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1 別れのはじまり

「もう別れよう」この物語は僕が初めてそして何度も失恋した話である。

「はい、カット」

緊張した空気が少しなごむ。僕は録画された映像を確認して全体へOKをだした。

僕はプロの監督ではないが、映画を作っている。ここはとある大学の映像研である。もちろんギャラなんてものはないし、予算も機材もほとんどない。それでも僕は映画を作ることが好きだ。もちろん脚本を作ることも。

この映画だって半年前に完成した映画のリメイクである。1年生で集まって作り上げた作品だったが、その脚本や演技には多くの改善点があり、学祭で先輩の作品と並べたときにはその出来の差は明らかだった。多くの1年生にとってその悔しさがあったようで、このリメイク版を作るという企画が2年生の春という時期に発足された。

 

 進化した撮影技術や演技の成果は監督をしている僕が一番気づくものだった。この作品で僕はたびたびレンズ越しに映る役者の演技に目を奪われる。

その中でも彼女の演技には特に目を奪われる。ここでの”彼女”は二重の意味である。さっきのセリフを言っていた彼女という意味でもあれば、自分の恋人という意味でもある。より輝いて見えるのはそんな背景があるからかもしれないが、レンズ越しの彼女も現実の彼女も「神部 明日香」という人すべてが愛おしい。

今回の僕の脚本の影響もあるかもしれないが、彼女の見せる哀愁は僕の心を大きく動かす。


 「きょうもおつかれ」

ロケ地からの帰り道。とはいっても機材を部室に戻したいのでとりあえず学校に行くだけなのだが、彼女もついてくるから面倒だとは思わない。周りもそれがわかって監督という立場を悪用して雑用をさせている気がするが、これも一種の親切だと思って目をつぶっておこう。

機材を部室において今度こそ帰ろうとすると彼女からカフェによろうといわれる。なにか話があるそうだ。


 カフェというのは少し格好つけたもので、実際は大学の食堂のテラス席である。休憩席という言い方が正しいかもしれない。休日の今日はレポートを書いているらしい学生がちらほらいるくらいである。


席に着くと彼女のほうから

「もう別れよう」

というセリフが飛び出してきた。理解が追い付かなかった。さっきのシーンと重なって、より俺の頭の中は混乱した。そんな間に彼女は「ごめん」と言って、その場を去った。彼女を追おうと席を立つも、勇気を出せずに立ちつくす。失意のまま全身の力が抜けてその場に腰かけた。

「なんでだよ…」


そのあとのことは覚えていない。いつ家に帰ったのか。どこまで自分の目が赤らんでいたのか。泣いていたような気がするが、涙がこぼれた覚えもない。それまでにこの時の彼女の一言には言葉以上の強さがあったかもしれない。この次の記憶はベッドの中だった。嘆き疲れてようやく失恋の現実を受け止めた頃である。


 次の日、学校があったが、朝起きたときにはまた彼女のことを思い出し、憂鬱な気分になっていて日差しを浴びたくない気分だった。その次の日も。


 ようやく学生という自分の本業を思い出したのは3日後。現実を受け止めつつもまだその足取りは重く、ふられてぶりの大学の校門をくぐるのである。

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