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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
12/32

第十二話 ずれ


 遠くから香ってくる線香と畳の匂い。

 私はいつものようにいつもより遅い時間に扉を開け家の敷居を跨ぐ。


「部屋だけは沢山あるから好きな所にいてください」


 そして久々のこの家の来客を招くように扉を開けっぱなし振り返る。するとそこには先ほどまでの雨粒はどこへやら、まっさらな黒いロングコートに身を纏った背広ノッポのアンドロイドが屈んで玄関をくぐる。


「承知いたしました」


 歳は・・・幾つだろうか。大体40ぐらいに見えるけどもう少し若いだろうか。と言ってもアンドロイドって言うのらしいから、年齢とか関係は無いんだろうけど。


「彼の死体は大丈夫なんだよね?なんか君急にどっか行っちゃったけど」

「えぇ元々外と関りのある人間では無かったので疑われないでしょう」


 このアンドロイドと出会ってすぐの事だった。私は悩んだ末彼の元所有者を殺したのだが、その死体をどうするのか分からないでいると、突然このアンドロイドが担ぎ上げていた。


「とりあえず傷口だけ偽装して心臓発作にみせかけます」

「・・・・すごいね君」

「算段がついていなければ殺人はしませんから」


 目の前で血が全て抜けきったのではと思えるほど白くなってしまった彼を見下ろす。雨は未だ止まず私がさっき手に浴びた血すら殆ど流れ落ちてしまっていたが、罪の意識だけは震えとして手にこびりつく。


 そんな時水滴を弾き彼の体を弄りながらアンドロイドが振り返り言った。


「それと私に名前を付けてください」

「名前・・・?ついているんじゃないの?」

「契約上必要な事で。なんでもいいので」


 アンドロイドに名前。正直アンドロイドが何かも良く分からないし、ロボットって言われても映画か昔のアニメの情報ぐらいしか持ち合わせていなかった。だからそこから考えてみるが。


(そういえば宇宙戦艦に乗ってる赤いAI?ロボット?みたいなのだったよな?あれってどんな名前してたっけ・・・・?)


 そんな私の少年期の思い出を掘り起こしていると、ふと昔飼っていた犬とじゃれつく情景が浮かび上がってきた。その流れで私の口は動いてしまいそれを零していた。


「・・・・まぁ太郎とか?」


 流石に安直すぎてダメか。そう言った傍から感じたがそれでも良いのかアンドロイドは小さく頷き、死体になってしまった彼を担ぎ上げた。


「じゃあ私はこれを処理するのでここで待ってて下さい。後お名前は?」

「相野穂高だけど・・・・・え、今ので良かったのかい?」


 そんな私の疑問に答えることなく太郎と名付けてしまったアンドロイドはどこかへと行ってしまった。流石に夜中とはいえ人目もありそうだが、大丈夫なんだろうか。


「・・・・・実感がない」


 人を殺した事も更に親友が唾棄するような行為に手を染めようとすることにも。でも確かに罪悪感はうずまく、けどそれ込みの覚悟だ、してしまった以上引く訳にはいかない。千春君が生きようと翻意できる時間と、父親と向き合える心持ちを、その為に私は手を汚さない行けない。


「・・・・大層な事になっちゃったなぁ」


 雨が異様に冷たくスーツに張り付いた路地裏での事だった。

 

 そう改めて一時間前の事を思い出しつつ寒気に身を震わせタオルを二つ取り出す。


「これで拭いておきなさい。私風呂入ってくるから」

「・・・・どうも」


 アンドロイドはご飯は要らないんだよな?その代わりに電源とか必要だったりするのだろうか、ブレーカー落ちたりしないと良いけど。

 そんな事を考えながらさっさと風呂を済ませリビングへと戻ると、アンドロイド・・・まぁ太郎で良いだろうか。太郎がこたつに入らずただこじんまりと座っていた。


「入らないの?今電源入れるけど」

「ご家族は?」


 私の言葉を無視して太郎が喋りかけてきた。

 とりあえず私は何か腹に入れようとパックご飯とツナ缶、それにビール缶を置く。


「両親は数年前にね。元々一人暮らしだったけど勿体ないから戻って実家暮らししてるって訳。こんな広すぎて使い切れないんだけどね」


 ただ荷物整理とか土地売却とかをするのが面倒だったとかはとりあえず黙っておいた。相手が機械でも良い顔はしておこう。


「・・・・・・・」


 だが太郎は黙ったまま座り続けていた。私も何か話しかけた方が良いのかとか思いながらも、箸を持つが手が動かない。

 そんな会話のリズムがいまいち掴み切れない私だったが、また太郎がこっちを見て話しかけてくる。


「食事は摂らないので?」

「・・・・一応出したんだけど流石に食えたもんじゃないね。こういう時は酒飲んで吐いた方がマシかもね」


 極力思い出さないようにしている。あの子なんて普通なら自分の子供の歳でもおかしくない見た目だったし、余計に感情移入すると苦しくなってしまう。


「ですが彼は同情されるべき存在では無いのですよ」


 その言葉に少し軽くなった缶を置きこたつの中に両手を入れる。


「でも私が殺して良い存在じゃないからね。私の我儘で彼を殺したんだから」


 結局の所、私は千春君が死ぬ選択をする事に間接的でも関与したくなかったのだろう。それをすれば門浪の奴の墓参りなんて行けたものじゃなくなるし、私自身半分を切った人生で抜けきらない釘が刺されてしまうから。


「それは人格者ですね」


 この子は質問をしてくる割にあまり興味を抱いていないのかすぐに会話を終わらせてくる。でも私もこのアンドロイドに言っておかねばならない事がある。


「因みに私は彼・・君の元所有者?の子がやってた事を続けるつもりだよ」


 そう言った時やっと太郎が感情らしい感情を見せ、焦ったように立ち上がって私を見下ろして来た。


「君にも感情はあるんだね」


 私は新しい同居人に血が通っていそうなことに安心しつつ、ビール缶を持ち上げ喉を鳴らす。するとさっきまでの低い落ち着いた声が上ずりまくし立ててくる。


「意味が理解出来ません。貴方がそれをする意味があるんですか?それこそご友人を殺した男の行いを継ぐ意味が不明です」


 この子何故か私の事知っているけど心の中までは読める訳じゃないのか。機械だし私の携帯から情報抜き取ったとかそんな所かな。


「誰かに罪悪感が無い訳じゃないよ。ただそれをしないと私にとって生かしたい人が死んでしまうからね」


「でもそれをすれば更に多くの人間が失われるんですよ?しかも社会的影響の高い人物となれば連鎖的にそれは増大しますし、ご自身の逮捕のリスクだって・・・・」


 段々と機械っぽい口調から早口になって私へと詰め寄ってくる。こうして見ると人間にしか見えないけど、技術の進化ってのはすごい物だな。


「そう私は1人の為に何十何百と殺すって言ってるの。世間様からしたら大迷惑だね」

「貴方の性格からしてそんな事・・・・」


 自分でもそう思ってるよ。

 そう心の中で零しながらも、私はやるべき事をやろうと言葉を続ける。


「だから君は私に協力してね」


「・・・・・それは・・・・・・言われなくとも」


 どうやら心でどう思っていようが命令には従うらしい。

 ならばやると決めたらやり切らないと。そう私は思考を巡らし、このアンドロイドの危険性を考える。


 まずはこの子がどこまで私に従うのかって事だ。

 この子は元所有者を殺す選択を私に迫った。その時点で何かしらの抜け道があって所有者を殺す事が可能って事だ。でも彼自身身門浪の殺人に加担した以上命令には従うのは確か、つまり言われた事しか守らないって事か・・・?


 じゃあダメって言われて無いから所有者殺しますって、そんな子供じみた事あるのか・・・・?

 でも事実から考えると私の頭だとそんな発想しか出ない以上、厳密に命令して行動範囲を狭めるしかない。


 そう考えがまとまった私は空になった缶を置き、太郎を見る。


「私からいくつかね」

「・・・・・・はい」


 太郎は少し緊張した面持ちで私を見る。そこまで警戒されちゃったか。だけど私も引けないから、そう言葉を慎重に選ぶ。


「恣意的な判断及び行動、情報の非開示の禁止。それに私が命令した事とその意図に従う事。で、何か判断行動する際には私に報告を絶対にね」


 機械相手にこういうのが通じるか分からないけど、出来る事はもっとやろう。


「あと私の不利益になる事の禁止とか、命令の拡大解釈も駄目だからね」


 元所有者にやったかもしれない言われていないからやっても良い、そういう小学生じみた論調の可能性を防ぐ。機械なら法律を守る様設定されていると思いたいけど、すでに彼殺人と死体遺棄しているしその可能性はない。


「本気でやるつもりって事ですか・・・」

「まぁね。もうあの世で門浪とは会う事は無さそうだから」


 じゃああいつが化けて出てくるかも、そんな事を思ったがそれならそれで出てきて欲しいと思ってしまう。お前の娘が生きようと思うにはどうすれば良いかって聞きたい。


「君未来から来たなら彼が上げた予告リストから、出来るだけ社会的に悪影響の与えた人をピックアップしておいて。一定間隔で殺していくから」


「・・・・承知いたしました」


 悪人から殺すのはただの自己満足。あとは義賊っぽくなれば警察の調査を賛同した人が邪魔してくれるかもしれないって言う、希望的観測からの行動。


「ごめんね。こんな事に付き合わせちゃって」

「・・・・ならばこんな事やめてください」

「それは出来ない相談かな」


 ビール缶がカランと高い音を立て机の上に転がる。今日はやけにアルコールが回るのが遅い気がする。

 するとその缶の成らす高い音に消えてしまいそうな程諦めたような疲れたような声色で、太郎が呟く。


「また私は所有者を誤ったのですね」

「・・・・それは否定できないかな」


 そして私はもう一つすぐに動くべき、というか最終確認をしないといけない。


「あと今晩の内にニュースになる著名人を自殺に見せかけて殺して。勿論ターゲットは事前に私に教えた上でね」


 彼が本当に人を殺すのか。そしてその命令に従うのか。


 ざぁざぁと外の雨音が迫ってくる。こたつの小さな重低音がそれに反発するように部屋の中で響く。

 そんな中私の呼吸と何も音を発しないアンドロイドがゆっくりと立ち上がるのだった。


ーーーーー


「・・・・・きて」


 誰かに肩を揺らされる感覚。でもまだ意識ははっきりとせずそれが何かを察する事は出来ない。


「・・・・きてください」


 その揺れから逃げる様に体を転がす。だがそれでも何かが追いかけてきているのか、ベットが軋む音がしまた体が揺れる。


「起きてください。もう14時ですよ」

「はッ!?」


 聞こえてきた情報を脳が処理をするとともに、背骨が音を鳴らしながら体を急に起こす。その時渚の頭とぶつかりそうになったが、あちらがひょいと避けてくれそれは何とか避けられた。


「・・・・・・・・まじか」

「私起こしましたからねぇ~文句は対応外ですから」


 焦ったようにスマホを覗くと一緒に受けている友達からの不在着信があり、状況を確定的に悪化させる。おしてそれを映したスマホをそっと閉じ頭を抱える。


「・・・・寝なきゃよかった」

「寝不足でバイトまで行ったら体持ちませんよ」


 今朝浜中さんが帰ってひと眠りしようとしたらこれだ。だけどもう今から講義に行っても間に合わないのは確定的。


「まぁもう今日は良いや。バイトまでゆっくりしよ」


 体の力を抜き仰向けにベットへと倒れる。これまで毎回ちゃんと講義出てきたのだから一日ぐらい許されるはず。そう自分に甘い言葉を信じ込ませ天井を見上げる。


「昼ごはん食べますよ。せっかく作ったんですから」

「・・・・ん。あいよ」


 ごろんと転がりスマホを弄る。一度寝てしまったせいか昨日あった事が遠い昔の様に感じてしまう。だけど、それを心は忘れていないのか渚へ何か言葉を向ける度に声が震えてしまう。


(ニュースにはなってないか)


 公園の地面にひびが割れてたしあの戦闘音なら通報があってもおかしくなさそうだったが、それもアンドロイド達がジャミング的なのをしたんだろうか。


(でも事実渚が殺した)


 いそいそと電子レンジで食事を温める渚を見ながら思う。

 いくら仲良く話してもあいつは人を殺した。一応表面上和解自体して渚はいつも通りに戻った、でもだからこそ人を殺して何も思っていないって事。次も殺人のデメリットをメリットが超えたら殺人を選びかねない。それをセーブする順法精神に罪悪感が無く、そして隠ぺいできるからこそ法に裁かれるデメリットが機能しない。


 そんな思考をぐるぐる過らせながら、ネットニュースをスクロールする。


(あ、あの会社の社長死んじゃったのか。自殺ってお金も名声もあって何が不満だったんだか)


 どうやら朝家族が見つけたらしいが可哀そうに。親族が自殺しててその死体を見るなんて、しばらく脳裏から離れなくてきついのにな。


「ご飯食べてください~」

「・・・・・はいよ」


 そうしてゆっくりとした昼を過ごした俺は、16時からのシフト為ダウンの下をバイト制服に着替えスーパーへと向かう。


「あぁ休みてぇ」


 今日は一日ゴロゴロしていたい。酒のせいか頭も痛いし寝すぎて逆に体調が悪い気がする。でもそれでも休めば生活が厳しくなるから出ざる負えない。


 そう文句を垂らしつつも俺は大人しくスーパーへと赴きダウンを脱いでタイムカードを打刻する。


「いらっしゃいませ~」


 今日はレジでは無く品出し業務。個人的にはやばい客と接する機会が少ないから、こっちの方が好きだしあと楽。

 そうして2時間ほど黙々と品出しをしていると、ふと背後から話かけられる。


「すみません、コンソメってどこにあります?」

「あーこちらへどーぞー」


 時々こうやって話しかけられて商品の場所まで案内する。で、無かったら次入るのはいつか調べる。

もう半年でだいぶ慣れたけど、偶に本当に知らない商品の場所を聞かれると焦ってしまう事もある。


 そうしてお客さんの相手をしつつ、今日も品出しをしていると他のお客さんが話しかけてくるのだが・・・・。


「・・・・・よ」

「・・・・・・・っす」


 エコバックを肩にかけやけに家庭的な風を出した浜中さんが俺を見下ろしていた。昨日の今日というか今日の今日だけど、こんなにすぐ会うとは思っていなかった。


「よく使うの?ここ」


 ダンマリも変かと思い店員としての堤というより、一知り合いとしての堤岳斗として話しかける。


「・・・・・・・まぁぼちぼち」


 カゴの中にはカレーでも作るのかそれらしい食材が転がっていた。いやシチューか、でも肉じゃがの線もあるか。

 だがそんな意味の無い思考を捨て、俺はこれ以上引き止めても周りのお客さんの目もあるしと立ち上がる。


「じゃまた。ごゆっくり」


 空になったダンボールを抱え浜中さんから背を向ける。だけどそれを呼び止めるように浜中さんが一歩分近づいてくる。


「私前もここでお前と会ったんだけど」

「・・・・・・・へ?」

「てか割と毎週レジで顔合わせてたんだけどやっぱ気付いてなかったよね?」


 そう言われても全くハッとは来なかった。レジの時なんて殆ど顔は見ないし、正直覚えるのなんて面倒くさいお客さんか話しかけてくるご老人ばっかだし。


「・・・・・・どうりで」


 浜中さんが呆れたように頭を抑える。もしかして何か接客で失礼していたのだろうか。そう思いつつ低姿勢で伺う。


「なんか怒ってます?」

「怒ってない」


 怒ってる人の言い方じゃないか。明らか声にドスあったし何かあったなら言って欲しいのだが。

 そうお互い数秒見つめあっていると、ふと背後から俺を呼ぶ声があった。


「堤君〜?レジの応援入って〜!」

「あ、はい!今行きます!」


 渡りに船だとパートの大西さんに感謝しつつ、浜中さんに向かい直る。


「じゃ、そう言うことでまたね」

「あ・・・おう」


 そうまだ何か言いたげな浜中さんを置き去りにして、俺はこの難解な状況から脱することができた。そもそもなんで浜中さんが怒っているかも分からなかったし、今朝は普通に話せたと思うんだけどなぁ。


 そう女の子との関わり方に苦悶しつつレジに入る事30分。俺の試練は終わってないらしいと、目の前のお客さんを見てそう思った。


「・・・・っらっしゃいませ」


 浜中さんの鋭い視線から逃れるように目を落としつつ、カゴを受け取りバーコードを読み取る。


 ピッピッと音だけが耳に入り冷や汗を感じる。


「ジャガイモが4点ですね」

「・・・・ん」


 今朝怒ってなくて今怒ってるのはなんなんだ。俺が浜中さんがスーパー使ってるの気付いてなかったからか?そんな理由あるか?


「・・・・・・3200円ちょうどになります」

「クレジットで」

「はい、お預かりいたします」


 カードを預かり差し込む。その間数秒で浜中さんが口を開いた。


「・・・・ほんとに覚えて無いのかよ」

「すんません・・・・」


 いまいち要領を得ない。だがそれを追求される前にカード決済が終わり抜き出す。


「カードのお返しとレシートと控えになります」


「・・・・・・ん、また」


 そう言って俺からカードを受け取りさっさと去ってしまった。浜中さんと講義外で何か話した事あっただろうか、あの感じはありそうだけどやはり記憶にない。


「・・・・・でももしかしたら」


 少しだけ頭に掠る記憶があったが、それを掘り起こす前に次のお客さんが来て思考が中断される。

 そうして一日の終わりまでバイトをした俺は、その頃には浜中さんとの事を忘れ疲れから気絶するように眠りに落ちたのだった。


ーーーーー


 日曜日の朝

 

 電車の中は楽しそうに会話をする学生らしき若者に、どこかへ行くのか家族連れの明るい子声がいつもより聞こえる。そしてそれから逃げる様にイヤホンを耳にし、でも街に出れば吐き気がするほどの人混みに辟易してしまう。


「・・・・・あぁイライラする」


 父さんが殺されてからもう3週間は経とうとしている。犯人への足取りを暗中模索しているが、全く進展はない。


 でも今日はやっと興味を持ってくれた週刊誌の人と会える。やっと何も出来なくて不甲斐ない自分を責める事をしなくて済む。やっと私が生きる意味を保つ事が出来る。やっと父さんを殺したクソ野郎共の尻尾を掴める。

 

 そう逸る気持ちを抑えながらも、冬の乾燥した空の下私はブーツを鳴らした。



「・・・・・そうですねぇ」


 加湿器のファンが回る音。そして私の用意した書類をパラパラとめくる音。

 そんな小さな会議室に通された私は、改めて自分が何をしたいのか目の前の記者の男に伝え協力を要請していた。


「これ他社さんにも送ったんですよね?」

「はい、網羅出来た範囲で全てに」


 記者がペンを回し何かを考えるように天井を見上げる。


「で、まぁうちに来たって事は大手はダメだったって事ですよね」

「いくつか返事はいただけましたが、結局お話の機会を頂けたのが御社だけで」

「・・・・まぁだよねぇ」


 だからこそこういう機会を提供してくれたのには感謝しかない。社会には私の事を分かってくれる人もいるんだ。これから父さんの仇を取るために動けるんだ。


 そう私が渇いた口を潤すようにペットボトルを空けようとすると、記者はうんうんと唸りながらペンを蓋で閉じ天井から私に視線を戻して来た。


「まず最初に言うけど、私が君の話を受けたのは君の要望を受ける為じゃない」

「・・・・・・は?」


 この男は何を言っているんだ。その感想が口から洩れそうになったが何とか抑え、震える手で再びペットボトルのキャップを閉じる。


「君がお父様の為に色々考えているのは分かるけどね。流石に殺人犯の足取り掴むために、煽って自分を囮にするって、そういうのを受けるまともなとこは無いよ」


 膨れ上がっていた期待が腹の底から抜ける感覚がする。


「偉そうに聞こえるかもしれないけど、大人として君みたいな子を放置は出来なくてね」


 何か出来ないと相野さんを頼った。でもあの人は私と違って敵討ちなんて望んでいないのが分かってしまったから、巻き込むわけにはいかないと一人でやると決めた。


「思う所はあるかもしれないけど警察を信じて今は故人を偲ぶ時間なんじゃないかな。それこそ敵討ちなんて方法じゃなくてさ」


 でも一人だと結局何も出来なくて。やっと掴みかけた蜘蛛の糸はプツリと今目の前で切れてしまった。


「それに法曹だったお父様だってそんな事望んで━━━」


 だからそれ以上この男の言葉を聞き続けるのは私には耐えられなかった。


「忠告感謝します。では失礼します」


 椅子に掛けたコートを手に取りさっさとドアノブへと手を掛ける。だけどそんな私に背中から声を未だにかける記者の男。


「後悔するよ。絶対に」


 それを無視しても良かったけど、私はドアノブを捻りつつ答えた。


「後悔する前に死ぬつもりですから」


 そうしてまた行き先を見失った私は1人寒空の下さ迷うように這い出たのだった。


 


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