第8話:逃げたくても、世界が逃がしてくれない
「……あのさ、ひとつ言っていい?」
戦場のど真ん中。瓦礫と閃光の間に立ちながら、俺――佐藤光は、恐る恐る口を開いた。
「俺、本当にただの大学生だったんだけど……」
神が空からこちらを見下ろしている。
元勇者が天へ跳び、神の頬をかすめる魔力斬撃を放つ。
賢者が笑いながら空間魔法をぶっ放し、タンクはビルの残骸を投げ飛ばしていた。
「……なにこの世界観。どこのバグ空間?」
「いやこっちが聞きたい」
金髪少女が息を切らしながら返す。
「そもそもあんた、どうしてあんなヤバい技出せたの?」
「出した本人が一番困ってるんだよ! あんな厨二技、俺のボキャブラリーに無ぇって!」
『佐藤光……その力、やはり“選ばれし者”の系譜か……』
再び空から神の声が響く。
「いやいや! “系譜”とか急に言われても! 俺、じいちゃん漁師だぞ!? 勇者の血とか海藻と一緒に流れてるわけねぇから!」
『ならば、偶然でも構わぬ。貴様は今、確かに“世界を斬った”』
「やめて! そういう名言っぽい言い回しで既成事実つくるのやめて!!」
神が腕を広げると、天空に再び巨大な円環が現れた。
『ならば証明せよ。勇者としての覚悟を』
魔法陣が展開され、世界が再び震える。
元勇者がそれを見て叫ぶ。
「おい光! 行けるか!?」
「いやムリムリムリムリ!! 今の俺、現実逃避しかしてないから!」
「それでよくあの技出せたな……」
「本能だけで生きてんだよ今!!」
神の魔力が一点に収束し、空間が圧縮され始める。
その狙いは――俺だった。
(狙われてる!? うそでしょ!? 俺!? なんで俺だけピンポイント!?)
「お前が斬ったからだ」
元勇者が真顔で言った。
「やっぱ俺が悪いの!? 斬ったの俺だけど、勢いだったじゃん!! 半分くらい事故だよ!?」
『無駄口はここまでだ。断罪する』
神の声と共に、空が光に染まった。
雷のような閃光が降り注ぎ、重力が捻じれる。
「うわ、来たァァァァァ!!」
足がすくむ。
走れない。
身体が思うように動かない――
(あぁ、もうダメか……)
そのとき。
「はぁ~……しゃーねぇな」
タンクの声がした。
次の瞬間、俺の前に“盾”が出現した。
いや、違う。タンク本人が盾になっていた。
「お前みたいな奴を助けるのは、まぁ……悪くねぇからな!!」
「うわっ、あんた……!」
「てめぇの覚醒、見てたからな。面白ぇ奴だよ、お前!」
タンクの身体が衝撃波をまともに受け止め、爆風が四方に散る。
『なに……? 今の肉体で、この威力を……!』
神がわずかに眉をひそめる。
「舐めんなよ、神様……!」
タンクの奥で、元勇者が剣を振りかぶった。
「次は……俺たちの番だ!!」
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次回、「神 vs 元勇者+タンク」再び激突。
そして佐藤光にも、とうとう――決断の時が来る。