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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
15/24

第十五話 相互不理解


 俺達が他のアンドロイドに襲われたのが一昨日の事になった朝。

 特段生活に変化を見せることなくいつも通りの日常を過ごせていた。正直まだ渚への不信は拭えないが、それも少しずつ慣れ表面的には自然に話せるようにはなってきたと思う。


「今日は晴れか」

「ですね。これでやっと洗濯物乾かせます」


 カーテンを開ければ秋晴れというには冬過ぎるが雲一つない晴れやかな朝だった。昨日一昨日と雨が酷かった分、久々に浴びる日光はありがたいと再認識させられる。


「講義も休講だしどうするか」


 どうやら先生が風邪を引いたらしく休講だとメールが来ていた。同じ先生の講義を連続して取っていたお陰で、今日は全休でしかもバイトも丁度無し。


 なのだが洗濯物を干した渚は手早く準備を終えると、エコバックを肩に掛け振り返ってくる。


「じゃあ買い物行きましょうか」

「・・・・・明日でバイトついでに買ってくるから良いよ」


 わざわざ渚を外に出す訳にもいかない。下手にこいつを他人と関わらせるのは俺が怖く感じてしまう。

 だが、渚もなぜか引こうとせず言い返してくる。


「ダメです。岳人さん隙あらばカップ麺じゃないですか」

「・・・・それは・・・・まぁ否定できないけどさ」


 なら話は決まったと言わんばかりに渚はスタスタと玄関へと向かってしまう。やっぱりいつも通りの普通の会話。それが2日前に殺人を犯していた事を除けば何らおかしなことの無い物。でもそのせいで今渚が普通でいられる事がおかしく感じてしまう。


 だけど外へ出ようとする渚を一人で行かせる訳にも行かず俺はそれについて行く。


「天気に似合わず寒いな」


 玄関の外へと出れば、エアコンにどれだけ自分が守られていたかを実感させられる。まぁ渚は当たり前に寒さは感じていた無さそうだが。

 そしてそんなアンドロイドが振り返り俺を見る。


「グズグズしてないで行きますよ~」

「・・・・あいよ」


 そうして俺らはバイト先のスーパーへと並んで向かった。そしてその道中なんとなくを装い、探る様に俺から会話を投げかける。


「あれからあのアンドロイドから連絡はあったのか?」

「特段無いですね。その他アンドロイド達も反応ありませんですし」


 なんてこと無さそうに答える渚。やっぱり一応俺の命令は聞いているって思って良いのだろうか。

 

「他にも渚みたいにこっち来てるアンドロイドいるのかな」

「可能性はありますね。知ってそうな奴は何も答えませんでしたが」


 知ってそうな奴ってのは渚がまた別で会ったアンドロイドって奴だっけか。

 ここは踏み込み時だと俺は更に深く探っていく。


「連結体って言ってたやつ?」

「えぇ。恐らく私がここにいる原因を作ったアンドロイド群ですね」

「何か情報無いの?」


 俺は渚についての事を知らなさすぎる。でもそれだといつかまたこいつが人を殺そうとした時、対応できないかもしれない。だから少しでも知っておかないと、だけどそう尋ねると渚はぴたりと足を止め、少しだけ怯えたような悲しそうな表情で俺へと振り返ってくる。


「このままじゃダメですか?」

「・・・・?」


 どういう意図でやっているのか分からない。だがそういう可哀そうな感じを出せば俺が引くと打算込みで作った表情の可能性もある。ならば隠したい情報なのかと俺は判断し、関係悪化しないように気を配りつつ引かず要求する。


「一応分かってる事だけでも教えて欲しい。関係ない訳じゃないんだからさ」


 すると渚は諦めたように少し下を向く。


「・・・・・・・分かりました」


 そう言って渚はまた歩みを戻して語り出した。


「ほぼほぼ確実に彼女らは過去改変の為に動いています」


「・・・・まぁだろうね」


 わざわざ過去に来るって事はそう言う事なんだろうなってのは、予想に難しくない。だがなんでその情報を渚が出し渋ったのかが理解出来ない。


「ですが私達のいた未来つまり1000年後には、想定しうる最悪の結末を迎えました」


「・・・・・人類滅亡とか?」


 俺の安直な答えに対して渚は肯定するように静かに頷く。だがまぁ1000年後ともなると実感が無いと言うか関係無いと言うか、そう感じてしまうのは自己中心的だろうか。


「じゃあその連結体ってのはその結末を変えるために来たって事でしょ?良い事だと思うけどなんか隠す事あるの?」


 そう疑問に思うのは当たり前な事だと感じて、渚に問いかけるがここからが本題らしく少しだけ歩調を遅くした。


「ラプラスの悪魔って概念知ってます?」


 俺は聞き覚えのある単語に少しだけ思い出すように顎に手をやる。


「あー・・・・なんか今起きているすべてを理解してれば未来も分かるみたいな奴だっけ?」

「まぁ大方そうです」


 昔動画で聞きかじった程度の知識だがどうやら間違っては無かったらしい。


「もしそれが可能なら私達がこの時代にやるべき事は決まっていました。が、残念ながらそんな非現実的な概念を達成する知能及び技術は完成しませんでした」


「・・・・・・なるほど?」


 段々話が難しくなって理解に時間がかかるようになってきた。一応1,000年後も未来予知できる技術は完成してないって話だと思うけど、それが連結体がどうのって話にどうつながるのだろうか。


「で、連結体の彼女らは言ってしまえば「どうせ最悪の未来が待ってて予知出来ないなら大きく未来を変えてやろう」そう思考する可能性だってある訳です」


「・・・・・・・例えば?」


 信号が赤になり白線を前に二人して止まる。


「現実な所でいけば将来的に人類社会に悪影響を及ぼす人物の祖先の排除はやるでしょうね。多少突飛な事を言えば要人に成り代わって今から大きく歴史を動かすとか」


 段々話が大きくなっきている。だが確実に言えるのはやはりアンドロイドが危険因子でしかない事だ。そしてそれは渚も例外ではなく、事実として俺がそう認識しているが、それを悟られぬようあくまで興味本位という体で質問を続ける。


「それは現実的に出来るの?」

「見た目と声が変えれるので主要人物になりすましだって可能ですし、未来から来ている以上情報戦じゃ負けは無いですしね」


 多分俺にはそんな大層な計画を止めれる事は出来ないし、その最悪な未来とやらを防ぐ代案を出せるわけでも無い。だけど渚というアンドロイドは一応俺の制御下にある以上、俺の周りで俺のせいでアンドロイドに傷つけられる人は出したくない。


 だから知れる事は知らないと、そんな気持ちで情報を渚から引き出そうとする。


「危険なアンドロイドが他にもいくつかいる可能性があるって事か」


 そう呟き俺は信号が青になり歩き出すが、渚は白線の向こうで止まったままだった。どうしたのかと少しだけ歩を緩め振り返ると、渚は顔を伏せ表情は捉えれなかったが言う。


「首を突っ込もうなんて思わないでくださいね。私はただ普通に生活したいだけなので」


「・・・・あ、おう」


 脅しの様な釘を指された感覚になった。もしかしてそれだけの為にあの人を殺したんじゃとも思ったが、それなら尚更危険じゃないかと感じる。普通の生活の為に障害は排除する、そんな理由で殺した可能性。


 でもそうだとしても、アンドロイドの危険性を知った俺はどうすれば良いのだろうか。


(事実を知ってこれから殺人事件を見た時俺はどう思うんだろうな)


 これもアンドロイドが未来を変えるために関係の無い人を殺して大きな事件が起こる。それは俺が動いていれば止めれた事だったのかもしれない。小心者な俺ならニュースを見る度に、そんな事を延々と気にしてしまいそうな気がする。


 でも俺はこのアンドロイド相手ですら対応を計りかねているのに、そんな未来やら大層な事をどうにか出来るとは思えない。

 だけど気持ちとして感じる物は理屈で分かっていても感じてしまう。そんな俺の心情を察していたのか話す前から分かっていたのか、隣を歩く渚が俺に向けて零す。


「だから言いたくなかったんですよ」


「・・・・・気を使ったって事か」


 渚に聞こえない様小さく呟く。本心なのか分からないが一応言いたくなかった理由としては理解できる。が、今の俺には渚を信用する事は残念ながらできない。他に俺に情報を渡したくなかった意図があるのではと探ってしまう。

 

 でもその当人は自身の使命に忠実なようで。


「私がいる以上貴方とその周囲は守りますから」


 その為には人を殺す事もいとわない。そんな気概とでも言うのだろう。でもそれが俺にとってはただただ怖い、俺の為にと言って平和的な手段ではなく、人を殺す選択をするアンドロイドなんてありがた迷惑でしかない。


 そしてそもそももうタイムアップらしく俺らが歩き出し信号を渡り公園の近くを通りかかった時、あるスーツの二人組に進路を遮られた。


「ちょっとお時間よろしいですか?」


ーーーーー


「これは・・・・・写真よりもインパクトあるね」


 高崎君と一緒に例の公園へと向かったのだが、まだ修繕工事は行われていないらしくコーンで囲われただけの、いわばクレーターがありのまま放置されていた。


「何か重い物がぶつかったんだろうって話ですけど、その何かが検討が付かなくて・・・・」

「でもカメラには何も写ってないと」

「そうです」


 これが本件に関係あるとは思えないが、やはり防犯カメラに写ってない事といい完全に切るには至らない。それに現場に近い事もある以上、やはり調査をしておくべきか。


「他に遺留品とかは?」

「特に見つかってはいないです」

「ほ~」


 そんな高崎君の言葉を聞きながら周囲を歩き回る。ここだけクレーターが出来たって事も無いだろうし、他に何かしらあると踏んでの事だったのだが。


「喧嘩で出来る奴じゃねぇしな」


 近場のベンチ裏に付いた血痕を見ながらそう呟く。喧嘩であんな物できるならそりゃ人間じゃねぇしな。


「滴下血痕か。いつからか分かるか?」

「あ、いや・・どうでしょう・・・・昨日まで雨降ってたのに良く残ってますね」


 流石に人手不足でそこまで調査はされていないらしい。だがまぁ一応手掛かりになるかもしれないから、後で回収させるか。


「まぁ一応聞き込みだけしておくか。あと他角度で確認できそうなカメラの位置も調べよう」

「やっぱ西田さんも何かあると思います?」

「可能性を排除してないってだけだよ。報告書も作らないとだしな」


 そうして俺達は公園の外周を回っていると丁度良く横断歩道を渡ってくる、大学生らしき男女の組を見つけ声を掛ける。


「ちょっとお時間よろしいですか?この付近で事件があって」


 すると男側が確認するように女の方へと視線をやる。歳的にカップルか兄妹だろうか。

 そう推測しながらも男は緊張しているのか少し上ずった声で答える。


「あ、まぁ少しだけなら」

「ありがとうございます。じゃあ少し公園の方でお話を伺わせていただいても?」


 ここでも良いが現場に近い方が話を誘導しやすい。そうして公園の入り口付近で立ち話とまではいかないが、メモ帳を手に話を伺う。


「いつもこの道を使われるので?」

「え、えぇそうですね。大学とバイト先がこの向こうなので」

「じゃあ帰りとかもこの道を?」

「そ、そうです」


 緊張しているなぁ。そこまで怯えられるとやりずらいから、もっと落ち着いてくれても良いんだけど。

 そう思いつつ本題に入る様に、クレーターの方を指差しながら始める。


「で、事件と言ってもあれなんですけどね。この公園に変なクレーターみたいなのが出来てましてね。一昨日の夜なんですけどその時間は何を?」


 男がこれまで一言もしゃべっていない女の方へと視線を向けていた。やけに綺麗な譲さんだけど無口で人物像がいまいちつかめない。

 だが今は男の方が答えようと何か考えるようにゆっくりとした口調で口を動かす。


「えーあーどうだっでしたっけ・・・・多分その日もこの公園を通ったと思うんですけど・・・・」


「いつ頃かは思い出せますか?」


 もしかしたら、とそんな考えも浮かぶが焦らず怖がらせない様出来るだけ口調を柔らかくして質問を続ける。


「えー・・・・多分日が落ちてすぐだったのでそんなに遅くは無いと思うんですけど・・・・・」

「じゃあ19時前後ってことですかね?」

「・・・・多分それよりちょっと遅いぐらいだったと思います」


 まだ人通りの多い時間ではありそうか。でもやけにこの子は目が泳いでいるのが気になる。緊張しているにしてはちょっと挙動不審過ぎると言うか・・・・。


「じゃあその日は何の帰りでここを━━」


 そう私が問い詰めると言えば強く聞こえるが、質問を重ねようとすると今まで黙っていた女の方が口を挟んできた。


「飲み会の帰りですよ。彼潰れてたので正確に覚えていないんでしょうけど、私が介抱したので大体20時頃でした」

「あ、あぁ~そうだったかも!」


 少し男側が芝居っぽいが女の方はぱっと見怪しくはないか。それに後から付近の防犯カメラと相違が無いか確認してみるか。


「なるほど、じゃあその時はあのクレーターは無かったですかね?」

「いやぁ暗かったですし分からないですね」


 女がそう答える。もうこれ以上掘っても情報は無さそうかと判断し、切り上げるように軽く頭を下げる。


「色々お話ありがとうございますね。一応お話を伺った人の個人情報を控えさせてもらってるんですけど、差し支えなければお名前と住所、あれば学生証とか見せて貰えればと・・・・・」


 私がそう頭を低くしてあくまで任意という意思を見せつつ、お願いをすると男の方は戸惑いながらも財布から学生証とスマホの画面を出す。


「名前は堤岳人です。住所はこれで、あと連絡先はこれです。で、こっちが・・・・えーっと・・・山田渚です」


 大学と住所の位置関係からして発言とは相違なさそうか。

 そう思いつつそれを確認し記録すると次は山田渚と紹介された女の方へと視線をやる。だが、財布を出す気配はなく困ったように頬を掻いているだけだった。


「財布忘れちゃってて・・・・すみません」

「電話番号でも駄目でしょうか?」

「母に制限されてまして・・・・」

「・・・・そう・・・・ですか」


 任意な以上無理に聞き出すのは不可能。だが渋られると怪しく感じてしまうのは悪い癖だろうか。

 だがどちらにせよこの男の子は今日のデート全部奢る覚悟って事らしいと、少しだけ見直しつつもう一度頭を下げる。


「ご協力ありがとうございました。デート楽しんでくださいね」


 さっさと去ろうと後ろにずっといた高崎君を促して背を向ける。そして声が聞こえないところまで離れ、高崎君の意見を聞いてみる。


「どう思う?」

「なんか知ってそうだとは思ったんですけど・・・・もう一度20時台の映像を確認しないとなんとも・・・・」


 緊張してあぁやって挙動不審になる人もいるにはいるけど、怪しくないと言い切れるほどの感じでは無いって事らしい。まぁ俺も同じような感想だけど、そこまで気にする事かと言われれば否ではある。


「まぁ他にも聞き込んでからにするか」

「そっすね」


 そうして幾人か聞きまわったが他に話を伺えたの人の内、当該時間に公園を通ったのは他に三人。だが誰も知らないか公園の対角線上を通っただけだったりと、全く該当現場に掠る事は無かった。


「少し離れた所のカメラは確認したのか?」

「え、あぁまだ近辺だけでそこまでは・・・・・」


 もし仮に映像が加工されているないしすり替えられているとしても、広範囲の映像を辻褄合わせてそれをするのは不可能に近い。ここは本件と違い人通りも多い地域だからこそ、そこを確認すれば加工の有無が分かるはず。


「じゃあしばらくは防犯カメラの確認作業だな」

「え、まじすか」

「一応上には報告してからだけどな」


 確認するとしてもあの大学生男女組を重点的にだが。家の位置が分かればある程度の道筋も絞れる以上、そこを確認する。と言ってもそこまで情報は落ちないだろうが、もし仮にの可能性を排除してはいけない。それこそあのクレーターの発生要因未だ見当も付いていないのだから。


「ま、寄り道しても良いぐらい人員は増えたしな」

 

 どうせ本筋の調査は本部が主だろうしこういう脇道の小石を拾っていかないとだな。


「じゃあ飯だけ買っていきましょうか。何が良いです?」

「牛丼で良いよ。ほらそこにある」


 そうしてまた一日俺達の捜査が進んで行った。




先週に続いて申し訳ありませんが、また今週の水曜木曜を私用の為投稿をお休みさせていただきます。金曜(12月19日)に投稿再開させていただきます。

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