第3話 神 vs 元勇者!街ひとつ分の喧嘩
街が壊れます。
神と元勇者のぶつかり合いが、ちょっとだけ本気になってきました。
青年視点もじわじわ動き出します。
街が、順調に崩壊していた。
空には魔法が飛び交い、地には大穴が空き、建物は一棟ずつゲームのオブジェクトのように消えていく。
そしてその中心で――
「さぁ! 来いよ神様ァ!! 世界を救った最強の元勇者様が、お相手してやるよォ!!」
『無益な争いは好まんが……これはもはや仕方あるまいな、小童』
街のど真ん中で、全身を魔力で光らせた元勇者と、輪のような光背を浮かべた神が対峙していた。
……とんでもない絵面だ。
俺はというと、そのふたりから少し離れた歩道橋の影にしゃがみ込んでいる。
(なんで俺、こんなところで街の終わりを見届けてんだろ……)
状況が一切理解できない。けれど、あの“元勇者”と呼ばれた男の叫びが、何か妙に胸に残っていた。
『勇者なんて俺ひとりでいい! 同じ苦しみを、誰にも味わわせたくねぇんだよ!』
それは自己犠牲であり、独善でもあった。
でも確かに、あの言葉には……真実味があった。
「さぁ来な神様ァ! この俺が、転生というシステムそのものをぶち壊してやる!!」
『面白い。ならばその身で学べ。“選ばれなかった者”が神に逆らった代償を』
神が手をかざすと、天から光の柱が降り注いだ。
その一撃で、街の一角が文字通り“更地”になった。
爆風が吹き荒れ、ビルの骨組みごと持っていかれ、俺の視界が白で埋まる。
けれどその中心――元勇者は、笑っていた。
「ははっ……そうこなくっちゃな!」
次の瞬間、彼は空間を裂くように突進した。
スキル:《超反応》《集中》《反転跳躍》《神気耐性》《対神闘気展開》!
その動きは速すぎて見えず、神の左腕を切り裂いた光だけが残った。
『なっ……!?』
「神様よ……アンタ、“全部正しい”と思ってる顔してるけどさ」
元勇者が、静かに言った。
「転生って本当に救いなのか? 誰かの死を、出発点にしてまでやることなのか?」
『……世界は救いを求めている。それに応えるのが、神の義務だ』
「じゃあさ――その“義務”で、どれだけの命が壊れてるか……アンタは見てきたのか?」
沈黙。
そのとき、空間が歪んだ。
「おいおい、こんな神様相手に一人で突っ走って楽しいのか? 相変わらずバカだな、勇者様ァ?」
紅蓮のマントが舞い、イケメンタンクが乱入する。
「はぁ!? てめぇは黙ってろよイケメン野郎!!」
「おぉ怖い怖い。だがこっちはこっちで――」
「黙らんかクソガキィィィィ!!」
続けてロリババアの賢者が空間を裂いて現れ、またもスキルの大合戦が始まった。
「おいおいマジで勘弁してくれよ……!」
俺は頭を抱えた。
何も分からない。けれど――この人たちは、何かを本気で守ろうとしてる。
そのことだけは、不思議と分かる気がした。
あとがき
ここから少しずつ、「元勇者 vs 神」の思想的な衝突が中心になってきます。
でも仲間たちはギャグ一直線です。賢者とタンクの口喧嘩は今後もバチバチでいきます。
青年の“巻き込まれ覚醒”もじわじわ進行中。
次回、第4話もお楽しみに!