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転生コスプレイヤーは可愛い服を作りたい  作者: 灰猫さんきち
第2章 ダンジョンの素材
43/86

43:デカい蛾


 そいつとの邂逅は四階層のことだった。


「ティトス。明かりを壁際に移動させてくれ」


 デキムスが緊張した声で言う。荷物袋から布切れを取り出して三角に折り、頭の後ろで結んだ。

 まるでマスクのようだ。カリオラも続く。


「みんな、わたしたちと同じようにして。この先は毒鱗粉の巨大蛾が出るの。鱗粉を吸い込むと涙とくしゃみが止まらなくなるから、気を付けて」


「蛾どもは光に集まってくる。いつもなら松明を放り投げるんだが、今はティトスがいるからな。ティトス、蛾が来たら俺の言う方向に光を動かしてくれ。できるか?」


「うん!」


 マスクをしたティトスが頷いた。

 同時に暗闇の向こう側からバタバタとはためくような音が響いて、何匹ものデカい蛾が飛んできた。

 羽を広げたら一メートルはありそうな超デカい蛾である。毒を持っているとかやっかいな。

 胴体の部分にふさふさの毛が生えているので、あとで鑑定したい。

 あーでも、ちょっと気持ち悪いかも? いやいや、こんな程度で負けてたまるか!


 蛾たちは光に釣られるように壁際に飛んでいく。

 壁に張り付いたところをデキムスが剣で突き刺した。

 下手に羽を傷つけると鱗粉が飛び散るので、見事に胴体だけを斬っている。


 と、即死しなかった蛾の一匹がもがいて鱗粉が舞った。

 ちょうど近づいていた兵士が頭からかぶってしまいそうになり。


「炎よ」


 カリエラの打ち出した火球が、鱗粉ごと蛾を焼き払った。

 上がった炎の明るさに蛾が集まってくる。


「光よ!」


 けれどティトスがそれ以上の光を生み出して、蛾たちの気をそらした。

 兵士に群がりかけた蛾は光の方に飛んでいく。


「助かりました!」


 その隙に兵士が距離を取った。

 そうして十匹足らずの蛾を仕留めることができた。とりあえず次の蛾がやって来る気配はない。


「これ、持って帰るのは難しいよね」


「毒があるからなぁ」


 マスクの下でデキムスが苦笑いしている。


「よし。じゃあせめて繊維鑑定っと」


 蛾の胴体の部分に指を触れてスキルを使った。


『巨大蛾の体毛。羽と違って毒はない。油を含んでおり耐水性がある』


「ほぉ……」


 レインコートとか作ったら便利そう。ただ毛はだいぶ短いので、紡いで糸にできるかどうか。利用するとしたら毛皮だろうか。

 そして同時にデカい蛾の映像が脳裏に流れる。つい今しがたまで生きた本物がわらわら目の前にいたので、別に驚きはしない。

 ところが。


「これって!」


 デカい蛾の映像の背景に映り込んだものを見て、私は思わず叫び声を上げた。







 蛾たちが飛び回る後ろに白いものが見えた。

 それは間違いなく繭だった。蛾とのサイズを比べると五十センチ以上はありそうだ。

 いくつもの繭がダンジョンの壁や床に糸で張り付いている。

 そんな映像が確かに見えた。


「リディア、どうしたの?」


「ティトス、大変! 大発見かも」


 興奮する私に他の面々も何事かと視線を向けてくる。


「デキムス、カリエラ。もう少しこの階層を探索したいの。たぶん蛾の繭がある」


「繭? 見たことねえな。この蛾は強くはないが毒がやっかいで、素材になるものもない。素通りしてたからなぁ」


「繭が何かの役に立つのかしら?」


「うん! きっとすごい糸の材料になる!」


 絹糸がダンジョンで生まれるかもしれない。そう思うと興奮が止まらなかった。

 もちろん絹として使えるかどうかまだ未確定だが、何となく予感があった。

 この階層は下に下るための道の他に、細く入り組んだ通路がいくつもあるらしい。繭はその奥にあると思われた。

 通路には巨大蛾が多く生息している。だから冒険者たちは普段はあえて足を踏み入れようとしない。

 一つの通路に狙いを定め、ティトスの魔力の光で少しずつおびき寄せながら殲滅していった。

 そして。


「あった! 繭!!」


 飛び出しかけてデキムスに首根っこを掴まれる。


「お嬢ちゃん、もっと周囲に気を配りな。ほら、まだ蛾がいるだろ」


「あああ、ごめんなさい」


 安全第一、いのちだいじにとあれほど言っていたのに。

 ティトスの視線が痛い。

 それからはティトスが光を操り、兵士たちが剣を振るう。今度こそ蛾は全滅した。

 周りをよく見渡して、ヨシ! 気分はヘルメットをかぶった猫だ。


「繊維鑑定……」


『巨大蛾の繭。しなやかで強い糸は吸湿性・放湿性に優れている。摩擦に強く耐久性が高い。

 サナギが孵化するまではあと五日』


「……!」


 明らかに糸に適した情報が流れてきて、私は思わず唾を飲んだ。

 それに摩擦に強い? 耐久性が高い?

 本来の絹は摩擦に弱くて繊細。それじゃあ絹の弱点を克服してるってことになる。


「耐水性。耐水性はどう?」


 絹は水にも弱くて、水を吸って膨らむと乾かしても元に戻りにくい。だから水洗いが難しく、洗濯がやりにくい生地だった。


『耐水性は標準的』


 おお、スキルが答えてくれた。

 そして標準的ときたぞ。ということは、普通に洗濯できる程度の耐性があるということだ。


「やった。すごいものを発見した……!」


 繭の糸の性能を話すと、皆が目を丸くしている。


「まさかあの蛾の繭から糸を取るなんて。思いつきもしなかったわ」


 と、カリオラ。


「繭、腐るほどあるな。ただでさえ魔物はほとんど無尽蔵に生まれてくるんだ。いい狩り場じゃねえの」


 素材としての価値を見出して、デキムスは満足そうに周囲を見渡している。


「蛾の養殖はできないかな? 毎回ダンジョンのここまで来るのは大変」


 私の言葉にカリオラは首を横に振る。


「無理ね。魔物はダンジョンから出ると長く生きられないのよ。魔物氾濫で外に出てきた魔物も、長くても半月程度で皆死んでしまうの」


「そっか……」


 まあダンジョン内で魔物は無限湧きするらしいので、資源枯渇の心配はいらないかな。

 ティトスが言った。


「すごい発見があったことだし、一回帰る?」


「どうしようかな?」


 周囲には繭が十個以上ある。何せ一個が五十センチはある繭なので、全部持って帰れば荷物袋がいっぱいになるだろう。

 けれどこの階層に来るまではそこそこ大変だった。

 今すぐ帰るのはちょっともったいないような気もする。


「繭は中央の道まで運んでおいて、もう少しだけ進んでみてもいい?」


 帰還の魔法とかワープとかはないので、帰り道も地道に歩くことになる。

 それなら荷物をあとで回収するとして、もう少し探索してもいいのではないか。

 デキムスとカリオラは頷いた。


「構わんぜ。ティトスのおかげで蛾の被害を回避できたからな、余力がある。もう一階層行っとくか」


 というわけで、繭を運んだ私たちはさらに先の階層へと足を踏み入れた。


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― 新着の感想 ―
わざわざ中国から輸入しなくても絹が手に入ったの凄い事ですね シルクロードが不要になった
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