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転生コスプレイヤーは可愛い服を作りたい  作者: 灰猫さんきち
第3章 魔物の絹と新しい服
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50:絹糸テスト


 それから数日後。

 私とティトスは再度ダンジョンへ向かって旅立った。

 今回の同行者はデキムスとカリオラの二人。フルウィウス家からの護衛は二名だ。

 私たちがダンジョンに入らないなら、それ以上の護衛は不要ということになった。

 それから木工職人と弟子たち、資材を載せた馬車である。木工用の木材とものすごくデカい銅鍋が積まれている。

 四日の旅路は何の問題もなく進み、私たちはダンジョンに戻ってきた。

 ダンジョンの入口を前にして、デキムスとカリオラが交互に言う。


「んじゃ、俺らは四階層まで行って繭を持って帰るからな」


「何個くらいあればいいかしら?」


「んー」


 カリオラに聞かれて考える。

 あの時、細い通路の蛾を全滅させて進んだ先には十個以上の繭があった。


「とりあえず、通路の蛾を全滅させた先にあるやつを全部かな。ただ途中で蛾が孵ったら大変だから、明らかに出てきそうなのはよけて」


 私の繊維鑑定スキルでは、孵化の予想日数が表示されていた。持って帰ってきたもののうち、すぐに孵化しそうなやつは廃棄してしまおう。


「了解だぜ」


 頷くデキムスに念を押す。


「くれぐれも無理はしないでね。私のせいで二人が怪我したら、後悔してもしきれないから」


「冒険者なんぞ怪我してなんぼの職業だがな。まぁ心遣いはありがたく受け取っておく」


「蛾は光に集まる習性のおかげで、コントロールが簡単だから。油断しなければ大丈夫よ」


 カリオラが指を鳴らすと、小さな炎が灯る。

 ティトスの光の魔力ほどではないが、彼女の火の魔法があれば頼もしい。

 そうして彼らは数人の冒険者仲間を募り、ダンジョンへと消えていった。







 冒険者たちが帰ってくるまでは、二~三日程度はかかるだろう。

 その間に絹糸を作る道具を仕上げなければ。

 私は書字板を取り出した。首都からの旅の途中、前世の記憶を書き留めてまとめておいたのだ。


1.繭を煮る。

 繭の糸はそのままだと粘ついてお互いにくっついているので、煮ることでネバつき成分を溶かして取り除く。

2.糸巻きに糸を巻き揚げる。

 糸巻き機のハンドルを回すと糸が手繰り寄せられ、巻かれていく。

 糸巻き機はいくつかの部品からできている。


 絹糸を作るためには、大雑把に言えばこの二つ作業が必要。

 記憶を頼りに部品の形と役割を木工職人に伝えて、相談しながら部品を作った。

 木の歯車を作るのをちょっと手間取ってしまったが、それ以外はとりあえず形になった。

 持ってきた羊毛の糸を試しに巻き取ってみると、一応はちゃんと巻かれていく。何とかなりそうである。

 そうしているうちにデキムスとカリオラが戻ってきた。


「わ! 大漁だね?」


 十五個ほどの繭を渡されて、私大喜び。


「細い通路だと案外戦いやすくてな。蛾を少しずつおびき寄せて始末してきた」


 デキムスは得意げだ。

 その戦法は前世のMMOゲームなんかで言う「釣り」だろう。

 念のため繊維鑑定をして、明日にでも孵化しそうな繭だけは燃やしてもらった。それでも十三個は残っている。

 さっそく冒険者ギルドの炊事場の一角を借りて、大鍋にお湯を沸かす。


「あれ、そういえば。普通の蚕の繭だったら五~六個くらいの糸を撚り合わせて一本の糸にしていたけど。このでっかい繭だとどのくらいだろう」


 前世の蚕の繭糸は本当に細くて、一本ずつでは見えにくいほどだった。

 目の前のこれは大きさが大きさなので、糸もやや太いように見える。


「とりあえず半分の三個くらいでやってみる?」


 と、ティトス。私は頷いた。


「じゃあ三個お鍋に入れようか」


 大鍋であったが、五十センチの繭を三個入れたらだいぶいっぱいになってしまった。もっと大きい鍋でも良かったかもしれない。前世のショベルカーでやる芋煮会みたいなやつ。

 まあ今後必要になったら特注で作ってもらおう。

 沸騰しない程度のお湯に入れてぐるぐるかき回す。すると糸がほぐれてきたので、表面を指でつまんで糸端を探した。

 それぞれの繭の糸端を見つけて軽くより合わせる。それから糸巻き機の先端にセットした。

 先端部分は鼓車という部品。次に振り手という棒に引っ掛ける。これらがあると均等に糸が巻けるのだ。

 そのあとは糸巻き本体に糸の先端を軽く結びつけて、ハンドルを回した。


「おっ。いい感じじゃない?」


 くるくる、くるくる。ハンドルを回すと糸が引き上げられ、糸巻きに巻き取られていく。

 私は調子よくハンドルを回していった。


「あれっ!?」


 ところがブチッと音がして糸が千切れてしまった。

 ティトスがびっくりしている。


「なんで? 繭三個じゃ糸が細すぎた?」


「違うみたい」


 私は鍋の中を覗き込んだ。


「これ見て。繭が鍋の中で偏っちゃってる。それで糸が引っかかって切れたんだ」


 鍋の中の繭は端の方に三個とも寄ってしまって、お互いにお互いを邪魔するような格好になっていた。


「じゃあ、鍋をかき混ぜればいい?」


「そうね。ティトス、お願い」


 前世の記憶をよく思い出せば、確かにハンドルを回しながら鍋をかき回していた気がする。うっかりしていた。

 小さな蚕の繭であれば鍋も小さく、両方の動作を一人でできる。

 けれどこの大鍋はかき回すのも一苦労なので、ティトスに頼むことにした。

 ティトスは木工職人から棒をもらってきて振ってみせた。


「じゃあ行くよー」


「オッケー」


 お互いに掛け声をしながらハンドルを回し、鍋をかき混ぜた。

 くるくると糸巻を回して、ぐるぐると鍋をかき混ぜる。くるくる、ぐるぐる。息ぴったりで良い感じだ。

 先ほどよりも長い時間ハンドルを回したが、糸が切れる気配はない。正解だったようだ。


「リディア、この繭の糸ってどのくらいの長さなんだろう?」


「んー、普通の小さい繭で一マイル(一・六キロメートル)足らずって聞いたことがある」


「めちゃくちゃ長いね!?」


「だよね。この繭は何十倍も大きいから、下手したら何十倍も長いかも」


「ひえ~」


 話している間もずっとハンドルと鍋を回しているが、繭はあまり小さくなったように見えない。

 本当に何十キロメートルにもなる糸であれば、何回巻けば終わるのやら。

 私たちは先行きの長さを思いながら、くるくる、ぐるぐると回し続けた。


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