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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第三章
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第四十七話 すれ違い


 物事は動くときに動くが、動かない時には全く進展を見せない。

 俺らはあれから3ケ月経った今でも千春さんの捜索に進展を見せず、そして渚の件も全く解決の兆しすら見せていなかった。焦りばかりが募るばかりだが、結局アンドロイドがいないと何も出来ない俺は、ただただ待つ事しか出来なかった。


 だが変わった事と言えばアンドロイドの所有者同士の関係性が定まり始めたことだろうか。


「紗南~今週の見た~?」


「あ、うん。見たよ、良かったよね」


 高垣さんと吉岡さんは変わらず仲が良く、俺と亀田さんが方針とかを真面目に話し合う。伊佐治君は集まりに来ない時もあったし、来ても情報だけ聞いてすぐに帰ってしまう。結局吉岡さんの事情を離そうとしても、伊佐治君は強情なのか口すら聞いてくれなくなっていた。


「動き無いけど、そろそろどうするんだ?」


「俺も待つしか無いんすよね。俺らを避けてるのか別のアンドロイド達を襲撃してますしね」


 俺とは違い、千春さんはこの3か月で2体のアンドロイドを破壊した。所有者は殺されなかったらしいから、警察にもバレず世間で話題になってはいないが、俺がエムブラ越しにその情報を知ってしまっている。だから焦りと困惑が募るばかりだけど、結局何も出来ずただこうやってお喋りを続けるだけになってしまっている。


「まぁ相互に守り合っているからこそ何もないのかもしれないがね」


 慰めるように亀田さんがそう言って、いつも飲んでいる缶コーヒーを口に付ける。


「……それ好きですよね」


「ん?そうかな?」


 ここまでくると千春さんの所のアンドロイドが証拠を隠すのが上手いって事なんだろうな。諜報用だったって話だし、だから渚もエムブラも両陣営苦戦しているんだろうな。


 だが俺に何ができるのか。今はただ出来る事をとアンドロイド所有者同士守り合える環境を作るだけ、結局悩むだけ悩んで事態は進展しない。そんな事を考えていると、汗ばみ暑そうに服をはたきながら亀田さんが質問してくる。


「伊佐治君はどうするつもりなのかい?」


「どうするって……あれは仲良く出来るんですかね」


「するしかないだろう。君の方が歳近いんだし」


 って言われてもって感じではある。そもそもこのグループも空気が微妙。高垣さんは相変わらず伊佐治君の事嫌いだし、俺の事すら避け気味だからどうにか出来るとは思えない。幸いなのは吉岡さんが伊佐治君以外とは仲良くしてくれているのぐらいだが。


「堤さん」


「ん?なに?」


「原作読んでたって言ってましたよね?」


 高垣さんと話していた吉岡さんが丁度俺に向かって話しかけてくる。まだ伊佐治君相手には怯えてどもってしまうが、他の俺や吉岡さん相手には割と話せるようになってきた。


「読んでるけど。どうしたの?」


「じゃあ話しましょうよ。展開熱くなかったです!?」


 ただ話せるようになったとはいえだった。大人しい子のイメージだったけど仲良くなると元気になるというか、お喋りというか。


「……いやぁあれってそういう漫画だっけ?」


 ただ話が合うと言われたら合わない。まぁ吉岡さんも中学生だからそんなものなんだろうけど、俺そう言うの分かんないから上手く話せない。


「良い絡みだったじゃないですか!」」


 でも話は分からないけど、元気になってくれたのは嬉しい。お兄さんはまだ起きていないけど、こうやって前を向いて明るく話せているならそれでいい。そんな親みたいな目線になってしまうが、会話には困るのも事実で助けを求めるように高垣さんを見る。


「そいつリョウ×レイだから解釈違いだぞ~」


 面白い物を見るように嘘をつく高垣さん。いつもは悪態ついてくるくせに、こういう時は生き生きするの本当に性格が悪いと思う。


「え?そこです?ちょっとズレてません?そこそんな関わるエピありました?」


「違うから違うから。俺にそんな趣味ないから」


 不思議そうに俺を見上げる吉岡さん。


「じゃあ何のために読んでたんです?」


「面白いから読んでたんだよ……」


 ただまだ気になるのは吉岡さんがまだ学校に復帰していない事だ。別に色んな生き方があるから良いと思うけど、学校行くのが結局将来の選択肢を増やす事になるから行くべきだと思うけど…


(こんな楽しそうに笑う子に学校行けなんてなぁ……)


 俺達が説教するのも違うし、高垣さんは違うだろうけど亀田さんは月1で会うぐらい。俺は4、5月は結衣のお見舞いで病院で会ってたとはいえ、殆ど他人だから深く踏み込めない。それにやっと普通に話せるようになってきたんだしそれを邪魔したくない。


 そしてそんな会話をだらだらとしていると、珍しく遅れて伊佐治君が来る。


「……」


 無言。吉岡さんとの一件からかなり険悪で、俺もアンドロイドのテツの方としか会話をしなくなってしまっていた。そしてこれはいつものことだが、伊佐治君が来ると吉岡さんは最初の頃の様に静かになってしまう。


「伊佐治君、何か1か月であった?」


「ない。お前から何かあんのか?」


「今月は1体アンドロイドが破壊されただけ。他は何もないね」


 伊佐治君が黙ったまま俺を見る。でもここまで性格的に難しい子がアンドロイドっていう大きな力を持って暴れないのは意外に感じる。そう思ったのだが。


「あのいつも付いてくる奴さ。要らないから外してくんね」


「……一応君の護衛の為なんだけど」


「いつもいつも生活見られんの不快なんだよ」


 テツの方を見る。が、テツも言葉を尽くした後なのか諦めたように肩を落とす。そろそろ放任だけだと伊佐治君が危なくなってしまうだろうか。


「じゃあ外すよ。でもいつでも危なくなったら連絡してね」


「いいのか?」


「強制することじゃないですから」


 亀田さんが心配そうに聞いてくるが、俺にもある程度考えはあるし無理にこちらの要求を通せば、余計に反感を買いかねない。

 すると伊佐治君は俺の言葉で満足したのか、来た道を戻る様に踵を返す。


「じゃあもう会うことないな」


 多分この所大きな動きが無かったのもあったんだろう。伊佐治君にとってこの集まりが必要なものに感じれなくなった。だが多分伊佐治君が一人になったら、遅かれ早かれ千春さんに殺されてしまうかもしれない。


「……流石に俺も動かないとか」


 人の生活に踏み入るのは良くないと思っていたが仕方ない。俺も関わってしまった以上伊佐治君を見殺しにしたくない。


「アイ」


「急に名前で呼ばないでくれます?」


「愛衣じゃない。俺のアンドロイドのアイだよ」


 高垣さんのアンドロイドは相変わらず俺の事が嫌いらしい。そもそもかなり久々に話した気がするぐらいだし。


「どうしました?」


「伊佐治君の家教えて。彼の事知らないといけないから」


「……まぁ良いですけど意味あります?逆に彼を囮にして門浪千春を誘い出す事もできますけど」


「ごめんけどそれは無い。それが合理的なのかもしれないけど俺は選びたくない」


 停滞した状況を打破したい気持ちもある。これだけ時間があってエムブラや渚が千春さんを捕まえれない時点で、何か手法を変えないといけない。けど俺にそういう人の犠牲を前提としたことは選ぶだけの勇気が無い。


「じゃあ今週末に向かいます?」


「話が早くて助かる」


 だがここまで進展が無いと、エムブラ達が千春さんを捕まえる気が無いのではとも邪推してしまう。俺に証拠は掴むことが出来ない以上、想像の域を出ないのが歯がゆいのだが。


「何するんだ?」


「ちゃんと腰を据えて話します」


「おぉ、思ったより熱血だね」


 そんな会話をしつていると、伊佐治君がいなくなったからか呼吸を取り戻すように吉岡さんが小さく手を上げ言う。


「わ、私もついて行っても……?」


「良いの?無理はしなくても良いけど」


 首を横に振る。最初の頃のオドオドした吉岡さんに戻ってしまった。まだ完全に立ち直れてはいないのだろうな。


 そう思ったが吉岡さんは何か決めたように両手の拳を握る。


「私も…変わりたいので」


 俺はそんな吉岡さんの言葉を受け入れる事にした。リスクもあるから多少の妥協をしてもらったが、それでも吉岡さんが変わろうとするなら俺も手伝いたい。


 そうして俺は1人年末に電車に揺られていくのだった。


ーーーーーー


「締め付けが強化されてきましたね」


 私と太郎。これまでは順調にアンドロイドを破壊してこれたけど、流石に警察に警戒されて実名報道までされると動きずらいものがあった。


「警察にあいつがいるんでしょ。堤君のとこにいた」


「えぇ、恐らくですけど。あれを潰さないとどうにもできないです」


 今も人目を避けるように田舎の方へと行き、潜みつつ太郎に他アンドロイドを探り続けて貰いっている。今はこれからまだ方針を決めかね、駅前近くのカフェで時間を潰しているがどうしたものか。


「どこかで動きを止め、警戒を緩ませるのも作戦ですが」


「……悠長にはしたくない。もう少し動く」


 一応アンドロイドの目星はついていた。だがどれも2体のアンドロイドが一緒に行動しているから、中々手出しを出来ないでいた。


「それで言うのなら前の男性の所。いつもいたアンドロイドが離れて孤立してますよ」


「あのヤンキーっぽい奴?」


「そうです。家族もいないようですし狙い目かと」


「……罠っぽいが」


「可能性はありますけど、悠長にしたく無いのなら」


 実際今私達がいるのはその男とアンドロイドの近くの地域。明らかに怪しいから迷い続けていたが、いい加減動かないとと焦りもある。


「罠なら罠で、後ろにいる奴が分かるかもしれないか」


「アンドロイド同士で集まっていますからね。隠匿されているので具体的な数は測れませんけど」


 目の前では電車が丁度到着したのかぞろぞろと人が歩いて行く。


「あの渚の方は大丈夫なんだな」


「あれは分かりません。下手にこちらが探ると逆に身を晒す事になりませんし」


「……そうか」


 動けば動くだけあちらに情報を渡してしまう。けど今アンドロイドを破壊するチャンスでもある。


「やるしかないか……タイミング任せる」


「承知いたしました」


 そうしてなんとなく駅から降りていく人たちを見ていると、見覚えのある顔がある。それを見て私は太郎へと確認するように視線をやるのだが、そちらも驚いたような表情を作る。


「想定外です。しかも1人でなぜこんな縁のない土地に……」


 堤君が駅から迷う素振りを見せないままバスへと乗り込む。堤君の地元とは全く違う地域なはずなのにだ。


「一旦様子見よう」


「私もそれが良いかと」


 会計を済ませ私達もそれを追いかける。ただただ嫌な予感がするけど、それでも私達は何かあるのかそれを追う。


 そしてその嫌な予感が当たったらしく、私達の目的地と堤君の目的地は同じらしかった。


「……また巻き込まれているのか、自分から巻き込まれに行ってるのか」


 そう悩みつつも私はこの状況を利用する事にしたのだった。

 

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