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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第三章
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第四十四話 傲慢と偏見


 アンドロイドというものは案外田舎を好むのか、やっとのことで見つけた2体目は田舎も田舎の老人の家に居ついていたらしい。


「あれが2体目」


 この所アンドロイドの捜索に手間取っていたが、以前管理者が連絡をした時の通信を追ってなんとか見つける事が出来たのだが。


「所謂介護という奴でしょうね。殆どその用途に使われているようで」

「こんな田舎で家族は何してんだろうな」

「さぁ戸籍確認しますか?」

「いい、そんな趣味は悪くない」


 どこか懐かしさを感じるような古民家。その縁に腰を下ろしボーっと空を見上げる老婆。平和な光景だが、その隣で意味があるのか会話を投げかけ続けるアンドロイドがノイズを生む。


「・・・・・・?」


 老婆と目があう。あったような気がしたけどすぐに視線がどこかへと散ってしまう。だがその隣の人の良さそうな男型のアンドロイドは私達をしっかりとらえる。


「前回の誘いは断ったはずですが」

「残念ながら私達は別件で来ました」


 どうやら私達の事を管理者側のアンドロイドだと思ったらしい。だが私のアンドロイドを見て何か察したのか、警戒したように立ち上がり老婆の前に立つ。


「管理者側では無いって事ですか」

「そうですね。申し訳ないですけどここで破壊されてもらいます」

「私は何もしていないのですが」

「それでもこの時代には存在すべき物じゃないですから」


 アンドロイドが拳を構え、それを見てこっちのアンドロイドである太郎も私を後ろに下げ構える。だが何か懸念点があるのか、振り返らないまま問いかけてくる。


「良いので?本当に介護しているだけのようですが」

「痴呆老人の支離滅裂な命令に従って暴れる可能性は大いにある。排除すべきだと思うけど」

「・・・・そうですか」


 言わんとする事は分かる。けど将来的なリスクを考えたらここで排除するのが正解だし、今更私が止まる訳にはいかない。それにあの老婆を巻き込まないで済むならそれでもいいし、殺さず口止めしなくても老人のたわごとになるはず。


 そんな意思を察してくれたのか太郎が腰を落とすが、その老婆はというとそのアンドロイド2体の間に立つ。


「ご飯食べてくかい?」

「トメさん危ないですから・・・・」

「でも賢治のお客さんでしょう?」

「客では・・・無いですけど・・・・」

「でもお茶ぐらい出さないと。ほら用意するから手伝って」


 太郎が私に指示を仰ぐように振り返ってくる。


「・・・巻き込むわけにいかないから一旦言うこときこう」

「分かりました」


 別に急ぐ理由も無い。他アンドロイドの介入も無い様な田舎だから、安全策をとってもバチは当たらないはず。殺す必要のない殺しはしたくない。


 そう私と太郎は相手のアンドロイドに警戒されつつも、言われた通り縁に座る。台所というか炊事場だろうか、そこからカタカタと食器を洗う音が聞こえる。


「おばあちゃんの家って感じ」


 そんな事を呟きながら二人の会話が聞こえてくる。


「お茶ではいんですか?」

「お昼なんだらご飯ごちそうしないと。カツさんからタケノコ貰ったからね」

「あ、包丁は私がするのでトメさんは火を見ててください」

「ありがとうねぇ」


 平和な会話。今までのアンドロイドの所有者が若かったからそういう印象は無かったが、本来はこういう介護に用いられるアンドロイドも多かったのだろうな。


「・・・・あれを壊すのですか」

「言ったでしょ。痴呆老人の妄言で暴れる可能性があるって」


 それで老人ホームになり行ってもらうしかない。本来はアンドロイドなんていなかったら、あのおばあさんもそんな選択をしていたはずだ。


「・・・・てかお米炊いてる?」

「そのようですね。少し早いですけど夕飯ということでしょうかね」

「別に食べる気までは無かったんだけど・・・」


 あのおばあさんが満足して寝たりしてから、あのアンドロイドを破壊すれば良いか。その方が巻き込む可能性も無いだろうから。


 そうして私達が待ち続ける事一時間弱。

 畳の上に置かれた大きな木の机には、4人前の白米にみそ汁。真ん中にはおばあちゃんの家って感じの皿におかずがずらりと並ぶ。


「親戚の集まり・・・・」

「待たせてごめんね?食べようか」


 あまりボケてはいないのだろうか、あの老婆と話していてもそこまで会話に違和感はない。そんな事を考えながらも、流れに押されるままに私は箸を手に取っていた。


「・・・・いただきます」

「はい、どうぞ~」


 老婆のアンドロイドも食事をするらしくお椀を手に持っている。必要はないはずだが、老婆に合わせているのだろうか。


「・・・そっちの子は食べないのかい?」

「え、あ、はい。いただきます」


 大丈夫なのかと太郎が視線を向けてくるが、ここで下手に老婆の機嫌を損ねる意味も無い。だから私は無言のままみそ汁を啜る。


(しょっぱ)


 地域差か文化の違いか。塩気がかなり強くて白米を挟まないとどうにも食べきれなさそうだった。


「で、どこから来たの?」

「あ、え、っと街の方です。そこの・・・賢治?さんに会いにきまして」

「あら、じゃあ賢治にもいい出会いがあったんだねぇ」

「はは・・・いやぁ」


 笑顔が引きつりそうになるが、なんとか話を合わせる。あちらのアンドロイドは無言のまま、こちらへの警戒を怠って無いのか視線を偶に感じる。


「今日は泊まっていくのかい?」

「あー・・・・どうでしょう・・・」


 アンドロイドを破壊するタイミングが見つからない。このまま食事を食べきってからでも良いだろうか。だがどうにもこの老婆の前で殺すのは中々私としてもやりずらい。


 そんな事を考えながら箸をニラの炒め物に伸ばそうとすると、それを太郎に止められる。


「・・・・・どうした?」

「毒草ですよ、それ」

「え?」


 どう見てもニラなのだが、私はとっさに半纏を着る老婆へと視線をやる。相変わらず微笑んでいてその表情の奥は読めないが、今の太郎の言葉からしてそれが不気味に感じる。


「あらそこの子は野草に詳しいんだね」

「私と同じアンドロイドですよ」

「あら?そうだったの?どうりで食べても平気だったの」


 アンドロイドと老婆が私達の事について情報を共有した素振りは無かったし、させないよう気を付けていたつもりだった。料理中にどうにか会話以外の方法で伝えたのだろうか、そんな思考を回しながらも私は中腰になりすぐに動けるようにする。


「もうご飯はいいのかい?」

「・・・・・まだ死にたくないので」

「せっかく用意したのに。残念」


 隣に座る太郎へと視線を送る。すると太郎の方もすぐ動けるのか、箸を握ったまま視線を送り返してくる。


「じゃあ賢治。無理しないでね」

「トメさんも下がっててください」


 老婆は自分のお椀を集めて下がっていく。肝が据わっているのか状況を理解していないのか、そう思いつつも私も距離をとる。すると太郎が相手アンドロイドから視線を外さないまま言う。


「任せますよ」

「私に任せても良いのか」

「その返答で十分です」


 太郎がそう言うと同時に、手に持っていた箸を相手アンドロイドへと投げ槍の要領で腕を振る。


「行儀が悪いですね」


 そう言いながら相手アンドロイド箸を躱すが、その一瞬のうちに太郎は机へと乗り上げ一気に距離を詰める。そしてそれを見ながら私は畳を蹴り、あの老婆の背を追う。


 既に背中の向こうでの戦いになっているアンドロイドの同士の激しい音を意識しつつ、古民家を駆け抜け老婆の肩を掴む。


「・・・・思ったより肝が据わってるんだね」


 私が突きつけたナイフを見てもなお、そう余裕があるのか老婆は呟く。お線香だろうか、おばあちゃんの家の匂いが強くなる。


「申し訳ないですけどついてきてもらいますよ」

「人生の最後にこんな経験するとはねぇ」


 私はナイフを突きつけたまま老婆と共に、ガラガラと皿の割れる音が響く和室へと戻る。

 するともう随分滅茶苦茶になってしまったのか、料理が辺りに散乱しアンドロイド同士が取っ組みあっていた。


「止まれ。大人しくしないとこの人を殺す」


 賢治・・・と呼ばれていたっけか。そのアンドロイドが咄嗟に太郎から距離を取り苦虫を嚙み潰したような表情を作る。


「殺人まで踏み込むのですか」

「その覚悟はもう乗り越えたから」


 老婆の首元へとナイフを押し付ける。そもそも最初からこうしておけばよかった、そう私は乾いた口を動かす。


「自壊しろ。殺されたくなかったら」

「言うこと聞くことないよ。敵を倒しちゃいなよ」

「・・・・・・」


 私と老婆の言葉。あのアンドロイドは迷っているのだろうか。 

 それは分からないが時間を掛けさせると分からないと、太郎へと視線をやる。だがその瞬間お腹に熱い感覚が広がり、それに遅れて激しい痛みが走る。


「・・・・・・ッ・・・こいつ」

「若者の足手まといは嫌だからね」


 視線を落としその熱い感覚を確かめれば、老婆の手にもたれた箸が私の横腹へと突き刺さっている。もう選択肢は無い、それを見て咄嗟に判断した私はナイフをその老婆へと突き刺す。


「・・・・・・・・・」


 ズッと老婆の体重が私に掛かってくる。そして私のではない、老婆の血が垂れ私の体へと伸びてくる。

 そしてそんな中取り残されたアンドロイドは、私に襲い掛かるわけでも無くただそこに立っていただけだった。


「トメさんが何をしたんですか」

「・・何もしてない」

「じゃあなぜ殺すのですか」

「・・・・危険だからです」

「ならアンドロイドである私だけを狙えばいいじゃないですか」

「・・・・・・これが一番手っ取り早い。どちらにせよ口封じでやるつもりだった」

「外道ですね」

「アンドロイドに人の感情が理解できるかよ」


 過程はどうあれこれでこのアンドロイドは所有者を失った。そして結果としては私にとって最上のものとなったのも事実、太郎がそのアンドロイドを取り押さえるのを見下ろしながらそう思う。


「・・・・・っと」


 老婆を寝かせアンドロイドの頭の近くに立つ。それが感情なのか分からないがひどく憎悪の籠った眼で見てくる。


「じゃあ契約をしよう」

「いつか寝首を掻きますよ」

「ならメモリーをリセットするまで」


 太郎の手がアンドロイドの頭へと延び、接続を始める。


「一部の危険な個体だけを見て全体を認識するのは愚かな行為ですよ」

「それでもお前らアンドロイドが力を持ちすぎているのは事実だから。それが社会にとって危険なのは変わりない」


 本来この時代に存在しない物なんだ。それが及ぼす影響を考えたら多少の被害は黙認するしかない。それがこの国の中では犯罪だと分かっていても、私にはそれをするしかない。


「あの人と一緒に静かに暮らしていたいだけだったんですよ・・・・」

「ならお前をアンドロイドとして製造して、この時代に送った奴を恨むんだな」


 そこで何か言い返そうとしていたアンドロイドだったが、その瞼は閉じられる。どうやらハッキングが出来たらしい。


「・・・・でも私が人殺しなのは事実」


 1人目のアンドロイド所有者の若い男。そして今回の老婆。どちらもアンドロイドによって将来起こり得る被害を防ぐために、私の独断で犠牲にした2人。何も正義は無いし、私刑よりもひどい忌避されるもの。だがだからこそ私はこれを正当化してはいけない。


「終わったのでいつでも再起動できます。治療しましょうか?」

「いや後回しで良い、先に死体を片付けて契約を始めようか」


 そうして私達は死体を弔い、庭へと出てそのアンドロイドを起動する。


「・・・・・・・」

「君の名前は・・・まぁあいつが太郎だから次郎でいいか。所有者は私門浪千春ね」

「・・・・はい、登録しました」


 さっきまで見せていた感情らしき物はすべて抜き消え、そこには空っぽの器が立ったままだった。


「じゃあ太郎と連携して私のこと手伝って」

「はい。承知いたしました」


 簡易的な止血だけしかしていないからか、腹がズキズキと痛む。それにさっきの食事にまだ何か混ざっていたのか、刺し傷と他に腹の中が痛む。それに嫌な脂汗を感じつつも、太郎へと私は向き直る。


「治療頼んでも良い?」

「やせ我慢しすぎです。そこで横になってください」

 

 そうして田舎のある一軒家。長年続いたその灯は消え、そこに残ったは血なまぐさい人間と2体のアンドロイドだけだった。


ーーーーーー


「君は誰って聞いたら答えてくれるの?」

「健太から聞いてません?」

「健太は俺の友達だけども、君の事は何も聞いて無いかな」


 家のポストに紙が入っていた。それを確認すれば山田からの物だったが、今は一方的に指定された図書館に行ったら知らない女がその席に座っている。女子大生って感じのフワフワしたファッションだが、本当に知り合いでも何でもない女。だが明らか容姿が整っているから、大方アンドロイドなんだろうな、そう思いつつ俺は立ち話をする訳にもいかないからとその隣に座る。


「1回会ってみたいなって」


 そう言って女は手元に文字の書いてある紙が白く細い指で差し出される。


エムブラ、貴方が山田と呼んでいるアンドロイドの所有者だった警官が渚と接触しました。渚を刺激しない為私が代わりに連絡窓口をします。屋内だとカメラはまだしも、他の携帯端末による盗聴のリスクがあるので、口ではアンドロイド関係の言葉を言わないでください。あくまで私は他大学の女子生徒の設定でお願いします


 どうやら面倒な事になっているらしい。そしてやはりこいつはアンドロイドという事で良いのか。色々問いただしたい事はあるが、口頭で聞くなと言われている以上下手に突っ込めない。


「再来週皆で集まるけどそれもスルーって事?」

「それは参加する予定だよ。時間も場所も同じでしょ?」


 婉曲的に聞いてみたけど、俺の言いたい事をすぐに察してくれるのはありがたい。他アンドロイドとの連絡会は予定通りやるって事らしい。


「でも山田さんは大丈夫なの?色々彼氏と問題あったんでしょ?」

「んーそれは大丈夫かな。もう連絡先もブロックしたらしいから、どっちかというと君が逆恨みされて危ないから気を付けてね」


 アンドロイドの指が紙の「盗聴リスク」の所をトントンと叩く。やはり渚は俺に執着しているってのは変わらないのか。だとすると相変わらず浜中さんが心配になるが・・・・・


「まぁ余分なことしなければ良いと思うからさ。だから言う事は聞いてね」

「・・・・まぁ分かったけどちゃんと教えてくれよ」

「それはもちろん」


 渚が俺に直接接触してくる可能性も出てきそうだが、その辺りは山田含めこいつらアンドロイドに任せるしか無いか。てかアンドロイドばっかで、固有名詞が無いと不便か。そう思い俺は聞いてみる。


「てか君名前なんだっけ?」

「・・・・・・まぁアイとは呼ばれたことは」

「ん、じゃあ俺もそう呼ぶ」


 高垣さんも愛衣って名前だから少しややこしいか。そう思いつつも名前が可笑しいんじゃないか、なんて指摘する日常会話もあるはずないので、俺はそれを受け入れることにする。


「で、今日はそれだけ?」

「どっか行きたい所ある?」

「別に時間はあるけど、なんか行きたい所あるの?」


 するとアイは紙に何かスラスラ書き出しそれを俺に見せる。


 すぐに解散したら怪しいので多少付き合ってください。以前他アンドロイドと集合した時みたいに、対渚用に貴方が家にいるよう偽装するのも大変なので


 俺はいつも渚に監視されているとでも言いたげな書き方だった。固執されているとは思ったが、あれだけ突き放しても俺に意識を向けるのか。そう思うとやはり浜中さんの件も渚なのかと納得してしまう。


「じゃあ私科学館行きたい~良い?」

「あ、いやまぁ良いけど・・・・」


 あんまり何かに楽しみたい気分ではないというか、そんな資格は俺に無いと思う。けどアンドロイドがそう言うなら今はとりあえず従うのが大人か。そう自分を納得させると、アイは体を伸ばし零す。


「早速行きましょうか。この所バイトばっかでうんざりだったんですよ。あの山田のせいで」

「あぁ~・・・・・・」


 恨みの籠った言葉。しばらく山田の手下にアンドロイドがいるとは知りつつ、その実物を見たのはここ最近。ずっと裏方業務をさせられていたのだろう。


 そうして俺らはぎこちない会話をしつつ、その日を過ごして行ったのだった。


 そしてそれは同時刻。また他のアンドロイドが堤のスマホの音声越しに確認していた事でもあった。


「また女ですか」

「ん?なんか言った?」

「いやなんでも」


 まるで私の事なんて忘れてただの大学生として青春を謳歌している。それがただただ腹の立つ事でしかないし、私の事を無下にしているようで怒りさえ湧いてくる。あれだけのことがあっても時間さえあれば私との時間は過去の物ってことなのか。


 だがそんな私の気も知らずに蒲生は語り出す。


「じゃあさっさと捜査するよ。田舎のご老人が殺されて、現場には門浪千春のDNAが検出されたって事と、ここ最近知らない若者が被害者を世話をしていたらしいという事。アンドロイド絡みだから君の力必要だからね」


「ですが恐らく1週間は経過しているので近場にはいませんよ」

「それでも足取りを全て消す事は難しいはずだからね。もうそろそろやられっぱなしも癪だし」


 まぁこの女は後回しで良いか。岳人さんが浜中結衣を置いて他に現を抜かす根性があるとは思えないし、今は門浪千春の捜索が優先。


「じゃあ行きますか」

「君はやる気があって助かるよ。機種変更成功だね」

「・・・・・」


 だがこの男が気に食わないのも事実。でも今は仕方ない。

 そう私はどこか歯がゆい感情を得つつも、足取りを掴むべく捜査に加わっていくのだった。


 

明日は投稿をお休みさせていただきます。

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