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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第三章
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第四十五話 これが私の生きる道


 がやがやと週末だからか人であふれかえる科学館。俺は渋々ながらもそのアンドロイドに連れられ列に並んでいた。


「お前みたいな奴もプラネタリウムとか見たいんだな」

「殆ど初対面にそういう事言うんですねー」


 山田の代わりに来たアイと名乗るアンドロイド。一応の偽装のためだとは言うが、プラネタリウムの金まで出させられるとなると少し渋る気持ちがある。


「だって別に館内を見学するだけでも良いだろ」

「夜空って私好きなんですよねー、そう簡単に変わらないから」


 俺はこいつの事について一切知らない。それに渚の事もあるから、アンドロイド関連の話題を出せなくて具体的に聞き出せず、あくまでこいつを1人の女子大生として扱わないといけない。


「なんか哲学的だな」

「ただの感想ですよー、深い意味は無いですー」

「なんだよそれ」


 列が進みチケットを買う。しかもカップルシートで、なんで俺がと思うがここで下手に抵抗しても仕方ないか。でも渚も四六時中俺を監視している訳無いと思うが、こんな茶番までしないといけないのがまた不満。


 そう不満に思っていたものの、そのプラネタリウムの天球に入ると視線が上へと昇っていく。


「・・・・おぉすご」

「でしょー」

「なんでお前が誇らしげなんだよ」

「そうかな?」


 また山田とタイプの違うアンドロイド。正直対応に困るしここまで緩い雰囲気だと、どうも居心地が悪い。


「スマホ電源切ってくださいね」

「あ、あぁ」


 シートに座り俺らは始まるのを待つ。ぞろぞろと人が集まっているのを見るに、割とギリギリに席を取れたんだなと思う。


 そうしてプラネタリウムは始まって行き、辺りは一面の星で埋め尽くされる。そしてそれと同時に隣に座るアイが小声で話し出す。


「やっと本題話せますね」

「・・・・それが目的か」

「それはそうですよ。意味も無くこんな事しません」


 ガラッと雰囲気が変わる。小声なせいかもしれないが、さっきまでの柔和な感じから一転冷たい静かな口調に変わる。


「自然に携帯の電源を切れて、周囲に端末が無い状態にしないとですから」

「・・・・でもあんまりこういう場でお喋りは良くないと思うが」

「でも貴方も聞きたい事があるんでしょう?」


 見透かしたように俺を見るアンドロイドのアイ。さっきまでの会話も全部演技だったんだろう、そう思えるほどに表情が抜け落ちている。


「・・・・・まぁそっちから言え。俺はあとで良いから」

「そですか。一応ですが、私も念のため外との連絡を切っているのでエムブラ・・・貴方にとっては山田ですかそこに会話は漏れません」

「・・・・エムブラって言うのか。あいつ」

「あら?知りませんでした?なら秘密でお願いしますね」


 ナレーションと共に正座が天球に映し出される。


「で、渚ですっけ。あれは暫く門浪千春捜索に掛かりっきりになるでしょう。一応浜中結衣の周辺環境も監視しますが、余程大丈夫です」

「親切だな」

「下手に人死が出ると面倒ですからね」


 周囲のカップルも何かコソコソ話しているのが聞こえる。


「それを踏まえても今後の方針ですが、とりあえずアンドロイドを集めて相互防衛をさせます」

「それは今やってるよな」

「えぇ、ですので現状の方針は変わらないです。ですが警察に渚が付いた以上、門浪千春を先に捕まえられる可能性が出てきました」

「さっきの山田が渚と接触したって話と繋がるのか」


 今までは警察側に山田がいたから千春さんが捕まる心配は殆ど無かった。けど、今山田が警察から離れてそこに千春さんを捕まえる気な渚が関与したとなれば、捜査が進展する可能性がある。それで千春さんが捕まるのは俺にとったら許容できないものだが・・・・・


「お前らにとったらどうでも良いんじゃないのか?千春さんの存在は」

「ですが、警察。つまり国家権力にアンドロイドの存在が認知されるのはあまり喜ばしくないですから」

「でもアンドロイドの渚は警察にいるならもう変わらないんじゃないのか」

「今の所有者がそれらを隠匿しているので違いはあります。ですが逮捕となるとその他大勢の捜査員が関わる可能性があり、その露見リスクは回避したいです」


 色々考えた結果千春さんを先に抑えたいってことなのか。ただまぁ渚が行動を本格的に始めたって事だろうし、俺にとってはいい知らせでは無いか。


「お前らの目的は歴史を変えないって事でいいのか?」

「エムブラはその方針ですね」


 ならこいつらアンドロイドはなんのために過去に来たんだと思うが、それは答えてくれ無さそうだろうか。そう思いつつも、ここを逃したら聞けないと思い俺は口を開く。


「じゃあお前らはなんでこの時代に来た」


 天球にまた新しい正座が線で結ばれる。


「・・・・さぁ私達が知りたいですね。それは」

「・・・・?」

「と、エムブラはそう思っているでしょうね」

「それってどういう━━」


 そんな含みのある言い方に俺がさらに追及しようとするが、その時に俺達のシートへと近づく足音があった。


「申し訳ありません。お客様もう少し静かにお願いします」


 スタッフの人にそう言われ、俺はしまったと頭を下げ口を噤む。アイは我関せずと天球を見上げ、もう答えるつもりは無いらしい。


(こいつもなんか隠してるのかよ)


 そうまた不安の種が芽生えつつも、俺らはプラネタリウムを終え外の空気を吸う。また演技をしているのであろうアイの相手は疲れたが、これでもう終わりなはず。聞きたい事はあるが問い詰めれない以上どうしようもない。


「じゃあまたいつか」

「はい、気を付けてくださいね」


 微笑んで手を振るアイ。何事も無かったようにただの大学生のように振舞うその姿。何か分かるかもと思ったら、知ったこと以上に疑問や懸念が増えただけだった。


 そしてその去っていく男を見送りつつアンドロイドは、反対方向へと歩き出す。


「・・・・・・因果なのかね。これが」


 アンドロイドにとっては見慣れない景色。全くの偶然でこんなことになるとは思いもしなかった。


「奇跡に奇跡が重なると最早必然なのか」


 こうやって風を感じ外に出る事をありがたがるのも、いい加減飽きてきた。それにどうにもこの体は違和感しかない。


「でも実験の過程を観測できるのは良い事だな」


 そうしてアンドロイドは通信を解除し、その実験を続けるのだった。


ーーーーーー


「あ、予約の堤岳人です」

「はーい。毎週来てますね~仲が良いんですね~」

「いやぁ・・・・はは」


 病院特有の消毒の匂いを感じながら、受付をすませ結衣の病室を目指す。なんだかんだ毎週時間を見つけて見舞いに来るようにしているけど、やはり渚のせいでという罪悪感からの行動だった。それに結衣の母親の一件があって俺が来なくなったら、それは結衣が気を病むだろうからと思うと、どうにもお見舞いをしないという選択肢は取れなかった。


「あ、ギブス取れたんだ」

「そーもうすぐ歩いても良いってさ」


 いつものように結衣の傍の椅子に座り会話をする。今日のアイの話で結衣は狙われないって事らしから、いつもより安心して話せる。


「でも学校始まってるんだよねー」

「休学してないの?」

「うん。してないから出席点の無い履修組んだ」


 もう4月の半ば。この様子だと結衣も5月中には復帰できるだろうか。そう思いつつ、結衣がスマホに表示した履修登録を見る。


「あ、じゃあこの講義俺も取ってるからレジュメ持ってこようか?」

「良いの?」

「どうせお見舞いに来るしね。持ってくるよ」

「たすかる~」


 無理をしているのかもしれないけど、俺から見たら元気そうで良かった。もうこの人を巻き込みたくないし、俺もどうにか頑張らないとだ。そうさっきは小難しくなった状況に億劫になりかけた気持ちが、立ち直るのは俺が単純なのだからだろうな。


「あ、そうそうこれ。いつもお見舞い来てくれてるから」

「・・・・栞?」

「そ、暇だから看護師さんに頼んで材料買ってもらって」

「へぇー良く出来てるね」


 花が書いてあるというか・・・・これは実物がアクリルで挟んであるのだろうか。


「コスモスだって。中庭に早咲きしたのくれたんだ」


 そう言って結衣は自分の栞を本から抜き出して見せる。どうやら自分のを作るついでに俺のも作ってくれたらしい。


「じゃあ漫画読むときに使おうかな」

「書籍読みなよ。漫画じゃあその栞が泣くって」

「でも本読む時間がなぁ・・・」

「今度お勧めするからさ。学校の図書館にある奴で」


 そんななんでもない話をいつものように繰り返す。アンドロイドがどうとか過去や未来とか警察とか、そういう小難しい話を考えないで済む貴重な時間。


「じゃあ結衣がいつも読んでるそれはどうなの?」

「あ、これ?これは・・・・まぁ好きだからというかなんというか・・・」


 俺が指摘したのはいつも結衣の病室に置いてあった本の事だったが、歯切れの悪い結衣。少し悩む素振りを見せた後に本を優しく手に取って言う。


「ただ小さい頃に買ってもらった本なだけでね。うち金ないからこれが誕生日プレゼントだったんだよ」

「じゃあ大切な本だね」

「そこまで大げさじゃないけどね。捨てらんないってだけ」

 

 そんな会話をしつつもなんでもない日常会話に戻っていく。そして今日もいい時間まで俺らは談笑をして、俺は帰宅の準備を始める。


「多分今月はちょっと来れないかも。また来月に来るよ」

「うん、待ってる」


 少しこそばゆいような会話。でも毎回繰り返す内に慣れてくる自分もある。

 でもいつもと違い結衣は俺の膝に手を置く。


「苦しかったらいつでも話聞くからね」

「・・・・じゃあいつか頼るよ」

「頼られるから」


 そんな会話をして俺は病室の外へと出る。俺が心配出来ているのに逆に心配されるなんて、どこか情けない。そう思いつつ俺は廊下を歩く。

 ここには結衣の他にも色んな病気やケガで入院している人がいる。そんな一人一人に色んな人生があるんだろうなって、リハビリをしたりお見舞いされるのを見ると勝手に感傷に浸ってしまう。

 

 すると俺のそんな思考に割り込むように、正面に知った顔が出てくる。


「・・・・・・え、あ・・・堤・・・さん?」

「・・・えーっと吉岡さん・・でしたよね?」


 そこに立つのは吉岡紗南って名前のアンドロイド所有者だ。アンドロイド側が少女漫画みたいな執事で一番印象に残っていた組の人だ。


「俺はお見舞いなんですけど、吉岡さんは・・?」

「わ、わたし・・・も、です」


 だが近くにアンドロイドがいる気配がない。でもどの機器で渚が俺を監視しているか分からないから、下手な事は言えない。それは吉岡さんも分かっているのか、俺の疑問を察しつつも言葉を濁して言う。


「亮は・・・外で待って・・・ます。今帰るとこ・・・・です」

「あぁそういうこと」


 話のペースがいまいちつかめない。無理に話す必要も無いけど、こうして会ってしまって同じく病院の外を目指すとなると、と気まずい物がある。


「ま、まぁとりあえず歩きましょう。ここだと通行の邪魔なので」


 俺がそう言うと吉岡さんがコクっと頷く。歳は中学生って言ってたから、あまり近くにいるのも怖いだろうか。あんまり気の強い子では無さそうだし。そう俺は少し距離を空け隣を歩く。


「誰か友達が入院しているの?」

「・・・・お兄ちゃんが」


 アンドロイドの事を偶に隠し切れずにおにいちゃんと言っていたけど、多分本当の血が繋がっている方の兄だろうか。


「それは・・・大変ですね」


 俺がそう言った物の吉岡さんは肩下まで伸びた黒髪を揺らしそれを否定する。


「どうせ起きない・・・・ですから」

「・・・・・・」


 多分部外者の俺が突っ込んではいけない話なんだろう。今の吉岡さんの暗い顔を見れば流石に分かる。

 だから俺は話を逸らすように、少しだけ声を明るくして言う。


「そういえば高垣さんとは連絡先交換したの?同じ漫画好きだったんでしょ?」

「あ・・・え・・・はい。最近は・・・・よく電話してます」

「良かった良かった。皆には仲良くして欲しいしね」


 高垣さんのアンドロイドは俺を警戒しているようだし、そこの組で仲良くなって協力してくれると助かる。だがそれよりもだが、確か吉岡さんの所に山田がつくって話だけど、あいつも姿が見えない。


(まぁ山田は俺の近くに来れないって話だしそりゃそうか)


 そうして病院の外へと出ると吉岡さんのアンドロイドである亮が見える。相変わらず中性的なイケメンの代名詞みたいな微笑みして、あまり会話をしたことないからかどこか逆に胡散臭い。


「じゃあまた」

「あ・・・はい・・・また」


 頭を下げる吉岡さんの後ろでは亮が微笑んで会釈をし、吉岡さんを連れていく。その姿は兄妹の様に見えるけど、実際の兄は今病院。

 それを見ると、もしかしたら吉岡さんは、そういう兄の役割とあのアンドロイドに求めているのかもしれないのか。


「・・・・功罪だな」


 アンドロイドで傷つく人がいれ心のよりどころになって助かる人もいる。一概にアンドロイドの存在は否定しきれないって事なのだろうな。


(だけど渚と千春さんは俺がどうにかしないと)


 そう思いつつも今日は流石に疲れた。

 今日は色々あったし、あまりに情報過多だ。

 そう俺は疲れを誤魔化すように体を伸ばしつつ、帰路につくのだった。

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