6.市場の掲示板
「これね……大きな掲示板。あ、ここ空いてる! よし、じゃあ『ビリーブ』の依頼募集を貼って……。うん! いい感じ!」
私は掲示板の右下に貼った『ビリーブ』の依頼募集を見て、ひとり頷く。
「人探し、落とし物、働き手募集……結構いろんな張り紙があるんだなあ」
掲示板を見ていると人が近づいてくる気配を感じた。こんなにすぐ『ビリーブ』の張り紙に興味を持った人がいるのかな? と私は嬉しい気持ちで様子をうかがっていた。
「お嬢ちゃん、誰に断ってここの掲示板を使ってるんだい?」
「え?」
振り返ると私より頭二つ分大きな、40代くらいにみえるスキンヘッドの筋骨隆々としたおじさんが私を睨んでいる。
「あの、わたしお城でここに掲示板があるって聞いて……」
唾をごくりとのみこむ。おじさんが息を吸って、大きな声を出した。
「勝手なことしてんじゃねえよ!! 小娘が!!」
「ひゃんっ」
思わず変な声が出た。……こわいっ。強面の冒険者の皆さんを見慣れているけど、こんな殺意を持った目で、にらまれながら怒鳴られたことなんて無い!
半泣きで立ち尽くしていると、聞いたことのある声がした。
「ハンス! 何かあったのか? 大声が向こうからでも聞こえたけど……ってあれ? ララさん?」
「ポール様!」
私は涙をこらえて、ポール様に駆け寄った。
「ポール坊ちゃん! この小娘……いや、お嬢さんはお知り合いですか?」
「うん。いつもお世話になってる冒険者ギルドの方だよ。……ララさん、大丈夫? ハンス? なんでララさんを泣かせたの?」
ポール様が険しい目をハンスさんに向けると、ハンスさんは頭をかいて笑ってごまかした。
「知らないやつが勝手に、掲示板に張り紙をしてたから軽く注意をしただけですよ」
ポール様が息をついて、やれやれ、という様子で両手を腰に当てた。
「ララさん、この掲示板を使うときは、管理者のハンスにお金を払うんだよ?」
「お金……」
しまった。私、今お金なんて持ってない。
青ざめて立ち尽くしていると、ポール様は私に微笑みかけてから、銅貨を一枚ハンスさんに渡した。
「はい。僕が支払うから、張り紙はこのままでいいかな?」
「ポール坊ちゃんからお金はいただけません!」
「いいんだよ、ルールなんだから。受け取ってくれれば」
ハンスさんは「そこまで言うなら」と銅貨をポケットにしまって、お辞儀をしながら去って行った。
「あの、申し訳ありませんでした! 助けてくださってありがとうございます!」
私が勢いよく頭を下げると、ポール様は困ったような声を出した。
「ララさん、町には町のルールがあるから気を付けてね」
「はい、気をつけます! お金は『ビリーブ』にいらっしゃったときにお返しいたします!」
頭を下げたままでいる私の手を取り、ポール様は私に顔を上げさせた。
「そんなに気にしなくていいよ」
ポール様は優しく微笑んでくれた。
「『ビリーブ』、依頼が少ないの?」
「そういうわけでは無いのですが、もっといろいろな冒険者の方々の希望に合う依頼をご用意したくて……」
「そっか。ララさんは頑張り屋さんだからね」
「……そんなことないです」
町に10時の鐘が鳴り響いた。
「そろそろ『ビリーブ』に行かなきゃ! ポール様! 本当にありがとうございました!」
私はもう一度深々と頭を下げ、ポール様と別れた。
「……助けられちゃったな。でも、ポール様、お坊ちゃまなんだ。……知らなかった」
ポール様のことを考えてながら歩いているうちに、私は冒険者ギルド『ビリーブ』の前についていた。