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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
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第十四話 進展と後退


 夢を見ていた。

 これが本当にあった事か確実には言えないけど、どこか懐かしい夢だった。


「千春は将来何になりたいんだ?」


 ここは山だろうか。昔は良く家族で登山をしていたからその時の記憶から作られた夢か。

 そう小さい私と皺の薄い父をどこか俯瞰気味に眺めていると、その小さい頃の私が勝手に喋り出す。


「パパみたいになるっ!!」


 そう言った小さい頃の私に嬉しそうに父さんが頭を撫でる。


「おぉそうかそうかぁ、じゃあ勉強頑張らないとなぁ」


 多分この頃の私には父が何をやっているかなんて分かっていなかったと思う。ただ人の為に働く仕事で、かっこいいとかそんぐらいの認識だったと思う。


「でも千春には色んな未来があるんだからな。絵だって上手だしもしかしたら漫画家かもしれないぞ?」

「じゃあどっちもなるっ!!!」


 でも歳を経るごとに父の仕事の偉大さが分かるようになって、より憧れは強くなった。でも何よりも父さんの事が好きだったから、こう憧れるようになったんだと思う。


「それは~大変だなぁ」


 ガサガサと近くで音がする。それを俯瞰した私が視線を送るとどうやら元母親がこちらに向かっているらしかった。それに気付いたように父さんは言葉を続ける。


「でも千春がやりたい事をやるんだぞ。いつでも父さんは応援してるからな」


 また父さんのゴワゴワした手が撫でてくる。それと同時に父さんが私を見上げたような気がしたけど、それを認識する前に私の意識は夢から覚めていた。


「・・・・・・やな夢」


 目を開けば次から次へと流れていく夜の街並みが見える。父さんが殺されてからまた3週間と少しした12月後半、どうやら新幹線の中で寝てしまっていたらしい。


「・・・・・・・」


 今は一度東京から帰る為に乗っているが、車内も平日なせいかリーマン風の人が多く見える。


「・・・・・・・・・・・・」


 週刊誌を利用する計画は全く無視されてダメだった。いけると判断していたのにこれだとまた降り出しに戻ってしまった。

 そう自身の不甲斐なさに歯噛みしながらも頬杖を突き、流れる街景色を眼鏡のレンズに写していると、ふとスマホが震える。


「・・・・・・・相野さん」


 相変わらず心配性らしく大丈夫なのかと連絡をしてくる。私が自殺を仄めかしたせいか余計な心配をかけさせてしまって、少し申し訳なくも感じる。

 

 でももう私のせいで巻き込まないために、軽く返事だけはしておいてそのままスマホを閉じる。


「絶対に諦めない」


 そうして一度帰った私はビジネスホテルで一晩過ごすと、次の日所轄の警察署へと向かったのだった。

 と言っても事前に連絡を取った訳でも呼ばれた訳でもない。ただ私の要望を叶えてもらうため押しかけたと、そう表現するのが正しかったのだろう。


 そして赴いて話をしたいと受付に伝えると、父さんが殺された時に事情聴取をしてきた刑事の人に通され、恐らく応接室らしき部屋に通されていた。


「いやぁ急に押しかけられるとびっくりしますよ。次からは是非一度お越しになる前に、お声掛けしてくれるとありがたいですね」


 机の上のお茶から立ち上る湯気越しに、経験のありそうな刑事がそう言って私の向かいに座る。


「それは申し訳ないです。ですがお話ししたい事があって」


 そう礼儀上頭を下げる。それに実際捜査本部が設置されたりして人手的にも業務的にも、かなり忙しいのは聞かなくても分かるから。


「事情聴取でお話しされなかった事ですか?」

「いえ、そうでは無くお願いに近い事です」


「・・・・お願いですか」


 少しだけ刑事が眉間に皺をよせ入り口に立つ警察官へと視線を送った。だがそれを意にも返さず私は更に頭を深く下げる。


「私も捜査に入れてくれないでしょうか。犯人の顔も知っているのでお役に立てるかと」


「・・・・・・・いやぁ」


 困ったように刑事が頭を掻くのが気配で伝わる。でも何かをするにはこうやって頭を下げるしか出来ないし、せめて自分が父さんの為に何かをしていないと自分を許せない。 

 でもそれを理解してくれない刑事は諭すように上から言ってくる。


「あのですね。もちろん捜査にご協力してお願いする事はありますが、捜査に入れるのはどうやっても無理です。そこは我々警察官を信用して頂くしか━━」


 そう言いかけた刑事に被せるように私は言葉を続ける。


「ですが一向に進展がないまま二人目の被害者が出たんですよね」

「・・・・それは」


 昨日のニュースだ。県議が殺されたという報道がなされ、しかもその人が殺人犯のリストに載っていた事で更に騒ぎは大きくなっていた。恐らくそのせいで今この署も慌ただしいのだろう。

 だけどそんな失態がありながらもこの刑事は態度を変えない。


「だとしてもです。出来る範囲で進展や情報は担当を通じて伝えますが、やはり貴女を捜査に入れるのはどうやっても不可能です」


 諭すような優しい様な憐れむような声色が頭上から聞こえてくる。それが薄っすら自分でも分かっていた返答だとしても、やはり納得がいかなくて腹が立ってしまう。


「じゃあ私は何をすればいいんです・・・ッ」


 両手を握りしめ頭を下げたまま声を絞り出す。だが刑事の声色は変わらないまま頭上から響いてくる。


「これから更に捜査の規模も人員も増派されます。ですので今は我々に任せて、ご自身の心情を落ち着けていただいて、どうか日常生活に復帰してください」


「・・・・じゃあ私は役立たずって事ですか」


 あぁもう何をしているのか分からなくなってくる。何をしても否定されて勝手に憐れまれて、結局私は何をする事も出来ないのか。


「いえいえもちろん捜査に協力して頂く事もありますから。そんな事はありませんよ。ですが重ねて言うようですが捜査に関しては私達に任せてください」


 この人も私の話を聞いている様で聞いていない。結局は私に父さんの為にやれる事は何もないって言っているような物だ。

 

 段々と不安と焦燥でいっぱいだった心の中に怒りが流れ込んでくる。

 結局誰も分かってくれないし寄り添ってくれない。皆私に偉そうに諭すだけで何も私を助けようとはしてくれない。


 そんな気持ちが口に出てしまうのは時間がかかる事では無かった。


「・・・・何も犯人の事分かってないのに随分自信がおありなんですね」

「・・・・・・それは・・・・職務上お伝え出来ない情報もありますが、ちゃんと捜査に進展はありますから信じていただくしか」


「でも犯人の顔すら分かってないんですよね。あれだけ街中での事件だったのに」

「それも捜査中ですから。待っていただくしか」


「しかも今度は県議まで殺されて恥ずかしくないんですか」

「・・・それに私の立場上明確に答える訳にはいきませんが、一捜査員としては不甲斐なく感じてます。ですがそれで今回捜査に進展を見せた所もありますから」


 ゆっくりと頭を上げ目の前の刑事を睨みつける。


「捜査捜査って結局何も教えてくれないんですね」

「不確定な事をお伝えする訳にはいきませんから」


 この人も私を見ている様で見ていない。どうせ面倒くさい遺族だとか思っているんだろう。

 どれだけ私が苦しんでもがいているのかも知らないで。


「・・・・・・今日はありがとうございました」


 もうこの人らを頼っても無駄だ。結局は仕事としてやっているだけで、私みたいな遺族にはなんら寄り添ってくれない。

 そう判断した私はコートを腕にかけさっさと立ち上がる。


「また何かあったらご連絡くださいね。捜査の進展も伝えれる範囲で担当から連絡させていただきますので」


 背中からそんな定型的な言葉が聞こえてくるが一瞥をすることなく私は扉の外へ、そして警察署の外へと足音を鳴らす。


「・・・・・・・」


 でも結局何も出来ていない現状は変わらない。白い息が空に上がっていくのを眺めながら、ただ立ち竦む。


「・・・・・・・・バカみたい」


 自嘲気味に笑みが漏れる。冷たい風が体にまとわりついて体温を奪っていく。でもそれ以上に今までなんとか保っていた復讐心という気持ちまで冷めて折れそうになってしまう。


「でも、私がなんとかしないと」


 自身を守る様にコートに身を包み何か今の私が父さんの仇に何か近づく方法は無いのか、ひたすらに何かから逃げる様に頭を回す。


 きっとどこかに私にやれる事は残っているはず。じゃないとあの時私だけ生き残った意味が無くなってしまう。私が私の手でなんとか父さんを報いてあげたい。


 そうして行く当てもなくただフラフラと街中を彷徨う様にして、街の奥へと向かっていたのだった。


ーーーーー


「・・・・・はぁ」


 乱暴に閉められたドアを横目にため息を零す。


「あのままにして大丈夫なんです?」


 そんな私に向かって、心配したように部下の高崎君が話しかけてくる。


「大丈夫じゃなさそうだから困ってるんだよ・・・・・・」


 被害者遺族。捜査に進展が無いと遺族としては焦る気持ちもあるだろうし、私達も伝えれる情報に限りもあるから余計に不安が増幅される。そのせいかしばしば私達に強くぶつかってくる人もいるけど、まさか捜査に協力させろとは・・・・。


「まぁドラマかアニメの見すぎなんじゃないですかね。普通に考えたら捜査に参加できるわけ━━」


 ここしばらく忙殺されていたせいか口が過ぎそうになる部下に言葉を被せる。


「家族が死んで普通でいれる方がおかしいんだよ。あういう人を安心させるのも仕事の内だよ」

「・・・・それは・・・そうっすけど・・・・」


 まぁだとしてもあの子は少し行き過ぎている感はある。実際週刊誌の人から連絡も来てるし、また何かしらやらかしうる可能性は否定できない。だから安心させるために、早めに手掛かりぐらい掴んでおきたいものだが。


「だけどまぁ今俺らも勝手する訳にはいかないしな」

「本部で一括扱いですもんね」


 廊下に出れば知らない顔がしばしば通り過ぎていく。他課に別署の奴らに本部の班、この事件の主導権が署の俺達から上へと移ったのがありありと分かる。まぁ本件の規模が大きくなっているから仕方ないのだが。

 

 でも最近そのせいか苛立ちを隠せないでいるのが高崎君なんだがと、思いつつさっきの子に遮られた話へと戻すように視線をやる。


「で、何かあったんだろ?」

「あ、そうです、関係あるか分からなんですけど現場付近の事ですから」


 高崎君が手に持っていた報告書を受け取りペラペラとめくる。


「公園って・・・・あぁまあ近いは近いか」


 目撃情報だとか未遂事件かとも思ったけど、どうやら全く違うらしい。そして付属されていた写真に目が留まる。


「西田さん、どう思います?」


「どう思うって・・・・これは」


 二日前朝に出来たという地面に円形にひび割れた道路の一部。ちっこい隕石が落ちたんじゃないかとも思えるそれだが、異様とはいえ本件に関わるとは思えない。一応俺に上げたって事は何か感じたんだろうと、報告書を手に一度廊下の窓際に背中を預け尋ねる。


「・・・・特に関係は無いように思えるけど、高崎君はどう思ってこれを?」


 すると高崎君も俺の隣に背中を預けて悩むようにゆっくりと話し出した。


「近隣の防犯カメラで当該時間を確認したんですけど、どこも全くと言っていいほどそれらしい人物が写ってないんですよね」


「まぁ時間が時間だからね」


「でもこの角度で何も映ってなくてこの地面ができると思います?」


 高崎君は俺の手に握られた報告書をめくり恐らく防犯カメラの映像の一部を印刷した写真を指差す。

 するとそれは確かに何か地面を破壊した人物が映していないとおかしいと言えるぐらいには、該当の現場を映していた。そして一瞬映像が乱れるといつのまにかクレーターが発生している。


「つまり本件と一緒だって事か」

「ですです」


 食い気味に高崎君が迫ってくる。だが俺にとっても確かにそうなる気持ちも分からないでも無かった。

 

 本件、つまり最初の被害者である門浪栄治が殺されたマンションでも不審な二人組をみたという目撃情報はあった。そしてその中でもマンションの管理者の目撃情報があったから、その場所の防犯カメラを確認したのだが、被害者の娘以外写った人物はいなかった。だから他ルートでの侵入が考えられたのだが、他の防犯カメラを確認してもそれらしい目撃情報とはかみ合わず何も写らない。

 そしてそれは昨日の県議の件もそうだ。まだ全部を確認できていないが、やはり発生時刻にそれらしき人物が写っていない。


「・・・・・同一犯だと仮定してもなんでこんな事をするんだろうな」

「それは・・・・・そうっすけど・・・・・・でも手がかりにはなりますよね!?」


 分析班が言うには捏造とか差し替えのほぼ可能性は無いらしいのだが、確かに不可解な事ではある。

 全く手掛かりがない以上ここをつっつくぐらいしても損は無いだろうか。


「まだ上に上げて無いよな?」

「えぇはい!では!?」


 手柄が欲しいってところだろうか。まぁそれに県議の件は俺らの班は担当じゃないし、多少動いても言われないだろうしな。

 そう考え窓際から離れ再び廊下を歩き進める。


「とりあえず俺らで動くか」

「報告はどうしますか?」

「あっちもあっちで忙しいだろうから纏まってからで良い」


 よっぽど関連性はないだろうが手がかりがない以上違和感を放置する訳にはいかない。それに事実目撃証言と防犯カメラの映像が不一致なのは議題に上がっていた事だしな。


「じゃあ車だけ用意頼む」

「はいッ!」


 そうして停滞を続けていた捜査に少しづつの変化が出てきたのはこの頃だった。

 


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