悪友
秋の涼しさが目立つ季節になった。
今日はキャバクラも営業も休みだ。
俺はファミレスの角の一席に座っていた。
もちろんひとりでは無い。一人で行くのも好きなのだが今回は別件である。
「でさー、私仕事辞めようかと思うんだよね。」
気だるげに女の子が話していた。
ハスキーみがありながら甘い感じがする声はどこか甘美な印象を感じる。
こいつはあすか。僕の悪友だ。
歳は僕の一個下である。
身長140センチ代の体重40キロ代のかなり小柄である。
顔は切れ長のギャルなかんじである。
「そうか…どうして仕事を辞めたいんだい?」
「え、なんかね。数年働いたけどつまんない。」
切実な答えだった。
こいつはかれこれ18の頃から今の仕事を何年も続けている。今年で4年目ではあるまいか。
「なにやりたいの?」
「え、恭介がキャバクラでバイト始めたから私もキャバやろうかな。」
とても浅はかに感じるが俺は否定しない。
「キャバか。まあまだ若いし色々やって見てもいいんじゃないかな?」
「いや1個うえやろ。」
お互い苦笑する。
俺は彼女を否定するような会話をしないようにしてる。
「しかし…まああれだな。こうして知り合って3年目か。君もえらく変わり者だな。」
俺は話題を切替える。とはいえこれはお互いが話す時に毎回話す内容だ。
「そうねぇ。なんだかんだずっと続いてるねぇ。」
お互いを結びつけるのは決して恋愛感情。男女が結ぶものとは程遠かった。
俺は彼女に欲情した日は1日もなかった。
彼女は俺と同じマルチ商法をやっていた。
いや、厳密にはTinderで知り合った俺に勧誘され、上司に当たる人間に追加投資を促され300万近く借金を負っていた。
今も支払いに終われ彼女はパパ活と呼ばれるものをしてお金を稼いでいる。
俺も同じやり方で借金を負わされたが、事の発端は俺である。
運命を狂わした張本人なのだ。
当然、他の人間とは絶縁状態になってしまっていたが彼女だけは特別だった。
彼女はある日俺の元から逃げたのだ。
彼女は交渉がとても苦手だった。
数字をあげられず、時間を縛られるのをとてつもなく苦痛に感じていた。
端的に言ってしまったがそれは2年ほどの出来事である。
遂には彼女は逃げ出した。
普通はそこで縁を切られるものだと思うが、彼女が2年間は続けられたのは俺がいたからである。
彼女は見た目に反し、内向的である。
そして心を交わすには普通の人間だとあまりにも高飛車で…男好きなので深い親交がなかった。
俺は基本的に不器用だ。会話は本音でしかぶつけられない。
そして否定も苦手だ。
しかし、彼女にとっては小さな否定も全否定に感じアドバイスでさえストレスに感じるので俺の性があっていた。
それから、ビジネスを辞めてから俺と会話をするのもたった3日しか空いてなかった。
俺は彼女に負い目を感じている。
どんな時でも悩みを聞いたり相談に乗るのは彼女に対する贖罪だ。
だが、彼女はいつも俺と会えたことを後悔した日は1日もなかった。
「最初はTinderだったな。」
「全然タイプじゃなかった。」
「俺も第1印象は怖かった。」
あすかは面食いだ。
初対面はえらくつまらなさそうで…苦痛そうな顔をしていた。
彼女はホストが好きだった。
心を満たせるものがなかったからだ。
「まあでもお互い程よく興味無いから凄く話して心地よいよね。」
俺は本気で彼女に収入を増やしてあげたかった。
だから関わり方を本気で考えた。
数字を振ってあげていた。
だが彼女は数字とかミーティングとか、それよりかは俺と雑談を楽しむためにミーティングに来るようになっていた。
「話を戻そう。ほかに仕事を辞めるきっかけとかあるのかな?」
「そうだね、ネイルしたいし、仕事つまらないしまだ若いからいろんなことやってみたい。オシャレもしてみたいし、今の仕事が全部じゃないというか…なんというか。」
「じゃあ新しいことをしたい。オシャレができるところで働きたいってところが強そうだね。」
「そう!そうしたいの。」
昔から彼女は端的に物事を言うのが苦手だ。
その度におれが要約をする。
彼女はそれが好きだった。
だからこうして会ったり電話するのが多い。
「分かったよ、辞めてみな。この業界は福利厚生は内容なものだ。保険も年金も払わなきゃいけない。
おれもこの業界でとても後悔したことはあるけど、得られるもの活きるものは沢山あった。
もしあわないならそれも辞めてもいい。」
「わかった。」
彼女は舵を切った。
「この後はどうする?」
「南の街で案件いってくる。気持ち悪いけど。」
案件とはパパ活の隠語だ。
彼女は金遣いが荒いがその分この仕事で稼いでいる。
さぞ気分が悪いだろうに…自分はそういったことは出来ないので彼女の根性にはえらく尊敬させられた。
「気をつけろよ。前みたいに車取られないでな。」
「分かってるよ。何かあったら相談する。」
ちなみに彼女は武勇伝が多い。
パパ活中に車を3ヶ月取られたり、男に搾取されたり、パパ活相手が余命1年であるなど、それだけで小説がかける程だ。
「じゃあまた話そ。」
「うん、また連絡するわ。」
そう言って腐れ縁の男女はファミレスを後にした。
俺はスマホを見る。
あれ、今日俺誕生日じゃん。
気の置けない親友は誕生日を気にかけないほど気楽であった。
きっと何年後も続くのだろう。




