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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
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第二十五話 帰省


 駅のホーム。年末と夕方な事も重なりあってかなりの人混みだった。

 それにこの駅のホームは独特で、一つのホームにいくつもの路線が出入りするから人が多いと余計に列が分かりずらい。


「千春さんはどこいるか分かる?」


 人混みをさけ人を探すにはアンドロイドの方が良いだろうと渚にそう聞く。でも渚は何を言っているんだと言いたげに、俺のその後ろを指差す。


「いますよ。後ろに」

「え?」


 振り返る。 

 するとそこには先日と変わらず暗く荒んだ顔をする千春さんがいて、少しだけ驚きから心拍が跳ねる。


「うわびっくりした」

「・・・・・」


 千春さんは俺と目が合うなりいきなり睨み返してくると、さっさと俺らを置いてその路線の列へと並ぶ。初見で迷ってないって事は、もしかしたら千春さんも同じ地方の出身なのだろうか。


「岐阜、行った事あるんです?」


 俺は千春さんに関して知らない事が多い。渚に調べさせれば大体分かるんだけど、そういうのは嫌だし信頼関係を築くためのコミュニケーションを取りたい。

 でもその当人は俺との会話を嫌がるようで、通り過ぎる別路線の電車を眺めただ沈黙するまま。


「・・・・・・・」


 ならそちらが口を開くまで俺が話すか。そう俺は隣に並び距離を詰めるが、千春さんはそれを見て一歩俺から距離を作る。


「俺の地元岐阜でさ。まぁ中でも田舎の方だけど」

「・・・・・岐阜なんてどこでも田舎だろ」


 やっと口を開いたかと思ったら、なんて事言うんだこの人は。いくら俺の事嫌いでもそんな極端な主張を。名古屋も近いし物価も安くて良い土地だってのに。


「・・・・まぁそうかもしれないね」

 

 言い返しても仕方ない。千春さんはそう思うってだけで、俺はそうは思わないってだけ。

 まぁでも俺の実家駅まで割と時間かかるから、この感じの千春さんだと不便に思うだろうな。街出身と地方出身じゃ考え方も違うだろうけど、この人が俺の家に来る以上、多少は地元の事好きになって欲しいしどうしようか。


「あ、でも田舎って言っても1時間で名古屋に来れるし車さえあれば別に不便は━━」

「1回黙れないのかよ」


 思いっきり睨まれてしまった。ここまで会話を拒否され続けるとやっぱりメンタルに来るけど、それでも俺はこの人とまず普通に会話を出来るようにならないと。そうしないとこの人の決心を翻意させることなんて夢のまた夢。


「あぁじゃあ地元の神社で初詣とか行く?甘酒とか配ったりしてるしさ」

「・・・・・・」


 無視されているせいか余計に周囲の雑踏が聞こえてくる。自分から無理やりついてきてるんだから、多少は口を開いてほしんだけど。


「それにやっぱ田舎は夜が綺麗だから偶に散歩すると良いんだよね~」


 俺は明るく作りそう言うのだが露骨に聞こえるぐらい大きく舌打ちが聞こえてくる。


「あんたと喋りに来たんじゃない。話しかけるな」


 これ以上は藪蛇か。まぁ年末年始も時間はあるから、これを機にゆっくりと会話をしてもらえるよう扉を開いてもらえば良いか。


 そう思いつつ俺達はやっと来た電車に乗り込み、席が無いから3人並んで立ち乗りする。


(・・・・・あっつ)


 ダウン脱ぎたいけど後ろも人いるし、中々動きずらい。もう少し人が乗らない時間にすればよかったかと後悔もするが、この時期だといつでも変わらなさそうか。


(・・・・・千春さんは・・・・・本か)


 何か小説だろうか、カバーをしているから何を読んでいるかは分からない。それにあまり覗くものでも無いかと、俺も自分のスマホへと視線を落とす。


岳人さんの向かいの席の女性。アンドロイドですから出来れば場所移動してください


 俺がスマホを見るのと同時に渚からの通知がやってくる。それを見た瞬間スマホを掴む力が強まり、一気に冷や汗が噴き出す。そしてまたスマホが震え、更に通知が流れる。


この距離だとあちらも気付いています。それに恐らく隣の女性が所有者です。絶対に刺激しない様黙っててください。


 ゆっくりバレないように視線を上げる。アンドロイドってのは・・・普通の女の人だな。所有者って人の方も多分社会人でなんの変哲の無い女の人。


(普通そうだしそこまで警戒する必要ないか)


 何でもない様に笑い合って普通に会話をする二人。アンドロイドがどうとか言われないと、ただの日常風景の一つになってしまう程に。


「・・・・・・ッ」


 でも俺の視線胃気付いたのか二人の会話が途切れると、一瞬アンドロイドの方と目が合った。けど俺はすぐに携帯へと視線を戻したからそこまで怪しまれていないはず。


 そう激しくなった心拍を抑えながら、スマホの画面を凝視する振りをしながらも視界端にそのアンドロイドを見るが。


(・・・・やばい、ずっと見てくる)


 渚に似た冷たい視線。同種のアンドロイドなんだなって、ここでやっと身を持って分かった気がする。

 俺はチラッと千春さんを挟んで向こうにいる渚へと視線をやるが、あちらは全く視線を寄越さず天井の広告を見上げている。


「愛衣どうしたの?」


 目の前のアンドロイドの所有者の女性がそう話しかける。するとそのアンドロイドは何でもない様に、笑顔を取り戻しさっきの明るい会話のトーンで返す。


「ううん。なんでもないよ」

「そう?なんかあったら言ってね」

「心配しすぎだって詩織は」


 随分この二人は仲が良いらしい。千春さんはこの二人を見てもアンドロイドを破壊すべきって言うのかと思って、なんとなく横を見るが相も変わらず本に没頭しているらしい。


 そして俺はまた正面へと視線を戻すと、会話が終わったのか愛衣と言われたアンドロイドがまた俺を見ているのに気づく。


「・・・・・・・・すぅ」


 普通に怖い。隣の女の人と話している時とのギャップが酷い、というかこの所俺人に睨まれすぎじゃないか。


 そんな胃がキリキリする時間が続いていたが、どうやらこの人たちは途中で降りるらしく荷物を纏めだす。そして扉が開くと、その女性二人が立ちあがるが、その去り際人の雑踏に紛れて聞こえてくる。


「・・・・・関わるなよ」


 俺がその言葉に返事をする前に、その二人は姿を消してしまっていた。そして俺が目の前の席に視線を戻すと、どうやら千春さんが先に座ったらしく俺の座るスペースは無くなっていた。

 

 そしてまた電車が動き出すが、隣に渚が並び近づいてくる。


「「・・・・・・・・・」」


 アンドロイド関係の話題に対して渚が過剰反応しないか不安だったが、とりあえずは普通にでいてくれてよかった。考えが読めないだけに、こいつの対応にも気を使わないといけないから疲れる。


(胃薬買ってかないとなぁ・・・・)


 そうして俺達は一回の乗り換えを挟み地元の最寄り駅へと向かう。でもいつも帰省する度に通らねばならない、あの夏以来一度も降りていない駅をを通る。

 

 これがあるせいで俺はあまり帰省はしたくないんだ。そう俺は口元を抑え何も考えない様自分の足元を見る。


「・・・・・・・うっ」


 でもチラつく。駅前の緑色の塾の看板、それに近くまで流れる小さな川。思い出すにはまだ俺が受け入れきれない、赤色の記憶が蘇る。


「ここで吐くなよ。トイレで吐け」


 ふと千春さんが汚物を見る目でそう言ってくるが、俺は大丈夫だと手を振る。


「大丈夫ちょっと立ち眩みしただけ」


 それにこの駅のトイレなんて行きたくない。またあの日の何も出来なかった自分を思い出してしまう。

 でもそんな時間も長くは続かず電車は少ししてまた出発をし、その駅を後ろへと追いやる。


 それで多少俺は楽になった感覚を覚えていると、千春さんが席を立つ。


「・・・良いんです?」


 席を譲って貰ったと思い、俺がそう言うが千春さんはというと舌打ちをしながら言う。


「腰痛いだけ」


「・・・・・ありがとう」


 俺の感謝に何か千春さんが返すわけでも無く、手に持った本へと視線を戻すだけ。スラっとしててコートで眼鏡をかけているからか案外絵になる。


 そうして椅子に座り一旦落ち着いた俺達はそのまま電車に揺られ、その最寄りの駅へと到着する。お盆以来の帰省だから少し懐かしくも感じる。そうノスタルジックな感覚になりながらも、改札を出てロータリーへと歩を進める。


「バス待つんで飲み物いります?」

「・・・・いらん」

「でも時間かかりますよ?」

「・・・・・・」


 今日何度目かの黙れと言わんばかりの沈黙。でもさっき席も譲ってもらったし何か返したいからと、俺は自販機に300円いれココアとコーンポタージュを買う。


 そして駅前に設置された冷たいベンチに座る千春さんにその2缶を見せる。


「どっちが良いです?俺はココア派なんですけど」

「・・・・・・・ッチ」


 相も変わらず厳しい睨みを食らう。でもめんどくさくなったのか、白いため息と共に俺の手からココアを奪い取る。


「千春さんもココア派なんすね!」

「・・・・・・」


 自分でも無理しているのが分かるが、そろそろメンタルがきつい。ここまで人に無視される経験もそう出来ないだろうな。

 そう考えながらも俺らは1時間弱ほどの間は、流石に俺も会話を投げかけはせず、渚も立ったまま恐らく千春さんに警戒し続けるだけ。


「あ、バス来ましたね」


 それが1時間ぶりに俺が発した言葉だった。そうして俺らはまた公共交通機関に乗り込み、窓の中の色が森の緑で満たされていくのを眺める。


(懐かしい)


 康太を駅まで送る時に自転車で通っていた道。いつも帰省する度に昔のことが思い起こされる。

 でもいい思い出と一緒に思い出したくないような思い出まで湧いてくる。それをなんとか振り払うように、俺はイヤホンを耳に差し音楽を流す。


 隣に渚。1個前の席に千春さん。一応父さんには人を連れてくる事は言ってあるけど、千春さんはどう説明したものか。


 そんな悩みに答えが出ないまま目的のバス停へと到着してしまう。


「行きますよ」


 本に視線を落とす千春さんの肩を叩くが、すぐにそれを振り払い立ち上がる。そして更に重ねるように、まるでゴミが付いたとでも言わんばかりに肩を手で払われる。


(・・・・・モヤっとするなぁ)


 そんな事がありながらも俺らは寂れたバス停へと降り、俺を先頭に実家へと歩き出す。


「人いませんね」


 渚が当たりを見渡しながらそう言う。


「まぁ大体こんなもんだよ」


 背後から視線を感じる。俺と渚が話すだけでこうやって千春さんは睨んでくる。警戒しすぎというか、病的というか、そんないつも張り詰めてると限界が来そうなものなのに。


 そうして十数分程歩き俺は実家を目の前にする。


「・・・・鍵は・・・・あった」


 俺が高校の頃使ってた自転車のカゴの中から家の鍵を取り出す。まだ父さんは仕事らしく、車が無いから家にいない。


「渚は俺の部屋から出ないで。千春さんはあとで父さんに説明するから」


 そうして俺は鍵を回ししばらくぶりの実家の敷居を跨ぐ。懐かしい線香の香りが遠くからしてくる。そして俺は二人を連れ階段まで近づくと、父さんが締め忘れたのか和室の襖が開かれていて千春さんが珍しく口を開く。


「仏壇。あるんだな」

「ん?まぁ・・・・・そうだね」


 私の視界には和室の奥に壁に埋め込まれる形でたたずむ仏壇と、それに立てかけられる写真が見えた。

 中年ほどの女性と、中学生ぐらいの少年の写真。それが誰の事を言っているのか、聞かないでも分かってしまう。


「良いから上がりますよ」


 でもその当人である堤は、私の背中を押しさっさと二階へと私を連れて行こうとする。まるで私に見せたくないものかの様に。


「・・・・え、あ・・・あぁ」


 そんな情けない言葉にもならないような返事しか出なかった。 

 そして数日前自分がこの男に投げかけた言葉を思い出す。


「家族死んだ奴の気持ち分からねぇんだろうな。だからそんな偉そうに説教が言えんだろ」


「親が目の前で死んだことあんのかよ。無いからそんな他人事みたいに人の命をなんとも思ってない事言えるんだよ」


 これを言った時こいつはどんな顔をしていただろうか。この事を黙っていて、私のこんな暴言を聞き流していたのかと思うと、舐められているのか憐れまれているのか余計にそれが腹立たせる。それに自分の事ばかりになっていた私自身にも。


「・・・・・んで言わねぇんだよ」

「言っても信じました?」

「・・・・・」


 数段上の階段へと登る何ともなさそうな堤の顔を見て余計に腹が立つ。自分は良いから私に情けを掛けてやっていると言いたげな同情を含んだ笑い。どこまでも私の事をバカにしているんじゃないかとも思ってしまう。


「・・・・・・ッ」


 だから何か言ってやろうと口を開くが、仏壇にさされた一本の線香を思い出すとその言葉が喉でつっかえてしまう。すると堤が階上から私を見下ろして言う。


「だからって貴女の苦しさを矮小化するつもりはないですから。俺の事も7年前の事ですからお気になさらず」


「・・・・・・偉そうに」


 でもどうせやる事は変わらない。こいつらを監視して下手な事をさせない、そして父さんの仇探しを早くさせる。それが今私に出来る敵討ちに一番近い方法だから。


 そう私は後ろで私が階段を上がるのを待つアンドロイドへと睨む。すると大げさに首を傾げアンドロイドは言う。


「なんですか?」


 あれだけ道中散々私の事を殺意の籠った眼で睨んでおいて、ご主人の目がある所だと良い子ちゃんかよ。


「んでもねぇよ。要らんことするなよスクラップ」

「はて、私の事を指すに不適切な語彙ですね。一度言葉の意味を調べてから発言しては?」

「・・・・・減らず口が」


 主人も腹立てばその所有物も腹の立つ。

 ここに来たのを後悔しそうにもなるが、それでも私は使命の為階段を一歩上がる。


「クソきめぇ」


 そうして他人の家。他人の死の匂いがする家での年末年始が始まるのだった。

 

 

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