなりに距離は開いているが、作戦はまだ動いている。


「さぁ。どこにいるんだろうな」


「やっぱり嘘か」


「そう思うならご勝手に」


 堤君がどこかにいるかもしれない。その事実だけが大事。その可能性を排除しきれない限り、渚は警察を無理に介入させれないし、滅茶苦茶な破壊を行えない。本音はこの場にいてくれたら脅しとかにも使えたが、いないならいないでも利用するしかない。


「つくづく気に食わない女」


「機械に嫌われる日が来るとは思わなかったよ」


 こちらが優位だと、あえてここに誘い込んでいると警戒させる。そして警戒し動けないまま時間が経過すればするほど、こちらの作戦が成功しやすくなる。


 そして渚は舌打ちを零しつつ、腰に手を当て私を見下ろすように問いかけてくる。


「で、なんで呼び出した。行儀よくお話合いする為じゃないだろ」


「野蛮だな。私は話し合いのつもりだったんだけど」


 やはりすぐに手を出して来ない辺り、警戒はしてくれているらしい。それこそ渚の視界では、私と太郎しか見えておらず、他アンドロイド5体が不明な以上動けないらしい。


「要件があるならさっさと言えよ。言っておくが追い詰められてるのはお前なんだからな」


「警察をここに呼ぶつもり?」


 太郎にはずっと警察無線を盗聴させている。だから今すぐに警察がここに突入なんてことにはなり得ないはず。


 だがそれでも自信ありげに渚は言い返してくる。


「別にそうしても良いんだが」


「なら堤君も道連れですね」


「その時は私が一緒に逃避行するだけ」


 ここまで堤君に執着しているってことは余計に、この場に堤君がいないのが惜しまれる。

 だがもう少し時間を稼ぎたかったが、これ以上は保険の作戦が怪しまれるかもしれないか。それにこの様子だと本当に警察を待機させている可能性も捨てきれない、だから行動を始める。


「先に聞く。そこで大人しく自壊してくれない?」


「やるきなら早く言えば良い物を」


 渚の姿勢が低くなり私を強く睨む。私に小細工をさせずに、初動で私を殺しきるつもりなのだろう。だがそれよりもは早くこっちのアンドロイドで囲んで潰せばいい。


 そう私が思い瞬きをする間に、想定以上の速度で渚は動く。


「死ね」


 コンクリートの地面が割れる程の衝撃。それを人間である私は知覚しきれなく、すぐそこまで迫ろうとする渚を捉えれない。恐らく次瞬きをすれば私の腹には穴が開くのだろう。そんな直感だけで一歩引き天井を見上げる。

 

 そこには今にも落ちそうになっている鉄骨があり、その先端が地面に向かって突き刺さろうとしていた。


「ッチ、こんな物で止められるとでもッ」


 天井から音を立て落ちてくるの鉄骨。丁度私の正面に落ちてくるよう仕掛けられていたそれは、寸での所で身をひるがえした渚に避けられる。


「偉そうにしといてこんな物かよ」


 態勢が崩れつつも避け切った渚が私を睨む。だがこれで決め切れるとは思っているはずも無く。


「な訳無いだろックソスクラップ!!」


 私は太郎に抱えられその背に守られる。そして渚がその鉄骨を跨ごうとした瞬間、激しい爆裂音と爆風が辺りに突き刺さり、窓は割れガラスの破片が辺りに飛び散る。


「これで行けたら良んだけど……」


 保険の作戦から目をそらすための物理的な仕掛け。今回みたいに私を初動で狙ってきた時の為の非常装置。これで成功したら儲けものの感覚だったが。そう思いつつ、衝撃から守る様に閉じた目を開け太郎の腕から解放されると、私は渚のいたはずの方向へと視線を向ける。


 形容の出来ない気持ち悪い匂いが漂い、煙が視界を奪う。だがその煙が揺れたと思うと、何かがあったと感じる前に太郎の腕が私の体を掴み走り出す。


「失敗です。引きますよ」


 煙の中からは片腕だけただれ溶けた渚が突っ込んでくる。そしてそれに続いて他全ての渚側の5体のアンドロイドが追いかけてくる。


「また逃げ隠れすんのか?」


 そう煽ってくる渚の後ろでは、既に私の手持ちのアンドロイドが動き遅れながらも、なんとか追いかけている。この倉庫内で渚を囲むように待機させていたが、配置が裏目に出てこれでは実質的にアンドロイドは1対6だ。


「こっちのアンドロイドの配置はお見通しか……」


 初撃で破壊出来なくても半包囲の形で配置したこっちのアンドロイドで袋叩きにするつもりだった。だが爆発が起きても、渚が捨て身で正面突破をしてくるとは想定していなかったせいで数的に不利になってしまっている。


 でもそんな反省会をする暇もなく、太郎は私を抱え飛び回る。


「舌噛まないでくださいよッ」


 太郎がそう呼びかけ資材の上を飛び、割れた窓から外へと逃げ出す。

 窓から外に出ると風を感じ、地面を見れば高さで言うとビル4階ぐらいだろうか。その距離から太郎は自然落下をしアスファルトの地面へと、衝撃を受けつつ降りる。


(だがまだ作戦は生きている)


 それにはもう少し時間がかかる。爆発と会話で時間を稼いだとは言え、もう少しだけ時間が必要。だから手持ちのアンドロイドで私らを追う渚らを足止めさせるが。


「アンドロイド1体破壊されました」


 倉庫群の間を私を抱え太郎が淡々とそう報告しながら走る。そしてそれを追う渚とその他4体。恐らく1体は先回りでもしようとしているのだろうが、その1体はエムブラの管理外のアンドロイドだからどうでも良いか。


(そのまま固まっていてくれよ……)


 そう私が願うしかない中でも太郎は淡々と。


「またもう2体破壊されました。あと3体です」


 戦闘用のアンドロイドのはずだが、淡々と破壊されていく私のアンドロイドら。エムブラと太郎さえ残っていれば作戦は生きるが、ここまで性能差があるとは思わなかった。


「やはり先回りしていたようですね」


 向かいの通路の先から渚側のアンドロイドが姿を現す。一本道の通路で前方はそのアンドロイド、後方も渚に塞がれている。正面は1体だから突破は出来るだろうが、少しでも足を止めれば挟みうちにあってしまう。


 そう思っているとまた視界が揺れ、それは気付けば建物内に移りどうやら足音が響く事から、太郎が咄嗟に近場の倉庫へと逃げ込んだらしかった。


「また1体破壊されました。ですが目標の管理外になった3体の内2体は破壊できました」


 口ぶりからしてエムブラは残っていたらしいことは分かった。

 そう作戦がまだ生きている事に安堵しつつ、周囲の様子を探れば真新しい倉庫に積まれた資材に数人の作業員の姿が見える。咄嗟とは言え巻き込むことに申し訳なく感じるが、その作業員の一人が私らの元に歩み寄ってくる。


「ちょっと兄ちゃんら何してんの。こんな所で」


 太郎に向けて話しかける安全ヘルメットをかぶる作業員。不審者への対応というより、突然現れた私らに驚きが勝って少し怯えているのだろう。


 そう思いつつ私は自分の足で立ち説明しようと、口を開こうとするが背後から扉が乱暴に吹き飛ばされ風が入り込んでくる。


「下水道と言い倉庫と言いネズミですか」


 未だ片腕は治ってないままが渚と、その仲間の3体のアンドロイドが入ってくる。だが外見だけ見れば人間なそれらに、また変なのが来たと言いたげに作業員が声を荒げる。


「子供の遊び場じゃないんだよ。警察呼ぶ━━」


 そう言いかけた所で発砲音が響き渡り、安全ヘルメットが地面へと音を立て落ちる。だが血が流れることは無く、作業員は息をしたまま尻餅をつき渚を見上げていた。


「邪魔。今すぐ出て行くなら殺さないですけど」


 そんな渚の言葉に焦ったようにもつれながらも逃げ出す作業員。それにつられて他の作業員も逃げていく。私にとっても下手に巻き込みたくは無いから助かる。


 だが渚の行動には少しだけ驚いていた。


「殺さないんだな」


「貴方と違って野蛮じゃないので」


 だがそれと同時に渚が拳銃を扱えているのに驚いていた。治安維持用や軍用のアンドロイドでないと扱えないよう制限されているはず、そしてエムブラによると渚を含めあちら側のアンドロイドにはその類の用途のものはいないとの話。なのに渚を含めた4体とも拳銃を手にしている。


「あぁ、これです?」


 煙の上がる銃口を持ち上げ少し笑う渚。私の疑問に気づき、そしてこの圧倒的に自身に有利な状況を把握しているのか、悠長に語り出す。


「崩壊後のアンドロイドは私だけですからね。リンクさせれば戦闘関連の制限は撤廃させれますから。気持ち悪いのでもう外しますけど」


 アンドロイドの質では勝っていたはずなのに、こっちが4体破壊されたのに2体しか破壊出来なかったのはそれが理由だったのか。正直銃声には気づかなかったが、そんな無理やりな手段を取っているとは思わなかった。


「で、どうするんです?もうお仲間はいないですけど」


「さぁ。まだ何かあるかもしれない」


 一定間隔で天井にぶら下がったライトが少しだけ眩しい。あとは一旦離脱させれたエムブラが戻るのを待つだけ。


 心拍が早くなるのを感じつつ、私は渚と向かい合い睨む。距離で言うと10mも無いだろうがそれでも渚のリーチに入っていると思っていいだろう。


「エムブラに期待してんのか?でもあれは権限があるだけで性能的には骨董品だぞ」


 一歩また一歩距離を詰めてくる。太郎もそれなりに戦えるがこの数的劣勢だと、どうしても無理があるし私がいればなお戦いずらいだろう。


「あ、因みに私は貴方を殺しますから。司法に裁かれるなんて甘い事考えて無いですよね?」


「……元々そんなつもりない」


 形成優位だと分かれば随分お喋りになるアンドロイド。さっきまで私との会話を拒否した癖に、相変わらず調子のいい腹の立つ奴。


 そして渚と私の距離が5mを切った頃。やっとエムブラが開け放たれた扉から現れる。


「あ、骨董品が今更かよ。てっきり逃げたのかと」


「……」


 黙ってこちらに歩み寄ってくるエムブラ。そしてそれを見てため息を零す渚。


「飼いならされちゃってまぁ。情けない」

 

 未だにエムブラが現れたとはいえ2対4。数的劣勢は変わらないがエムブラが現れたという事は、保険の作戦が成功したと見て良さそうだった。


 そして沈黙を貫くエムブラに、少し不機嫌そうに眉を顰め渚は問い詰める。


「なんか言ったらどうなんだよ」


 するとやっとエムブラが口を開く。


「私の管理対象は2体ですか」


「あ?だからなんだよ」


 作戦上渚に管理外だったアンドロイドの3体。これらはどうしようも出来ないが、堤君の仲間だった2体はエムブラの管理下にあったアンドロイドには綻びがあった。そこにエムブラの管理者としての権限と太郎のハッキング能力があればこそ、時間はかかったが出来る事。


「管理者権限に従い、初期化後に契約更新が行われなかった為、所有権を亀田巧及び高垣詩織から個体名エムブラに移譲」


「急に何を言うかと思えば、初期化した所で私の方が早く再契約すれば……」


 そう言いながら何かに気付いたのか私へと視線を向ける渚。


「だからお前か」


 今渚自身が違和感を抱いたのだろう。エムブラを見て納得したのか固まる渚。だがこの反応で既にこちらの作戦が成功しているのだと確信させていた。


 エムブラが手に入った利点。それは太郎の本来の用途を知れた事だった。

 それはホテルでエムブラから話を聞き出していた時の事。


「諜報用?」


「そうです。だから戦闘面での性能も高く、他アンドロイドをハッキングして初期化したり出来ていたんです」


 どうやらエムブラや渚の例外を除きすべてのアンドロイドは、過去に来る際にメモリーをリセットされていたらしい。だから情報の無かった太郎は、アンドロイドの初期化を他の個体でも出来ると思い込んでいたらしいが、実際は太郎の様なタイプにしか出来ない事らしかった。


「でも初期化って言っても時間かかるよな?」


「えぇ型によりますがおおよそ10分は必要ですし、距離も20m前後を保たないと遠隔では不可能です。それに渚の様な私より最新型の場合は殆ど不可能ですね」


 なら渚を一方的に抑えるのは不可能か。それに出来たとしても10分もかかるとなれば、向かいあってそれをするのは難易度が高い。それより早く戦闘が終結する可能性の方が高い。


「けど、渚以外なら初期化出来るって事?」


「恐らく。ですがした所で、すぐに渚に再度所有契約をされて終わりでしょうね。私が初期化出来るのを知っている以上警戒もしているでしょうし」


 光明が見えたかと思えば、結局やっても無駄という事実。まぁそんなに現実は甘くないのか、そう思いまた違う作戦を考えようとするが、そこでエムブラが口を挟む。


「ですが私なら管理者権限で、割り込みで優先して所有契約を結べます」


 つまり太郎が初期化したのち、そしてエムブラが渚よりも早く所有者になれるという事らしい。


「なら上手く行けば渚以外のアンドロイドを寝返れさせれるのか」


 そう私が呟くが、それに首を振るのがエムブラだった。


「渚陣営のアンドロイドの内3体は私と連絡を絶っていた個体です。その3体は管理者権限が通用しないと思った方が良いでしょうね」


 という事は2体が私らに寝返らせれる可能性がある。つまり6対6か8対4になるということなら、どちらにせよやる価値は大いにあるように感じる。


「じゃあ堤君の所にいた2体しか裏切らないってことだな?」


「そうですね。それも可能性があるというだけの話ですが」


 色々と制約はあった。

 バレないように太郎の20m圏内に10分以上渚側の目標の2体のアンドロイドを存在させる。そして状況をより良くするため、裏切らせれない管理外のアンドロイド3体を優先して破壊する。それだけやってあとはエムブラが出来るかどうかの運。


 だからこれはあくまで戦闘に負けた時に数的劣勢を覆すための保険の作戦だった。そもそも私は戦闘での勝算があると踏んでいたから。結果は負けだったからこの作戦が生きてくれた。


 そしてその作戦は私に運はあったらしくそれは成功していた。今現在アンドロイドの数では4対2で形勢はまた逆転して、その渚ともう一体のアンドロイドを囲んでいた。


「どこまでも私の足を引っ張るんですね」


 渚がエムブラへと視線を向ける。今の状況が理解出来たらしいが、私は渚とは違い時間を与えるつもりは無い。


「やれ」


 4体のアンドロイドが四方から渚らを囲み襲い掛かる。私は念のために距離を取るが、渚が性能的に勝っているとはいえ、やはり戦況は着実に私達は優位になりつつあった。


「何も起こるなよ……」


 先頭のさなか渚側の1体のアンドロイドが太郎に胸を貫かれ動かなくなる。その間私が裏切らせた高垣の物だったアンドロイドが渚に破壊されるが、それでも既に3対1で負ける道理もない。


「門浪千春ッッ!!!」


 だがこのまま一方的に終わる渚でも無かった。

 その叫びと共に鈍く響くような音が続く中、私へと渚が拳銃を向けようとする。だがその伸ばした腕は太郎に切断され、銃を持ったまま手が地面へと落ちる。


「━━ッ」

 

 既に渚は顔の半分が欠け体のあちこちの肌色のシリコンの下にある部品が露出していた。そんな自身の状況に驚愕でもしているのか、ひどく顔が歪み動きが鈍くなる。


 そして止めとエムブラの拳が渚の頭部に当たり、やっと渚が膝をつく。そのタイミングで私は止めの合図を出す。


「ちょっと待って。まだこいつにやって貰わないといけないことがある」


「……壊れかけとは言え危険ですよ」


「守ってくれるんでしょ?」


 心配する太郎をよそに私はスクラップという言葉がお似合いなほど、ボロボロになった渚へと近づく。

 この光景を見るためにどれだけの時間と命がかかったか。

 

「やっとアンドロイドらしくなったな。化けの皮がはがれたってのはこういう時の為の言葉なのかもな」


「……どこまでも癪に障る奴」


 片目は眼球だけのパーツだけで私を見上げる。青白い電流が漏れ出たように辺りに霧散するが、この光景を相野さんにも見せたかった。


「相野さんの無実を証明しろ。出来んだろ」


 すると私の言葉の何が可笑しいのか、渚は鼻で笑う。


「殺人犯に無実も何もないでしょう。あぁ、そういえばもうすぐ公判でしたっけ?」


 どこまでも私を煽りたいらしい。


「お前はそういう奴だと思ったよ」


 太郎へと視線をやる。協力するなんて鼻から思っていなかったが、念のため聞くだけ無駄だった。だから太郎に止めを刺してもらう。


「じゃあ距離を開けてください。危ないので」

 

 私はその言葉に従い足を引こうとするが、その瞬間渚が立ち上がり残った左手が眼前へと迫ってくる。


「悪あがきかよ」


 そう私が零すと、すぐに太郎の体が間へと入って来て、それはあっさりと防がれる。はずだったが、もとより私を傷つけるのは目的じゃなかったのか、歪な走り方ながら方向を変えエムブラを躱し倉庫の外へと逃げ出す。


「アンドロイドでも死にたくないんだな」


 そんな渚が滑稽に見えた。ただの機械が自身の存続の為に逃げ切れるはずも無いのに、こうやって背を向け情けなくはしる姿に。


「私が追うので、エムブラとメイに護衛されておいてください。まだ何があるか分からないので」


「ん、任せた」


 太郎が渚を追う様にして走り去っていく。さっきの抵抗を見るにまた下手に私が近付いて殺されて、逆転ってのが一番まずい。だから私は仕方なくこの倉庫で渚の残骸を太郎が持ってくるのを待つ。


「あ、パトカーのサイレン」


「通報されたのでしょうね。まだ時間的猶予はありますが、逃走用の経路を算出しておきます」


 作戦がことごとく上手く行った。渚が油断していたのかもしれないが、初動の戦闘で勝てなかったのは想定外だが、保険の作戦が怖いぐらいこっちに都合が良く進んだ。あとは相野さんの無実を証明して、私は私の人生を終わらせればいい。それですべて解決する。


 だがそう思っても全て上手く行くときは、どこか見落としがあるのではと不安になる気持ちもある。

 けどさっきの渚の惨状を思い出してそれは無いと振り払い、私は地面に落ちた渚の一部だったパーツを蹴り飛ばした。


「……やっと終われる」


 カランカランと部品が転がり、排水溝へと転がり落ちていった。










 


 




 

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