第1話 転生を止めろ!元勇者、再起動
【前書き】
はじめまして。
この作品は「転生モノあるある」を逆手に取った、元勇者 vs 神の“転生阻止”バトルです。
ギャグ強めで始まりますが、ところどころにシリアスや人間ドラマも潜ませております。
肩の力を抜いて、楽しんでいただけたら嬉しいです!
その日、俺はただの大学生だった。
講義を終え、帰り道にコンビニへ寄ろうとしていた。夕焼けが街を赤く染めていて、平和そのものな日常だったはずだ。
……目の前の、おばあさんが道路に倒れているのを見るまでは。
「うわっ……危ない!」
気がつけば、俺の足は勝手に動いていた。迫るトラックのクラクションが、耳を劈く。
──ドンッ!!
「……え?」
身体が空中に投げ出される感覚はなかった。代わりに、俺の視界には――
「転生なんて、させてたまるかぁぁぁ!!」
叫びながら飛び出してきた男が、俺とおばあさんを強引に押し出し、トラックの進路を逸らした。
命拾いした俺は、呆然とその男を見上げた。
「ふぅ……助かってよかったな、青年! 危うく“転生”させられるところだったぞ!」
「え、えぇ……ありがとうございます……(転生……?)」
助けられたことには感謝している。が、その言葉はどういう意味だ? まるでラノベの異世界転生ものみたいな……。
(え、もしかしてこの人……やばい人……?)
「礼はいい。それじゃ、元気でな!」
男はそう言い残し、颯爽と走り去った。
「……変な人だったなぁ……」
呆れたように笑った、そのとき。
『なっ……なんだあやつは!?』
俺の頭の中に、声が響いた。脳内ボイス……? いや、そんなバカな。
『あれは……過去にワシが転生させた勇者!? まさか……自力で現世に戻ってきていたのか!?』
なに言ってんだこいつら。
『聞こえとるかァァ! 神ィィィィィ!!』
『おっ……おう、聞こえておるぞ?』
またアイツの声だ。走り去ったあの人が、空に向かって叫んでいる。
『勇者は俺ひとりで十分だ! 苦しい思いをするのは……俺だけでいい!』
『……なんという善良なやつじゃ。さすが世界を救った英雄。心根が違う』
『パーティー内の好きだった子たちが、全員あのイケメンタンクに持ってかれた悲しみを知ってるのは、俺だけで十分なんだよォォ……』
『……ワシの涙を返せ、小童。感動返せ』
なんだこのやり取り。
だが、ここから事態は本格的にカオスになっていく。
『とにかく! 勇者は俺で十分なんだよ!』
『認められん』
『なんでだ!?』
『神が勇者を選ぶ以上、その者に力を授けねばならん。それが“神々の秩序”じゃ。……お前はすでに強すぎる』
『ちっ……つまり、新たな転生者は出すってことか?』
『……あぁ』
『なら、全てを止めてみせる! この俺が、神を止める!』
そして始まる“神 vs 元勇者”の戦い。
だがそこに、さらなる混乱の火種が現れた。
「おいおい、勇者様ァ? オレ様を放って何してんだよ? 楽しそうなことしてんじゃねぇか?」
突然現れたのは、金髪に真紅のマントをなびかせたタンク役の男。異様なオーラを纏っている。
「なっ……お前はイケメンタンク!!」
元勇者が呻くように呟いた直後、今度は空間が歪み、ロリババア風の大賢者が登場する。
「おぬし、調子に乗っとるようじゃの。性根を叩き直してやらねばなるまいなぁ……? 我がバカ弟子よ」
「うわっ……最悪な組み合わせじゃねぇか……」
そして、街中で大規模戦闘が始まる。
魔法陣が空に展開され、隕石のような爆発が巻き起こり、巨大な狼が地を駆ける。
爆音、衝撃、閃光。次々に飛び交うスキル名とスキルの応酬。
俺はただ、呆然とするしかなかった。
──何がどうなってるんだ、これ?
助けられたのは感謝するけど……マジで意味がわからない。
俺の平凡な日常は、こうして終わったのだった。
【あとがき】
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!
元勇者 vs 神という構図で、ギャグとバトル、そしてちょっぴり切ない過去を絡めながら物語を展開していきます。
「転生モノだけど、転生させない物語」
そんな逆張りコンセプトが、誰かのツボに刺されば幸いです。
次回も、ぜひお楽しみに!