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転生コスプレイヤーは可愛い服を作りたい  作者: 灰猫さんきち
番外編

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番外編:南の植民都市3


 とうとう船出の時がやってきた。

 港にずらりと並ぶのは、全てが木造の古代の船。

 全体的に丸っこい形が多くて、大きさは最大でも二十メートル程度だ。

 ここにあるのは商業用の船ばかり。帆に風を受けて進む船になる。

 これが軍船になるともっと大きくて、動力は人力エンジン、つまりオールで漕ぐやつになる。ガレー船というやつだ。

 戦場では風まかせなどできない。小回りをきかせて駆け巡り、敵を撃破するのだから。


 ネルヴァが用意してくれた船は、大きめの一艘だった。

 前世の船に比べると長さに対して横幅が広いように思える。

 岸壁に横付けされた船に、渡し板を渡してもらって乗り込んだ。

 ゆらゆら揺れる足元がいかにも船! という感じがする。

 ティトスは乗っただけでもう青い顔をしていた。


「おい、大丈夫か?」


 クロステルが声をかけている。


「あんまり大丈夫じゃないかも……。揺れて気持ち悪い」


「こんなの揺れているうちに入らんだろ。洋上に出てみろ、こんなものじゃきかないぞ」


「ううう」


 ますます顔色を悪くするティトスの背中をぽんぽんしながら、私は言った。


「クロステルは平気なの?」


「もちろん。俺の故郷、グラエキアは海と船の国だ。隣の町に行く時だって、馬より船を選んだものさ。それに俺は蜘蛛だから、揺れには強い」


 一応気を遣って、蜘蛛うんぬんは小声で言ってくれた。

 確かにグラエキアは海洋民族。遠い昔、長らく内海の覇者だった。

 グラエキアの都市国家ポリスが衰えてくる頃には、南の大陸のソルティアが隆盛した。

 そしてソルティアはユピテルと衝突してユピテルが勝利し、今に至る。歴史を感じるね。


「デキムスとカリオラは大丈夫?」


「平気、平気。海風が気持ちいいぜ」


 二人とも何ともないようだ。


「そろそろ出発します。――漕ぎ手準備!」


 船長が言って号令をかけた。

 すると船の脇腹から何本ものオールがにゅっと出てきた。

 オールはリズミカルに動いて、船を動かしていく。

 やがて船が港を出ると、帆が張られた。真ん中のマストが一本、それに前後に小さいマストが一本ある。

 マストのてっぺんには巻き上げ機がついていて、水夫が操作すると帆がするすると降りてきた。

 帆は全て四角形だ。前世の船だと三角形の帆もあった気がしたけど、どうしてかな。

 帆をよく見てみると、太い綱が編み込まれていた。


「よし、繊維鑑定!」


『縦糸を木綿、横糸を亜麻で織った丈夫な布。航海に耐えうる強度を得るため、綱を格子状に編み込んでいる』


 ほほぉー。あの綱は強度補強のためだったんだ。

 確かに綱であれば帆の巻取りに影響が出ない。色々と工夫されているなあ。


 帆の向こう側には春のよく晴れた青空が広がっている。

 こうして私たちの船旅は始まった。







 今回の航路はユピテル半島を西に出て、テュフォン島の沿岸を回り込んで南下するコースだった。

 常に島影を視界に入れながら進むので迷う心配がなく、安全性の高い航路ということだった。

 春の気候は穏やかで、船旅は順調。予定では三日で到着する。


「うえええぇ、気持ち悪いよぉ……」


 唯一の問題はティトスが船酔いでダウンしたくらいか。

 寝込んだティトスに、カリオラが風の魔法で風を送ってあげていた。







 そうしてたどり着いた南の大陸は、……廃墟と化した町が広がっていた。

 一部は植民都市計画で復旧が進んでいる。でもそれ以外の大部分は、無惨にも瓦礫が連なっていた。


「リディア、ティトス。よく来たね」


 復旧された区画で、ネルヴァが出迎えてくれた。

 彼の今の職分は按察官アエディリス。按察官は公共物の建築や祭儀の管理を行う役職である。会計官クワエストルの任期を無事に満了して、次なる出世コースに入ったようだ。

 植民都市計画といい、この人は立ち止まるということを知らないね。


「船旅はどうだったかな?」


「ひどい目にあいました……」


 まだ顔色の悪いティトスが実感を込めて言うと、ネルヴァは苦笑した。


「それはそれは。まぁ、きみたちが無事に着いて安心したよ。儀式の日まではまだ数日ある。案内をつけるから、近くを見物してくるといい」


「はい!」


 宿泊所としてあてがわれた建物に荷物を置いて、私たちはさっそく見物に出た。


「市街地はほとんどが廃墟になっているんですね」


 案内人に聞いてみる。


「破壊したのは二十年前のユピテル軍です。ソルティアは長年の仇敵でしたから、元老院も市民たちも恨みが積もっていたのでしょう」


「それにしたって、大きな町なのに。壊さなければ再利用もできたでしょうに」


 ティトスが眉を寄せている。

 復興が始まったごく一部を除いて、辺りは瓦礫だらけだ。完全に打ち壊されて、元の建物を思わせるものは一つもない。

 神殿も城壁も、一般の家屋さえも。そしてその瓦礫すら踏み均されて、かつてはその上から塩を撒いたのだという。

 それはユピテル人が『呪われた土地』に対して行う行為だった。


 私はソルティアとの戦いが終わってから生まれた。

 だから当時のユピテル人がそこまでの怨念を敵に抱いていたという事実が、空恐ろしかった。

 去年、ユピテルはセグアニ人を撃破した。撃破といえば聞こえはいいが、要は大量虐殺になる。

 前世の現代と倫理観が違うとはいえ、人間同士でそこまで残虐になれるなんて。


 だが、人間は残虐なだけではない。

 ネルヴァのように大局を見て国民の幸福を願う人もいる。

 エラトたちのように明るい笑顔で癒やしと元気を振りまく人たちがいる。

 デキムスとカリオラはいつも誠実に私に力を貸してくれる。

 そして、ティトスは言うまでもない。優しい心と勇気を併せ持つ、私の最高のパートナーだ。

 クロステルは……人間ではないから、ちょっと分からないけど。


 瓦礫だらけの場所から復興が進む場所を眺めやる。

 自分たちが破壊した場所を自分たちの手で修復するのは、愚かしい行為だろうか。

 考えても答えは出なかった。


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