間違いの代償
僕はその手をもう一度掴もうと必死に言葉を紡いだ。けれど間違いの代償は大きくて……それはセツリに欺瞞と疑心と不安を植え付けた。それはもう、言葉だけでは拭えない物。
時間を掛けて行動で証明するしかない事。けれどセツリは言う。
「貴方と居ると、それだけで辛い」
でも僕は見せなきゃいけない、諦めない姿を何度でも。
「どうして」
何て言える訳も無い。そんな事、改めて確認なんてする必要すら無いことだ。
僕が……そうさせた。一度でも投げ出したその代償。セツリはあんなに大事に大切にしてたのに、僕が自らその糸を断ち切ったんだ。
思わずだったかも知れない、思考が追いついて無かったのも事実……けれど、そんな言い訳は彼女に何も響くことはきっと無い。
だってセツリに残ってる事実は、僕が彼女を諦めたって事だけだから。それだけが……いいや、それこそがセツリに取っての見たくなかったものじゃないか。
僕は知ってたのに……他人と一度も繋がりを持て無かったセツリが、それを失いたくないからと……リアルの動けいない自分じゃ見捨てられるのが怖いからと……ずっと拒み続けて来たものじゃないか!
それを僕は、このLROと言う彼女の夢の世界でやってしまった。戻ることのない、完璧な筈のセツリを僕は見放した。
目の前のセツリの瞳は前髪で隠され、流れ出る涙だけが際だって見える。僕は拒絶された筈のこの手を伸ばせば、そんなセツリに今度こそ届くはずだ。
けれど、それをもうセツリは望んでなんかいないのかも知れない。ていうかさっきの言葉はそういう事だろう。
忘れよう……それも最初からってさ、全部を無かった事にでもする気なんだ。僕達の出会いや、一緒に見た景色、語らった時間……それら全てをセツリは手放す事を決めている。
僕のせいで……遅すぎたんだ。
「スオウは! それでいいの!?」
その時、リルレットの声が背中に掛かった。檄を飛ばすようなそんな声。そんな声に心はいち早く応えてた。
(良くない。これで良い訳無い!!)
知らないなら教えて上げればいい。間違ったのなら一生懸命、その間違いを吹き飛ばす様に頑張ればいい。それが自分の間違いへの制裁だ。
間違ったから、諦めるんじゃない。間違ったと思うのなら、そのままに何てしておく方が罪じゃないか。だってそれは、ずっと間違いのまま進む事になるんだから。
実際はさ……何が間違いとか、人生に答え合わせが有る訳じゃ無いからわかんない。もしかしたら、セツリの幸せは本当にここに有るのかも知れないけど、でも僕はセツリのその涙を受け入れる事が明日に繋がってるだ何て思えないんだよ!
僕は伸ばした腕の先の拳を握りしめる。そして先にはセツリが居る。そうまだ居るんだ。伸ばせば届く距離に。いつも消えるときは突然で、儚い桜の様に名残だけを残していくセツリ。
そして僕はいつもその名残を追いかけてた。いつも握ってる暇なんて無いくらいに儚いからさ……けど、今伸ばせばきっと届く。
でもなかなか手を伸ばせないのは、こういう泣いてる女の子に弱いから。て言うか、ゴチャゴチャやっぱり考える。
今更僕がとか、これがセツリの選択だとか考えて、これは結局僕のワガママにしか過ぎないんじゃないだろうかって思う。
これもまた結局は僕の性分何だろうな。他人の思いなんてそうそう見えるものでも無いのに、それを気にせずにはいられない。
だってそうだろ……僕は知っている。誰かの思いを知ろうとしなきゃ、誰も何も開いてくれないってさ。でも結果、それが今は足枷の様に成ってる訳だよな。
だから僕は今ここで最も頼れる奴に聞いてみた。
「なあリルレット。少し強引でも……それは良いもんなのかな?」
するとここで頼りに成るリルレットはこう言ってくれたよ。
「女の子は、多少の強引は頼りがいに変換してくれるよ!」
「それは良かった」
僕は意を決して腕を伸ばす。今度は避けられない。僕はそしてセツリの肩を掴んで、揺れた髪の毛から覗く瞳に言ってやる。
「忘れるかよ。忘れられる訳なんてない! だってそうだろ……セツリ」
僕の見間違いじゃ無かったら、セツリの眼球が大きく成った気がした。忘れられるわけ無い……それはきっとセツリだって。だからこぼれてた涙と思いたい。
楽しかったのはきっと事実で、だからこそ本当は無くしたく何か無いはずだ。だってセツリはずっとあんな日々を願ってた筈なんだから。
それを無くすのは、またいつかの自分の所まで戻るのと同義だ。人生ゲームで言うところの振り出しに戻るだ。そんなのセツリは絶対に望まない。
だってそれもまた、セツリがイヤな独りぼっちだ。
「スオウ……やめてよ。何で、そんな事言うの? スオウがやったのに! スオウが私にそれを選択させた!」
セツリは上体を振り回してそう叫ぶ。思わず肩に置いていた腕が外れて、絡まってたシクラも思わず離れた。けれどセツリの激しさは止まらない。
「そうじゃなきゃ言わないよこんな事! でも忘れなきゃ! 捨てられたのに、こんなの持ってても苦しいだけだもん!」
その瞬間、僕は両手でセツリの肩を強く掴む。振り回してたセツリの長い髪が結構痛かったが、そんなのはお構いなしだ。
だってそんな痛みよりもよっぽど、セツリは苦しんでる。僕のせいで。だからちゃんと伝えなくちゃいけない。
涙流れるその瞳を僕は正面からまっすぐに見据えて叫んだ。
「捨ててなんか無い!! もう一度……許されるのならもう一度掴むから! だから忘れるのなら、その苦しみにしてろ!」
強引に……セツリの気持ちさえ踏みにじった様な言い方だったかも知れない。でも、もう僕にはこう言うしか無かったんだ。
考えたらまたきっとパンクする。だってセツリの願いに僕はどれだけ応えられるか、まだ自分でも分からない。だからもうやけくそだったのかも知れない。
その時、何か嫌みな笑い声が聞こえた。
「ふふ、あははは。本当に人間って身勝手。随分偉そうじゃない。誰のせいでセツリが苦しんでるか棚に上げるつもり?」
柊は扇子を口元に当ててそう言った。だけど身勝手何て重々承知した上で言ってんだ。今更こいつらに怯んで何かいられない。
今ここで、もう一度切れた糸を繋ぐ方が重要だ。だから僕が見るのはセツリだけ。
「身勝手何て分かってる。僕がやったことは深くセツリを傷つけたって事も。何度だって謝るし、言い訳なんかしない。
その上でもう一度なんだ! もう一度……僕を信じて欲しい!」
「……随分、無茶な注文だよそれは」
僕の勢いを、だけどセツリは冷静な口調で返してきた。そして僕にはもうセツリの瞳は見えない。その柔らかな髪が、まるでカーテンの様に僕の視線を遮ってる。
「だってもう……前みたいには成れない。時間は戻せない。この痛みは消えたりしない。代えることもきっと出来ない」
「だからもう一度!」
僕は淡々と言葉を紡ぐセツリが、今まで僕が知ってるセツリとは別人の様に感じた。そしてそれにきっと恐怖した。だって別人に感じるなんて……間違いなく目の前の彼女はセツリなのにそう感じるって……まるで僕達が離れて行ってるみたいじゃないか。
僕達が立つ距離はこうやって触れてられるけど、心がどこか彼方へと見えなく成っていく……そんな気がする。だから思わず、つなぎ止めたい一心でそう叫んだ。
手にもきっと力が入ってた。セツリの細く柔らかな肌へ僕の指は食い込んでた筈だ。けれどそれでも「痛い」なんて言葉も無い。
そして代わりに突き刺さったのは僕の方。それはとてつもなく今の僕には痛いと思える言葉。
「もう一度……同じ痛みを繰り返させる気なのスオウは?」
「そんなわけ無い! もう絶対に、セツリの事を諦めたりしない!」
「……ごめんねスオウ。私イヤな女に成っちゃった。今はどうしても、何を言われても、貴方の言葉が信じられない。心に何も響かないの」
そう言われた瞬間……僕の腕から力が抜けた。食い込んでた指は触れる程度に止まって、セツリの暖かさと告げられた言葉の寒さのギャップを僕に伝えてる。
でもそれは当然なんだ。僕がセツリの手を離した。僕が彼女の信頼を裏切った。そんな奴が今更何を言ったって、簡単に信じれる訳なんて無い。
それこそセツリだけじゃなく、誰しもがそうだろうと思う。信頼って奴はいつだって作るのは難しくて、壊すのは簡単だと言う。
そして一度壊れた信頼は、最初に信頼を築いた時の倍の労力が必要とも言われる程だ。要するに、僕は今最も困難な所にいる。
離れた心は、僕が思ってた以上に大きい様だ。だってこんな事は今まで一度も言われなかった。今までいつだってセツリは僕を必ず信用してくれた。
でも……もう、そんな夢見心地の甘えは晴れたって事なんだろう。元々、初心者で頼りなかった僕のどこを見て信用してたのか自分でも分からなかったし。
だからもしかしたら、今のセツリの方が正しく見てるのかも知れない。僕の言葉の薄っぺらさとかをさ。でもここで、僕は素直に引いちゃダメなんだ。
長閑に過ぎる風景の中で、僕は足下でうごめく何かに気付いた。それはセツリの小説の下敷きに成ってるみたいだ。
ガサゴソガサゴソ……動いて見えてきたのは、そこら中を飛び回ってる蝶の一匹。紙の下から這いでると、潰れた羽を戻すように何度も動かす。
するとしなやかな蝶の羽は次第に形を整えて、再びその体を舞い上がらせる翼へと成った。まあ実際はそれは奇蹟でも何でもなく、ただ設定上あの蝶は壊せない様に成ってるだけかも知れない。
けれど今の僕は、そんな姿にただ感動したよ。そして勇気を貰った気がする。再び僅かだけど僕は腕に力を込めた。今度は優しく、撫でるくらいの優しい力だ。
最初は勘違いとか見間違いとかだったかも知れないけど、あれから過ごした時間や辿った世界はどれも掛け替え無くて、今更相手が目を覚ました位で放せない。
それに十分とは言えないかもだけど、そのどこから来たのか分からない信頼に応える力を、僕はもう少しは手に入れてる筈だ。
この手にある……この力。それはセツリを守るために願って求めた物なんだ。だから何が何でも、このまま「サヨナラ」なんて認めない! 出来るわけがない!
「それなら……何度だって頑張るだけだ! セツリがもう一回認めてくれるその時まで! 僕は絶対に……もう絶対に諦めるなんてしない!!」
僕の身勝手な思いを全て言葉にした。だけどそうなんだ。拒絶されたからってまだ早い。幾ら労力が掛かろうと、どんな努力が必要でも、それをやり遂げればもう一度あの信頼を取り戻す事が出来るかも知れない。
その可能性は0パーセントじゃないと思う。やりすぎれば、それはただの思いの押しつけ。行き過ぎればストーカーとかって呼ぶのかも知れない。
でもそんな宣言を堂々としたって、恥と思わない何かが僕にはあるよ。それは最初にセツリを見つけた瞬間から芽生えたものだ。
「そんな事、無駄だよ。スオウがどんな人か私は知ってる。だけど……どうしても消えない不安が芽生えちゃった。
一回あったことはもう一度あるかも知れない。そして次は……私耐えられない。だから……」
そう言ってセツリは僕の手に自分の手を重ねる。そして優しく触れたその手で、僕の腕は落とされた。
「さようなら。今までありがとう」
一歩下がって、振り代えるセツリ。そして進はシクラ達の方。長い髪が揺れていた。湖畔のテラスに、セツリの足音だけが数歩響いてた。
真っ白な純白なワンピースが照らし返す湖畔の光を拡散させて、眩しすぎる位の粒子をセツリは纏っている。その姿はまるで……届かない楽園へ踏み出してる様に僕には見えた。
そしてそれが意志なのか? 本当にセツリの? 認めたくないだけの悪あがきかも知れない。だけど僕はその光の楽園とかを作った物がいるならそいつを許せないとか思う。
それこそ神や仏とかいう存在かも知れないそいつ等は、足掻く僕らから何でも奪う。用意するのは楽園という幻想だ。ここならそれはシステムか。
人が作ったはずのシステムが神を気取って、僕達を翻弄してるようにしか思えないじゃないか!
【システムはあの子を手放さない】
システムと言う名のこの世界の神が求めるのは常にセツリだ。そう言われてた。だからこんな結末さえも……それはシステムの思惑なのかと文句を思わずにはいられない。
全てはLROと言う世界の上で、踊らされただけの様に感じてしまう。人のあらがい何て、神はせせら笑って終わらせる程度の物で、運命と言う名の物語は、既に書き手によって全てが決まってるとでも言うようにだ。
「そんなの絶対に認めない!」
僕はそう叫び、そして再びその背中を追う。この世界で追い続けてきたその背中……救いたいと思ったその背中……一度は諦めてしまったその背中……でもその間違いを正すためには、何度だって向かってみせる。
もしかしたら僕は、システムがセツリにここを選ばせる為だけに三百万の中から選んだ中途半端な奴なだけかも知れない。
どうしてあの日、僕とアギトの前に道が出来てたのかずっと不思議だったんだ。だって……僕は決して、物語の主人公にふさわしい何て思ったことはない。
でもあの日……この世界でなら、そう思った。力が与えられるこのLROでなら僕もたった一人を救える人になれるかも知れないと。
いいや、たった一人でも良いから誰かを助けれる人に自分が成れるのだとしたら一生懸命やるのも悪くない……そう思った。だから必死に走って……走って……走り続けた。
LROでは自分は走ってばっかな印象が強い。だけどついにはそんな仮面は外れてしまう。自分を貫き通せもしない奴が、誰かを救う何て片腹痛い事だった。
結局は、どこでだって浮いてしまう存在。リアルでもここでも実はとけ込めてなんか無かったかも知れない。僕は容姿もそのままで、するとやっぱりここでは少し違うかも知れないじゃないか。
実は見ている全てが信じられなかったのは僕の方だったのかも……だけどセツリがそのままで誰をも信じるから、同じ何だと思えてた。
外見やいろんな物で覆っても、この世界で出会う人達は同じ人……それに変わりなんてないってさ。僕はセツリのリアルも知ってるから、余計に同じように思ってたのかも知れない。
必要としてたのは既に片一方だけじゃなかった。もしも、システムの都合で出会わされた僕達だったかも知れないけど、そんな物が無くても僕は自然と同じように思える人を捜してたんじゃ無いだろうか。
そしてたどり着くのは同じだったと思うんだ。もしもそこに至る道が実は無くたって、僕達は出会ってた。そう思う。
今更システムが……何て言ったって何も解決何かしないよな。トチったのは僕で、意志なんて持ってるかどうかも分からないシステムに神を見るのもどうかしてる。
いつだってここで戦ってるのは僕自身だろ。何か大きな意志や思惑なんて、ちっぽけな僕らにはどうでも良いことだ。
けれどそれを邪魔するなら、僕はその神やらという存在にだって立ち向かおう。そっち側になんて……行かせたくない奴なんだ。
だから僕は早足でセツリの背中に迫る。
「セツリ! 本当にサヨナラしたいんなら。そんな風に泣いてるな!!」
掴んだ肩をこちらに引き、その勢いでセツリは半身を僕へと傾ける。そして覗いた顔は、やっぱり涙で一杯だった。
「そんなこと……スオウに言われたく何かない!!」
けれど直ぐに怒りに変わったらしいセツリの勢いで、再び手は放れてしまう。でもさっきまで押さえてた感情が一気に爆発した感じだ。
どんなに嫌われても本心を隠されるよりずっといい……ぶつかり合えばお互いの事がもっとわかる筈だ。そうやってもう一度最初から始めようと決めたんだ。
「それすら分かってて言ってんだ! だからゴメンって言ってんだろ!」
「スオウ、何か謝ってる気がしない!! てか、酷く成ってる! 私の気持ち……これっぽっちも分かってない!!」
うう……余りにも自分勝手だったか? でもこの勢いは大切だろ。もうどうにでもなれだ! 今の僕には無くす物なんて無い! 今まさに無くそうとしてるんだからな!
「ならこれからはもっともっと努力する!! セツリの事をちゃんと考える! 直ぐに信じて貰おうだなんて思わない。
だけど、傍にいて見てて欲しいんだ! だから僕は……サヨナラ何て出来ないよ」
セツリの顔が一瞬火照った感じに赤くなった。けれど直ぐに首を横に振ってそんな火照りを取るみたいな動作をする。てか移った? 何かスッゲー恥ずかしい事言った気がする。後ろにはリルレット達も居るのにさ。
絶対に振り替えれないな。
「スオウも意外と……自分勝手だったんだね。でも、もう遅い。こうやって向かい合うだけで私は、私は……耐えられないの!!」
再び顔を伏せたセツリ。今度こそ本当に、僕が流させた涙が見える。そしてその震える肩にそっと触れる二つの手。
「シクラ……ヒイちゃん……」
「せっちゃんは泣き顔も可愛いけど、やっぱり笑顔が一番だよ☆ 大丈夫、私達ならその涙を止めてあげれる。ね、ヒイ?」
「そうですね。具体的にはその涙を流す原因を排除出来ますね」
二つの視線が僕に注がれる。そして動いたのは柊だ。アイツ前々から僕の事嫌ってただろうから早かった。手の内に有るウグイス色の扇子を僕に向けて一回し。
それだけで次の瞬間には、僕の天地がひっくり返ってた。頭が地面に打ちつけられて、足は天へと向かってる。一体何が? そう思わずにはいられな状況だ。
「スオウ!」
そう言って後ろから駆けてきてくれたのはリルレット。僕は体を起こしながら、リルレットに何が起きたのかを尋ねる。
「どうなった? てか何が起きた?」
「わからない。ただ柊が扇子を回したと同時にスオウも同じように回って……」
つまりは僕の動きがあの扇子によって制御されたって事なのか? それか空気の流れとかで倒されたとか? 何にしてもあの扇子はやっかいだ。
すると僕の目の前でセツリは言う。情けない今の僕を見下ろして。
「これ以上、来ないで。スオウが何言っても……私達はもう遅いの。さようなら……これに拒否権無いからね」
そう言ってシクラとセツリは一歩二歩と下がっていく。そしてどこかから響く鍵が開くような音。すると湖に大きな扉が姿を現してた。
それは僕達がこの空間に誘われた扉と良く似てる。湖に浮かぶその扉は水面にも同じ姿を映していて、開いた扉の奥から漏れる光で湖の底まで写しそうな感じだった。
そしてセツリとシクラは確実にそこへ進んでる。水面の上を柊と同じように渡りながら。
「来ないでなんて……そんな事!!」
走りだそうとした僕の前に扇子を構えた柊が立つ。
「もういいんじゃないかしら? 貴方の役目は終わりなのよスオウ。いい加減、見苦しいわ」
「――ちっ」
僕はシルフィングに手を掛ける。このままじゃまたセツリが遠くに行ってしまう。しかも今度は待ってて何かくれないんだ。行かせられない……行かせていい筈が無い!
その時、僕よりも先に動いた奴がいた。そいつは真っ直ぐに柊へと向かってスキルを放つ。
「行ってスオウ! それは貴方の責任何だから! 柊は……こいつは私がやるから!」
「リルレット……今だけ頼む!!」
僕は二人の間を抜けて一気に湖へと飛び込んだ。僕には水面を歩くスキル何か無い。けれど泳ぐことぐらい出来るから! 服が重い……肺に空気が足りない。それでも僕はもがき続ける。
「せっつ……り……行く――なっ! 行くなああああああああ!!」
大きな光に包まれていく二人。そして閉じていく扉の余波で大きな波が僕を飲み込んだ。
第九十六話です。
とうとうです。そして流れはバトルへ進展して行く事でしょう。てかスオウにはもうそれしか二と言うか。柊達は立ち塞がるでしょうからね。そして諦めない限りスオウは戦っていかなきゃならなくなるのです。
その先でセツリが何を選ぶかは分からないけど、それしか出来ない。
では次回は金曜日に上げます。ではまた~。




