8.乱入者
結局、私は毎日、営業前の朝の時間に一時間と、営業終了からの一時間、完了依頼の見直し作業を続けた。そして、週に二回は市場に顔を出し、何か新しい依頼は無いか確認した。
地道な努力を続けて一か月が過ぎた。
「出来た!」
「出来たの?」
私はテーブルの上に広げた地図を持ち上げて、アーサー様に向けた。
「はい! 見てください!」
「お、凄いね」
「これ、壁に貼っていいですか?」
「うん。どこでも好きなところに貼っていいよ」
ようやく完成した、植物の採取地地図と、モンスター討伐グラフを壁に張った。
「冒険者のみんな、見てくれるかな?」
ちょっと不安になりながら、冒険者ギルド『ビリーブ』の営業時間を迎える。
ドアが開いて、数人の冒険者が『ビリーブ』に入ってきた。
「いらっしゃいませ『ビリーブ』にようこそ!」
「おう! ララちゃん、今日も可愛いね」
「あれ? なんだ? なんか地図があるな? それに……モンスター討伐傾向?」
冒険者の方々が、私の作った資料を貼った壁の前に集まっている。
「そちらは、『ビリーブ』で完了した依頼の結果をまとめたものです。皆さんの冒険のお役に立つかもしれないと思いまして……」
冒険者たちは私の顔を見てから、もう一度壁の資料を見た。
「これは良いな! 知らない採取地ものってるから参考になる!」
「モンスターの強さが分かってありがたいよ。初めて戦いを挑むモンスターは、どのくらい強いか、噂で判断してたからな。この表を見ると、自分のレベルで倒せそうか判断しやすい! これは助かるよ!」
「良かった」
私は作った資料が冒険者の役に立ちそうだと分かり、胸をなでおろした。
「俺、知り合いにも『ビリーブ』には面白い資料があるって伝えるよ」
「僕は知り合いに『ビリーブ』には細かい依頼も豊富にあるって伝えたよ。そしたら、今度行ってみるって言ってた」
「わあ……。皆さん、ありがとうございます!!」
私は受付カウンターの中から、冒険者の皆さんに頭を下げた。
バン!
ドアが叩かれた音がした。びっくりしてふり返ると、ドアが開き、仁王立ちしている女性が見えた。
「この泥棒猫! よくも『ラブリー』から冒険者を奪ったわね!」
「えっ!? ……キャシーさん!?」
キャシーさんはカツカツと音を立てて、受付カウンターの前に立ち、『ビリーブ』の中を見渡した。
「地味な店。どうしてこんな店のほうが良いなんて言うのかしらっ! ……どいつもこいつもっ」
キャシーさんは冒険者を軽く睨んでから、私の方に向き直した。顔を突き出して、凄みのある声で私に言った。
「……覚えてらっしゃい! 『ラブリー』を舐めるんじゃないわよっ!」
キャシーさんは言い終わると、またカツカツと音を立てて『ビリーブ』を出て行った。
「え? え?」
私は何が起きたか分からず、途方に暮れた。