第9話:それでも俺は勇者じゃない
前回、タンクが命懸けで光を庇い、神の凶悪な一撃を防ぎ切った。
逃げ場のない戦場のど真ん中で、再び光が狙われる。
そして訪れる、二度目の覚醒の瞬間。
しかしその理由は……まさかの「股〇の危機」。
誰も望んでない形で勇者候補が本領発揮する、第9話。どうぞ。
「はぁっ、はぁっ……」
爆風の余韻が消えるころ、タンクの巨体がゆっくりと動いた。肩からは煙が立ちのぼり、装甲があちこちひしゃげている。
「おい光。生きてるか」
「……うん。一応は……」
足も震えてるし、心臓は暴れ馬みたいに暴走してる。でも、まだ立っていられる。
「次はお前の番だ」
「……は?」
元勇者がこちらに視線を向けた。剣を肩に担ぎ、口元には不敵な笑み。
「お前、あの技……本気で出してみろ」
「いやいやいや、ちょっと待て! あれは偶然! 勢いで出ただけだから!」
「偶然で神の術式を斬れる奴がいるかよ」
「……俺はいるんだよ……」
口に出してから、自分でも意味不明だと思った。
神は黙ったまま、こちらを観察している。その瞳には、試すような光が宿っていた。
『覚悟を決めよ、佐藤光』
「……だから俺は勇者じゃねぇって!」
『勇者か否かは、既に決まっている』
空が再び裂け、光の矢が無数に生まれる。標的は俺ひとり。避ける暇すら与えない速度だ。
「くそっ……!」
反射的に手をかざす。あの感覚が蘇る。身体の奥底から、熱い何かがせり上がってくる。
(やべぇ……! 股〇が潰れて、子孫が作れないかもしれないとか……そんな理由で覚醒する勇者、普通にいやだわ!!)
「光! やれぇぇぇ!!」
「クッソォォォォォォォォォォ!!!」
叫びと同時に、眩い刃が手の中に生まれた。
「生存本能・絶叫断斬ッ!!」
刃が閃き、空を裂く。光の矢は片っ端から両断され、消滅した。
地上に降り立った俺を、仲間たちが見ていた。
「……やっぱやべぇなお前」
タンクが笑い、賢者は小さく頷く。
「認めたくはないが……お主、勇者じゃ」
「だから俺は勇者じゃねぇって言ってんだろ!!」
そのやり取りを、神はじっと見つめていた。次の瞬間、薄く笑う。
『面白い……ならば、その否定が本物か、確かめさせてもらおう』
天空に、今までにない規模の魔法陣が広がった。
戦いは、まだ終わらない。
股〇の危機を回避するために覚醒する勇者候補――
物語としては非常に不名誉ですが、この作品らしい理由です。
それでも結果的に神の攻撃を切り裂く力を見せつけ、
ますます「勇者」としての扱いから逃れられなくなった光。
次回、神は本気でその力を試そうとしてきます。
笑いと混沌とバトルの狭間で、物語はさらに加速していきます。
また、更新頻度についてお知らせです。 現在投稿中のすべての作品は、2〜3日に1話のペースで全作品同時に更新していきます。 どうか気長に、そして楽しみにお待ちいただければ幸いです。