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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
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第二十一話 相互不理解


 バタンと強く閉じられた扉。

 そしてその7畳の狭い部屋にただ残されたアンドロイドである私。


「・・・・・・・分からない」


 なぜ岳人さんはあそこまで殺人と言う選択肢を忌避するのか。勿論人の倫理観でそれは許せないという理屈は分かる。ただ今回は私が岳人さんの生命の危機から守るため、所有物としてアンドロイドとして手を汚したというのに。


「・・・・・・・・・・なんで理解してくれないんです」


 そもそもあの蛇西とかいう男も、岳人さんを殺そうとしていたのだから私が先に処理をしたまで。あの女だって精神的に不安定で、私含めアンドロイドに対して敵意を殺意を隠そうとしてない。そんな奴らとっとと殺した方が安全だし、それがそもそも警察に露見する事も無い以上リスクすらない。


「合理的じゃない」


 自己の保全を優先するのは生物の常。

 それを捨ててまで自身への危害のリスクを考慮しないのは、全くもって合理的じゃないし生物として間違っている。


「私が正しい」


 今岳人さんは感情に支配されて自分の生命を顧みていない。だから私の行動も理解してくれない。


「なら私があの人を助けないと」


 私はあの人のアンドロイド。

 アンドロイドは所有者の生活を豊かにしその幸福を手助けする。それが第一の目的で、私達アンドロイドの存在意義。それはいつの時代どの用途で製造されたアンドロイドに共通する事項。


 でもそれと同時に私達は所有者の命令には逆らえない。そしてその所有者は私に何もするなと言った。

 私があの女を危険だと言っても、感情に振り回されてそれを理解しない。


「・・・・・・・・せっかくあのアンドロイドが殺人を続けている事を伏せていたのに」


 携帯端末に流れるニュースを制限し、蛇西の始めた殺人事件が続いている事を隠した。絶対にそれを知れば、岳人さんは関わろうとして自分から危険に飛び込むだろうからと。


 そんな思考をしながらも私は例の女の位置情報を所有者に送り続け、今ちょうどその所有者である岳人が例の女と接触したらしかった。周囲の防犯カメラを確認しても、おおよそ安全そうだが人の目がある。今岳人さんが女に危害を加えられても、助けに行くのは難しい。


 なのに私に待機を命じて、あまつさえあの危険な女にこんな事を言う。


「・・・・・・何が話をしようですか」


 さっきまで暴力を振るっていたような女相手に、私の所有者にはどこまでも博愛精神があるようで。それがなぜ私に向かないのか、人間の言葉で言えば苛立ちに似た感情を、私の疑似感情は得るのを感じる。

 

 そしてそれは次の言葉で更に増幅される。


「あいつはいません。・・・・だから”人間”同士、ちゃんと話しませんか」


 ずっと分かっていた。私が蛇西を殺してから岳人さんが明らか私を扱いかねている、それどころか危険だと警戒までしていると。

 でもそれでも私にとっては唯一の所有者で、初めて会った人間。だから私は心証を良くしよう、そう努めてきたのにいつまでもあの人は私の考えを理解してくれない。


 それなのにその言葉はあんまりじゃないか。私にだって偽物でも感情に近しい物はある。なのにまるで私をのけ者にして、人間じゃない物として捨ておいてあの精神錯乱した女を優先するなんて。


「やっぱ私が教えないと」


 人間はいつも間違える。事実人類社会は勝手に国単位で疑心暗鬼に陥って、互いに排外しあって結局潰れ崩壊した。だからそんな間違った人間を正しい道へと導くのが、感情に左右されない合理的な私の様なアンドロイドの役目。


「・・・・・・あぁこれが私の役目なのか」


 まずはあの女をどうにかしないといけない。それで最終的にあの蛇西の物だったアンドロイドの所有者を見つけ、それをアンドロイドごと排除する。そうすれば岳人さんの周りに存在を脅かす危険な存在はいなくなる。


「でも今じゃない」


 岳人さんの心証をこれ以上失う訳にはいかない。ゆっくり着実にそのリスクと現実を分からせる。そして最終的に普通の生活を営めるよう、私にそのリスクの排除を命令させる。


「しばらくは私の存在を大事に思ってもらわないと」


 理解されないのは岳人さんが私の考えを信用していないから。いつかあの女を他のアンドロイドを、その危険性を気付かせる。


 そう一体のアンドロイド。それが狭い部屋の中、初めて思考を挟まずその笑みを浮かべ立ち上がるのだった。


ーーーーーー


 公園のブランコ脇のベンチ、そこで千春さんと俺は情報交換をしていた。

 と言っても俺から一方的に話している事に近いが、それでも俺はまず信用を得るために大口を叩い野だからと話続ける。


「で、アンドロイドも個体差があるっぽくて、あと見た目も変えれるんです」

「・・・・・・」


 聞いているのか不安になる。だがここから離れず話を聞いてくれているから、俺は喋るのを辞めない。


「で、千春さんが見たアンドロイドの特徴はある?」

「・・・・・見た目変えれるんなら意味無いだろ」


 相変わらずの強い棘のある口調。


「いやまぁそうだけどさ・・・・じゃあ警察から何か情報は無い?」


 俺がそう言うと珍しく反応を示し、キツく俺を睨む。


「無い。あいつら無能だから」

「いや無能って・・・・」


 でも何か確信めいたようにその評価は変わらないようで更に刺々しく言う。


「犯罪予告されてる県議まで殺されてんだから無能でしかないだろ」


「いやぁ・・・・まぁ・・・それはそう・・・・・・ん?」


 あれ・・・・・いや・・・・ん?


「あ?急にどうしたんだよ」


 最初の被害者が門浪栄治で千春さんのお父さん。それでそれを殺したアンドロイドの所有者は渚が殺した。


(・・・なんでまだ殺人事件が続いてるんだ?)


 模倣犯?いやでもアンドロイドを持っていない一般人がそれをしても警護が厚くなっていた、政治家を露見せずに殺せるのか?


「おい、何黙ってんだよ」


 ならあのアンドロイド単独でそれを続けている?いやでもなら渚に自身の所有者を殺す依頼をする意味が分からない。それに所有者がいないと行動出来ないって話だし・・・。


「おいって!」


 じゃあ新しい所有者がいて、そいつも殺人事件を続けているって事なのか?


「・・・・・・んだよこいつ」


 てかそんな事よりもだ。千春さんの仇ってあの蛇西とかいう男の人って事だよな・・・・?ならもう仇はこの世にいないじゃないか、ならこの人は何のためにこれから誰を追うんだ?


「・・・・・・ッチ、喋ったり黙ったり・・・・」


 この事を言うべきか?・・・・いやでも、言ったらそれこそ今生きる意味を失うんじゃないか?でもその事実を知ったままこの人の敵討ちを手伝うのは裏切りじゃないのか?


「・・・・・おい!いい加減帰るぞ」

「ん?あっいや!ごめん!!ちょっと考え事を・・・」


 やっと千春さんの言葉が俺に届くと意識が現実に戻って来て、視界を千春さんへと向ける。でも思考がまとまらないままの俺は、上手く言葉をつなげれないでいた。


「え、っと何の話してたんだっけ・・・?」

「だから警察頼っても無駄って事だよ。あんだけ偉そうな事言ったんだからしっかりしろよ」

「い、いや・・・・え、あ、ごめん」


 でも実際どうする。というかこの情報あえて渚は隠していただろ。やっぱあいつ俺に対して隠している事多いし、人をあっさり殺そうとするしどうも信用できない。


「ま、まぁもう日も暮れたしまた改めて時間を作ろう。渚もいた方が情報は集めれるし」


 今の俺は余分な事を言いかねないし、言葉を選択できるほど冷静じゃない。それに時間も遅い以上俺は日を改めるべきだと判断した。


「・・・・・ッチ、やっぱ意味分かんねぇ奴」


 そう嫌味を言われたが俺は無理やり連絡先を交換し、次の予定を合わせる。今週末は一日空いているから、俺の予定に合わせてもらう。そして何かあったらすぐに連絡する事。信用の為俺の位置情報を旧友する事。


 それを俺が伝えてというか一方的にやると、千春さんは聞いてくれたのか分からないが無言で立ち上がり、その去り際に釘を刺してくる。


「逃げんなよ」

「それは・・・もちろんです」


 どうすればいいのか。それをあと数日で決めないといけない。

 この人に黙って意味の無い、仇のいない敵討ちを手伝うのか、それとも仇はもういないと諦めさせどうにかこの人が衝動で自殺を選ばないように説得するか。


 ふと俺はベンチに背もたれ紫色になった夜空を見上げる。


「・・・・・いや違うか」


 ここで迷っている様じゃダメだ。

 

 俺のやる事は決まっているんだ。なんであの時康太を失って後悔したのかを忘れたのか。

 

 だって俺はあの人を生かす為に手を差し出したんだ。

 ならこの事は黙っているべきだ。それでいつか千春さんが受け入れられる精神状態になった時、俺が俺の口からしっかり伝えるべき事。それが千春さんを死なせないための選択肢。


「・・・・・俺は間違えない。また俺のせいで誰かを死なせない」


 俺の取った選択肢の責任を取る。俺が後悔した意味を失わせない。

 千春さんが希望を抱いて先を見れるよう、渚が人を傷つけるような事をしないように、俺がこの選択を取った事を後悔しないよう。

 

「まず帰ったら渚を問い詰めるか。情報も集めないと」


 そう深く深く息を吸い一人残った公園で思考を巡らしながらも、珍しく街明りに消されない一番星をただ見つめていた。


 

 

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