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19:後輩ニンフ


「さあさあ皆さん、ご注目! 可愛いニンフがお店までご案内しまーす!」


 今日も今日とて宣伝だ。

 私たちは少し足を伸ばして、隣の地区の列柱広場(フォルム)まで来ていた。

 連日の客入りは満員御礼だが、今のうちにしっかりと知名度を上げておきたい。

 そんなわけで宣伝も頑張っている。


「あ、あの子知ってる! ニンフのお店の子でしょ」


「可愛いなあ。羽が付いてて本物みたい」


「でも服が変じゃない? なんで腰から下があんなにふわふわしてるの?」


「変だけど悪くないじゃん。むしろ可愛いかも?」


 エラトの知名度が上がるにつれて、人々の反応が少しずつ変わってきた。

 最初はもっと批判的な意見が多かったんだけど、だんだん「可愛い」が増えてきた。

 着ているエラトが可愛い子なので、そのおかげが大きいと思う。


「これからお店にご案内します。お客さんはついてきてね!」


 鈴をガラガラ鳴らしながら言えば、それなりの数のお客さんが来てくれた。


「ちょっと遠いが話のタネに」


「変わった服だけじゃなく、料理も美味しいんだろ?」


「評判になってるものね。いい機会だから行ってみましょ」


 そんな声が聞こえてくる。

 お客さんの一群を引き連れて店に戻ると、既に客席が埋まり始めている。

 お触り禁止を何度も訴えてきたので、だんだん女性客や子連れも増えてきた。

 最近は平民だけでなく、騎士階級や貴族らしき人もちらほらと見かける。

 エラトの店は明るく楽しい健全な店を目指している。

 幅広い客層は願ったりだった。


 すっかり満席になったので、エラトは忙しく立ち働き始めた。

 あちこちから彼女を呼ぶ声が上がって、そのたびに笑顔で応えている。

 ウェイトレスの仕事と毎日二回のステージはそれなりに負担が大きそうだ。

 売上はずいぶん増えたし、そろそろ人を雇うのを考えてもいい。


 今日も大盛り上がりのステージを眺めながら、そんなことを考えた。






 店と列柱回廊(フォルム)の掲示板にウェイトレスの求人募集を出すと、応募はすぐに来た。


「エラトさんに憧れていたんです! あたしを雇ってくださいっ」


「歌には自信があります。可愛いニンフになりきって働きたいです!」


 十代の女の子たちが続々とやって来て自己アピールをしてくる。

 思った以上の反響があり、私たちは顔を見合わせた。


「募集は一人のつもりだったけど、どうしようか?」


 私が言うとエラトが首をかしげる。


「あたしに憧れてるって言ってくれる子が多くて嬉しいよ。いっそ二人くらい雇っちゃわない?」


「いいんじゃないか。今んとこ売上は十分だ。早いうちに仕事に慣れてもらって、店を回して行こうぜ」


 と、おじさん。


「雇ったばかりの子は訓練しないといけないでしょ。なら一人ずつ手間をかけるより、二人でいいんじゃない」


 おばさんも二人採用を支持した。

 たぶん彼らは娘のエラトばかりに負担がかかっているのが忍びなかったんだろうね。


「うん、じゃあ二人雇おう。面接しないとね」


 というわけで採用面接が始まった。

 採用枠二人に対して応募は七人。実に三倍以上の倍率である。

 それだけ店が有名になって、しかも女子人気も高いということ。喜ばしいことだ。

 少女たちは歌を歌ったりダンスを披露したりして、ウェイトレスの面接というよりオーディションみたいな雰囲気になっていた。


 最終的に決まったのは、十五歳と十四歳の二人。

 一人は猫系獣人のミミちゃん。

 十四歳の元気いっぱいな女の子で、抜群の運動神経をしている。軽やかな身のこなしがステージでもウェイトレスの仕事でも役に立ちそうだということで採用になった。

 もう一人はサリアさん。普通の人間の十五歳だ。

 大人びた雰囲気で落ち着いていて、明るく可憐なエラトと違う方向性の魅力の持ち主。

 歌が上手でステージに活かせるのが決め手となった。


 採用した二人はもちろんのこと、他の人たちもエラトの店のファンというのがよく伝わってきた。

 採用できなかった少女たちはがっかりしていたが、雇う方としてもお金の問題があると説明したら納得してくれた。


 さて、採用が決まった二人に改めて店に来てもらって、お互いに挨拶をした。


「ミミです! 憧れのエラトさんと一緒に働けるなんて、とっても嬉しいですっ」


 ミミがぴょこんと頭を下げると、しっぽがピンと立っている。


「サリアです。ウェイトレスは初めてで最初はご迷惑をかけるかもしれませんが、頑張って仕事を覚えます」


 サリアのお辞儀は落ち着いたもので、とても上品だった。


「サリアさんはどこかで礼儀作法を習ったの?」


 私が聞いてみると。


「はい。母が貴族のお屋敷で働いているので、わたしも少し習いました」


 ということだった。

 この二人に似合う服を考えると、それだけでワクワクしてしまう。あぁ、早く新しい衣装を縫いたいな。

 手縫いで服を作るとなると、どうしても多少の時間がかかる。

 ミミとサリアには普段着でウェイトレス見習いをしてもらって、同時にステージの練習。

 衣装が出来上がり次第、新しいニンフとしてデビューしてもらうことになった。


「二人とも、これからよろしくね!」


 後輩ができたエラトは嬉しそうだ。

 こうして店は次の段階へと進んでいった。


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