Chat 4. 幼馴染との一夜を忘れるため、マッチング魔法はじめます!
不覚にも一夜の過ちを犯してしまった。記憶は曖昧だが、異性だと思っていなかった幼馴染に、一瞬でもときめいてしまった――そんな自分が信じられない。
…本当に信じられないのだった。
「いやでもね、友達の話なんだけどね。」
リサが斜め上を見ながら話しを締め括った。相変わらず嘘をつくのが下手だ。
メイは白々しそうに髪の毛を指に巻きつけていた。
(別になんの問題もないじゃない。)
メイはちくりと痛む胸を無視しながら言葉を紡ぐ。
「両思いっぽそうだし、付き合えばいいんじゃない、その友達ちゃんと幼馴染くんは。」
「いや、ないないない。だって弟みたいにしか思えない……その子にとってはね、弟のような存在なんだよ。」
素の反応が出かかり、リサは慌てて訂正を入れる。
「しかも多分、幼馴染くんも酔っ払ってたんだよ。」
それもあながち間違いではない。朧げながら、「飲まないのも勿体無いじゃない!」と、ジュールの部屋にあった魔法火酒をジュールの口に無理やり注ぎ込んだ記憶がある。
――圧倒的被害者、ジュール。
「ふーん?じゃあ欲求不満なんじゃない?お互い様に。」
メイは虫も食わないような話に半目になりながら答えた。
リサは飲んでいたポマトジュースを吹き出す。
「そんなことないよ!!!その子は真面目な子なの!!」
「まあ、欲求不満は言いすぎたとしても、彼氏でも作っちゃえばその子の“一時の気の迷い”も解決しそうじゃん。」
適当に言い放つメイの言葉に、リサの頭の中で突然何かが弾けた。
「それだ!」
「え?」
「やっぱり出会いが足りないんだ!」
「え、ちょっと待っ――」
「やっぱり『アモール』始めるよ!」
友達設定はすっかり忘れ去られていた。
リサは先見の明を受けたとばかりにベッドから這い出した。その動きは二日酔いのくせに、なぜか異常にエネルギッシュだった。
そして、そのまま自室に掛けてある魔道鏡に向かい、呪文を唱える。
「鏡よ鏡よ鏡さん!世界で私に一番お似合いな人は――」
「おい、バカリサ、入るぞ。」
最悪のタイミングでジュールが入ってきた。
そういえば、一人暮らしを始めた時に、ジュールへ「リサ姉をいつでも頼っていいんだぞ~」とホクホク顔で合鍵を渡したことを、リサは今さら思い出した。
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不完全な詠唱だったものの、さすがは国家直属の開発チームが作ったシステムだ。鏡はピンク色に発光し始めた。
呆気に取られる三人。
「『アモール』へようこそ!あなたの恋人づくりを全力でサポートします♫」
鏡の中に浮かび上がった文字は、ポップで可愛いフォント。もしかして、開発チームは深夜テンションでこれを仕上げたのだろうか。ご丁寧に読み上げ魔法まで完備されていたが、おそらく男性職員が無理やり音声サープルを取られたのだろう。少々無理のあるハイトーンだ。
そして、ピンク色に照らされた部屋は、華やかな色合いとは裏腹に地獄のような空気に包まれていた。
二日酔いのまま勢いで登録を始めたリサ。見られたくない姿を年下幼馴染に見られてしまい、目を泳がせている。
一方、心配して駆けつけたのに予想外の光景に放心しているジュール。そして完全に巻き込まれたメイ。
ここにナターシャがいたら、いつも被っている猫を剥がして涙を浮かべながら爆笑していただろう。
「利用者ネームを教えてくださいね♫」
鏡が無常にも次のステップを促す。
「リサ・ヘミ――」
自棄になったリサの声を、ジュールが慌てて遮った。
「バカ!お前、生徒にでもバレたら――」
「あっ!」
「では、リサ・へミ・バカで登録しますね。これは変更できませんので、悪しからず。」
「――あ゛ーーーーー!!!」
最悪な滑り出しである。
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