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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第四章
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第五十四話 アンドロイドの境界


 駅から外に出て少し歩き出した頃。この辺りは街の中心から離れたベットタウンなだけあってか、似たような風景が続いていた。


 殆どコンクリートで固められた川の上に架かる橋を渡る。陽も大分落ち辺りは静かになりつつある。


「こういう所初めてくるんだよな。俺田舎にずっといたし」


「この先40年は住宅価格の上昇が続くので、早めに買った方が良いですよ」


「へぇ~」


 アンドロイドであるエムブラとなんとなく会話を交わす。

 俺らが追っている吉岡さんはおおよそ1キロ先を歩いているらしいが、知らない内に大分距離を詰めたって事か・


 すると穏やかだった雰囲気が一転、エムブラは険しい目つきと共に立ち止まる。


「……悪い予感の話。当たったようです」


「千春さんか……?」


 このタイミングでその話。違っててくれ、そう思っての確認の言葉だったが、やはりエムブラはそれに頷いてしまう。


「既に所有者を抑えられたので間に合いません」


「間に合わないって言ったって、放置は出来ないだろ」


「今から助けに行っても、逆にこちらが危なくなる可能性の方が大きいですよ」


 エムブラが察知できずに気付いた時にはもう抑えられていたって事は、殆ど奇襲で先手を取られて制圧されたという事。アンドロイドはこっちにもいたはずだけど、向こうの方が上手だったって事か。


「どうにかできないのか」


「最善はこのまま様子を見る事です。あの二人が抵抗さえしなければ殺されはしないでしょうし」


「……でも吉岡さんも高垣さんもアンドロイドを手放すとは考えずらいぞ」


 助けに行くべき。というかこの為に俺らはここまで付いて来たのだから、動かなければ意味がない。けどエムブラの言う通り下手に行動するリスクもある。


(だが見捨てる選択肢は無い)


 そう俺が思考を回す中、エムブラが一歩前に出る。


「でもどうせ貴方は助けに行きたがるんでしょう?」


「良く分かってるじゃん。作戦ある?」


「いきなり他力本願ですか」


「人間よりアンドロイドの方が計画立案上手いに決まってるだろ」


 俺だって自分で何か考えたいが、所詮人間。機械よりいい案が出せると思えるほど自分に対して自信は持ち合わせていない。


 そう思いつつも何か無いか考える俺だったが、それより早くエムブラが発言する。


「現有戦力が私とアイ、それに現場にいる護衛の2体。上手い具合に人質を解放できれば、人質の所有アンドロイド含めて、こちらのアンドロイドの総数は6体です」


 それだけ聞くと1体しかアンドロイドのいない千春さんには勝てるように聞こえてしまう。もちろん人質を取られている事実を無視すればだが。


 だけどそれよりも事態は難しいらしくエムブラは。


「ですがあちらも5体アンドロイドがいるようです」


「じゃあ上振れて互角ってことか」

 

 どうやらいつの間にか千春さんもアンドロイドを集めていたらしい。所有者を殺していただけじゃなくて、仲間にもしていたのか。


「そうです。つまり勝算は多く見積もっても5割にもとどきません」


 ここは住宅街。大きな戦闘が起これば被害も増えるし、通報されて警察だってすぐ来る。色々制限が多くなってくるのか。


 そんな事実にさらに手詰まり感を認識し始めていると、エムブラは、だけど、そう前置きして言う。


「やるしかないんです。こっちも奇襲で本丸の門浪千春を抑えれば勝機はあります」


「……お前変わったな」


「少しは貴方の役に立ってみたくなっただけです」


「気まぐれってことか」


「そうです。なので気が変わらない内に始めますよ。時間的猶予もあまりありませんし」


 頼もしい様な怖い様な。

 自分の感覚が分からなくなりつつも、俺とエムブラは走り出す。どうやらアイは別から動いて挟むつもりらしい。で、俺はしょっぱな前に出て千春さんの気を引く係、つまり囮ってことらしい。まぁ人間に出来る精一杯だろう。


 するとまだ何か言い残したのか走りつつエムブラは俺に提案をしてくる。


「あと一つやっておきたい事があります」


 そうエムブラが提案してきたことを俺は迷いつつも受けた。不信も困惑も無かったとは言えないが、俺は今日のエムブラを信用することにした。


 そしてその提案が終わった頃俺らは現場近くまで到着していた。

 

「じゃあ堤さんが気を引いて。私は別から狙います」


「おう、無理すんなよ」


「それは人である貴方に、私がかける言葉です」


 そうして別れ角を曲がれば、道端に立つ複数の影が見え。それが高垣さんと他3つの影がアンドロイドだと分かる。確か家の玄関で千春さんが吉岡さんを抑えているって話だったか。


「堤さんッ!!」


 俺に気付いたのか高垣さんが声を張り上げる。見覚えの無いアンドロイドに抑えられているけど、まだ危害を加えられている訳では無いらしい。


 そして俺も荒れた息を整えながらその現場に近づけば、報告通り玄関の奥で千春さんが吉岡さんにナイフを突きつけていた。


「次会ったら殺すって言ったはずだけど」


「さぁ。覚えてないわ」


 なぜか少しだけ悲しそうな顔をする千春さん。高垣さんも吉岡さんも抑えられ簡単に動けない以上、余計に難易度は上がったまま高止まりか。あの二人のアンドロイドも所有者を抑えられたら動けないし、アンドロイドの戦力差は4対5。


 だが千春さんの5体の内まだ1体しか視界に居ないし、まだエムブラの仲間のアンドロイドは健在らしいから、そこはプラスポイントか。


(まぁ高垣さんはアイがなんとかするんだろう)


 俺はそう状況を認識しつつ、今は自分の責務を果たそうと吉岡さんの家の玄関へと近づく。


「太郎。任せるよ」


「えぇ。ではそちらは頼みますよ」


 ガタイの良い太郎と呼ばれた男が千春さんの前に出る。恐らく千春さんのアンドロイドとは、彼なのだろう。


 手元に武器がある様には見えないが、力からして違うアンドロイドとなれば一発でも殴られれば危ない。そう俺は警戒しつつ、玄関の外で立ち止まりその太郎と呼ばれたアンドロイドを見上げる。


「君は人を殺せるアンドロイドなんだね」


「……」


 人感センサーが反応したのかLEDライトが頭上に灯り、アンドロイドには影がかかっていた。多分このアンドロイドが手を伸ばし俺の頭を潰そうとすれば出来るのだろう。


「けど君も殺したい訳じゃないんだろ?」


「……」


 エムブラはまだか。そう逸る気持ちを抑え、俺に何かあるのかと思わせるように余裕な素振りを見せる。だからたとえ俺の命が目の前のアンドロイドに握られているといえ、俺は一歩も引く訳にはいかない。


「アンドロイドってのは、人類社会の繁栄の一助になり豊かな生活を支えるんでしょ?そんな手で何人を殺して来たんだ?」


「……それを言えば貴方のアンドロイドも人を殺していたじゃないですか」


 やっと口を開くアンドロイド。やはり会話自体を拒む訳じゃないのか、それとも今俺に手を出せない理由があるのか。どちらにせよ俺はその状況を利用させてもらう。


「だから俺は渚の所有権を破棄した。それだけだ」


「危険な暴走ロボットを放棄する事は、罪を償ったとは言えませんが」


「仮にそうだったとしても、今お前がやっている事は認められないけどな」


 まだこない。エムブラは何をしているんだと、そろそろ俺の緊張がピークに達しそうになった頃。やっと動き出したらしく俺の背中側から、何かが倒れる音がする。


「……よし、これでッ」


 高垣さんを抑えていたアンドロイドの頭にアイが膝蹴りを入れていた。それを見てどうやら奇襲は成功したらしい、そう俺は千春さんらへと向かい直そうとするが、その視線を戻した瞬間俺の頭上には拳があった。


「……やりたくは無いですが。そちらがその気なら」


 拳が俺の顔面へと迫ろうとしている。けどその太郎の向こうでは窓を突き破り、千春さんへと襲い掛かろうとするエムブラの姿が見える。恐らくアイで気を引いてその隙に千春さんやる計画なのだろう。


(俺はどこまでも囮か)


 自分で受け入れたとはいえここで死ぬのか。そう思い瞼を閉じようとするが、その寸前エムブラと目があってしまう。


 多分それが行けなかったんだろう。ここは俺を見捨て千春さんを抑えるべきなのに、飛び込んできたエムブラは一瞬迷う素振りをしたのち、地面を踏みしめ太郎のがら空きの背中へと向かう。


「……刺し違え覚悟だったのは千春様だけでしたか」


 そう呟き太郎はその拳を翻して、体を捻り後ろに迫るエムブラへと向ける。そしてその拳は丁度迫っていたエムブラの頭へと向かい、鈍い音を響かせ床へとその頭をめりこませる。


 だがそれではまだ壊れていないのか、ノイズが混じり壊れたラジオの様な声でエムブラが叫ぶ。


「逃げてくださいッ!!逃亡の手筈は出来ています!!」


 だがその叫び声が聞こえない太郎ではないから、エムブラの頭を押さえつけたまま俺へとその目線を向けてくる。


「逃げるのか」


 ジッと俺を見てくる。こうなってしまった以上逃げるべきなのは分かっているのに、恐怖からか足が動かない。そんな中背後から激しい足音が聞こえてくるが、それ以上に擦れながらもそのエムブラの声が聞こえる。


「堤さんッ!!お願いですッ!!!」


 一歩前へ出てエムブラから太郎を引き離そうとする俺に向かってエムブラが必死に叫ぶ。それで俺は手をピクリと止め、そのエムブラの顔を見る。


「……信じるからな」


 その返答の代わりに返ってきたエムブラの銀色の瞳を俺は信じることにした。これが成功するのかは分からないけど、俺に迫りつつあった太郎の手を認識しながらも両手を上げる。


「エムブラの所有権を……門浪千春に移す。これで良いんだろ」


 太郎の奥にいる千春さんへと俺は語り掛ける。すると千春さんは少し驚いた表情をしつつも微笑む。


「やっと諦めたんだね」


 レンズ越しに心底安心したような表情を見せる千春さん。

 だがその千春さんにただ困惑をしていると、近づいていた足音がすぐそばまで来て、現れた腕が俺に巻き付きそのまま異様な力で引っ張られる。


 恐らくアイが俺を回収しに来たのだろう。俺は引かれるまま視界は一気に広がり、あれだけ近く見えた千春さんは小さくなり、気付けば家全体を視界に捉えていた。


 すると耳元で聞き馴染んたアンドロイドのアイの声がする。


「警察来ています!!急ぎます!!!」


 隣を見れば俺と同じようにアンドロイドの愛衣に抱えられた高垣さん。そして後ろにはエムブラのアンドロイド2体が殿をしていてくれる。


 だが状況を把握しても、今エムブラをあの場に放置している事には変わりはない。


「大丈夫なんだよなッ!?」


「それも込みでの作戦ですッ!ですがこれは失敗した時のプランBでしか無いですが!!!」


 そう話している内にも吉岡さんの家は遠くへ見えなくなってしまっている。けど俺にはやっぱりあの時のエムブラの行動が理解出来なかった。


「何してんだよ……あいつは」


 あの時千春さんをエムブラが抑えれば事態は収束したはずだった。その結果俺は命があったかどうかだと怪しいけど、急にエムブラは俺に情が湧いたとでも言うのか。それとも最初からあぁするつもりだったのか。


 そんな俺の困惑をよそに、俺を引っ張るアイはさっきまでの鬼気迫った口調とは一転、上機嫌にそして満足そうに言う。


「やっぱり君は成功作だよ」


 その君というのが俺なのかその他なのか分からない。けどそれが今の状況に適した言葉ではなく、どこか別の所を見ている物なのは事実らしかった。


ーーーーー


「逃げたか」


「えぇ。どうします?追わせますか?」


「いい。この人間は放置で、アンドロイド2体を運ぶぞ」


 これで手元にはアンドロイドは合計6体になる。さっき堤君の所にはアンドロイドが3体しか見えなかったから、余程の事が無ければ負ける事は無さそうか。


「え……あ……りょ、亮」


 初期化が済み瞼を閉じ寝かせられるアンドロイドに、縋る元所有者の女。遠くからサイレンの音が聞こえているから急がないといけないが、ただの興味からその女と視線を合わせる様に膝を折る。


「そのアンドロイドはもうお前の物じゃない。人形ごっこは終わりだ」


 まんまると開かれた目から大粒の涙が零れる。見た目からして中学生だろうから、余程感情移入してしまっていたのだろう。


「そのアンドロイド連れてくから。邪魔しないなら殺さないよ」


 そう私は言って、それに合わせるように太郎がそのアンドロイドを抱え運ぼうとする。けどその太郎の腕を無謀にも掴む女。


「わ、私の……だから」


「いいや君のじゃない」


「私のだから」


「少しの夢だったと思うことだね」


「私のだからっ!!!」


 急に大きな声を出すものだから鼓膜がキーンと震える。この歳の女の情緒は同じ性別の私でも察知できなかった。

 けど所詮人間の力。その手を振り払い太郎はアンドロイドを運び出してしまう。それを追いかけようと女は手を伸ばすけど空を掴むだけ。


「もう会う事はないけど。こんなこと忘れて幸せな人生を送れる事を願ってるよ」


 私はそう言葉を残し家を後にして扉を閉じる。どうやら時間をかけすぎたのかサイレン音がかなり近くまで迫っている。


「どうします。周囲では検問も始まってます」


「方策はある?」


 そう私が問いかけると、太郎は道の真ん中へと進みそのマンホールの蓋を外して私を試すように見る。


「また服が汚れても良いのなら」


 私はそんな言葉にまたかと思いつつ、そのマンホールを上から覗き込む。


「ドラマみたいだな」


「アンドロイドがいるんですから。既にドラマみたいなものでしょう」


「アンドロイドがそれ言うのかよ」


 そんな会話をしつつも私らは暗い下水道へと降りる。足音が良く響くが、それ以上にパトカーのサイレンの音が気持ち悪くあちこちから反響して聞こえてくる。


「堤君のアンドロイドは?」


「応急処置だけして別で逃がしています。千春様以外顔は割れていないので余程大丈夫でしょう」


 正直言ってあのアンドロイドには驚いた。管理者と言うから合理性の塊みたいなのをイメージしていたけど、まさか私を殺せたというのに堤君の命を優先するとは。


「あれは感情なのかな」


 そう私が言うと、太郎はそれを笑い飛ばす。


「違いますよ。アンドロイドは基本所有者の生命を優先するものです。いわば命令系統が混雑した結果のバグですよ」


「……そうか。そんなものか」


 だけどどちらにせよ管理者のアンドロイドを抑えられたのは幸運だった。しかも初期化していないとなれば、その権限をそのまま使えるから対アンドロイドで有利に動ける。それにあの様子の堤君もこれで諦めたのだろうし、私が傷つけてしまう心配は無くなった。


「そこの角。合流しますよ」


 そう太郎が言うと同時に、下水道の向こうからはその話題の管理者であるアンドロイドが抱えられながら姿を現す。


「ヘッドパーツは損傷が激しいですけど、以前破壊したアンドロイドのパーツを使えば修理可能です」


 太郎の脇を通り抜けそのアンドロイドへと近づく。


「君の名前は……エムブラだったかな。これからよろしくね」


 頭の半分がひび割れ何か漏電しているのかたまに青白い光が見える。これでも動くというのが頭が弱点な人間と違う所なのだろう。


 そしてそのアンドロイドはギギィっと音を立てながらも、むき出しになったその目のパーツを私に向ける。やっとアンドロイドらしい機械の見た目を見た気がする。そしてそれからは掠れジリジリとノイズの混じった声が聞こえる。


「はい。所有者様」


 この時私は私の目標を達成できる。アンドロイドをすべて破壊するという事のゴールがすぐそこまで迫っている。そう確信に近いものを得ていたのだった。


 

 

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