表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

Chat 9. 意外な救世主

「明らかに怖がってるじゃん、可哀想に。」


 隣のテーブルから届いたその声に、リサはハッとしてそちらを見た。


 薄い桃色の瞳に、真っ白な髪。頭からは、特徴的な短いツノが生えている。


 丸い瞳はウサギのような愛らしさを感じさせるが、ストライプのシャツから伸びる腕はしっかりとした男性のもので、そのアンバランスさが妙に魅力的だった。


 ――うわ、珍しい。


 思わず見惚れてしまう。インキュバスだ。異性の性欲や好意を糧に生きる種族。その特性ゆえにサキュバスばかりが目立ちがちだが、実際にはインキュバスも同じくらいの数がいる。


 ……ただし、彼らには“ある問題”があった。


「女性に媚びなければいけない種族」――そう世間にレッテルを貼られ、多くのインキュバスたちは生きづらさを抱えている。そのため、ほとんどが魔術で特徴を偽装し、普通の人間として生活しているのが現状だった。


 だが、目の前の彼は違う。ピンク色の瞳も、ツノも――堂々とその特徴を隠そうともせず、むしろ誇示しているかのようだった。


「こんなに堂々と特徴を出してる子、初めて見た……。」


 思わずリサは心の中で呟く。いっそ清々しいほどだ。


「異性の前で強く出られない私とは、全然違うな……。」


 胸の奥に、じわりと自己嫌悪が広がる。リサは小さく唇を噛んだ。


「いや、こいつ俺の連れだし。嫌がってるのも、俺の気を引こうとしてるだけだから。」


 男の手首を掴む力が強くなる。


 痛い。


「そう?」


 インキュバスは試すような視線を投げかける。


 さも、リサの反応を楽しむかのように――その瞳が鋭く光った。


「お前、弱っちいな。」


 そんなふうな目を向けられた瞬間、リサの中で恐怖が怒りに変わった。


「違います! 触らないで!」


 リサは手を振り解き、勢いよく立ち上がる。急な態度の変化に、男はたじろいだ。リサはテーブルに食事代を叩きつけ、きっぱりと言い放つ。


「私、王立アカデミー修士卒なんで。専修免許も持ってます。偉そうな態度は、同じ学位を取ってからにしてください。」


 実は、リサは飛び級で修士を終えている。


「あと、“暗い女”って言うけど、そこまで暗い女なら……あなたのこと呪って不能にしてやろうかしら?」


 足の震えを必死に制御しながらも、リサは男をまっすぐ睨みつける。男が横柄に広げていた足を、シュッと閉じた。


「クス… アッハハハ!」


 突然、レストランに響き渡る笑い声。インキュバスが口を開けて爆笑している。目には涙が浮かんでいた。


「お姉さん、いいねぇ。」


 涙を拭いながら、彼はにっこりと微笑む。


「おとなしそうでつまんないかと思ったら、啖呵切るなんて。」


 彼は優雅な仕草で手を差し出した。


「お姉さん、僕と遊ぼうよ。そいつよりは面白いよ?」


「いやだ、軽薄そうじゃん。」


 リサは腕を組む。


「そんなこと言わずにさ、楽しませることを約束するよ。」


 リサは一瞬迷ったが、彼の手を取った。


 *********


 二人が去った後のレストラン。


 先ほどの男は、一人放心状態で座っていた。


 そこに、黒髪の癖毛を持つ男が近づき、無言で向かいの椅子に腰を下ろした。


「逃げられちゃいましたね。」


 男がヒューッと口笛を鳴らす。


「……あんな女に逃げられて悔しくないですか?自分よりも格下のくせに。むしろ、付き合ってあげることを感謝してほしいくらいですよね?」


 放心状態だった男の瞳が、かすかに揺れる。


 黒髪の男がそっと耳元で囁くと、その目が赤く妖しく輝いた気がした。


「……そうだな。」


 男がふらふらと立ち上がる。


 黒髪の男は、それを見届けてゆっくりと微笑んだ。


「――わからせてやらないとな。」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ