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転生コスプレイヤーは可愛い服を作りたい  作者: 灰猫さんきち
第2章 ダンジョンの素材
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39:十日間


 ティトスと話をしようとしたけれど、部屋に閉じこもって出てきてくれなかった。

 どうして彼があんなに怒ったのか分からない。

 一人だけ留守番を言い渡されたのも、状況を考えれば仕方ないことだ。そして彼はそれを理解できない子じゃない。


「ティトス、また来るから。その時は話を聞かせて」


 返事のない扉に声をかけて、帰ることにする。

 お母さんにもダンジョンに行く話をしなければ。きっと反対なんだろうなぁ……。

 ちょっと気を重くしながら羊毛工房に帰った。

 なかなか言い出せなくて、最近はあまりやっていなかった掃除などの雑用をこなす。

 すると私の様子がおかしいと気づいたお母さんが、話しかけてくれた。


「リディア、どうしたの? 元気がないけれど」


「実は……」


 ダンジョンに行きたい旨、フルウィウスの了解は取った旨を話すと、お母さんは深く息を吐いた。


「危ないからやめてと言っても、無駄なのかしら」


「うん……ごめん。私どうしても、ダンジョンで素材探しをしたくて」


「どうしてあなたは、そんなにお父さんに似てしまったのかしらね」


 少し笑ったお母さんの目が痛々しくて、私は今さらながらに反省をした。


「私が止めても飛び出して行ってしまうのでしょうね。あのスキル鑑定の日から、あなたは急に大人になってしまった。寂しいわ」


 私の胸はぎゅうぎゅうに痛む。

 それでも行くのをやめると言えない自分に呆れてしまった。


「……ごめん」


「謝らなくていい。でも、必ず無事で帰ってきなさい」


「うん」


 お母さんは頭を撫でてくれた。その手の温かさにほっとしながらも、心はダンジョンを向いていた。







 それからの十日ほどを、私は機織り機の改良案を練りながら過ごした。

 大枠の形は前に考えていたので、実際に使える形に落とし込む。

 ペダルを踏んで縦糸を切り替えるのと、横糸を素早く通すためのシャトルの改良と。

 木工職人と金物職人に頼んで部品を作ってもらい、軽く組み立てるところまでやってみた。


「うん。こうすれば縦糸が切り替わるし、シャトルの横糸は台の上を滑らせればあっという間に向こう側へ通る」


 頭の中の設計図は正確だった。

 うろ覚えの知識でここまで再現できるとは、やはり繊維関係で能力に補正がかかってる気がする。

 織り機に縦糸をセットする。糸の数が多いのでなかなか面倒で大変だった。

 ギッタン、バッタン、トントンと試し織りをしていると、工房の職人たちが冷やかすように言ってきた。


「リディアはまた変なものを作ったのね」


「糸車より大掛かりだわ。それでいい布が織れるの?」


 冷やかしではあるけれど、以前のような悪意はない。

 糸車は今では数を増やされて、工房で何台も回っている。


「お母さん、この織り機。どう思う?」


 試しに使ってみてもらうと、お母さんは頷いた。


「慣れが必要だけど、今までの織り機より手応えがあるわ。何より縦糸がピンと張れるのがいい。羊毛の糸は縦糸を強く張って、横糸は少しゆるませるのがコツなの。ゆるませた上できつく打ち込んで糸を保護する」


「へぇー!?」


「このトントンとやる道具でしっかり均一に打ち込めるのもいいわね。今までの織り機だとどうしてもムラが出ていたから」


 さすが織物スキルを持つお母さんだ。


「慣れれば今までの織り機よりもずっと素早くいい布が織れるでしょうね。まったくリディア、あなたは大した子よ」


 褒められて曖昧に笑う。

 布関係で能力がアップしているとはいえ、この織り機は前世知識によるもの。私の功績じゃないんだ。

 胸の奥が罪悪感で痛むのを感じた。







 十日が経過して、私はフルウィウスに呼び出された。

 呼び出しに来たのは使用人でティトスではない。彼とはあれから顔を合わせていなかった。

 それまでは毎日一緒だったのに、どうしてだろう。

 フルウィウスの執務室にもティトスはいなかった。

 代わりにいたのは冒険者のコンビ、デキムスとカリオラだ。


「よう、お嬢ちゃん。本当に俺らを雇ってくれるそうで、ありがたいぜ」


「あの時は冗談半分だったのだけれどね。よろしく頼むわ」


「はい、よろしくお願いします」


「タメ口でいいぜ。リディア嬢ちゃんは雇い主でもあるんだから」


「む。じゃあそうするね」


 彼らがここにいるということは、フルウィウスの身元調査をクリアしたのだろう。であれば信頼できる人たちだ。変な遠慮はいらない。


「ダンジョン行きの計画について、説明を頼む」


 フルウィウスの言葉にカリオラが頷いた。


「まずダンジョンは、首都から南東の方向にあるわ。距離は街道を徒歩で四日というところ。ダンジョンの前に町があるから、首都での準備は最低限でいい」


「俺らは護衛兼案内人だ。フルウィウスさんの家から私兵を五人出してもらうことになった。ダンジョン内は狭い場所も多い。それ以上の人数だと逆に身動きが取りにくくなる」


 と、デキムス。


「あくまで安全第一で、糸や布になりそうな素材を探す。それでいいな?」


「はい!」


 私の繊維鑑定スキルがうなりを上げるぜ!

 今までの心配や罪悪感はどこへやら、私はすっかりウキウキしてしまった。


「出発はいつにする?」


「いつでもいいよ! 何なら今日でもっ」


 私の答えに全員が苦笑した。


「リディア嬢ちゃんよ、さすがに今日は無茶だわな。いくら最低限でも旅の準備はいる。お前さん、旅の経験は?」


「ないです……」


 前のめりが急に恥ずかしくなって顔が赤くなる。

 カリオラが肩をすくめた。


「じゃあ、旅支度はわたしたちが手伝うわ。これから店に寄って必要なものを買い揃えましょう。出発はそうね、二日後で」


「うん、よろしく」


 こうして話はまとまった。

 フルウィウスの家を出る前にティトスに会っていこうとしたのだが、彼はまだ顔を合わせようとしてくれなかった。

 私は出発の高揚感と少しの寂しさを抱えながら、デキムスとカリオラに付き添ってもらって旅の準備を進めた。



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