23:次の衣装(※衣装挿絵あり)
兵士の服作りに、糸車や織り機の改良。それにもちろんエラトの店の継続。
たくさんの仕事が降りかかってきたが、その分だけ援助も増えた。
フルウィウスが手付金の名目で金貨十枚をくれたのである。金貨十枚は日本円にして二百万円近い。すげえ。
「でも私、フルウィウスさんの雇われ人ですよ。手付金もらうのはおかしくないですか?」
「リディアは妙なところが真面目だな。これはネルヴァ様の事業でもある。お前の仕事は多いのだから、有効に使いなさい」
というわけで、私は大金を手にした。
ちなみに初期資金のティトスの金貨三枚は、そろそろ返済の目処が立っている。
エラトの店の売上が大きく伸びたので、私の取り分でそのくらいになるのだ。あとちょっとというところである。
当面の間はエラトの店中心に働くことで、ネルヴァも合意してくれた。
軍制改革は農地改革に比べれば法案通過の見通しが立っているが、旧態依然の反対派はどこにでもいる。
下手に話が漏れると妨害されかねないので、口外厳禁を言い渡された。
「今日は思いもよらず有意義な時間を過ごせた。また会おう、リディア」
ネルヴァはそう言って帰っていった。
興奮冷めやらぬ私とティトスは誰にも話せないのをもどかしく思ったが、仕方ない。
「じゃあ私は、当初の予定通り新しく採用した二人の衣装を考えるね」
「うん。僕は三人のステージでちょうどいい歌と踊りを考えるよ」
ティトスと別れて羊毛工房へ帰り、自前の書字板を引っ張り出してデザインを描いた。
元気いっぱいの猫耳ミミと、おしとやかなサリア。彼女らによく似合う服を作るんだ。
今回は資金に余裕があるし、時間もある。布を染色に出してカラフルにすることにした。
ミミの猫耳と髪色は明るい茶色。
緑色とパステルイエローを合わせて森の木漏れ日をイメージする。
エラトとおそろいを意識して、スカートはやっぱりティアードに。
ただしエラトよりも少しミニ丈に、活発な印象を強める。
ミミはしっぽが生えているから巻きスカートはなしにしよう。
その代わりスカートがふくらむようパニエを下に履いてもらう。
背中には針金と布の羽、色はイエローがいいかな?
スカートにボリュームを出した分、上着はギャザーを控えめにすっきりさせる。
丈を短くしておへそがちらり……は、今はまだやりすぎかな。
よし。ちょっぴり冒険してスカートをハイウェストにしてみよう。
で、上着は少しだけ胸を強調する形で首元にリボンを結ぶ。
そういえばユピテルってブラジャーも簡単なものしかないんだよなぁ。胸に布を巻く程度。
これじゃ型崩れしちゃうし、よっぽど豊かなお胸じゃなければドレープの服では目立たない。
せっかくなので、いずれしっかり寄せて上げる系のブラジャーも考えたいね。
猫耳ちゃんの服はだいたい固まってきた。次はサリアだ。
彼女はエラトと同い年だけど、落ち着いていて大人っぽい魅力がある。
髪は黒。瞳はダークブルー。イメージは、夜だろうか。
夜、夜空、星空と連想を進める。
やはりお揃いを意識してティアードスカートを取り入れる。
ネイビーの布に銀糸……は手に入らないから、白っぽい糸で星をイメージした刺繍を入れよう。
スカートは長めにしてミモレ丈に。フリルをランダムなアシメントリーにして、動きを出すのもいいな。
ネイビーを基本色に、差し色で灰色や白を入れて天の川のイメージでもいい。背中の羽もこの色で行こう。
上着はどうしようか。
差し色で合わせた灰色をメインにして、いっそギャザーはなしにして。
ミミとお揃いでリボンをつけよう。
前世の現代のブラウスを取り入れて襟を付け、ボタンで開け閉めできるようにする。袖は半袖くらいで、ふんわりパフスリーブ。
ちょっと冒険だけど、サリアとお客さんの反応を見てみたい。
「よーし、できたぞ」
ロウ引きの書字版に描いたデザインを見て、満足の息を吐いた。
あとはお母さんに細い糸で薄い布を織ってもらって、染色に出そう。
その間にミミとサリアの採寸を済ませておき、布が手元に来たらすぐに裁断に取りかかれる準備をする。
ハギレで造花を作りたいので、そっちは先に手を付けておくことにした。
日を改めてエラトの店に行った。
お昼の営業が終わる頃でお客さんの波は引いている。
「こんにちはー。調子はどうですか?」
「あ、リディアちゃん! うん、調子いいよ。新しく入った二人も頑張ってくれてるし」
エラトが笑顔で応対してくれた。
昼間はステージこそないものの、彼女はニンフの衣装に身を包んでいる。
夜は夜で神秘的なイメージが強まるが、昼間は明るい笑顔が目を引いた。
「歌とダンスの練習、頑張ってます」
「もちろんウェイトレスも!」
サリアとミミも挨拶してくれた。
「今日は二人の採寸に来たの。衣装のデザイン決まったんだ」
「ほんとー!? どんなの?」
「教えていただけますか?」
二人に書字版の絵を見せるとしきりに感心してくれた。
「エラトさんとおそろいっぽい感じなんだね。でもこのスカート? 変わった形」
「ハイウェストって言って、みぞおちの下くらいまで引き上げて履くんだよ」
「わたしの服は重ね着するのですか? それにスカートは長めなんですね」
「重ね着だけど、野暮ったくならないように下に着る服はスリムに作る予定。サリアさんは大人っぽいから、落ち着いたイメージでスカートを長くしてみたの」
二人はうんうんと頷いている。
「着るのが楽しみです。それまでにステージをしっかりこなせるようにならないと」
「うん、あたしも頑張る!」
二人分の採寸をしながら、エラト一家と話す。
「お客さんの入りは相変わらずすごいよ。でも最近は、あたし目当てだけじゃなく父さんの料理を楽しみにして来てくれる人も増えたの」
「おうよ。馴染みになった客もいるぜ。エラトのパフォーマンスが入る分、前よりちょいと値上げしたんだがな、それでも来てくれる」
「その代わりに、来なくなった常連さんもいるけどねえ」
おじさんの言葉におばさんが軽いため息をついた。
「店の雰囲気を変えたから、もう仕方ないね。割り切って続けるしかない」
「全部が全部はうまくいかないか……」
私がそっと小声で言うと、エラトは首を振った。
「それは当たり前のことでしょ。あたしはこれでいいと思ってるよ。何しろ毎日楽しくて! お客さんの拍手と笑顔をもらうと元気が出るんだ」
その笑顔に私も元気をもらえた気がした。
お読みいただきありがとうございます。
ブックマークや評価で応援してもらえるととても嬉しいです!評価は画面下の☆マークです。既に下さっている方は本当にありがとうございます。