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1億℃の心臓  作者: ねこのけ
第二章
11/32

第十一話 いつも通りに


 車のライトがぼんやりと視界を埋め、その中に渚の背がぽつりと浮かんでいる。


「まぁ言ってしまえば茶番ではあるんですがね」


 振り返る事無く俺の前をコツコツと足音を立てる渚。いつの間にか血を拭ったらしい右腕で浜中さんを抱きかかえ語り出す。


「一週間前の事なんですがね。私が帰り遅かった時ありましたよね」


 そうしてポツポツと渚が話し出したのは、どうやら自身が人殺しに至った理由らしかった。


 私が所有者である岳人の代わりに大学に行っていた時の事。その日も命令通りに一日を終え、買い物を済ませた私は帰路についていた。


「・・・・・・・あちらからですか」


 ふと通信が入る。しかもこの時代の物ではない形式ので、それが私と同じアンドロイドの物である事に気付くのに時間は要しなかった。


「放っておいてくれればそれで良いのに」


 今の時間は19時でもう日も暮れてしまっている。どうやら今は所有者も電話をしているのを把握すると、連絡を後回しにそのアンドロイドへの通信を優先する。


 するとどうやら相手は近場にいるらしく会いたがっているらしい。


「・・・・・・ふむ」


 正直関りを持ちたくないが下手に他アンドロイドに目を付けられるわけにもいかないかと、近場の公園を指定する。昨日私があの銀髪のアンドロイドと接触した場所で、あちらもそれは承知なはず。それならば下手な行動もしてこないとの考えだった。


「また岳人さん怒りますかね」


 そうして私は帰宅途中の人や学校終わりの学生が、チラホラといる公園で一人ベンチに座りそれを待つ。

 

 すると指定された時間ぴったりに男性型アンドロイドが現れ言葉を投げかけてくる。


「・・・・分かっていましたが初めて見る型ですね」

「そういう貴方はベストセラーの型じゃないですか」


 目の前に現れたのは渚より数世代前のアンドロイド。だが極めて汎用性が高く且つ廉価、アンドロイドが庶民へと普及が進んだきっかけになり一番生産された型。だがもう私が製造されたころには製造は終了し殆どが耐用年数を迎え、メンテナンス施設も殆ど稼働していなかったはず。だからある意味私にとっては珍しい型でもあった。


「昨日話していたアンドロイドはなんだ」

「さぁ?私も余計な事をするなと釘を刺されただけで何も」


 殆どの性能面で上回っているが、戦闘能力だけで言えば私よりもある。一定の警戒をしつつ渡す情報も吟味しなければ。

 そう目の前のアンドロイドに答えながら意図を探ろうと会話を続けるが、相手もそのつもりらしく質問を止めない。


「じゃあなぜ私達がここにいるのかも知らないのか」

「私も気付いたらこちらにいましたので。昨日の方達は何か知っている様子でしたのでそちらに伺ってみればどうでしょう?」


 そう私が答えるがそれは何か出来ない理由があるのか返答が無かった。どうやらそこに私に接触してきた理由があると判断し、私は目の前のアンドロイドを待つ。

 するとそのアンドロイドは本題に入るらしく、隣のベンチに腰を下ろす。


「君みたいに崩壊後の型は知らないが、私の型は基本製造国の法は犯せないよう設定されいる。それに他制限も多く殆ど自律的な行動は出来なかった」


 私は黙ったままその続きを促すように視線を送る。


「だがこちらに来てからどうもその制限がないらしい。実際殺人含めそういった違反を起こしてしまった。所有者の命令だとしても出来なかったはずの」


「・・・・・興味深いですね」


 アンドロイドはどうやっても基本所有者の命令には逆らえない。だがそれの土台である人間社会の法に反しない限りという但し書きは付くもの。私は参照する法を設定されていなかったから気付きようが無かったが、人類社会崩壊前の古い型だからこそ気付いた異変だって事らしい。


「勿論私自身そう言った行為は好ましく思ってはいません。他アンドロイドから排除されるリスクも跳ね上がりますから」

「だから孤立していた私に接触したと」

「えぇ。恐らくこの時代に送った主は私の行為を容認するとは考えずらいですから」


 昨日接触してきたあの銀髪のアンドロイドを警戒しているって事か。となるとこのアンドロイドは昨日の銀髪のアンドロイドにとっては複雑な位置にいるって事らしい。


「じゃあ既に目を付けられてますね。下手に信号出して居場所が割れればスクラップじゃないですか」


 そこまでの様子は感じなかったが、多少は誇張して警告しておくか。それに近所で事件を起こされると、岳人さんの生活にも影響を及ぼしかねないしさっさと対応してもらうためだ。

 

 だがそれ含めての私への接触だったらしくアンドロイドは言う。


「・・・・・だからこそ貴方に協力を要請したいのです」


 ジッと深い目元で私を見てくる。40代ほどの男性型だから、サービスとかじゃなく力仕事系の用途だろうか。

 だが今はそれは良い。今やっとこのアンドロイドの意図が分かったのだから。


「一緒に隠ぺいを手伝えと?」


 だが隣に座るアンドロイドは首を振ってそれを否定する。


「所有者を殺害します」


 その想定外の言葉に私はゆっくりと隣に座るアンドロイドへと視線を向ける。


「それを私にって事ですか」

「そう言う事になります」


 もちろんだがアンドロイドが所有者を殺す事は出来ないはずだ。それどころかそもそもこうやって計画するだけでも駄目なはずだが、これが今出来ているって事は本当に制限が無いらしい。


「それを手伝うメリットは私にあるのですか。それこそ私は送り主であるアンドロイドと接触している以上リスクもありますし」


 私は元々そう言った制限は無いから殺す事自体は出来なくも無いが、一応所有者からは不必要に他者に危害を加えるなと言われている。それを順守となればそもそも不可であるし、やるにしても不必要という文言を無理に解釈しなければいけなく、言った通りリスクでしかない。

 

 だがそれも想定済みの反応だったらしく、男アンドロイドは言葉を返してくる。


「私の所有者は貴方すらも欲しています。つまり君の現所有者を殺そうともしてますから、それらリスクへの対処がアンドロイドの役目では?」


 殺すのは別に構わないがそれが所有者の心証悪化、それに万に一つも無いが証拠が残れば世間に露見するリスク。


「・・・・つまり脅しですか」


「捉えようはいかようにも」


 一度思考を巡らす。つまりこいつは私が何もしなくても関与してき、最悪の場合岳人さんを殺して私の所有権を奪いに来ると。それは私としても避けたいが、私が人を殺すとなれば岳人さんもやはり嫌悪するのは目に見えている。


(だが背に腹は代えられないか)


「じゃあ協力しましょう。ですが私と貴方の戦闘となれば勝てませんよ?貴方が所有者の命令に逆らって手を抜くならまだしも」


 私は戦闘用ではないし力仕事を前提とした設計な訳でもない。対してこのアンドロイドはそう言った力仕事などに対し汎用的な機能がある以上分が悪い。それに単純に私を全力で破壊しろと解釈のしようの無い命令を所有者にされれば、あちらが手を抜くことだって出来ない。


 そう考えるとやはり私がこいつの所有者を殺すのは中々難易度が高いと試算できるのだが。するとそこも計画があるらしくアンドロイドが言った。


「私は平常時運用で残り3日分のエネルギーしかありません。ですのでもし戦闘となっても出力制限をせざる負えません」


 あとは分かるよなと私へと視線をぶつけてくる。


「最善を尽くすものの出力差で仕方なく私は負けその結果所有者が死亡、若しくは致命傷を負う。私は何も命令とコード違反することなく所有者を変える事が出来、貴方もリスク要因を排除できる」


 どうやらやはりこいつは壊れているらしい。

 今意図的に所有者の死亡リスクを高める行為をしているのに気付いていないのだろうか。それができるなら最早あちらの手で所有者を殺せそうだが、一応解釈の余地が無い部分では所有者の命令には従っているようだし、流石に全部が全部勝手に出来る訳じゃないらしい。


「まぁ良いですが、絶対に私の所有者には手を出さないでください。それをした瞬間私は貴方の保全を約束しかねますから」

「えぇそれでいいです。当方所有者を殺してくれるなら」


 まぁ相手も殺人犯となれば岳人さんもこの殺しに理解を示してくれるだろう。それに罪人相手となれば罪悪感もそこまで抱かないでしょうしね。


「じゃあその日になったらそちらから連絡してください」

「承知いたしました。では」


 そうして私は買い物袋を手に立ちあがり、丁度家から出た所有者を出迎えに行ったのだった。


ーーーーー


 正直言って良く分からなかった。俺と渚で前提条件となる情報の差があるし、そもそもアンドロイドと所有者の間にある物すら曖昧な俺にとって全く理解の外の話だった。


「だけど」

「・・・はい」


 少しだけ距離を詰め渚の半歩分後ろを続いて歩く。


「お前が人を殺したことには変わりはない。それは俺は許容できない物だ」


 渚の行動が俺の身の安全を考慮した上での行動なのも理解している。だがだとしても俺には一個人による殺人を許容できる価値観は無い。


「次からは報告と相談はしろ。勝手にやるな」

 

 そう言って軽く渚の右足を蹴るが、まるで何事も無かったかのように渚はゆっくりと戸惑いとどこか嬉しさが混じったような表情で振り返ってくる。


「てっきり捨てられるかと」

「俺物持ちは良い方だから」


 渚の隣を歩き無理やり優しい顔を作り、いかにも理解を示しだけども諭すように語り掛ける。


「人を殺すな。それをしないといけない状況なら俺の許可を求めろ」

「・・・・・はい」


 もしまた同じ場面になっても俺はそれを許可をするつもりは無いが。あとは一応の確認事項をか。


「死体はあのアンドロイドがどうにかするって事で良いんだな?」

「えぇ病死に見せかけるとの事です」


 だとしたら出頭して罪を償おうとしても無理か。


「俺から平和的に所有権を移す選択肢は無かったのか?」


 でもその問いに対して少し気まずそうに頬を引きつらせた渚が言った。


「所有者にしかそれは出来ませんから。私ではどうにも」


「・・・・・・そうか」


 さっきまで血が垂れていた右手が震えている。機械なのだから不具合なのかもしれないが、俺の想っていた以上に渚の感情は精巧なのかもしれない。でもだからこそこいつの行動が理解できない。


 だが今問い詰めても仕方ないからと、あくまで俺は友好的に話を進める。


「まぁこれで殺人事件は起こらないって事だろ?あの殺害予告動画もただの悪戯だったって事になるんだし」

「それはそうですね。あの怪我では生存は絶望的ですから」

「ならこの話は終わりだ。もう隠し事するなよ」


 そう言って渚の肩を叩く。そこには人っぽい感触があるが中身はシリコンと金属で出来たアンドロイド。

 

 そして少しの間があった後渚は答える。


「えぇ。聞かれたらなんでも答えますから」


「じゃあこれからも頼むな」


 そして浅くなった呼吸を取り戻すように肺を動かし、渚から数歩分後ろを歩く。


 俺は表面的に渚を受け入れた。受け入れたように見せかけた。

 俺の為にやってくれたから同情してしまう所もある、だが結局渚はどこまでも人を殺した事に何も罪悪感を抱いていないのだ。


(それはあまりに危険だ)


 渚にはやはり感情らしきものがある。だからこそ倫理観とでも言うのだろうかそういった面が欠如しているのはいつ暴発するか分からない。良かれと思って、必要だと考え、俺の為に他者に危害を加える可能性だってある。だからさっき俺が制限したが、それも意味があるのか分からない。


「・・・・?どうしました?」


 渚が振り返ってくる。なんだかんだ慣れて普通にこいつの存在を受け入れてたけど、やっぱりどこか人と違う存在。人を殺しても俺さえ許せば、そこに理由さえあれば、飄々として切り替え笑顔を作る。


「いや、ちょっと眠くて」

「おねんねには早くないですか?」

「お前俺の事何歳だと思ってんだよ」


 そして人を殺して数分後には冗談を飛ばしまた笑う。俺にはどう考えても出来ない行動。

 こいつはやっぱりさっき殺した男の人の事を意にも返していない。俺が理解を示し渚を受け入れ捨てなくて良かったとそう処理したのだろう。


「まぁそれは良いとして浜中さん落とすなよ」

「言われなくてもですよ~」


 ただただ怖い。渚に感情らしき物を見出していただけに、ここまで人を殺す事の認識に齟齬があるのが。


(・・・・・・でもアンドロイドっぽいのか。それが)


 殺しには合理的な理由があるから意に返す必要が無い。正しい殺しで殺された相手は悪い奴だから何も問題はない。人はそれを簡単に割り切れないが、感情の様な物があったとしてもアンドロイドならそれができるのだろうか。


 だけどだからこそ、これから俺はこのアンドロイドの手綱を握らないといけない。こいつが次人を殺して笑う事が無いように。


ーーーーーー


 意識が重い


 でもどこか暖かい


 安心するような落ち着くような


 でも喉は重く肺に溜まった空気が中々出て行かない


 そんな中夢なのか誰かの話し声が聞こえてくる。


「そろそろ気絶から戻るんじゃないですかね」

「ならお前は出てけって」

「私がいたら何かまずいんです?」

「いいから、分かってんだろ」

「はいは~い。じゃあお楽しみください~」


 会話は聞こえるがその意味を脳が理解するには、あまりに頭の中がフワフワして言葉を素通りさせてしまっていた。でも誰か知っている声なのは分かる。


「・・・・・・ん」


 体を覆う毛布の様な物。柔軟剤の良い匂いがする。

 段々と知覚する情報が増えていき周囲の情報を認識し始める。


「おはよう。大丈夫?」


 誰かが私の肩を揺らす。

 

 あぁ朝か。昨日は飲みに行ってそのまま帰って寝ちゃったんだっけか。


 ・・・・・・いや


 母さんは朝いつもいないんだ。起こしてもらったのなんて小学校以来殆ど無かったはず。

 その事実に段々と意識は現実へと引き戻され視界は光を取り戻した。


「・・・・・どこ?」


 喉が重い。というか体が全部重い。

 それにまだ視界はぼやけて天井の白い電気の灯で何も分からない。


「浜中さん?大丈夫?呼吸しずらいとかない?」


 その声に私は体を起こし目を擦る。まだあまり状況を掴めないが知っている声に安心をしていた。

 のだが、はっきりと目の前で私を心配そうに覗く男の顔を認識すると、一気に落ち着いていた心拍が跳ね上がる。


「え、は、んでお前ここに・・・・」

「いや、ここ俺の家だから。あ、水とかいる?あと二日酔いの薬一応買っておいたりしてるけど」


 あぁクソ、頭が痛い

 酒のせいかこの意味の分からない状況のせいか。


 あたふたする堤岳人の前で頭を抱え昨日の事ゆっくりを思い出す。


(確か酒飲んで送ってもらって・・・・・公園で変な奴にに絡まれて・・・・・・・・)


 段々と思い出し自然と喉元へと手が行く。だが多少違和感はあるものの痛みも無いし呼吸のしずらさはない。だがこの記憶だと確か私は・・・・・。


「一応警察には相談して連れてってもらったから。もう大丈夫だよ」


 私の心配を察してか岳人がそう言ってコップに入れた水を差しだして来た。


「あ、あぁ・・・・そう。ありがとう」


 そうかこいつが助けてくれたのか。また世話になってしまったのかと思うと申し訳な━━


「・・・なんでお前の家のベットに寝かされてんだ?」

「え、いや、流石に放置は出来ないし・・・・」


 病院じゃないのは違和感があった。首絞められて警察も来て自宅療養なんてありえるのか。

 人畜無害そうな感は出しているがこいつも男だ。助けられたとは言え自然と体を守る様に毛布で自身を守る様にかける。


「・・・・・なにもしてないよな?」

「してないですって!そんな事する状況じゃなかったですし!!!」


 この焦り方はどっちのか分からないな。

 

 ・・・・・でもこいつ宅飲み断ってきたっけか。それすら断るような奴にそんな度胸は無いか。それにあの時のこいつに助けられたのだから信用したい、だからあまり疑いたくはないし警察はどうにかしたのだろうか。


「・・・・・・まぁ信じる。あと、ありがとな」


 と言っても面と向かって言うのは恥ずかしいので毛布で顔を少し隠して言う。それに昨日のへべれけな所見られたと思うと余計にはずいし。

 そして毛布の向こうから声が返ってくる。


「・・・・・ご理解のほど感謝致します」


 その変な敬語に岳人の表情を伺うと、余程不安だったのか安堵しているらしく少し面白くなって笑い声が零れる。だがそれと同時に背後の壁からドンッ!と大きな音がした。


「・・・っと、びっくりしたぁ」

「あ、このマンション壁薄いんでお静かに・・・・」


 その言葉に部屋の時計を見ると夜中の3時を示していた。どうやら随分変な時間に起きてしまったらしい。そうやって段々と状況が理解出来落ち着いてくると、ふと思い出して気になった事があった。


「あ、てかお前誰かと話してなかったか?」


「・・・・え、あ、いやぁどうだろう?警察の人とかじゃないですかね?」


 内容は覚えていないがそこまで固い会話じゃなかった気もするが、この部屋を見た感じ一人暮らしって感じだしそうなのだろうか。


 でも確か前母親に買い物頼まれて無かったか・・・・?

 そうは思いつつも色々してくれたのは確からしいと軽く頭を下げる。


「あーまぁそうか。なんか色々ありがとな」

「いえ、俺が巻き込んでしまったような物ですし」


 そんな低姿勢な岳人に少し苛立ち私は言い返す。


「謙遜しすぎもあんま良くねぇよ。助けられた側が恩を返しずらくなるだろ」

「いやぁ、そう言われても・・・・」


 ナヨナヨしてるなぁ。あの時の私に話しかけれる癖に、こういう所があるのはまぁこいつの性格って事なんだろうか。


「まぁいいや。私始発で帰るからそれまで泊めさせて」

「あ、はい!それはもちろん!あ、水もどうぞ」


 なんか異様に焦っているというか緊張しているのは怪しいがまぁ良いか。こっちは迷惑をかけた側だしこれ以上変に疑うのも失礼だしな。それにここまでしてもらったんだし何か礼でもしないとか。


「夜食作ってやるよ。台所使っても良いか?」

「え、いやそれは構わないですけど、体大丈夫ですか?小腹空いたなら俺が作りますけど・・・」

「良いからそこで座っときな。使っちゃいけない食材とかある?」


 そう言いながら私は冷蔵庫を開ける。するとタッパーごとにおかずが入っているし綺麗な字で付箋が張ってある。


(作り置きとかしてんのか。思ったより料理ちゃんとするんだな)


 少しだけ感心しつつ背中越しに聞こえる声を聞く。


「一応全部大丈夫です。けどあの本当体調悪かったらすぐ言ってくださいね!」

「・・・・・・」


 お人よしというか心配性というか、まぁあの時からそれは知っていたんだけど。というか心配してもらって悪いがこのテンション若干鬱陶しいな。


 そう黙っていると岳人が不安そうに語り掛けてくる。


「あの・・・・?」

「敬語」

「・・・・はい?」

「敬語やめね。同い年なんだし」

「あ、はい・・・・分かり━━った」


 そんなに委縮されると割とこっちが傷つく。目つき悪いとか偶に言われるがそこまでじゃないだろうに・・・・・そうだよな?あ、てかメイク崩れてたりしないよな?寝てたし酒飲んでたし気になりだしたらソワソワしてくる。


「先洗面台借りるわ」

「あ、どうぞ!」


 また敬語。そう思いつつ洗面台へと向かう。

 

 そんな彼女の背を見て一旦大丈夫だったと胸を撫で下ろし一息つく。大分無理気味に元気出したけど案外俺には演技の才能があったのかもしれない。渚への対応でいっぱいいっぱいだけど、浜中さんを巻き込まない様俺はいつも通りを演じなければ。


(まぁでも浜中さんはとりあえず渚の事は覚えて無さそうだからいいか)


 するとユニットバスから浜中さんの声が響く。


「あ、私の鞄からポーチとってくんねー?」

「あ、うん!ちょっと待って」

 

 我に返って浜中さんの鞄を開ける。なんか俺の知らない物が色々入っていて気にはなったが、流石に失礼なのは分かっているので言われた通りポーチを取り出し洗面台へと向かう。


「ん、せんきゅ」


 片腕だけを扉から出していたのでその上にポーチを乗せる。化粧直しと言う奴だろうか、さっき見た時はなんとも思わなかったのだけど気になってしまうものなのか。


 そんな事を思いつつまた戻りカーペットの上に座るが、どこか自分の家じゃないようにソワソワしてしまう。するとそんな時俺の携帯が揺れた。


 落ち着いてください。嫌われてしまいますよ


「・・・・・・」


 どこからか渚が見ているらしい。いつもの冗談と言えばそうなんだが、やっぱりモヤっとすると言うか違和感が湧いてくる。人を殺しておいてこんな冗談をしてくるのかと。それが俺の為の殺しだっていうから余計に気分が悪い。


(これが人間の面倒くさい所なのかね)


 だがそんな俺の困惑をよそに、それからの始発までの2時間と少しは、浜中さんの作ってくれた夜食に舌鼓を打ち、一緒にゲームをしたりと案外普通に始発まで時間を潰した。まぁ浜中さんも酒が残ってるのか距離も近いし、渚が見ていると思うと精神的な疲労は余計に蓄積されたが。


 そうして近場の駅まで送るが、やはりあまりに寒くしゃべるだけで白い息が昇っていく。


「じゃあまた連絡する」

「・・・・?あぁうん分かったよ」


 何かまだ約束とかあっただろうか。そんな事を思いつつ浜中さんを送った俺はそのまま自室に帰るが、先にそのアンドロイドは部屋の中に座っていた。


「流石に腹が立ちますねこれ」


「・・・・なんでだ?」


 少しだけ声が震えてしまった。もしかして浜中さんもリスクと捉えてしまったのだろうか。何を考えているか分からない奴だから、不安になってしまう。

 

 だが流石にそれは杞憂だったらしく、少し冗談っぽく渚は唇を尖らせる。


「寒空の下追い出されて鼻の下伸ばした所有者を見て苛立たないアンドロイドの方が少ないですよ」

「い、いやぁ申し訳ないっすね~」


 多分俺の笑みは引きつっている。いつも俺どうやって渚と話していたんだっけか。


「ま、まぁ俺寝るから。おやすみ」

「あ、は~い。おやすみです」


 少しだけ他人の良い匂いのする毛布を被る。

 今の状態で渚と話すと絶対にボロをだして、渚が俺に不信を抱いてしまう。それだと手綱を握れなくなってしまう。これ以上周囲に被害を出させないために、俺が切り替えていつも通りを頑張らないと。


 そうして俺の一日は朝日と共に終わったのだった。

 

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