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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第三章
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第三十七話 2歩進んで3歩戻る


 ガタンガタンと一定のリズムで電車に揺られ、2人の会話が弾んでいる。するとある駅で思い出したかのように浜中さんが立ちあがる。


「ここで乗り換え」

「あ、うん」


 なんてことの無い小さな駅と小さなロータリー。俺の地元の駅とそこまで大差のない駅だ。


「え、これ食券機?」

「うん、これで切符買う」

「・・・・へぇ」


 始め見るタイプの切符を買うシステムだった。そして出てきた切符を駅員さんに渡して小さなホームへと入ると、発車は少し先なはずだが、既に電車がそこに止まっている。


「・・・このボタンで良いの?」


 ドアは締め切られており、そのドア近くにこれを押せと言わんばかりのボタンがある。俺はそれを押す前にそう浜中さんに確認をする。


「それ押したら扉開くから」

「・・・・へぇ、なんか知らない世界」


 そう旅だからこそなのか分からないが、地域ごとの違いを感じながらもごうごうと暖房の音がする電車へと乗り込む。

 

「人いないな」

「・・・・だね」


 時間も10時を回っている。そりゃ人もいないかとも思うが、こうやって空間に2人きりだと微妙に居心地が悪い。


「ここの路線さ。湖沿いに走るから景色良いんだよな」

「前にも行った事あるの?」


 俺がそう聞くと何かに詰まったように浜中さんが押し黙ってしまう。


「・・・・まぁ、多分これ言ったら嫌がられると思うんだけど・・・・・」


 海からはそれなりに距離はあるはずだけど、開けっ放しのドアから気のせいか少しだけ風に磯の香りがする。すると申し訳なさそうにしつつ頬を掻きながら浜中さんは。


「元彼と行った場所で・・・・」

「あー・・・・・だから」


 どうりで色々知っていたわけだ。

 でも俺はこれにどう反応するべきなのだ。別に付き合ってる訳でも無いから俺が気にする事では無いんだけど、そう言われるとなんか・・・こう思う所が出来てしまう。


「あ、いやね。ほんとに場所自体は良い所なんだよ。でも聞かれたから嘘つく訳にはいかないしさ・・・・」


 必要も無いのに焦って弁明しようとする浜中さん。なら嘘ついて黙っていればいいのに、誠実なのか不器用なのか。でも浜中さんが俺を慰めようとこれに誘ってくれたのは事実だから、こんな気を使わせるわけにはいかない。


「いやまぁ、俺がとやかく言う事じゃないからそんな気にしなくても良いって」


 俺はあくまで気にしてないから、そんな頭を下げないで欲しい。そう思って俺はフォローしたつもりなのだが、その浜中さんはと言うっと少し不満げに。


「その言い方は言い方で腹立つな」


「・・・・流石にそれは理不尽すぎない?」


 すると浜中さんはクスっと笑い俺の肩を叩く。


「冗談冗談。ありがとね」

「あ、うん・・・良かった・・・っす?」


 何が良かったのか分からないけど、俺はそう答えてその場を収める。浜中さんもそれで良いっぽいし良いか、そう俺が納得すると電車が動き出す。


「お、動いた」


 電車が動き出し少し体が揺られる感覚を覚える。流石にこの頃になると話題も減って来て、沈黙の時間が多くなってくる。


「・・・・・・あ、水面」


 向かいの窓には木々の間から反射する湖面が見え、そう俺が声を漏らす。すると浜中さんも同じ景色を見ていたらしく。


「綺麗だな」

「だね」


 電車から見える景色を見るのは好きだ。特にこういう出先だと見ていて飽きないし、隣に人がいれば感想を言い合える。こういうなんでもないボーっと出来る時間があるだけで、どこか疲れが消えて行く気がする。


「みかん畑かな」

「どうだろ。あれは茶畑っぽいけど」


 ポツポツと会話が流れていく。こう、無理に会話をしようとしないで良い雰囲気がどこか落ち着く。

 でもその弊害か、こうして電車に揺られると段々と眠気がやってくると言うもの。俺は段々と視界が狭くなり頭がかくかくし始める。


 そしてそんな中で浜中さんは向かいの窓で流れる景色を見ながら日常会話を続ける。


「イヤホンってさ。有線派?」

「え、あー・・・俺は高校の頃の有線ずっと使ってるかな」


 話しかけられ眠気から少しだけ意識が戻ってくる。すると隣で浜中さんが鞄をゴソゴソ漁り出す。


「私耳の穴の形がちょっと変わっててさ。イヤホンすぐ落っこちるんだよね」

「へぇ~じゃあワイヤレス使えないじゃん」

「そ、だから私も有線なんだよね」


 そんな会話をされるから、少しだけ気になって浜中さんの耳へと視線が行きそうになるが、その前に「あった」と浜中さんが呟きイヤホンを取り出す。


「さっきの話でさ。聞いて欲しい曲あって聞く?」


 イヤホンの片っぽをつまんで俺に向けてくる浜中さん。多分この感じ本人はどうとも思って無いのかもしれないけど、俺にしたらこれ相当ドキドキする展開だった。


「あ、うん、じゃあ失礼します・・・」

「・・・・・?気になるなら消毒しとく?」

「いや・・・何でもないから」


 絶対勘違いする奴だ。この人やっぱ距離が近い。こういうのやってるのってカップルとかしかいないだろ、少なくとも異性相手にする事じゃないと思うんだが。


(・・・まぁ俺の事なんてそもそも対象外って事なんだろうな)


 この歳まで彼女いたことないし、その辺りに自信が持てるはずも無い。それに一挙手一投足に勝手にそういう思考に結び付けられるのは、浜中さんにとっては不快だろうしな。


「じゃあ流すよ」

「あ、うん」


 流れてくるのは女性ボーカル・・・バンドだろうか。歌詞はラブソングっぽい感じだけど、割とキャッチーな曲調だった。


 私は少しだけ心臓の音が近くなるのを感じながら、片っぽだけになったイヤホンを左耳に嵌める。隣では窓の外を眺めながら、もう片方のイヤホンから流れる音楽を聴く岳人がいる。


「あーいいね。曲調?って言うのかな好みの歌かも」


 軽く揺れながら優しく笑って曲を聞く彼。しばらく随分暗いようだったけど、今は忘れて割とこの旅を楽しんでいてくれてて良かったと思う。

 

 そう考えていると、不意に視線がこっちに向いて小さく私の肩が跳ねる。


「曲名って何?プレイリスト入れる」

「あ、あぁこれはね━━」


 この曲というか、このバンド自体は高校の頃から聞いているものだ。最初はなんとなく動画で流れてきただけだけど、それから入って私にとってお気に入りのアーティストだ。まぁ世代が昔だから同世代だと聞いてる子いなかったけど。


「俺もこの辺の歌好きなんだけどねぇ。最近の曲と違って中々流れてこないからありがたい」

「じゃあ着くまで私のおすすめ流すよ」


 でも岳人が同じ音楽の趣味だったのは少しだけ嬉しい。今まで会話してても共通の物がなかったから、こういう一緒に共有できるものがあると楽しい。


 そう思っていると岳人が穏やかな顔をして私を見てくる。


「浜中さんって優しいよね」

「・・・・急になに」

「いや、色々ね」


 今日の旅行の事を言ってるのかもしれない。でも私自身岳人と遊びたいって言う不純な理由もあったから、私がまるで善人かのように見るのはやめて欲しい。それこそ傷心に付け込んでいると言われたら、否定は出来ないのだから。


 でもそんな私にお構いなしに、岳人は目を細めて言う。


「ありがとね。ほんと」

「・・・・きもちわり」


 真正面から言われるとこっちが反応に困る。


「はは・・・手厳しいね」


 多分こいつはこいつで無自覚なんだろうと思う。イヤホンの共有って自然に距離近くなるから、私は少し緊張したのにあんまり気にしていない様子だし。


「良いから、じゃ、次岳人がおすすめ流して」


 イヤホンを抜きそのプラグを岳人へと向ける。すると困ったように笑いながらもそれを受け取る。


「センス悪いとか思われたら嫌だなぁ」

「他人の趣味にどうこう言わないって」


 そうして2人、1つのイヤホンで一緒に音楽を聴き目的の駅へと到着する。だがまだ目的地はここでは無く、バスへと乗り換え2人はその場所へと到着する。


「・・・・むっちゃ田舎じゃん」

「岐阜もこんなものじゃないの?」

「なんか俺の地元に棘強くないです?」


 そう2人でバス停を降りると、他にもチラホラと観光客が見える。多分夏に来たらザ帰省した田舎って感じの景色なんだろうけど、今は冬な事もあって少しだけ寒い。


「あー鍾乳洞?」

「そ、ほんとは夏の方が涼しくていいんだけどね」

「へぇ~」


 看板を見つつ川に向かって下ってそこからまた登っていく。こういう地形を沢とか谷って言うのだろうか、それにしては日当たりは割と良いが。


「おぉ、人いるね」


 バスが止まっているのが見えたり、閑静な地域なイメージに合わず人が割と見える。


「1000円だから。用意しといて」

「あ、うん。りょーかい」


 そうして鍾乳洞へと入るが、まだ3月の太平洋沿いとは言えかなり寒い。念のため厚着してきてよかった。


「俺こういうとこ始めてきた。すごいというか圧巻だね」

「でしょ~、あ、ほらあれとか良くない?」


 普段見ない光景。それを会って半年しか会って無い人と来ることになるとは不思議な感覚だった。そして俺は興味深く視線を散らしていると、解説がついているある鍾乳石に目が行く。


「・・・・これ仏像に似てる?」

「ん~微妙だな」

「言われて見ればってぐらいだよね・・・・」


 2人で奥へ奥へと進み、鍾乳洞内にある滝や色んな形の鍾乳石。俺はそれを見ようと自然と視線が上を向いて行く


「すげぇ壮大じゃん」

「岳人、足元気を付けてよ。ここ滑るから」

「あ、あぁはいはい」


 ひんやりと足音が良く響く空間。


「ここ狭くない?」

「岳人柔軟剤何使ってる?」

「人の匂い嗅がないでくれます?」

「いやだって近いし」


 そうして時間にしたら1時間もかかっていないだろうか。俺らは鍾乳洞ツアーを終え、太陽の光を浴びる。想っていたよりも楽しくて満足度が高かった。


「じゃああっちのお土産屋いくぞ~」

「あ、うん」


 先を急ごうとする浜中さんの背を追いかける。こうしていると、周りからは普通のカップルに見えたりするのだろうか。でもそれは浜中さんの迷惑にならないか心配になってしまう。


「あ、餃子だって。食べる?」

「あーせっかくだし食べようかな。浜中さんも食べる?」

「じゃあ私もそうしようかな」


 そう言って財布を取り出す浜中さんだったけど、俺はここまで連れてきてくれたお礼だと二人分餃子を頼んで代金を払う。


「いいの?」

「今日のお礼だから」

「やるじゃん。おっとこまえ~」


 膝裏を優しくこつんと蹴られる。これぐらいで返せるなら安い物だし、事実この旅行は俺にとっても楽しいから。


「今から焼くのでちょっと待っててくださいね~」

「あ、はーい」


 そうして数分待つとパックに入った焼きたての餃子が俺達に手渡しされる。


「これが浜松餃子って奴か」

「私も始めて食べるかも」


 2人でそんな話をしながら割りばしで餃子を口に入れる。だけどやっぱ出来立てなだけあって熱くて、口に入れたはいい物の2人してハフハフしながらなんとか冷まして味わう。


「あっついけど、おいしいね」


 俺より猫舌じゃないのか先に一個目を味わった浜中さんが感想をそう先に言う。俺もなんとか飲み込んで、感想を続けて言う。


「野菜が多いのかな?」

「あーかもね、今度作ってみようかな」

「餃子作るのめんどくない?」

「まぁそれはそう」


 浜中さんが笑う。人の笑顔を見るとどうしてこうも楽しいのだろう。

 そうして少しだけ舌が火傷した感覚を覚えつつ餃子を食べきると、お土産を多少見回ってからまたバス停へと戻る。


「うわ、次30分後じゃん」

「まじか・・・・」


 と、そんな小さなアクシデントもありつつも、俺らはぼちぼち会話をしつつ帰路へと就く。移動時間の方が長かったはしたが、それでもその移動時間、あの時の事を忘れて誰かと話せた事が俺にとっては楽しかった。それに途中ご当地ハンバーグチェーンを初めて食べて美味しくて感動したし。


 そして朝集合した駅へと戻る頃にはもう18時に迫ろうとしていた。


「じゃあ今日はありがとね」


 流石に今日は終わりだろうと、俺がそう軽く頭を下げようとするが、それを浜中さんは不思議そうに見てくる。


「ん?まだこれからだろ」

「え、これからって・・・?」

「カラオケでも行かね?せっかく趣味同じなんだし」

「あー・・・・・」


 俺は音楽は好きだが音痴だ。リズム感もズレるし音程だって中々合わない。だから人とのカラオケはこれまでなんとか回避してきたけど、浜中さんの誘いを断るのはなぁ・・・・。


「あぁじゃあ行こうかな。あんまり遅くならないまでだけど」

「じゃー予約だけ先しとくわ」


 そうして朝8時から始まった今日は結局日が変わる直前まで続いてしまったのだった。けど久々に明るい気持ちで過ごせた一日でもあって、どこか立ち直れそうな気がしていた。いい加減どうしようも出来ない事で悩むのを辞めれそうな気がする。


 これから普通に大学生として生活して、普通に就活して、普通の所に就職して、結婚して子供が出来て、普通に死んでいく。そんな生き方を考えれるようになる。

 アンドロイドなんてもう関係の無い人生。それがこれからやってくるんだろう、そう根拠もなく前向きに思えるようになった。だから俺は浜中さんとの別れ際に。


「ありがとね。浜中さんがいてよかった」


 すると浜中さんは少しだけ恥ずかしそうに笑って。


「何言ってんだよ急に。あといつまで苗字呼び」

「あ、あぁ・・・結衣だっけ?」


 少しだけ恥ずかしさからどもりながらも、俺は要求通りそう名前を呼ぶ。


「そ、これからはそう呼んで」


 そうして2人別の道で帰る。と言っても浜中さんの家は近いらしいから、俺が少し遠回りしただけなのだけど。


「明日から頑張ろう」


 そう建物の間から見える狭い3月の夜空を見上げて、俺は一歩を踏み出したのだった。


ーーーーーー


 4月のある夜。

 そのアンドロイドは1人街を歩き回る。


「・・・・・いない」


 門浪千春、それとそのアンドロイド。あいつらさえなんとかすれば岳人さんは戻ってくる。

 でもそいつらはどれだけ探しても見つからない。前は簡単に居場所を特定できたのに、どうやっても見つからない。


「早くしないと・・・・・」


 岳人さんが私の事を忘れてしまう。私の事を必要としなくなってしまう。だから急がないといけないのに。そう私が駆けだそうとすると、背後で人が立ち止まる音がする。


「や、3ヶ月ぶりかな?相野穂高逮捕の時は世話になったね」


 振り返るとそこには蒲生定範、あの銀髪アンドロイドの所有者である警官だ。だが付近にアンドロイドがいる様子でも無いし、何か意図があって私に接触をしてきたらしかった。


「そーんな警戒しなくても良いのに。それに君にとっても良い話を持って来たんだけど」

「信用できると思いますか。私が貴方を」


 お前の所有するアンドロイドは私の事を毛嫌いしている。下手に関わるリスクの方が大きいのだから。

 でも蒲生は不思議そうにわざとらしく首を傾げ言う。


「そーいや先月の浜中結衣の交通事故って誰のせいなんだろうね?」

「・・・・・・証拠があった所で私は逮捕出来ませんよ」

「いやいやそんな事しないよ。でも堤岳人が知ったら君の事許さないだろうなって」


 つくづく不快な奴だった。

 私だってやりたくてやった訳じゃない。あれをしないと岳人さんが私から離れてしまいそうだったから、仕方なくなんだ。


「で、やっと本題に入れるけどね。僕と手組まない?」


 ニヤニヤと自分が優位な立場なことを分かった上で右手を差し出してくる。多分今こいつを殺しても何かしら対策をしているのだろう。


「・・・・お前のアンドロイドは頷くのか、それで」

「あれはなーんも教えてくれないし、機械は多ければ多いほど良いからね。捜査の人員も減らされてきちゃったし」


 つまりこいつの独断。でもこいつの所有物になれば直接危害を加えられる心配も無いか。それに浜中結衣の件をバラされては私も困る。


「それに門浪千春捕まえたいでしょ?それは私と目的一緒だと思うけど」


 私は一歩距離を近づけ左手を差し出す。


「・・・・・仮契約だ。一応従うけどいつ破棄するか私に権限を寄越せ」

「君もかぁ。アンドロイドってそんな勝手にして良い物なのかねぇ?」


 そう不満を零しつつ蒲生と私は手を握りあう。


「よろしくね。渚ちゃん♪」

「その名前で呼ばないでください。どうぞアンドロイドとでも」

「冷たいなぁ~、って機械だから当たり前か」


 不快な人間。だけどこれでまたあの日常が戻ってくるならどれだけでも私は動く。それしか私がまた岳人さんと過ごす未来を掴めないのだから。


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