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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
16/34

第十六話 生きる意味


「挙動不審すぎませんかね」

「いやぁ・・・・・」


 警察に職質をされてからの道のり。やはりと言うべきか明らか焦りすぎ挙動不審になっていた俺は、渚に詰められていた。


「あと山田ってなんですか。適当すぎません?もう少し考えてくださいよ・・・・」


「・・・・・・すまん」


 緊張する癖と言うか気が小さいのか、あんな場面だと固くなって変な事を口走ってしまう。だが咄嗟に嘘をついてしまったのは申し訳ないが、それはそれとしてなぜあのクレーターが残っているのかと疑問に思う。


「あのクレーターってアンドロイドのだよな?なんで隠してないの?」

「知りませんよ。あっちが全部処理すると言っていたので放置したのですが・・・・」


 アンドロイドでそんなケアレスミスの様な事をするのだろうか。そう思うが渚が分からない以上あっちのアンドロイドに問いたださないと分からない事か。だがそれも含めて渚が意図的にしているのではと、疑いそうになるのはやりすぎだろうか。


 そんな考えがチラつきながらも、俺は先ほどの警察の件に関して懸念事項を確認する。


「ちなみにカメラとか大丈夫だよな?俺ちょっと嘘ついちゃったけど・・・・」


 あの公園にいたのは21時。関係ない事を示すために微妙に時間をずらし嘘をついたけど、それがバレたら余計に怪しくなってしまう。


 そう思っての心配だったが、やはり渚は呆れたように頭を抱え言う。


「防犯カメラに写ってたらまず私達が怪しまれてますよ。映像で分からなかったから聞き込みしているんでしょう」

「・・・・・じゃあ映像は加工済みって事?」

「そうです。私がいる以上岳人さんに疑念が降りかかる事はありませんよ」


 そもそも渚とあのアンドロイドがやらかすからこんな事になっているんだぞと言いたくなるが、ここで強く出ても渚の反感を買うだけか。そう俺はグッと言い返したくなる気持ちを抑え黙っていると、渚は俺に釘を指すように言う。


「ですが一応の警戒として私が岳人さんの身代わりをしないようにしましょうか。あとは他アンドロイドとの接触も」


「あいよ」


 他アンドロイドとの接触は職質前に話していた内容に繋がるんだろうな。まぁ渚が言う事をそのまま信じるなら、日常生活を送りたいなら他アンドロイドと接触はして欲しくないだろうしな。


(でも、俺にとっちゃお前がいる事で日常生活はすでに無いと言っても過言じゃないが)


 得体のしれない物への恐怖感、何をしでかすか分からない不安感、感情に近しい物がある反応をする割に、人を殺しても平然とする思考の違い。俺にとってはこんな奴と生活するなんて気が休まる瞬間が無い。


「・・・・・それに警察までとか」


 次から次に不安が湧いてくるから頑張らないと。そうして俺は胃がキリキリするのを抑えながら、まだ続くアンドロイドとの生活を耐えるのだった。


ーーーーーー


 そうして警察からの電話に怯え渚への対応に苦心し続けた俺だったが、週末まで何事も無くに日々を終え今は生活の為バイトへといそしんでいた。正直今も渚を一人にしていると思うと、何をしているのか不安でしかないが背に腹を変えられない。


「らっしゃいませー」

「袋お願いします」

「5円と3円の袋がありますがどちらにいたします?」

「入る方で」


 それぐらい自分で考えろ。足りないとかになって文句言われたらめんどいから、答えは決まってるんだけど。


「じゃあ5円の袋にしますね~」

「・・・・・」


 ダメだ、長時間レジしていると些細な事でイライラしてしまう。この所ストレスばかり溜まっているせいもあるが。

 

 そんなこんなで丁度6時間勤務した所で今日はバイトを切り上げる。いつもは休日は時給も上がるからと休憩をしてがっつり午後もバイトに入るのだが、今日は予定があった。


「ごめん待った?」


 定型的な言葉を投げかけつつ約束した5分前にその集合場所に到着する。

 そして駅内のモニュメントで約束をしていた浜中さんがスマホから顔をあげる。


「ん。行こうか」


 軽く返事をし浜中さんはすぐに歩き出す。それを少しだけスマホの暗くなった画面で前髪を気にしつつ、その背中を追う。


「今日付き合ってくれてありがと」

「いや、俺も気になってた映画だからこちらこそ」

 

 一昨日の夜。突然連絡がきたかと思うと、どうやら最近公開された映画を見たいとの事で相手として俺が指名されたらしかった。ギリギリシフトを提出する前で助かったが、俺が断っていたら誰を誘ったんだろうかとは気になる。


(でもペア割の為なんてそんなベタな・・・・)


 大学生割でも大分近いぐらい安くなるのにそこまで気にする物なのか。俺も節約志向だけどそこまでこだわるなんて尊敬だな。

 そう思いつつなんとなく会話を投げかける。


「浜中さんって映画でポップコーン買う派?」

「いや、普段は買わないかな。勿体ないし」


 まぁ割引の為にペア割まで使おうとするから当たり前は当たり前か。だが、割引要員だとしても多少男を見せないとか。


「じゃあ俺は買うから少しだけ貰ってよ。多分一人で食べるには多いし」


 だがそうは言ったもののどうやら要らぬ気遣いだったようで、浜中さんは自慢げに財布から何か紙をひらりと取り出した。


「無料券あるから」

「・・・流石っす」


 やはり浜中さん相手だと空ぶってしまう事が多い。俺が変に気張り過ぎって事なんだろうけど、緊張しいのは性質だから仕方ないか。


 そんな会話をしつつ俺達は少し歩き映画館の中へと入るが、やはり公開すぐの土曜と言う事もあってか人の量はかなりのものだった。だから俺は急いで予約しようと発券機の方へと向かおうとしたのだが、それを制止したのは浜中さんだった。


「もう予約してある。ポップコーンとか買ってく」

「あ、はい。了解っす・・・」


 少しだけ肩を落とし準備の良い浜中さんの背を追う。自分でも空ぶっているのが分かってしまうだけに、勝手に恥ずかしくなってしまう。


「飲み物は何にする?」

「あ、じゃあコーラで」


 セットで無料って大分お得な券だな。

 そうなんとなく思いながらもプレートを受け取り入場ゲートへと向かう。今日の映画の前評判はまだ知らないが、なんとなく予告は面白そうだったから楽しみだ。


「でもアニメ映画とか見るんだね」

「まぁ友達が面白いって言ってたから」

「へぇじゃあ楽しみだね」

「・・・だな」


 まだ入場時間じゃないから微妙な待ち時間が発生する。前よりは比較的話すようになったとはいえ、そこまで互いに共通する話題が無いから言葉に詰まってしまう。

 だけど無理に話す事も無いかとポップコーンの角度に気を付けつつ、チケット代だけ浜中さんに渡すと入場ゲード上のモニターを眺める。


「あ、入れるっぽいね」


 そうして二人して入場ゲートをくぐり、何やら特典があるらしかったがとりあえず浜中さんに持ってもらいシアターの席へと座る。


(お、いい席)


 丁度真ん中あたりで通路沿いの2席。俺は一つ奥側に座り浜中さんを通路沿いの席に誘導する。そしてそのまま座り心地の良いチェアに腰を深める。


「なんか上映前の広告って良いよね」


 声を抑え隣に座る浜中さんに話しかける。


「なんか分かる。普段ここ以外で見ないし」

「ね、特別感と言うか」


 そんな会話をしつつスマホの電源を早めに切り、少しだけ周囲を伺う。


(やっぱ多いな)


 まだ入場始まったかりなのに人入りがすごいし、これはほぼ満席になりそうか。いつも上映してから期間が経って席が空いてから見に行くタイプだから、中々珍しい感覚というか落ち着かなくてソワソワする。


「ポップコーンいい?」

「あ、どぞどぞ」


 と、そんなこんなでシアター内の電気が消え上映が間近になった事で、俺達も会話を止め画面に集中する。


 そうしておおよそ2時間ほどだっただろうか。面白くないとは思わないけども面白いとも思わない、そんな何とも言えない気持ちで俺はエンドロールを見終わっていた。


「先外出てて」

「あ、うん。分かった」

 

 化粧直しだろうか。そんな風に思いながらシアターから出て浜中さんと別れると、エントランスの柱にもたれ掛かって待つ。


(あ、でもネットの評判あんまりなのか。うーん)


 あまり見ない方が良いか。流されやすい性格だし、変にお金損した気持ちになりかねない。

 スマホから顔を上げエントランス内を歩く人達を見渡す。


「お兄ちゃん!早く!」

「分かりましたから。そんなに焦ると零しますよ」


 女子中学生と社会人だろうか。かなり兄側が美形というか中性的な人で目を引く。会話的に兄妹なんだろうけど、家庭の差か敬語とか使うものなんだな。


 そう俺がなんとなく道行く人を視線で追っていると、近づいてくる足音に気付く。


「ごめん待たせた」

「あ、うん大丈夫だよ」


 柱から背中を離し浜中さんを迎える。女の子はいつもこうやって外見に気を使い続けないといけなくて大変だな。


「・・・・・・」

「・・・・行かないの?」


 何か求めるように浜中さんは経ったまま俺を見つめてくるが、俺が問いかけると諦めたようにスタスタと歩き出してしまった。


(むっず)


 俺はそう思いながらも浜中さんの隣を歩き、冬枯れの外のの空気を吸う。

 昼飯にしては少し遅いし夕飯には早い時間。浜中さん次第だけどどっかカフェ的な物があれば良いんだけど。


 と、それは浜中さんも同じように思っていたらしく、数分歩くと少し路地に入ったカフェを指差す。


「あそこでいい?」

「あ、うん。雰囲気良さそうなとこだね」


 しばらく金銭的にカフェとか来てないから少し緊張するなとか思いつつ、扉のベルを鳴らす。そして窓際の席に俺達は腰を下ろしとりあえず一息つく。


「いつも来てるの?」

「たまに。帰りたくないときとか」

「あ、へぇ・・・・」


 俺は気まずい話題から逃げる様にメニューを開き反対側からそれを覗く。普段金が勿体ないからと来ないからか、少し割高に感じるそれを見ながら考え込む。


「俺は抹茶ラテかな」

「可愛いじゃん」

「え、そう?」


 ガキっぽいだろうか。でもコーヒーあんまり飲めないから無理して背伸びするのはなぁ。

 と、そんな事を考えている内に浜中さんは店員さんを呼び注文を進めていた。


「━━と私はブレンドコーヒーで」


 どうやら浜中さんは普通にコーヒーが行ける人らしい。そうして注文が終わりメニューを仕舞うと、早速と言うかその為にここに来たんだろうけど、浜中さんが話しかけてくる。


「映画。どうだった?」


 少しだけ考える。せっかく誘ってもらったから面白くないとは言えないし、一応褒めるとこから入ってみるか。


「あー俺は面白いと思ったかな。映像も良かったし」


 ネットの評判が脳裏を掠めながらも俺はそう感想を述べる。


「・・・・・・・・」


 だが何故か浜中さんは黙る。何か考えている様な感じではあるけど、感想を言い合うだけでそこまで考え込むのだろうか。そう不安になりつつある中、浜中さんは少し申し訳なさそうに窓の外へと視線をずらす。


「・・・・自分から誘っといてあれだけどちょっとあんまだった。ごめん」


 正直びっくりしていた。割と毒舌で気にせず言うかと思ったけど、そういう事気にしてくれるタイプの人だったか。


 でもその気遣いも俺にとっては助かる物だった。


「実は俺もあんまりだとは思った。いきなり悪く言うのはあれかと思って・・・」


 少しだけ申し訳なさそうにし俺も頭を下げる。すると浜中さんも俺と同じ感想だったことで安心したのか、ほっとした表情で背もたれにもたれ掛かる。


「なんだ、じゃあ良かった」


 そう言ってコーヒーに口を付ける。それを見て俺も釣られるように抹茶ラテに口をつける。


(あ、甘くない)

 

 甘党だから少し残念。

 俺がそう思っていると浜中さんが少しだけ笑い言う。


「それなら酷評会になりそうかもな」

「かもね」


 そうしてそれから一時間弱は浜中さんと映画についての談議になり、夜は浜中さんがバイトと言う事もありカフェを後にする。正直ここしばらく渚関係で気が張り詰めてたから、かなり気分的に楽になった時間だった。


「うわ、さむ」


 そんな満足した時間を過ごし、カフェの外に出ると冬なせいか少し空が夕暮れ模様になっていた。


「もう今年も終わりだしな」


 そういえば気付かなかったが今日の浜中さんはやけに暖かそうなもこもこした服装をしている。そう思うと同時に口が同時に動いていた。


「そのマフラー可愛いね」

「・・・・ん?これ?これはストール」

「?なんか違うの?」

「まぁ・・・大きさとか?」


 そう言って浜中さんは口元をそのストールとやらで隠した。その仕草に少しだけドキッとしつつ、これが俺の癖なのかとも思いつつも二人でとりあえず駅の方へと歩を進める。


「実家には帰るの?」

 

 道中なんとなくの会話の流れで浜中さんが質問を投げかけてくる。


「まぁ帰るかな。流石に顔出さないとだし」

「地元どこだっけ」

「岐阜だよ岐阜。その中でも田舎の方」


 まぁ実家といっても親父とばーちゃんじーちゃんだけだが。それでも一人息子で多少仕送りもしてくれてるから、忙しくても帰らないと不義理ってのものだ。

 

 すると岐阜と言われ返答に困ったのか浜中さんが軽い口調で言う。


「へぇ~いいな岐阜」

「良いかな岐阜?」

「分からん行った事ないから」


 互いに少しだけ笑いが漏れ白い息が上がっていく。以前に比べれば柔らかい感じで話せるようになった気がする。でもそんな時浜中さんは何かあるのか、少し真面目な真面目な雰囲気を作る。


「一人暮らしなんだよな?」

「・・・?まぁそうだけどどうしたの?」


 突然どうしたのかと思いつつ寒さに体を縮めつつ浜中さんを待つ。でも浜中さんにそこまで考えがあった訳では無いらしく。


「いや、ただ確認しただけ」


 そんな会話をしつつも俺達はなんとなく会話をしながら、まだ駅までの距離は多少あり少し人気のない所に通りかかった頃。


「あ、この大学も受けたんだよね。校舎綺麗だし駅近いし」

「へぇ確かにキャンパス綺麗だな」


 そんな会話をしながら恐らく正門を通り過ぎようとした頃、2人の女子大生が喧嘩をしているのが目に入ったのは。


ーーーーーー


 また夢を見ていた。

 最近眠りが浅いせいなのだろう。自分だけが俯瞰して夢の中の出来事を眺めているだけ。でも嫌味かのようにいつもいつも父さんとの事ばかり。


「・・・・・・ごめんな情けない父親で」


 夕暮れの音が無くなったマンションの一室。机の上には項垂れるお父さんと置かれた1枚の書類に指輪。今色々法律を学んだあとだと、母親はお父さんだけじゃなく私の事も嫌いだったから置いてかれたのだと分かる。


「家に一人で寂しかったらいつでもおじいちゃんの家に行って良いからな」


 力なくお父さんの大きな手が小さな私の頭を撫でる。


 夢の癖に私が思い出したくない弱った時のお父さんの事を意地悪く出してくる。こんな夢から覚めたいがどうやってもこの夢は続くようだった。


「今日は久々に外でご飯食べようか。何が良い?」


 この時なんて私は答えたんだっけ。思い出せないせいか小さい私の声が聞こえないまま、場面は切り替わり記憶の夢は進んで行く。


「デザートは何か食べるか?なんでも良いぞ」


 あぁ結局ファミレスに行ったんだっけ。お父さんがそれで少し困惑していたのを思い出した。でも私はなんとか暗い父さんを励まそうと、無理に明るく振舞って、それが空回って余計にお父さんに悲しそうな顔をさせてしまって。


「千春は子供だから何も気を使わなくていいんだ。我儘も言っていいしお父さん以外を頼っても良いんだぞ」


 そう言ってまた私の頭を撫でる。そしてまた夢の中のお父さんが俯瞰していた私を見上げたかと思うと、そこでまた夢から覚めてしまう。


「・・・・・・また」


 アメニティの少ないビジネスホテルの一室で体を起こす。こっちに戻って来てからずっとここで寝泊まりしているが、結局何か犯人に繋がる事も掴めずただ無為に時間を浪費する。


「・・・・・・煩い」


 開いたスマホの画面を閉じる。雑音雑音雑音、あまりにこの世界は1人で生きるにはうるさくて堪らない。

 いつまでも通知を送り続ける元友達に鬱陶しさを覚えスマホを投げ捨てる。そしてそれにつられるように私もベットに倒れ込む。


「・・・・・・・一言いってやるか」


 何もしていないよりはましなはず。そう思い私はホテルをあとにカツカツと足音を鳴らしコンクリートの地面を蹴る。 

 ただでさえ何も出来ていない現状に苛立ちを抑えきれないが、それを邪魔するようにスマホには通知が溜まり続けていた。


講義の課題来週までだよ~

今日も講義来ない感じ?

不在着信

テスト勉強間に合いそう?

不在着信

なにかあったの?

何かあったら連絡してね

不在着信

不在着信

明日とか学校で会えない?

不在着信

じゃあ今週の土曜に15時に大学の正門にいるからね


 最初こそ複数の友達から連絡は来ていたけど、ここまでしつこく連絡してきていたのは1人だった。正直鬱陶しい事この上ないし、私はこの子ともう関わりたくも無いしその必要が私にはない。


「鬱陶しい」


 通知を全部消しトーク画面の送られたメッセージすら全て消す。見ているだけでイライラするしただただ不愉快だった。


「・・・・煩い」


 街中の笑い声に話し声が気持ち悪く纏わりつく。全部全部うるさいし、誰もかれも自分を笑っているように感じてしまう。


 そんな苛立ちと共に私の歩調は早まり寒空の元進む。もう帰ってしまおうか、そう思いそうになってしまうが鳴りやまない通知を消すために歩を動かす。


「・・・・・いる」


 16時についたというのに、正門でどれだけ待つ気だったのが厚着をした奈々の姿が見える。相変わらず向こう見ずなお人好しな事には変わらないらしい。


「・・・・・・・久しぶり」


 数歩分の距離を開け奈々へと言葉をかける。すると人の良さそうというか人の悪意を受けてきた事ないんだろうなっていう、無警戒で嬉しそうな笑みを浮かべ奈々は駆け寄ってくる。


「久しぶりっ!!やっと会えた!!!」


「・・・・・・・・・」


 一方的に抱き着いてきて涙まで流してしまっている。割と仲の良かった友人だったはずだけど、案外これにどうとも思わなくなってしまっている自分に少しだけ驚く。会えば多少は心が動くかとも思ったけど、やっぱり私のすべき事は固まっているって事らしい。


 そう改めて認識させてくれた奈々にある種の感謝をしつつ、私から突き放し言葉をぶつける。


「もう連絡しないで。鬱陶しいから」

「え、いや・・・でもこうやって会いに来てくれたんだし・・・・・」


 冗談だよねと言いたげに私を見上げてくる。私と仲良くした所で何にも得もないどころか、不利益までありそうなのに良くもまあここまでするものだな。


「いい加減辞めてもらうために言いに来ただけだから」


 そう言って背を向け来た道を戻ろうとするのだが、そんな私のコートを奈々が掴み引き留めてくる。


「ゼミの先生から聞いたっ!!お父さんの事!」


 その言葉に足を止め振り返る。

 よくもまぁずけずけと他人の触れて欲しくない事に踏み込んでくる。善意が元の行動ならなんでもして良いって事らしい。


「だから?奈々に関係ある?」

「だって!!学校も来てないし!!私心配でっ!!!」


 声が大きいせいか周りの注目を集めてしまっている。

 それにただただ他人に父さんの事が噂話として、一時の話題の為に広められている事に腹が立った。そしてそれが私に僅かに残っていた元友人への気遣いが無くなってしまった。


「いいから離して。もう関わらないで」


 無理やり引っ張る様にして奈々の手を引き離す。そのせいで転んでしまっていたが、それを見下ろし手を差し伸べる事はしない。


「じゃあさようなら」


 ここに来たのは失敗だった。少しの同情と罪悪感があったのかもしれないけど、それも思い違いだったらしい。結局こいつも私を心配している自分が可愛いだけなんだろう。そう思うと後ろ髪を引かれる事なんて無い。


「ちょ、ちょっと!!千春ちゃんっ!!!!」


 通行人が何事か私達に視線をやるが、それを無視して私は奈々の声から遠ざかろうとする。


「・・・・・まって・・・・待ってよ・・・・・・・」


「・・・・・・ッチ」


 一々弱々しく庇護を求めるような声に腹が立つ。だがもう振り返る理由も義理も無い。そう思いつつもレンズ越しに見える地面を見てしまっている。と、そのせいか誰かの所に突っ込んでしまいそうになり、視界が揺れる。


「え、あ、すんません・・・・」


 ぶつかった男が気まずそうに頭を下げ進路を譲る。近くに女もいるがそれに従うように道を譲り不審そうに私を見てくる。


「・・・・・・・」


 あぁダメだ。関係ないこいつの阿保面ですら腹が立ってしまう。

 だけど私にはまだやるべき事がある、そう感情を押さえつけ歩調を早め帰路につく。いつまでも奈々の声がやけに聞こえて、離れなかったけどそれでも私は1人で歩いた。


 どうせ死ぬんだから何か残そうなんてしなくていい。誰かとの関係を維持する必要なんて無い。

 

「私はただ父さんの仇をとるだけ」


 それが今の私の生きる意味だから。


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