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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
31/60

第三十一話 順風満帆


 帰省から街に帰ってから一晩が過ぎた。

 でも未だ渚は帰って来ない。だから俺はいつ帰ってくるのかメッセージだけ送りつつ、年始初めての講義の為大学へと足を進めていた。


 するとすぐに渚からの返信が画面に表示される。


昼までには戻って家事をしておきます。


 渚が結局頭を冷やしたのかも分からない。それにそういった行為がアンドロイドにとって意味のある物なのかも分からない。


 でも事実渚は自分で考えて理解する時間を設けた。その事実だけでも俺は大事だと思いたい。


「・・・・っと赤か」


 足を止め次に千春さんへと連絡を取る。千春さんのお父さんの墓の場所は昨日送って貰えたけど、時間の合わせが渚の一件で中断されまだだったからだ。


多分こっちの同窓会でも17時にはいけそうです


 夕飯は無理で昼飯だけになってしまうが仕方ない。俺が助けたいと無理やり手を取らせた人なんだから、その人が立ち直ろうとしているならそっちを優先するのが義理。


 するとこ信号が青になって歩き出したタイミングで、スマホが震え返信が来る。


じゃあ私は先に墓参りだけして待ってるから


 そんなメッセージと共に猫のスタンプが送られてくる。もう答えを保留としたとは言え、千春さんが立ち直ったんだろうと俺はどこか確信に近い物を感じていた。だから墓参りは儀式みたいなもので、千春さんが感情に区切りをつけるためのものなんだろう。


 そうして俺は歩きスマホを止め大学への道を急ぐ。パラパラと雪が降り始めているが、それが道に積もる事無く溶け水たまりになる。

 

「明けましておめでとう」


 そして大学の講義室に入った俺は、一週間と言えど久々に会った気のする浜中さんへと挨拶をする。


「ん、おめでと」


 機嫌は・・・・・まぁいつも通りか。気圧低いから機嫌悪いかと思ったけど、そんな事は特に無いらしい。

 するとその浜中さんから話しかけてくる。


「実家どうだった?」

「ん?ゆっくりできたよ。久々に家族で話せたし」


 抱える問題が解決の兆しを見せて、個人的にもじいちゃんからお年玉貰ったし。今の所順風満帆って奴だな。


「へぇ~いいじゃん」


 そう言う浜中さんはどうなのかと、話の流れで俺も質問を返す。


「そっちはどうだった?」

「私はいつも通り。てかこれ見て」


 その質問を待っていたと言わんばかりに、浜中さんは俺に距離を詰めスマホを開いてカメラロールを見せてくる。


「あ、これ投稿の奴?」


 正月の色んな人の初詣の投稿に混じって、浜中さんが上げたおせちの投稿を思い出す。良い物食ってんなぐらいにしか思わなかったが、どうやら俺の想定を超えてたらしく浜中さんは少し誇らしげに言う。


「そう、自作」

「え?自作?全部?」

「うん、多分二度とやらない」

「へぇ・・・・すっげ」


 写真をまじまじ見るが、どう見ても売り物のそれにしか見えない。この品数をわざわざ作ったのかと思うと、尊敬より怖いが先に来る。


「だろ?お前いいねぐらいしろよ」

「いやぁ・・・なんかしづらくて」


 俺が気にしすぎなんだろうけど女の子の投稿っていいねしずらい。男なら出来るんだけど、なんか下心あるとも思われそうとか勝手に感じて出来ない。


「でもすごいだろ?」

「普通に尊敬。これ伊達巻も自分で?」

「そう巻きす買ってやった」

「家庭力ありすぎじゃん」

 

 楽しそうに写真をスクロースして色々な料理を見せてくる浜中さん。余程自慢したかったらしいと、その弾む手つきを見て分かる。

 

「あ、柴」


 急にカメラロールから可愛らしい犬のドアップが映し出される。すると浜中さんはあぁと零しながら、優しく笑って言う。


「これ実家のモチ」

「餅?」

「名前だよ名前。モチ」


 可愛い。猫派だけど柴ならちょっと飼ってみたいかもしれない。毛の管理大変そうだけど。


「てか実家帰ったんだね」

「まぁ日帰りでね。静岡だし時間もそこまでだから」


 自分から帰省の話をしないから、触れて欲しく無いのかと思っていたけどそんな事無かったらしい。そう思ったのだが、浜中さんは少し苦い顔をしつつ言う。


「もっと居たかったんだけどな、母さんが仕事だって」

「あぁ・・・・・そういうね」


 と、気まずい空気になりかけた所で、チャイムが鳴ってくれた事で一旦会話は終わり講義へと集中する。でも講義も何か特筆するような何かも無いので、ただシャーペンを走らせるだけで時間は過ぎる。


「じゃあ月末は定期試験なので勉強を始めるように。以上」


 そうして講義室内がガヤガヤとし始め、俺も筆箱も仕舞い曲がった腰を伸ばす。すると浜中さんも体を伸ばしながら顔だけ向けてくる。


「飯どこにする?」

「え?」


 俺は鞄を持ちかけたまま固まる。が、浜中さんは何を言っているんだと言わんばかりに続ける。


「学食行くなら早くしないとだろ」

「あ、あぁそういう・・・じゃあ学食で」


 俺が飯に誘われてたって事か。そう遅まきながらも理解した俺は、先を行こうとする浜中さんを追って学食へと向かう。

 そう急いだのだが、既にぼちぼち列が出来ていたので少しだけ俺らは待つ。


 するとタイミングを見計らったかのように、千春さんが寒さに体を縮めながら言う。


「・・・・で、なんかあったろ岳人」


 俺の方を見ることなく浜中さんがそう列の先へと視線を送る。多分以前俺が千春さんと会った時を見ていたから、その事を心配していてくれたのだろう。


「まぁんー別に嫌な事では無かったよ。だから心配は大丈夫」


 俺がそう答えると浜中さんは視線をも押しまじまじと俺を見てくる。俺は何か変な事を言ったのか不安になりつつ、低姿勢で尋ねるが。


「・・・なんです?」


「・・・・まぁ顔色はちょっと悪いけど元気そうっぽいか」


 そう自分で納得したのか浜中さんはまた列の先を見て、両手ポケットに入れてしまう。でももうこれ以上心配をかける事もないだろうし、全部終わったらちゃんと言おう。浜中さんのお陰で随分心は楽になったしな。


「うん、だからまた飲みいこ。今度は奢らせて」

「お、気前良いじゃん。お年玉効果?」

「まぁそんなとこ」


 そうしてぼちぼち会話しつつも俺らは昼飯を終えると、そのまま講義も違うので別れる。で、講義が終わって帰れたら良かったが、今日はバイトなので帰る時間は結局23時になっていた。


「・・・・渚もう帰ってるよな」


 スマホの待ち受けに浮かび上がる時間を気にしつつ、帰路を急ぐ。寒さは田舎も街も変わらず、耳に手足の先、体の末端を冷たく感覚を失わせていく。


「うわ、郵便溜まってんなぁ」


 帰省する前に回収するのを忘れてたせいで、広告やら色々詰まってしまっている。それらをゴミ箱へと突っ込み、エレベーターへと乗り込む。


 ガランガランと運ばれ4階に降りる。そしてカギを回すと、いつもと同じ窓際に渚が俺を迎える。


「おかえりなさい」


 いつもと変わらず平坦な言葉。まだこの状況じゃあ渚がどう考えているのか分からない。

 でも俺が部屋の中へと入りダウンを脱ぐと、渚が俺の後ろに回ってそれを受け取る。


「成人式の日。私は岳人さんと一緒にいないことにします」


 背中からその感情の読めない声を聞きながらも、俺は体を身軽にして後ろへと振り返る。


「・・・その意味は」

「私がその場にいるべきじゃないと思ったからです。彼女も私がいない方が話しやすいでしょうし」


 つまり千春さんへの警戒を解くって事なんだろう。それこそ俺の安全どうのって常に言っていたのに、俺と千春さんを二人きりにするのを許容するのだから。


 そう言う事なら渚は俺の考えを理解してくれた、そう考えてもよさそうだな。


「整理はついたってことだね」

「・・・・思う所はあります。けど、これ以上粘っても理解は得られないと」


 俺はベットに腰掛け、渚を見上げる。迷いに迷ったとそう顔に分かりやすく書いてある。

 アンドロイドにも葛藤というのがあるのか、そんな事を思いながらもやはり感情に近しい物はあるんだろうなと感じる。


「じゃあ俺は成人式の日に千春さんと会うからね」


 渚はそれで良いのか、その選択に後悔は無いのか。最後の念押しの確認。

 でも渚は腹が決まったのかすんなりとそれに頷く。


「えぇ、ですが何か彼女にされたら私がすぐに介入しますから」


「うん、分かった」


 これで俺を取り巻いていた問題が全て解決する。そう思うと肩の荷が下りたというか、体から力が抜けるような感覚がする。


 そう俺は背中をベットのマットレスに預けつつ、渚へとなんとなく問いかける。


「ちなみにどこ行ってたの?」

「・・・・以前の砂浜です。エネルギー補給も兼ねて」


 県外だと割と遠いな。だから一日で帰って来れなかったのか。


「エネルギーってそんなにすぐ切れるんだね」

「いえ、1年は自律的に行動できます。だからついでです」


 一番の目的は心の整理を付ける為ってことか。


「ならじゃあまた今度海いくか。釣り、久々にしたいし」


「・・・・・・」


 聞こえてなかったのか渚からの返事が無い。だから俺は天井に向いていた視線を戻すように、体を起こしてその渚を見る。すると思い出したかのように渚は答える。


「あ、あぁそうですね。ちょっと釣りは経験が無いので・・・」

「大丈夫なんとかなる。じゃあ釣り竿買っとかないとだな」


 そうしてその日、そしてその一週間、時間が流れても特に何か起こる事も無く普通に過ごして行った。大学行ってバイト行って渚の料理を食べる。久々に落ち着いた時間を過ごせた気がする。


 だからだろうか今までの一週間と違い、あっという間にその成人式の日を迎えていた。そして今俺らは地元の駅へと早朝に到着していた。


「渚はどこにいるつもり?」

「私は駅前で待機しておくので」


 それだけ会話を交わし俺らは地元の駅で降りると分かれて行動をする。そして俺はまたバスに揺られ、地元の会場へと降りる。葬式以来にスーツを着たから違和感もあるけど、そもそもスーツってこんな寒い物だっただろうか。


 そんな事を想いつつバスから降り革靴を鳴らして、人だかりの出来る会場へと進む。


「お、堤ーっ!!」


 あれは・・・中学の頃の同級生だろうか。高校で隣町の方に行っていたから、かなり懐かしい感覚が強い。


「久しぶり。割ともういるね」

「多分堤が一番最後なぐらいだと思うぞ」

「えぇそんなに?」


 電車には余裕を持って来たと思っていたけど、それだけ皆早く来ていたって事なんだろうか。

 そう思いつつも俺らは会場の中へと入り、物の良い椅子に腰を下ろす。そしてどこか義務教育を思い出す偉い人の話に、同級生の宣誓を聞く。式と言ってもここより、後からの飲み会がメインみたいな所もあるから仕方ないけど、普通に退屈ではあった。


 そうして式が終わった後はそれぞれバラバラになり、会場の駐車場で各自旧交を温めた。俺も久々に見る友人の変化を見るのは楽しかったが、それでも今日俺にとってのメインイベントは他にあるからどこか上の空だったと思う。


「じゃあ予約してあるから飯行こうかーっ!!」


 中学3年のクラスの時のまとめ役の男が声を張り上げる。俺もその声に会話を止めスマホを見ると、確かに12時半と丁度いい時間だった。


「堤夕飯は来ないんだっけ?」

「うん、ちょっとね」

「なんだ彼女か~?」

「違うって、すぐそういうのに繋げる」


 そんな会話をしつつ俺らは、地元から少し離れた所にある中華料理屋へと向かった。移動は各自車を使う事になったが、なんとか友人の車に乗り込み向かう事が出来る。


(ちょうど千春さんのお父さんのお墓に近いな


 近づくと言っても同じ町に入っただけで、まだ数キロの距離はある。でもこれならある程度時間に余裕を持ってこれそうか。


「飯代先に徴収だってさ」

「ん?あーおけ」


 飯と言っても酒は一応あるらしく、結局食事会は2時間程かかってしまった。この時間にそんなべろべろになって、二次会どうするんだろうと思うが成人式なんてそんなものだろうか。そんな事を想いつつも、やっぱり昔の友人との会話は楽しい物ではあった。


 そう思いつつ俺は駐車場でたむろする同級生たちを横目に、スマホを弄る。


今から向かいます。多分16時半にはつきます


 すぐに既読が付きまた猫のスタンプが返ってくる。どうやら千春さんのお気に入りのスタンプなのかもしれない。

 そして俺はスマホを仕舞い、少しだけ声を張り上げる。


「じゃあ俺帰るからっ!!また!」


 酔っ払いから素面まで、久々に会ってすぐ帰るノリの悪い俺を笑顔で手を振ってくれる。また今度同窓会があったら最後まで参加しよう、そう思える暖かさだった。


「・・・でもスーツはちょっと寒いな」


 俺はすぐにダウンを着込んで中華料理屋から離れ足早に国道沿いを歩く。その道中タイミングの悪い事に雨が降り出すので、俺は渋々コンビニでビニール傘を買う。


「・・・・・折り畳み持ってこればよかったな」


 天気予報を見てくる事を怠った俺のミスではあるが、この出費は痛い。交通費に食事に今日は大分お金の出入りが多いしな。


「・・・・・・」


 パラパラと透明の傘に雨粒が弾いて行く。そして歩を進めるごとに、水たまりが増え小雨の様相から本降りになりつつあった。


「こんな日ぐらい晴れろよな・・・・」


 着込んでいても寒いし、足元には地面で弾かれた雨粒で濡れてしまう。そして車道沿いを歩いている宿命か、スピードの落とさない車の餌食となる。


「冷たっ・・・・教習受け直せよまじで」


 バシャと水たまりの雨水が飛び散り、なんとか傘で守ろうとするが足元はもう既にダメそうだった。タクシーだったし、会社に通報でもしてやろうか。そう苛立ちから思いはしたが、この時には目的地に近づいていたらしく、でかでかとある看板には霊園まであと1キロと書いてあるので、その怒りをなんとか抑える。


 そうして雨に濡れながらも、俺は初めて千春さんのお父さんの霊園へと到着する。

 千春さんと出会ってまだたかだか2週間程度。それで千春さんの人生の選択に関われると思うと、変な感覚を覚える。


「・・・・よしッいこう」


 俺は頬を叩き気合を入れるようにその一歩を踏み出す。今日で千春さんがよりよい人生を送ってくれるよう願いを込めて。


 そしてそれと同時にお墓を守る様に生えている生垣の先から、大きな破裂音の様な落雷の音がする。


「・・・・・天候荒れすぎだろ」


 近場に落ちていない事を願いつつ、雨水の染み込んだ靴下を気持ち悪がる。


「千春さん傘持ってるかな」


 あのコンビニで2本買っておけばよかったか。そんな場違いな考え事をしてしまう。

 でもまぁ今更仕方ない。そう俺は水たまりを避けながらその霊園を、千春さんと約束した場所に時間にと進んで行ったのだった。




 



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