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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
32/60

第三十二話 邂逅

1月5日 誤字修正


 成人式

 子供にとっては人生一度の節目の日。子供からだと分からないけど、多分親にとっても子育ての区切りを感じるイベントなのだろう


「ね、父さん」


 早朝、少しだけ霧の立ち込める中、墓前でゆっくり手を合わせる。

 振袖を着るために3時から準備する事になるとは思わなかったけど。そう一本の立ちゆく線香の白い煙を見る。


「やっと見せれた」


 一年前から気が早すぎるほどに楽しみにしていた父さん。レンタルで良いって言ったのに、いつのまにか買ってて、それに対して私怒ったっけ。

 でも形としてこういうものを残してくれたと思うと、少しだけ嬉しくもそれが悲しくも感じてしまう。


「誕生日プレゼントありがとね」


 立ちあがってお父さんに全身を見せようと、一周回って振袖を揺らす。今日は成人式で、私の誕生日でもある。この姿を父さんは楽しみに、偶にクローゼットの中を覗いて微笑んでいたのを覚えている。


「・・・・・ほんと親バカ」

 

 法的にはもう成人はしているけれども、ある意味今日が私が親元を離れれる日になりそうなのを感じる。


「それにこんな色んな人に弔われて」


 何種類の花が添えられ、何本もの線香の跡。年末にお世話になった人にお墓を教えたのにもうこんなに。

 どれだけ私の父さんがすごかったか、尊敬できる人だったのかを教えてくれる。私の憧れた裁判官としての父の背中、そして一人の親としての背中。今の私の指針になってくれた。


「また大学行くから。今度はバッチを付けて見せに来るよ」


 するとスマホがバイブレーションするのに気づき、日の出の暖かさを背中で感じながらその画面を見る。


「・・・・あいつか」


 堤君は1週間定期的に連絡をしてくれたけど、ずっと私の事を気遣っていてくれたのが文面から分かっていた。こんな私にここまで付き合ってくれて・・・・・


「無理やり付き合わせたの方が正しいか」


 ふっと自然に笑みが零れ、私はとりあえず返信をうつ。


「・・・・・ちょっと淡白かな」


 既読だけついて返信が来ないからスタンプを一緒に送る。するとあっちからは合わせてくれたのかお辞儀をする犬のスタンプが返ってくる。


「・・・変な奴」


 スマホを閉じ再び父さんの墓前に向き合う。と言っても今日の夕方にもう一度来るから、別れの挨拶は必要ないのかもしれないけど。


「じゃあ。いってきます」


 朝日が少し眩しい。それに朝が早すぎたせいかちょっとだけ眠い。

 でも私は会場へと足音を鳴らしていくのだった。


ーーーーー


 少し早く着いたからかまだ会場には人は少ない。

 でも比較的人の多い地域だから、これから人で溢れるかもしれない。そう思いさっさと受付だけ済まして、その辺をぷらつく。


(あ、中学の子だ)


 私は特段友達の多かったタイプでは無かった。だから顔見知りは居ても話しかけるような子は中々いないけど、少しだけ交友のある子を見かけると少し小走りになる。


「久しぶり。沙耶」

「ん?あっ!千春じゃん!むっちゃ綺麗じゃんー!」


 嬉しそうに跳ねる沙耶。誰にでも明るい子だったけど、この歳でもそれが変わらないままで良かったと思える。


「そっちも振袖可愛いね」

「うん!でしょー!」

 

 そう話している内に人気な子だけあって、人が集まってくるので会話もほどほどに私は少し距離を取って眺める。

 するとふと思い出したかのように、スマホのトーク画面を開く。


 あれからもいくつか送信されてきたメッセージ。どれにも既読を付けてこなかったけど、私はその大学の友人である奈々へと返信をうつ。


久しぶり。自分勝手かもしれないけどまた会わない?


 もう大学は退学してるから、同じ大学でまた学ぶかは分からない。でも私を気遣い続けてくれた子に、一言お礼は言わないと、そう思っての行動だった。


 そして奈々から返信を待っている間にも、式が始まるらしいので私は会場へと足を運ぶ。小さい頃から何かと使う機会の多い、劇場みたいな会場。


「━━議員さんのご登壇です」


 地元の議員が前に出て定型的なお祝いの言葉を喋り出す。ポスターで見る顔より老けて見える気がするけど、それよりも選挙区全部の地区の成人式に行っているのだろうか。だとしたら忙しいだろうなぁ。


 そんなとりとめのない事を考えている内に、式は終わりぞろぞろと会場から出て行く同級生たち。そして私は機内モードを解除すると、通知がありそれを開く。


うん!

いつでもいいから!

なんなら明日でも!!


 そんなメッセージと一緒に楽しそうに振袖姿で満面の笑みを浮かべる奈々の写真が送られてくる。でも流石に明日は無理なので、私は少し笑みを零しながら返信する。


もうすぐテスト期間だろうから、月末にでも


 もう少し言葉を選んだ方が良いだろうか。そう思いつつ何かまたメッセージを打とうとすると、頭上に影が掛かる。


「門浪ちゃんだよね?」


「・・・・・はい?」


 顔を上げると知らない男の顔。大学生っぽいセンター分けだけど、少し体格が良いから運動部だっただろうか。でもそれにしても、こんな奴と関りあっただろうか。

 

 そう私が困っていると、その男は薄ら笑みを浮かべ私に寄ってくる。


「え、覚えてない?中2で同じクラスだった高木よ!」


「・・・・・はぁ。で、なんです?」


 申し訳ないけど名前を言われても全くパッと来ない。でも馴れ馴れしく男は話しかけてくる。


「えー酷くない?同じ班だった事もあるんだけどなぁ」

「・・・・・あーすみません」


 なんで私が頭を下げないとと思うが、面倒くさいので軽く頭を下げ席を立つ。そして去ろうとするが、その男は私の右手を掴んでくる。


「はい?」

「もう帰っちゃうんでしょ?二次会も来ないって」

「・・・・そう・・・ですけど」


 意図が読めない。グループチャットの事前投票で参加できない旨の意思表明はしていたはずだけど。


「せっかく久々に会ったんだしさ。昼ぐらい食べない?」


 そう言った男に少し強めに手を引かれそうになったので、それを振り払う。そして今この男の意図がやっとつかめた私は、拒絶の意思を示す。


「無理です。約束があるので」


 さっさと会場の外へと急ぐ。男が何か言ってはいたが、これ以上付き合う必要も無いので小走りになりながらも急ぐ。


「・・・・ついて来ないのかよ」


 私を心配したというより、本当にただのナンパって感じでかなり印象が悪い。

 けど面倒くさいのから離れられたからまぁ良いか。そう私は切り替え、こっちで借りていたホテルへと向かう。


「・・・・流石に歩きはきついか」


 振袖で歩くにはかなり体力も使うし疲れる。だからタクシーを電話で呼び、多少時間はかかったけど駅前のホテルに到着する。


「荷物増えたな・・・」


 部屋へ戻ってしばらく使っていたキャリーバッグをベットの上で開ける。この所運ぶのが大変だと思っていたら、荷物が詰まりすぎていたらしい。


「・・・・・振袖は・・・・・いいか」


 また父さんに見せたいし。それに後であいつにも・・・・・・まぁうん、着替えないで良いや。

 取り出しかけた着替えを戻し、そしてその中の物にふと目線が行く。


「あ、傘」


 いつか堤君から借りた折り畳みの傘。そういえば借りっぱなしで返さずに持っていたままだった。

 そう思い携帯の天気予報を確認すると、午後から雨傘のマークがずらり。


「今日返さないとだよね」


 今日で私は堤君との関りを終える。だから清算すべき事はしておかないとだし、この傘を持っているといつまでも引きずってしまうかもしれない。


 すると今日はよく人から連絡が来る日らしく、さっき成人式で会った子から写真が送られてくる。どうやら一緒に写真を撮った子らしい。


「・・・・・・・・カメラ写り悪い」


 その写真をそのまま相野さんへと転送する。お世話になった人だし、いつまでも心配させたままだと良くない。そしてメッセージを添える。


成人式でした。色々お世話になりました


 あと何か言葉を足すべきだろうか。


「あ、これは入れないとか」


 まだ既読も付いていないけど、追いメッセージをする。


もう死ぬ気もありません。また今度お礼させてください


 それだけ送り私は携帯を閉じ、時計を見ると既に13時。私は一度ホテルの1階に降り、ホテルに併設されているカフェへと入る。


(人少なくて良かった・・・・)


 振袖だから目立つのを忘れていた。でも店に入った以上どうしようもないので、コーヒーとサンドイッチを注文して待つ。

 

 すると机の上に置いた携帯が震え、置かれたコップの水面が揺れる。


良かったです。

お礼は良いので、その時間でお友達と楽しんでください。


 それになんと返信しようか迷っていると、また相野さんからメッセージが来る。


あともう私に連絡しなくて、大丈夫ですよ。

千春君は千春君の人生を、送ってください。


 そんなメッセージになんて返信すれば良いか分からずにいてしまった。

 でも既読をつけてしまった以上、私はなんとか言葉を絞り出す。


でも一回ぐらいお礼はさせてください


 すぐに既読が付く。でも1分ぐらい固まったまま、何もトーク画面に動きが無い。でもやっときたと思った返信は。


じゃあ、またいつか。お願いします。


 無料で使えるスタンプが一緒に送られてくる。本当に分かったのか顔を見ていないから分かりずらいけど、今度ちゃんと私から会いに行こう。相野さんには顔を合わせてお礼を言わないといけない人だから。


 するとやっときたコーヒーの香りとサンドイッチが届く。

 だからスタンプで了解の意志だけ示しつつ、テーブルを占有し続ける訳にもいかないので食事を始める。


「・・・・・・あ、そういえば」


 何か見覚えがあると思ったら、ここの喫茶店昔来た事がある気がする。あの霊園にも小さい頃行った事あるし、もしかしたら父さんとここにも来た事あるのかもしれないな。

 サンドイッチを食べながら昔の事をつられるように思い出す。でも1か月と感じてしまう。


「・・・・・ん、ちょっと少ない」


 気付いたらサンドイッチの乗っていた皿が空になってしまっている。今まで大分食事を疎かにしていた反動かも知れないかな。

 

 そうして食事を終えた私は、ホテルの自室である程度時間を潰していると、窓の外で雨が降り出す。だからギリギリまで部屋に居ようと思っていると、また携帯にメッセージが来る。


今から向かいます。多分16時半にはつきます


 堤君からの連絡。少し早めに来るらしい。


「・・・っしと。行こうかな」


 今から出れば16時過ぎにはお墓に行ける。先に色々落ち着けておきたいし、また父さんと向き合う時間を作っておきたい。

 だから私は振袖のまま、堤君の折り畳みの傘を開いてホテルから外に出る。


「雨つよ」


 パラパラと言うよりバリバリって擬音が合いそうな雨足だった。だから勿体ないけど、せっかくの振袖を汚さない為私は一度ホテルに戻ってまたタクシーを呼ぶ。

 でも雨の日の宿命か、またタクシーの到着が遅くなり結局霊園に到着したのは16時15分になってしまていた。


「あいつ大丈夫かな」

 

 堤君の地元から距離あるけど流石にタクシーを使っているだろうか。

 そんな事を思いつつ父さんの墓前へと立つが、流石にこの天気じゃあマッチに火をつけるのも大変なので手を合わせるだけにする。


(色々心配かけたかもしれないけど、今日で終わりだから)


 心の中で天国の父さんに報告をする。自分でもこんなに心に整理を付けれるとは思わなかったけど、それもこれも色んな人の助けがあったからなんだと今になったら分かる。


 そしてもうちょうど良い時間かとスマホを出そうとするが。


「あ、ホテルに忘れた」


 やらかしたなそう思っていると、水たまりを弾く足音が雨粒に混じって聞こえてくる。堤君ちょっと早く来たんだなと思いつつ、傘を少し上げ視界を広げ墓の家名を見る。


「・・・・・・じゃあ見ててね」


 そう呟いてその足音の方向へと向くのだが。


「・・・・え、だれ」


 いや誰と言われれば、私の知っている人ではあった。


「さっきの」


 さっきの成人式で登壇していた議員の人だ。でもだとしてもこの時間にこの場所にいるには誰と思わざるおえない人でしかない。


 でも何か切羽詰まったように議員は水浸しになりながら膝をついて、私に訴えかけてくる。


「け、警察ッ!!!」

「え、あ、は、はい!?」


 突然の事に焦るが私はホテルに忘れている携帯を探すようにポケットを漁るが、その時また別の足音が迫っているのに気づいてそちらに視界を向けるのだが。


「あいつは・・・・・」


 あのアンドロイドだ。忘れもしない父さんを殺した二人組の片方。顔は雨で見えずらいけどあともう一人付いてきているし、やっぱりあの二人組だ。

 

 その事実が判明した時点で、この議員の人が狙われている事に気付いた私は110番を押そうとするが、やはり携帯はホテルに忘れたまま。そしてそれに気を取られた瞬間、消え入りそうな叫び声と地面に弾く金属音が響く。


「・・・・・・ッ」


 議員の血走った目が私を見上げる。そしてその奥では背中にあの男の右手が突き刺さり、ゆっくりと水たまりに赤い液体が流れ出る。


「・・・んで・・・・なんでこんなとこに・・・・・ッ」


 息が浅くなっていく。

 でもそれよりも私を混乱させるのは、もう一人の現れた男の存在だった。


「太郎、ちょっと早いって・・・・・・・・え?」


 その男と視線が合う。雨音すら聞こえなくなる程鼓動が早くなるのを感じる。


「ち、千春さん?」


「相野さん・・・・・・・」


 意味が分からない。なんで相野さんがここにいるのかも、なんでここで人が死んでいるのかも。そしてそのアンドロイドと相野さんが仲間である事も何もかも。


「なんで・・・・・なんでなんでなんで」


 いつもなんでこうなんだ。なんでいつも私には不幸しか来ないのか。私が何をしたって言うんだよ。

 なんでいつもこんな私ばっかり。なんでこんな幸せになりかけたら不幸ばっかり。


「・・・・・うそ・・・・絶対嘘」


 酷く。ただ酷く雨粒の弾く音だけが響く。

 いつの間にか傘は落ち、せっかくの振袖はびしょ濡れになる。でもその寒さすら忘れる程、私の体は緊張で強張ってしまう。


「・・・・・・・・もう・・・なんで」


 自分の体から力が抜けていくのが分かる。

 何か目の前の二人が話しているのは見えるけど、その言葉すら認識できない。

 

 そうしてせっかくの私の振袖はびしょ濡れになり、その思い出と貰った気持ちごと雨に流されて行ってしまった。



 


 

 

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