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転生コスプレイヤーは可愛い服を作りたい  作者: 灰猫さんきち
最終章 夢の叶う時

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77:ファッションショー


 ビザンツの衣装の次に登場したのは、中世初期の領主の服をまとった男性。

 毛皮の縁飾りをつけた床まで届く長いマントをひるがえしている。

 マントの上のショルダーケープは、同色でまとまりが良い。

 マントの下にはガウンを着ていた。


 そう。私はこれから、前世の衣装の歴史を舞台で描きたいと思っている。

 この世界でもあるかもしれない、未来の光景を。

 とはいえ私はただの元コスプレイヤー。

 歴史ものは好きだったけれど、きちんと服飾史を学んだわけじゃない。洋裁すら独学なのだ。

 それに私が知っているのは西洋に偏っていて、アジアやその他の地域はいまいち詳しくない。

 だから私の作った服は、どれもが本格的ではない。すべてが「なんちゃって」だけれども、それでも雰囲気は伝わると信じたい。


 ビザンツの男女と中世の領主が舞台の中央でくるりと回って、それぞれ端の方へ下がっていく。

 ユピテルの兵士役の二人は既に端にいて、新しくやって来た三人と握手などしている。


 それを横目に、さらなる登場人物が現れた。

 男性は上着にベルトを締めて、タイツを履いている。頭には羽飾りの帽子をかぶっていた。

 女性はゆったりとしたローブを身にまとい、とんがり帽子をかぶっている。帽子からはヴェールが垂らされていて、歩くたびにひらひらと揺れた。


 この二人は中世十五世紀あたりの貴公子と貴婦人だ。

 マリー・アントワネットで有名なフランス革命は十八世紀の出来事なので、それよりも一回り前の時代になる。

 ルネッサンスが起きて新しい文化が花開き、各国で独自の服飾が発展していった時期でもある。


 十五世紀の貴公子と貴婦人は舞台の中央で手を取り合ってお辞儀をした。

 それからくるりと回転し、端へと下がっていく。


「何だあれ、仮装大会?」


「変な服ばっかり!」


「あんなの見たことないよ。どこの国の服だろう」


 客席からはそんな声が上がっていた。

 けれど劇場という非日常の場所だからだろう、面白がっているだけで嫌悪は感じられない。


 そうしているうちにも、舞台には次々と人がやって来る。

 十六世紀、十七世紀と時代が下っていけば、衣装はより凝った華やかなものになった。

 女性はお姫様のようなドレス。袖が大きくふくらんで、スカートはフリルとリボンで飾られている。

 男性はおしゃれなジャケットとハーフパンツ、タイツ。マントを合わせたり飾り帯をかけたりと個性を追求している。


 そして十八世紀。

 この頃になると一つのイメージで時代を語るのは不可能なほど、バリエーション豊かな服があふれている。

 女性のドレスは特にそう。だからもう開き直って、好きなデザインで作ってみた。

 サーモンピンクを基調に、大きくふくらんだスカートの外側を同じ色で統一。下のスカートは若草色。こうすればほら、美味しそうな桜餅カラー!


 豪華な舞踏会をイメージして、書き割りは宮殿の内部になっている。

 舞台の上にガラス片をいくつも結びつけたものを吊り下げて、シャンデリアに見立てる。

 ティトスが光の魔力で照らせば小さな光が乱反射して、舞台はきらきらと輝いた。

 そろそろ夕暮れに差し掛かリ始めた薄暮の中で、光はとても美しく舞台を彩っていた。


 貴公子と貴婦人たちの合間に、農民や町人たちも混じって踊っている。

 貧しい人々の服装は、上流階級ほど大きく移り変わらない。素朴なシャツとズボンの男性と、エプロンドレスの女性。

 華美なドレスの間を縫うようにして、彼らもしっかりと存在していた。


 音楽はうろ覚えのワルツ。私が下手くそな鼻歌で歌ってみせた曲をティトスが聞き取って、楽団の演奏に起こしてくれた。

 中世の衣装をまとった人々はワルツのリズムで踊る。男女で一組になって、まるで遊園地のコーヒーカップのようにくるくると回った。


 と、そこへ。

 ジャーン! と大きくシンバルが鳴って、客席の人々を驚かせた。


 同時に毛色の変わった一団が躍り出た。

 中国風の合わせのある服を着た男女である。

 私は漢服は詳しくないんだけど、とりあえず知る限りの知識を盛り込んで服を作った。

 彼らはくるくるとコマのように回って、黒い長い髪と広い袖をひるがえす。

 アジアン風のリズミカルな曲に乗せたアグレッシブな踊りに、客席がわっと沸いた。


「あの服って、東国のじゃない?」


「あぁ、たまに見るよな」


 内海の覇権国家であるユピテルには、街道を通じて遠い国から人と物の往来がある。

 なので数は少ないとはいえ、東方人も行き来しているのだ。東のシン国から絹が輸入されているように。


 中国風の一団が下がると、次は我が日本である。

 十二単のお姫様と狩衣の貴公子がしずしずとやって来た。

 静かな曲調に合わせて、扇を広げて舞っている。

 夕焼けの紅が薄っすらと差す中で、幻想的な美しさだった。


「今度のは何? 東国の服に似てるけど……」


「髪の毛、長すぎじゃない?」


「服をいっぱい重ね着してる。色合いがきれい!」


 見たことのない雰囲気に客席から声が上がる。

 この世界に日本のような国があるかどうかは分からない。

 前世の歴史でいえば、古代ローマ時代の日本は弥生時代である。高床式倉庫を作って、一生懸命稲作をしていた頃だ。

 探しに行くには、この世界はあまりに広い。だからまあ、きっとあると信じておこう。







 中世後半と近世をさらりと済ませて、時代はいよいよ現代へ。

 限られた役者をフル回転させているので、舞台裏は着替えで大わらわだ。


「次の服、お願いします!」


「はいこれ!」


「あああ、髪の毛が引っかかっちゃった!」


 ドレスは脱ぎ着が大変なのが多い。

 夏の暑い時期に重いドレスを着てダンスを踊って、汗だくになった役者たちが必死で着替えている。

 私も彼らの着替えを手伝って、流れる汗を布でぬぐった。ふわりと織った魔物の絹布は水分をよく吸収するので、タオル代わりとして最適だった。


「みんな、もうちょっとだけ頑張ってね!」


 励ましの声を掛けると、あちこちから声が上がる。

 今回の舞台に関わる人は、裏方を含めて四十人あまり。劇役者だった人や流れの芸人もいるけれど、一般市民も多く参加している。

 エラトの店やフルウィウスに頼んで募集をしたら、思った以上にたくさんの人が来てくれたのだ。

 みんな、新しい服に興味を持ってくれた。私の考えに賛同して参加してくれた人ばかりだ。


「もちろん!」


「ええ、頑張るわ!」


「言われなくても!」


 現代の服に身を包んだ彼らの中心に立って、私は拳を突き上げた。


「さあ、最終ステージ。いくよー!」


「おおーっ!」


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