3 正夢と現実
どれだけ寝ていただろうか。精神的に疲れ切った僕は深い眠りについた。死んだかのような深い眠りだった。
どれだけ寝ていたかはよく覚えていない。目が覚めたばかりのぼやけた視界に映るのはあのテラス席であった。まだ夢の世界だという勝手な納得をしていると、目の前にはあの彼女が座っていた。
「ごめん、もう別れよう」
そう言ってカフェを出ていくこの光景はまさにデジャブであり、僕も彼女を追おうと席を立つも、勇気も出ずに立ちつくす。トラウマともいえるこのシーンを見て違う行動ができる人間もなかなかだと思うが…去っていく彼女を遠目で追ってからまたその場に腰かけて
「なんでまたふられているんだ…」
と二度目の後継ということに今度は頭を抱える。
あの夢を見たせいで僕自身のメンタルはおかしな状態になっていた。失恋のショック以上にそのショックを悪夢というかたちで繰り返してしまった自分の精神的未熟さに少しばかりのいらだちと悔しさもあった。
自分はずっと引きずるほど、切り替える力がない未練たらたらな人間なのだと。
それゆえにすぐに学校にはいけた。
もちろん心境はひどいのではたから見れば常に心ここにあらずの人間なのだが、しかし今朝の夢は何だったのか。
失恋の場面だけならまだしもその後の約半日をしっかりなぞるとは。と考え事をしていると後ろから竜が
「なにぼーっとしてんだよ。なんだ失恋か〜」
と言う。
さすがに二度目の失恋ネタ。さらに事実にはむかついてきたので僕は少し怒り気味になって
「お前そのセリフよく飽きないな」
と言ってやった。
すると彼もまた
「何言ってんだお前、俺今まで失恋なんてネタにしたことないぞ」
いや昨日していただろ。そういうのは言われたほうが覚えているんだ。という気力もなかった。
司がまた後ろのほうから
「朝から元気だな、ってことは脚本の続きできてるよな。お前映画サークルの連絡無視したろ、早く脚本見せろって先輩もせかしてんだから。今日こそ来いよ。」
気分悪いからとメッセージしたはずである。二人にそのことを言っても信じてもらえない。それならばと会話履歴をみせるが、
「そんなメッセージなくね」
という二人。
そんなわけがないと自分もスマホの画面をのぞくと、履歴がない。たまたま日付が目に入る。今日は木曜日のはずだ。あの日が日曜日。そこから2日休んで1日登校して今日にいたる。
それなのに画面は月曜日。
二人にそのことを聞くと依然月曜日であると主張してくる。
「そんな訳ないだろ…おい、いつまでふざけてんだよ、スマホの日付かえるとかさすがに手こみすぎだろ、新しい映像の企画かなんか?ドッキリの動画とかうちらしくないぞ。」
さすがに企画といえどもう面白くない時間のはずだ。
とりあえず授業に行けばわかるという言葉に疑いを持っていたが、実際に授業が始まると月曜日の1限の教授が来て、月曜日の1限の科目が始まる。
授業が終わった。ドッキリなんかじゃない。本当に月曜日。寝込んでいたはずの月曜日がまた繰り返されている。
過ぎたはずの時計の針はもう一度その時を刺す。あろうことか逆走していた。
もしかするとあの失恋は夢じゃないかもしれない。月曜日なら彼女はどうしているのだろうか…
僕はひたすら走った。
彼女にもう一度出会うために。