表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生コスプレイヤーは可愛い服を作りたい  作者: 灰猫さんきち
第3章 魔物の絹と新しい服
64/86

64:イメージチェンジ


 フェリクスのお屋敷を出た私は、ティトスたちと一緒に久々にエラトの店を訪ねた。

 お昼のオープン前だったが、既に人の列ができ始めている。

 私たちはなるべく目立たないように裏口から店に入った。


「リディアちゃんとティトスくん! 久しぶりね!」


 エラトたちは少し見ない間にきれいになった。動きもより洗練されて魅力的になっている。

 すっかり着慣れたニンフの衣装をひるがえして動くさまを横目に尋ねた。


「お店の調子はどう?」


「うん、絶好調! 毎日満席が続いていて、ステージは立ち見のお客さんが多いよ」


「危ないことはなかった?」


「そっちも平気。護衛の人と親衛隊の人が見回りをしてくれるおかげで、この近くの治安がちょっと良くなったくらいなの」


「それはすごい」


 エラトの笑顔は輝くようだ。

 もともと明るい看板娘だったけど、アイドルとしての才能が開花したように見える。


「フェリクスのお屋敷に招待されて、歌と踊りをやってきたんだよ!」


 横からミミがぴょんと顔を出した。猫耳がふるっと動いている。


「貴族様たちの前で緊張しましたが、いい経験になりました。フェリクスの方々は親切にしてくださって」


 おっとりと言うのはサリアである。


「そうそう、フェリクスのお屋敷でお嬢様が声をかけてくださったの。あたしたちの衣装を褒めてくれたのよ」


「ドルシッラ様?」


「うん、そう! その後、お忍びでお店まで来てくださってね。なんだ、リディアも知っていたのね」


 みんなで明るく笑い合う。


「そのドルシッラ様のご希望で」


 私は言う。


「あの方のために可愛い衣装を作ることにしたの」


「えーっ、すごいね! リディアの服、とうとう貴族様にも認められたんだ」


「でも確か、フェリクスのお母さまが反対しているのでは?」


 サリアが不安そうに言うので、私は「ふふふ」と笑った。


「お母さまは説得済み。新しい服は家の中でだけ着るっていう条件付きだけど、作ってもいいことになったの」


 ブラジャーパワーのおかげである。


「それでどんな服が欲しいか相談中なんだけど、もっとサンプルがあるといいねっていう話になって」


「さんぷる?」


「三人みんなの新しい衣装を作って、ドルシッラ様にお披露目に行こう!」


「……!」


 エラト、ミミ、サリアはそれぞれに目を輝かせた。







 その日はお昼の営業開始が間近だったので、私たちは店を出た。忙しいところを邪魔してはいけない。

 私とお母さんが住んでいたアパートは引き払ってしまったけど、羊毛工房はまだ健在。

 だいぶがらんとしてしまっているが、少しの人が立ち働いていた。ブラジャーの時に引き続き、ここを使う許可はもらっているので問題ない。


「あら、リディア。新しい工房に行ったと聞いていたのに、まだ首都にいたのね。また下着作り?」


 昔なじみの織物職人が私に気づいて、話しかけてきた。


「今度は下着だけじゃないよ。あっちでの仕事は一区切りついたから、首都でも色々やろうと思って戻ってきたの」


「ふうん。リディアは仕事熱心ねえ」


 苦笑しながらも、職人は作業台を整えてくれた。

 この前はブラジャー作りだったけど、今度はまた服作りだ。広い作業台の方がやりやすい。


「染色から戻ってきた布、そこに置いてあるから」


「うん、ありがと」


 ブラジャー作りの一件の時、同時にエラトたちの次の衣装を作りたいと考えていた。

 ふんわりとしたイメージを決めていたので、時間のかかる布の染色を予めお願いしておいたのだ。

 積んである布は黒、オレンジ、青。漂白された白もある。

 そのうちの黒を手に取った。

 黒く染められたシルクは艷やかで、吸い込まれそうな色をしている。


 黒い色の染料は、没食子が主に使われている。ブナ科の植物の若芽が変形し瘤になったもので、絞ると黒い汁が出る。これで布を染めるわけだ。

 没食子はいわゆる虫こぶの一種で、特定の種類のハチが木に卵を産み付けて成長することでこぶになる。染料の世界では虫はけっこうメジャーで、没食子の他にもカイガラムシみたいな虫をすり潰して赤色に染めるものもある。

 染料は植物、虫、貝殻、それから金属や土なんかがよく使われているね。


 今回はこの黒いシルクを使って、エラトの衣装を作る。

 今までの彼女の衣装は染色なしの生成りのままだった。

 あれはあれで素朴で可憐なエラトに似合っていたと思うけど、ここらでばっちりとイメチェンをしてやろうではないか。


 題して「黒い蝶」。ちょっとオトナな雰囲気である。

 絹は繭を三本使って糸を撚り合わせるが、特に繊細にしたくて一本のみの糸で織り上げた布を試作した。

 それはもう薄くて向こうが見えるほど。ふわりと軽くて風に舞う。

 この薄さを蝶の羽に見立てて、何枚も重ねて衣装を作る。


 上半身は思い切ってデコルテを露出しよう。

 ブラジャーのおかげで胸をしっかり固定できるので、デコルテを出してもポロリ事故は起きないはずだ。

 後ろはしっかりレースアップで編み上げて、固定して。

 ちょっとセクシー路線だけど、治安が落ち着いているというのでチャレンジしてみたい。

 そうそう、編み物ができるようになったのでタイツも作りたいね。シルクの黒ストッキング、クールで可愛いでしょ。


 清楚で可憐なニンフだったエラトが、漆黒の蝶へと変身する。きっとお客さんは驚くだろう。

 ギャップ萌えを狙うのだ!

 もちろんエラトだけでなく、サリアとミミのイメチェンも考え中。

 さらに衣装を増やしていけば、衣装ごとにお客さんのファンが付くかもしれない。衣装目当てにお店に来る人も出るかもしれない。

 そうしていずれはエラトたちが身につける小物の販売などから始めて、ゆくゆくは服の販売もしちゃったりして。リディアのアトリエを開店するの。


 お店の中で私の服を手に取って、買ってくれる人たちを想像すると、自然、笑みがこぼれた。

 うう~っ、楽しみ!



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ