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転生コスプレイヤーは可愛い服を作りたい  作者: 灰猫さんきち
第2章 ダンジョンの素材
37/86

37:魔物素材


 ダンジョン。

 それはユピテル半島に一つだけある魔物の出る洞窟のことだ。

 半島の中心部にある山の麓に入口があって、中は広大。何階層にもなっており最下層に到達した者はまだ誰もいないという。


 魔物は普段はダンジョンから出てこないが、定期的に大繁殖して溢れ出る。

 そうなると近隣の土地を荒らして大変。なので普段から間引きが必要になる。

 冒険者は魔物の間引きを生業にする人たちだ。


 魔物との戦いは本来であれば、国の兵士がやるべきことではないかと思う。

 しかしユピテル軍は徴兵制。一般市民を戦争のたびに徴兵して運用するので、常備軍という概念がない。

 よって自衛のために始まった魔物狩りだったが、いつしか冒険者のような職業が生まれたのだった。


「これ、魔物の毛皮なんですか!?」


 勢い込んで尋ねれば、店主の青年は愛想よく答えた。


「そうだよ。こっちがアルミラージで、そっちはレッドボア。アルミラージは角の生えたウサギ、レッドボアは名前通りの赤い毛皮の巨大イノシシさ」


 アルミラージは青っぽかったり緑っぽかったりした毛。レッドボアは真っ赤な毛皮だ。


「触っていい?」


「好きなだけどうぞ」


 久々の繊維鑑定だ!


『鑑定結果。

 アルミラージの毛皮。ユピテル半島のダンジョンに住む魔物から剥ぎ取られた。

 剥ぎ取りは乱雑でなめしも甘い』


 鑑定の文章と同時に、額に生えた角を突き出して突進してくるデカいウサギの映像が流れた。

 なかなかの迫力でのけぞりそうになる。


『レッドボアの毛皮。ユピテル半島のダンジョン産。剥ぎ取りは乱雑でなめしも甘い』


 今度は巨大なイノシシが体当りしてくる映像で、私は尻もちをついた。


「リディア、大丈夫?」


「う、うん。鑑定結果でちょっとびっくりしちゃって」


 ティトスが手を貸してくれたので起き上がった。

 店主のお兄さんが言う。


「ほー、お嬢ちゃんは鑑定スキル持ちか。いいよな、あれ」


「私のは繊維鑑定で、下位スキルですけどね」


「ふーん、そっか」


 お兄さんは苦笑いしている。ま、下位スキルの扱いなんてこんなもんだ。

 毛皮は他にもシャドウウルフだの、むしった羽毛でアウィスバードなどがあった。どれも鑑定すれば迫力満点の映像が流れてくる。

 毛皮は全体的に固くてゴワゴワしていたが、アルミラージは割と柔らかだ。

 ウサギの毛は前世のアンゴラウサギの例もあるし、紡いで毛糸にしてもいいかもしれない。

 ただ、羊毛よりもさらに毛羽が多くなりそう。セーターみたいなふんわりあったかな服には向いているが、この温暖なユピテルでは使い道が限定されそうだ。


「ダンジョンにはたくさんの種類の魔物がいるんですね」


「まあな。もっと素材が役立てばいいんだが、魔物から取れるものといえば毛皮がメインでさ。しかも普通の動物の毛皮と比べて、特に優れているわけでもない。おかげで俺ら冒険者は、いつまでも貧乏よ」


「肉は食べたりしないの?」


「魔力が多く含まれている関係で、クソまずいんだ。食えたものじゃないよ」


 えー、もったいない。

 しかし魔物はやっぱり魔力を多く持ってるんだ。ということは、これらの毛皮も魔法の素材になり得るかもしれない?

 なんか、がぜん魔物素材に興味が出てきた。


「お兄さん。私のような子どもでもダンジョンに入ることはできますか?」


「はぁ? そりゃ護衛をしっかり雇って行けば不可能じゃあないが。お前さん、ダンジョンに行きたいのか? 俺が言うのも何だが、ダンジョンは暗くて臭くてろくなとこじゃないぞ。いくら護衛がいても魔物に食われる時は食われるしな」


「うっ……」


 呆れ顔のお兄さんに私は怖気づいた。


「あの、実は私、布と服作りをやっていて。いろんな素材を集めたいんです。普通の羊毛とか亜麻以外だと、ダンジョンの魔物のものになるでしょう?」


「そりゃ、そうだが……」


 お兄さんはガシガシと頭を掻いてティトスを見た。

 ティトスは困り顔だ。


「リディア、やめようよ。欲しい素材があるなら、冒険者に頼んで取ってきてもらえばいいじゃないか。危ない目にあう必要はないよ」


「俺もそう思うぜ。リクエストがあればきっちり納品してやるから、やめとけ、やめとけ」


「でも、私には繊維鑑定のスキルがあるんです」


 私は言い返した。

 ついでに前世の知恵もある。

 さらに言うと、ラノベや異世界漫画大好きだったオタクとしては『ダンジョン』をぜひ見てみたいのだ。


「私が現地に行って探せば、新しい素材になるものが見つかるかもしれない。それが高く売れるものなら、冒険者の皆さんも助かりますよね?」


「口の回る娘っ子だなぁ。そりゃそうだがよ……」


「――そこまで言うなら、行ってみればいいじゃない」


 ため息をついたお兄さんの声に、涼し気な女性の声がかぶった。


「こんにちは、お嬢さんとお坊ちゃん」


 振り返ると若い女性が一人立っている。年齢は店主のお兄さんと同じくらい、二十歳前後だろう。

 彼女は私たちを見て軽く微笑んだ。きれいな金髪がさらりと揺れる。


「わたしはカリオラ、そこのデキムスとコンビを組んでいる冒険者よ。子どもがダンジョンに行くのはあまり賛成できないけれど、どうしてもと言うのならわたしたちを護衛に雇ってはどうかしら?」


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