Chat 6. 20歳初体験は涙の味
筆が乗っているので続き タイトルはまた後で
タイトル決めました
「でもさ、最近聞くじゃない?異種族結婚。」
さすがにジュールの様子を見て、メイも居たたまれなくなったのだろう。ようやく助け舟を出した。
「確かに!最近、着々と右肩上がりですよ!異種族同士の恋愛がタブー視される時代ではなくなってきているかと!」
魔道鏡が国家政策を後押しするかのように同意する。やけにノリがいいのはきっと必死だからだ。
「ほんとぉ?」
リサは訝しげな目を向ける。
「だって、エルフの人たちとか、他の種族と結婚すると血が汚れるって言うじゃん。」
エルフ族は基本的に同種族間の結婚を推奨している。独自の文化や誇り高い気質が強いため、他種族の血を嫌う風潮も根強いのだ。
「最近はそれも薄れてきてると思うよ。私のお父さんとお母さんも、好きな人と結婚していいよって言うし。」
エルフであるメイの言葉は説得力があった。
「じゃあ異種族も可で……。」
リサは渋々と条件を付け加えた。それを聞いたジュールの尻尾に活力が戻ってくる。しかし、自分で条件を広げることで、勝率が下がる可能性にジュールは気づいていない。
「ありがとうございます〜♫」
鏡は国家政策の助けになれて嬉しいのか、音声が少し軽やかだった。
「ではこちらで登録しますね♪次に、姿を写し撮りますので、ご準備をお願いします!」
「え!?」
リサは一瞬で凍りついた。
今の自分は二日酔いのすっぴん、ジャージ姿である。
「ちょ、ちょっと待って……!!!」
(ナターシャ、説明しといてよ~!)
脳内で猫科の獣人に文句を垂れながら、リサは慌てて部屋を飛び出した。ナターシャはいつでも可愛いから何を着ていても問題ないだろうが、リサは平々凡々な顔立ちだ。せめて化粧くらいはしたい。
「行きますよ〜!はーい鏡に向かって手を振ってくださいね!」
こうして写し取られたリサの笑顔は、正直、自分で見ても固かった。化粧は間に合わず、ジャージ姿で写ってしまったのが心の傷だ。
*************
登録は終わった。
次にすることといえば、鏡に映し出される異性の鏡像を見ていい人を選ぶだけだ。だが、その前に片付けなければならない問題がある。
――ジュールとの過ちだ。
姿を写し終えるのを待つ間、ジュールは部屋のベッドに腰掛けていた。メイの姿はもうない。おそらく空気を読んで、負荷のかかる転移魔法で帰ったのだろう。
窓から入ってくる冷たい風が、リサの火照った顔を冷やしていた。
「……終わったのか?」
低い声が響く。怒っているのが分かる。犬歯が少し見えたのは気のせいではない。
「昨日のことは――」
「なかったことにしよ!」
リサが遮るように捲し立てる。
「お互い酔っ払ってたし!でしょ?ごめんね、アルハラしちゃって!」
必死に言い訳を並べるリサ。しかし、ジュールは黙ったままだ。
「……。」
沈黙の時間が痛いほど長く感じられる。
「そういうことにしといてやるよ。」
ジュールがため息をつきながら言った。
「でも……。」
ジュールが一歩、近づく。
「いつまでも可愛い弟だって思ってると、痛い目見るぞ。」
ジュールの声は低く、耳元で囁くようだった。
「これからは、もしお前が他の男と会うなら……口説き倒してやる。俺じゃなきゃイヤだって、そう言わせてやるからな。」
顔を真っ赤に染めたジュールは、宣戦布告とも取れる言葉を残し、そのまま逃げるようにリサの家を去っていった。
「えっ……。」
顔が赤くなったリサが、ぽつんと部屋に取り残された。
**********
リサの家からしばらく離れた場所で、ジュールがため息をつく。
「俺の初めて、なかったことにされたんだけど……。」
ぽつりと呟くジュールのしっぽが、風に揺れていた。
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